ぶくぶく長々火の目小僧(ぶくぶくながながひのめこぞう)
五 あくる朝王さまは、王子がちゃんと王女の番をして、昨夜(ゆうべ)のままお部屋に坐(すわ)っているのを見て、びっくりなさいました。 しかし、ともかく、王女をにがさないで、一(ひ)と晩中(ばんじゅう)番をしたのですから、どうするわけにもいきません。 王さまはしかたなしに、王子たちをていねいにおもてなしになって、その晩、もう一ど番をさせてごらんになりました。 そうするとその晩も、王子はまた眠りこんでしまいました。長々とぶくぶくと火の目小僧の三人も、やっぱり同じようにいねむりをはじめました。 王女はそれを見すまして、今夜もまた鳩になって、部屋をとび出しました。 するとやはり同じように、長々の頭にぶつかり、火の目小僧に羽根をやかれて、また長々につかまってしまいました。 王さまはあくる朝になると、またびっくりなさいました。 そんなことで、三日目の今夜、また王女がしくじったら、たった一人の王女を、どこのだれとも分らない、あの若ものに取られてしまうのですから、王さまも、これはゆだんがならないとお思いになりました。 それで王女をこっそりとおよびになって、「今晩は魔法のおくの手をすっかり出して、かならずにげ出しておくれ。もし、しくじったら、おまえもただではおかないぞ。」ときびしくお言いわたしになりました。 王女は、「かしこまりました。今晩こそは、きっとあの人たちをまかしてやります。」と言いました。 その間(あいだ)に、王子はまたぶくぶくと長々と火の目小僧の三人をあつめて、今晩の手くばりをきめました。「ではしっかりたのむよ。下手(へた)をすると、私ばかりではない、おまえたち三人のくびもとぶのだよ。」と、王子は笑いながらこう言いました。長々たち三人は、「なに、だいじょうぶでございます。」と、すましていました。 そのうちにすっかり日がくれました。 王子はそれと一しょに、王女のお部屋へいって、昨夜(ゆうべ)と同じように、王女と向き合っていすにかけました。 王子はもう今晩こそは、どんなことがあっても眠らないつもりで、息をのんで番をしていました。 すると王女は、しばらくたつと、またれいのように、「ああねむいこと。まあ、どうしてこんなにねむくなるのでしょう。何だか、まっ赤(か)なものが、もうっと両方の目の上にかぶさるような気がします。ちょっとやすみますからごめん下さい。」と言いながら、ふらふらと立ち上って、長いすの上に横になるなりもうすやすやと寝入ってしまいました。 王子は今晩はその手にのるものかと思いながら、テイブルに両ひじをついて、たかのように目を光らせて、一生けんめいに王女の顔を見すえていました。するとそのうちに、王子はまたひとりでに、まぶたがおもたくなって、とうとう今晩もまたねこんでしまいました。 すると、ちょうどおなじときに、あれほどいばっていた長々や、ぶくぶくや、火の目小僧も、みんな一どにこくりこくりといねむりをはじめました。 王女はさっきから、上手にねたふりをして、王子たちが寝入るのをまっていたのでした。 王子はぐうぐうといびきをかいて、まるで石のようにねむりこんでいます。 王女はそれを見ると、にこにこ笑いながら、そうっとおき上りました。そしてこんどこそは、だれにも感づかれないように、ひょいと小さな蠅(はえ)にばけて、すうっと窓からとび出しました。 ところが、うんわるく、今晩もそのはずみに、ひょいと火の目小僧の鼻の先にぶつかりました。火の目小僧はびっくりして、「しまった。にげたぞ。」と言いながら、いきなりしゅうしゅうと両方の目から火をふきました。 するとはえはたちまち小さな魚にばけて、向うの泉の中へとびこみました。火の目小僧はそれを見とどけて、長々とぶくぶくと王子とをよびおこしました。みんなはびっくりして、はねおきて、火の目小僧と一しょに、その泉のそばへかけつけました。 六 いって見ると、その泉というのは、まるでそこも見えないほどの深い深い泉でした。ところが長々は、「なあに、おれがつかまえて見せる。」と言いながら、水の中へ頭をつきこんで、するするとからだをそこまでのばしました。そして両手でもって、水のそこをすみからすみまでのこらずかきさがしました。すると魚はどこへかくれているのか、いくらかきまわしても、さっぱり見つかりません。ぶくぶくはそれを見て、「おい、おどき。いいことがある。」と言いながら、長々をもとのからだにちぢめさせて、どぶんと泉の中へ入りました。そして、いきなり、ぷうぷうとからだをふくらして、とうとう泉一ぱいにふくらんでしまいました。 ですから、水はどんどんあふれ出して、大水のようにあたり一ぱいにひろがりました。王子とあとの二人は、その水の中をさがしまわりました。しかし魚はどこへいったものか、いくらさがしてもかげも見えません。火の目小僧はじれったがって、「おいおいだめだよ、ぶくぶく。こんどはおれの番だ。」と言いました。ぶくぶくはしかたなしにいそいでからだをちぢめました。それと一しょに、水は一どにもとの泉へかえりました。 火の目小僧は、水がすっかりもとのところへ入(はい)ってしまうと、「よし、来た。」と言いながら、大きく目をむいて、じいっと水の上をにらみつけました。すると二つの目からは、例のように長い焔(ほのお)がしゅうしゅうとび出しました。火の目小僧は、息をもつかないでいつまでもじいっとにらみつづけににらんでいました。 ですからしまいには、泉一ぱいの水が、その焔でぐらぐらとわきたって、ちょうど大釜(おおがま)のお湯がふきこぼれるように、土の上へふき上(あが)って来ました。そのうちに、小さな一ぴきの魚が、半煮(はんに)えになって、ひょこりと、地面へはね上(あが)りました。魚はもうあつくて/\たまらないので、土にふれると、すぐにもとの王女になりました。王子は大よろこびで、そばへかけつけて「どうです、とうとう三晩ともちゃんとつかまえましたでしょう。ではおやくそくのとおり、あなたは私のものですよ。」と言いました。王女はまっ赤(か)な顔をして、「どうぞおつれになって下さいまし。お父さまもあきらめて、あなたのおっしゃるとおりになりますでしょう。」と言いました。王子はそのときはじめて、「じつは私は、これこれこういう王子です。」と言ってじぶんのことを話しました。王女はそれを聞かないさきから、だれとも分らないその王子の立派な人柄に、ないないかんしんしていました。それがりっぱな王子だと分ったので、おむこさんとして何一つ申し分がありません。王女は大よろこびで夜があけるとすぐに王さまのところへいって、ゆうべのことをのこらずお話(はな)しました。 すると王さまは、たった一人の王女を、しらない人にくれるのがおしくて/\たまらないものですから、王子にあうと、王さまらしくもなく二まい舌をつかって、「あの子はだれにもやることは出来ない。」と、おおおこりにおこってこうおっしゃいました。 しかし王子は、そんなうそつきの王さまには相手にならないで、三人の家来に言いふくめて、王さまのすきまをねらって、王女を引っかかえさせて、おおいそぎで御殿を出てしまいました。
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