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座興に非ず(ざきょうにあらず)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-9-20 8:31:44 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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おのれの行く末を思い、ぞっとして、いても立っても居られぬ思いの宵は、その本郷のアパアトから、ステッキずるずるひきずりながら上野公園まで歩いてみる。九月もなかば過ぎた頃のことである。私の白地の 上野の駅まで来てしまった。無数の黒色の旅客が、この東洋一とやらの大停車場に、うようよ、 私は立って、待合室から逃げる。改札口のほうへ歩く。七時五分着、急行列車がいまプラットホームにはいったばかりのところで、黒色の 青年たちは、なかなかおしゃれである。そうして例外なく緊張にわくわくしている。可哀想だ。無智だ。親爺と 私は、ひとりの青年に目をつけた。映画で覚えたのか 「おい、おい、滝谷君。」トランクの名札に滝谷と書かれて在ったから、そう呼んだ。「ちょっと。」 相手の顔も見ないで、私はぐんぐん先に歩いた。運命的に吸われるように、その青年は、私のあとへ 上野の山へのぼった。ゆっくりゆっくり石の段々を、のぼりながら、 「少しは親爺の気持も、いたわってやったほうが、いいと思うぜ。」 「はあ。」青年は、固くなって返辞した。 西郷さんの銅像の下には、誰もいなかった。私は立ちどまり、 「君は、いくつ?」 「二十三です。」ふるさとの 「若いなあ。」思わず嘆息を発した。「もういいんだ。帰ってもいいんだ。」ただ、君をおどかして見たのさ、と言おうとして、むらむら、も少し、も少しからかいたいな、という浮気に似たときめきを覚えて、 「お金あるかい?」 もそもそして、「あります。」 「二十円、置いて行け。」私は、 出したのである。 「帰っても、いいですか?」 ばか、冗談だよ、からかってみたのさ、東京は、こんなにこわいところだから、早く国へ帰って親爺に安心させなさい、と私は大笑いして言うべきところだったかも知れぬが、もともと座興ではじめた仕事ではなかった。私は、アパアトの部屋代を支払わなければならぬ。 「ありがとう。君を忘れやしないよ。」 私の自殺は、ひとつきのびた。 底本:「太宰治全集3」ちくま文庫、筑摩書房 1988(昭和63)年10月25日第1刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房 1975(昭和50)年6月~1976(昭和51)年6月刊行 入力:柴田卓治 校正:小林繁雄 1999年10月13日公開 2005年10月24日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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