むかし むかし あるところに |
童話屋 |
1996(平成8)年6月24日 |
1996(平成8)年7月10日第2刷 |
日本童話宝玉集(上中下版) |
童話春秋社 |
1948(昭和23)~1949(昭和24)年発行 |
一
むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがありました。 正直(しょうじき)な、人のいいおじいさんとおばあさんどうしでしたけれど、子どもがないので、飼犬(かいいぬ)の白(しろ)を、ほんとうの子どものようにかわいがっていました。白も、おじいさんとおばあさんに、それはよくなついていました。 すると、おとなりにも、おじいさんとおばあさんがありました。このほうは、いけない、欲(よく)ばりのおじいさんとおばあさんでした。ですから、おとなりの白をにくらしがって、きたならしがって、いつもいじのわるいことばかりしていました。 ある日、正直おじいさんが、いつものようにくわ[#「くわ」に傍点]をかついで、畑をほりかえしていますと、白も一緒(いっしょ)についてきて、そこらをくんくんかぎまわっていましたが、ふと、おじいさんのすそをくわえて、畑のすみの、大きなえのきの木の下までつれて行って、前足で土をかき立てながら、 「ここほれ、ワン、ワン。 ここほれ、ワン、ワン」 となきました。 「なんだな、なんだな」 と、おじいさんはいいながら、くわ[#「くわ」に傍点]を入れてみますと、かちりと音がして、穴のそこできらきら光るものがありました。ずんずんほって行くと、小判(こばん)がたくさん、出てきました。おじいさんはびっくりして、大きな声でおばあさんをよびたてて、えんやら、えんやら、小判をうちのなかへはこび込みました。 正直(しょうじき)なおじいさんとおばあさんは、きゅうにお金持ちになりました。
二
すると、おとなりの欲(よく)ばりおじいさんが、それをきいてたいへんうらやましがって、さっそく白(しろ)をかりにきました。正直おじいさんは、人がいいものですから、うっかり白をかしてやりますと、欲ばりおじいさんは、いやがる白の首(くび)になわをつけて、ぐんぐん、畑のほうへひっぱって行きました。 「おれの畑にも小判がうまっているはずだ。さあ、どこだ、どこだ」 といいながら、よけいつよくひっぱりますと、白は苦しがって、やたらに、そこらの土をひっかきました。欲(よく)ばりおじいさんは、 「うん、ここか。しめたぞ、しめたぞ」 といいながら、ほりはじめましたが、ほっても、ほっても出てくるものは、石ころやかわらのかけらばかりでした。それでもかまわず、やたらにほって行きますと、ぷんとくさいにおいがして、きたないものが、うじゃうじゃ、出てきました。欲ばりおじいさんは、「くさい」とさけんで、鼻(はな)をおさえました。そうして、腹立(はらだ)ちまぎれに、いきなりくわ[#「くわ」に傍点]をふり上げて、白(しろ)のあたまから打ちおろしますと、かわいそうに、白はひと声(こえ)、「きゃん」とないたなり、死んでしまいました。 正直(しょうじき)おじいさんとおばあさんは、あとでどんなにかなしがったでしょう。けれども死んでしまったものはしかたがありませんから、涙(なみだ)をこぼしながら、白の死骸(しがい)を引きとって、お庭のすみに穴をほって、ていねいにうずめてやって、お墓(はか)の代(かわ)りにちいさいまつの木を一本、その上にうえました。するとそのまつが、みるみるそだって行って、やがてりっぱな大木(たいぼく)になりました。 「これは白の形見(かたみ)だ」 こうおじいさんはいって、そのまつを切って、うす[#「うす」に傍点]をこしらえました。そうして、 「白(しろ)はおもちがすきだったから」 といって、うす[#「うす」に傍点]のなかにお米を入れて、おばあさんとふたりで、 「ぺんたらこっこ、ぺんたらこっこ」 と、つきはじめますと、ふしぎなことには、いくらついてもついても、あとからあとから、お米がふえて、みるみるうす[#「うす」に傍点]にあふれて、そとにこぼれ出して、やがて、台所(だいどころ)いっぱいお米になってしまいました。
三
するとこんども、おとなりの欲(よく)ばりおじいさんとおばあさんがそれを知ってうらやましがって、またずうずうしくうす[#「うす」に傍点]をかりにきました。人のいいおじいさんとおばあさんは、こんどもうっかりうす[#「うす」に傍点]をかしてやりました。 うす[#「うす」に傍点]をかりるとさっそく、欲ばりおじいさんは、うす[#「うす」に傍点]のなかにお米を入れて、おばあさんをあいてに、 「ぺんたらこっこ、ぺんたらこっこ」 と、つきはじめましたが、どうしてお米がわき出すどころか、こんどもぷんといやなにおいがして、なかからうじゃうじゃ、きたないものが出てきて、うす[#「うす」に傍点]にあふれて、そとにこぼれ出して、やがて、台所(だいどころ)いっぱい、きたないものだらけになりました。 欲(よく)ばりおじいさんは、またかんしゃくをおこして、うす[#「うす」に傍点]をたたきこわして、薪(まき)にしてもしてしまいました。 正直(しょうじき)おじいさんは、うす[#「うす」に傍点]を返してもらいに行きますと、灰になっていましたから、びっくりしました。でも、もしてしまったものはしかたがありませんから、がっかりしながら、ざるのなかに、のこった灰をかきあつめて、しおしおうちへ帰りました。 「おばあさん、白(しろ)のまつの木が、灰になってしまったよ」 こういっておじいさんは、お庭のすみの白のお墓(はか)のところまで、灰をかかえて行ってまきますと、どこからか、すうすうあたたかい風が吹いてきて、ぱっと、灰をお庭いっぱいに吹きちらしました。するとどうでしょう、そこらに枯れ木のまま立っていたうめの木や、さくらの木が、灰をかぶると、みるみるそれが花になって、よそはまだ冬のさなかなのに、おじいさんのお庭ばかりは、すっかり春げしきになってしまいました。 おじいさんは、手をたたいてよろこびました。 「これはおもしろい。ついでに、いっそ、ほうぼうの木に花を咲かせてやりましょう」 そこで、おじいさんは、ざるにのこった灰をかかえて、 「花咲かじじい、花咲かじじい、日本一の花咲かじじい、枯れ木に花を咲かせましょう」 と、往来(おうらい)をよんであるきました。 すると、むこうから殿(との)さまが、馬にのって、おおぜい家来(けらい)をつれて、狩(かり)から帰ってきました。 殿さまは、おじいさんをよんで、 「ほう、めずらしいじじいだ。ではそこのさくらの枯れ木に、花を咲かせて見せよ」 といいつけました。おじいさんは、さっそくざるをかかえて、さくらの木に上がって、 「金のさくら、さらさら。 銀のさくら、さらさら」 といいながら、灰をつかんでふりまきますと、みるみる花が咲き出して、やがていちめん、さくらの花ざかりになりました。殿さまはびっくりして、 「これはみごとだ。これはふしぎだ」 といって、おじいさんをほめて、たくさんにごほうびをくださいました。 するとまた、おとなりの欲(よく)ばりおじいさんが、それをきいて、うらやましがって、のこっている灰をかきあつめてざるに入れて、正直(しょうじき)おじいさんのまねをして、 「花咲かじじい、花咲かじじい、日本一の花咲かじじい、枯れ木に花を咲かせましょう」 と、往来(おうらい)をどなってあるきました。 するとこんども、殿(との)さまがとおりかかって、 「こないだの花咲かじじいがきたな。また花を咲かせて見せよ」 といいました。欲(よく)ばりおじいさんは、とくいらしい顔をしながら、灰を入れたざるをかかえて、さくらの木に上がって、おなじように、 「金のさくら、さらさら。 銀のさくら、さらさら」 ととなえながら、やたらに灰をふりまきましたが、いっこうに花は咲きません。するうち、どっとひどい風が吹いてきて、灰は遠慮(えんりょ)なしに四方八方(しほうはっぽう)へ、ばらばら、ばらばらちって、殿さまやご家来(けらい)の目や鼻(はな)のなかへはいりました。そこでもここでも、目をこするやら、くしゃみをするやら、あたまの毛をはらうやら、たいへんなさわぎになりました。殿さまはたいそうお腹立(はらだ)ちになって、 「にせものの花咲かじじいにちがいない。ふとどきなやつだ」 といって、欲ばりおじいさんを、しばらせてしまいました。おじいさんは、「ごめんなさい。ごめんなさい」といいましたが、とうとうろう[#「ろう」に傍点]屋(や)へつれて行かれました。
底本:「むかし むかし あるところに」童話屋 1996(平成8)年6月24日初版発行 1996(平成8)年7月10日第2刷発行 底本の親本:「日本童話宝玉集(上中下版)」童話春秋社 1948(昭和23)~1949(昭和24)年発行 入力:鈴木厚司 校正:林 幸雄 ファイル作成:野口英司 2001年12月19日公開 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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