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緒方氏を殺した者(おがたしをころしたもの)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/9/16 6:56:27 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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緒方氏の臨終は決して平和なものではなかったと聞いている。歯ぎしりして死んでいったと聞いている。私と緒方氏とは、ほんの二三度話合っただけの間柄ではあるが、よい小説家を、懸命に努力した人間を、よほどの不幸の場所に置いたまま、そのまま死なせてしまったという事実に就いて、かなりの苦痛を感じている。 追悼の文は、つくづく、むずかしいものである。一束の弔花を棺に投入して、そうしてハンケチで顔を覆って泣き崩れる姿は、これは気高いものであろうが、けれども、それはわかい女の姿であって、男が、いいとしをして、そんなことは、できない。真似られるものではない。へんに、しらじらしく真面目になるだけである。 誰が緒方氏を殺したのか。乱暴な言葉である。窒息するほどいやな言葉である。けれども私は、この不愉快極る疑問からのがれることができなかったのである。どうにも、かなわないので、真正面から取り組んでしまった。 ひと一人、くらい境遇に落ち込んだ場合、その肉親のうちの気の弱い者か、または、その友人のうちの口下手の者が、その責任を押しつけられ、犯しもせぬ罪を世人に謝し、なんとなく肩身のせまい思いをしているものである。それでは、いけない。 うっとうしいことである。作家がいけないのである。作家精神がいけないのである。不幸が、そんなにこわかったら、作家をよすことである。作家精神を捨てることである。不幸にあこがれたことがなかったか。病弱を美しいと思い描いたことがなかったか。敗北に享楽したことがなかったか。不遇を尊敬したことがなかったか。愚かさを愛したことがなかったか。 全部、作家は、不幸である。誰もかれも、苦しみ苦しみ生きている。緒方氏を不幸にしたものは、緒方氏の作家である。緒方氏自身の作家精神である。たくましい、一流の作家精神である。 人の死んだ席で、なんの用事もせず、どっかと坐ったまま仏頂づらしてぶつぶつ ずいぶんたくさん書くことを用意していた筈なのに、異様にこわばって、書けなくなった。追悼文は、いやだ。死人に口がないのだから、なお、いやだ。 底本:「もの思う葦」新潮文庫、新潮社 1980(昭和55)年9月25日発行 1998(平成10)年10月15日39刷 入力:蒋龍 校正:今井忠夫 2004年6月16日作成 2005年10月18日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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