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ア、秋(ア、あき)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-9-16 6:27:08 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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本職の詩人ともなれば、いつどんな注文があるか、わからないから、常に詩材の準備をして置くのである。 「秋について」という注文が来れば、よし来た、と「ア」の部の引き出しを開いて、愛、青、赤、アキ、いろいろのノオトがあって、そのうちの、あきの部のノオトを選び出し、落ちついてそのノオトを調べるのである。 トンボ。スキトオル。と書いてある。 秋になると、 秋ハ夏ノ焼ケ残リサ。と書いてある。焦土である。 夏ハ、シャンデリヤ。秋ハ、燈籠。とも書いてある。 コスモス、無残。と書いてある。 いつか郊外のおそばやで、ざるそば待っている間に、食卓の上の古いグラフを開いて見て、そのなかに大震災の写真があった。一面の焼野原、市松の 秋ハ夏ト同時ニヤッテ来ル。と書いてある。 夏の中に、秋がこっそり隠れて、もはや来ているのであるが、人は、炎熱にだまされて、それを見破ることが出来ぬ。耳を澄まして注意をしていると、夏になると同時に、虫が鳴いているのだし、庭に気をくばって見ていると、 秋は、ずるい悪魔だ。夏のうちに全部、身支度をととのえて、せせら笑ってしゃがんでいる。僕くらいの 怪談ヨロシ。アンマ。モシ、モシ。 マネク、ススキ。アノ裏ニハキット墓地ガアリマス。 路問エバ、オンナ唖ナリ、枯野原。 よく意味のわからぬことが、いろいろ書いてある。何かのメモのつもりであろうが、僕自身にも書いた動機が、よくわからぬ。 窓外、庭ノ黒土ヲバサバサ これを書きこんだときは、私は大へん苦しかった。いつ書きこんだか、私は決して忘れない。けれども、今は言わない。 捨テラレタ海。と書かれてある。 秋の海水浴場に行ってみたことがありますか。なぎさに破れた絵日傘が打ち寄せられ、歓楽の跡、日の丸の 緒方サンニハ、子供サンガアッタネ。 秋ニナルト、肌ガカワイテ、ナツカシイワネ。 飛行機ハ、秋ガ一バンイイノデスヨ。 これもなんだか意味がよくわからぬが、秋の会話を盗み聞きして、そのまま書きとめて置いたものらしい。 また、こんなのも、ある。 芸術家ハ、イツモ、弱者ノ友デアッタ ちっとも秋に関係ない、そんな言葉まで、書かれてあるが、或いはこれも、「季節の思想」といったようなわけのものかも知れない。 その他、 農家。絵本。秋ト兵隊。秋ノ ごたごた一ぱい書かれてある。 底本:「太宰治全集3」ちくま文庫、筑摩書房 1988(昭和63)年10月25日第1刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房 1975(昭和50)年6月~1976(昭和51)年6月刊行 入力:柴田卓治 校正:小林繁雄 1999年10月20日公開 2005年10月22日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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