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主のつとめ(しゅのつとめ)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-31 10:48:32 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语

底本: 現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集
出版社: 筑摩書房
初版発行日: 1974(昭和44)年6月5日
入力に使用: 1985(昭和60)年11月10日初版第15刷
校正に使用: 1988(昭和63)年7月25日初版第15刷

 

「汝ら只ヱホバをかしこみ心をつくして誠にこれにつかへよ」
撒母耳前書さむえるぜんしよ第十二章二十四節)(七月分日課)

 この月の日課なる馬太伝マタイでんうちには神の王国に就きて重要なる教へ多くあり。しゆのつとめは実にさかえあるものにして、之を守るものは、尤もさいはひにして尤もめぐみあるものとす。主のつとめには種々くさ/″\たぐひあり、或は難く或は易し、或は己れの利益にかなひ、或は然らず、基督キリスト我等に語りて曰く、「すべつかれたる者またおもきおへる者は我に来れ我なんぢらをやすません、我は心柔和にして謙遜者へりくだるものなれば我軛わがくびきを負て我にならへなんぢら心に平安やすきべし、そはわが軛はやすくわが荷はかろければ也」(馬太伝十一章、二十八節より三十節)。
 主はこゝに、難くして且つむごき多くの他のしゆに就けるものを招き玉ふ。彼等は重きを負ふて長途を行きたれば痛く疲れてあり。我儕われらの主は、わが軛は易くわが荷はかろしとのたまひて、そのつとめの易く、その荷の軽く、その我儕に為さしむるところの極めて簡易なるを示したまへり。
 人の世に処する、必らず何事の職司しよくしを有せずんばあらず、或は命を官に受け、或はわざに民に就く。その或る者は労少なくしてむくい多く、而して其の功も亦た多し、かくの如きものに対しては、志願者の数もおのづから多からざるを得ず。然るにその或るものは、労多くしてとく少なく、之に加ふるに社会に対するの名もあることなし。斯の如き職業に就くものは、他の優等の職業に従ふこと能はざるが故に、むなく之れを守るものなり。或る職業には、すべてのものに於て欠乏を見ることなし、いづるに車あり、入るに家あり、衣食亦た自ら適するに足るものあり、旅するについえあり、病むときに医あり、何不自由もなく世を渡り、而して又た日暮れみちくるに及びては年金なるものありて以て晩年を閑遊するに足る。然るに他の職業にては、辛ふじてみづから給するに足るものあるのみ、而してたまたま病魔に犯さるゝ事あらば、誰ありて之を看護するものもなし。斯の如きものは即ちイスラヱルの子孫が埃及エジプトにありてなしたる主に対するつとめなり、この事に就きては吾人之を出埃及記しゆつエジプトきしるさるゝを読めり。彼等は実に奴隷の悲境に沈みて、殆ど堪ふべからざる程の過度の労力を負はせられたるなり。罪の奴隷なるものあり、けだしイスラヱル人の埃及にありて受けたる苦痛に過ぐるものは、この罪の奴隷なるべし、羅馬書ロマしよ六章二十三節に曰く、「罪の価は死なり」と。
 イスラヱルの子供等がの悲境に沈淪してありし時、神はモーセを遣はして彼等を囚禁より放ちて、カナンの陸に至らしめたり。これと同じく我等が罪の奴隷となりて悲しむべき境遇に陥る時に、神は其の独子ひとりごイエス・キリストを遣はして我等を罪の囚禁より救ひ出して、永生かぎりなきいのちをもつべきこのつとめに導きたまふなり。「また受造者つくられしものみづから敗壊やぶれしもべたることを脱れ神の諸子こたちさかえなる自由にいらんことをゆるされんとの望をたもたされたり」(羅馬書第八章二十一節)とあるは即ちこれなり。職司つとめの種類のうちには、主につけるものにあらずして、その表面は極めて格好に且つ怡楽たのしきものなるに似たれど、終りには、死を意味するものあり。険を冒し奇を競ふ世のなかには、利益と名誉とををさむるの途甚だ多し、而して尤も利益あり、尤も成功ありと見ゆるものは人を害し人をそこなてきの物品の製造なり。かくの如く一時の利益の為に労役する人々は遂には、肉と、霊とを合せて之を死に付すものと言はざる可からず。
 彼等は実に彼等自身をに売り付すものなり、その最後に得るところはこと/″\く空なり、ひとり空なるのみならず、罪の重荷あり、罪の終なる死あり、豈に悲まざるべけんや。
 主のつとめは何事にも自由に従事するを許せり、その生命いのちの為なり、永久の為なり、而してこのつとめに入るものゝ為にはすべて必要なるものはおのづからに備へられてあるなり、食物も、衣服も、家屋も、是等の必要品に於て必らずおのづから給せらるゝところあるべし、之に加ふるに、主は常に彼と共にありて、勇気を与へ、力を与へ、而して最後にはかれと共に永遠の栄に入らしめたるなり。然れども我儕は主のつとめを為すに於て、主に対すると、我等の心のとを以てせざるべからず。然らざればすべての事、何の益もあるべからず。

 諸君のつかふるところ如何
「汝らのつかふべき者を今日こんにち選べ」(約書亜記よしゆあき二十四、十五)
(明治二十六年七月)




 



底本:「現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集」筑摩書房
   1969(昭和44)年6月5日初版第1刷発行
   1985(昭和60)年11月10日初版第15刷発行
初出:「聖書之友雜誌 六七號」聖書之友事務所
   1893(明治26)年7月17日
入力:kamille
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年10月6日作成
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