○ でもね人間の力でなくても 自然(しぜん)の力でも いまここに映(うつ)る位(ぐら)いのまつすぐな運河もできるのぢや ごらんあれを やあ 満月(まんげつ)だわ きれいなお月さんだ
○ あの月がいい証拠(しやうこ)だよ 火星(くわせい)を調(しら)べるには月がとてもいい参考(さんかう)になるんぢや ぢや 月にも 火星の運河(うんが)のやうなものがありますか あるよ しかも 真(ま)つすぐなのもある
○ さあ ごらん これが月の面をとつた写真(しやしん)だよ まん中の所に真つすぐな線(せん)があるだらう ああ あつた あつた ほんとだわ あれはなんです お父(とう)さん
○ あれは火山(ざん)の裂(さ)け目だ 名前はアリアダウエス小流(せうりゆう)といつてゐる あれは どの位(くらい)の長さですか 長さは百(ひやく)五十哩(まいる)ぢや
○ 月には こんな運河のやうなものは沢山(たくさん)あるんですか いや 月には十哩(まいる)以上(いじやう)のものはあまりない しかし火星の運河はみな大きいのぢや
○ さあ おそくなつてしまつた これで終(をは)りだ みんな早くおやすみ またあしたね ぢや お父さん おやすみ おやすみなさい おやすみなさい
○ さあ眠(ねむ)らう いい月だなあ わたし火星(くわせい)の童謡(どうえう)ができたわ ぢや うたつてごらん
○ 火星に猫が居(ゐ)るならば ニヤンとはなかない[#「なかない」は底本では「なかな」]ワンとなく やあ うまい うまい ひどいなあ ぢや僕(ぼく)だつてできた
○ 火星に犬が居(ゐ)るならば ワンとはなかないニヤンとなく やあ うまい うまい ひどいわ ひどいわ
○ わたしの歌(うた)のまねだわ まねだわ あれッ 痛(いた)いッ 僕の顔(かほ)をひつかいた あつ 喧嘩(けんくわ)をするんぢやないよ よしなつてば
○ さあ仲(なか)よく合唱(がつしやう)しやう 火星に猫(ねこ)がゐるならば 火星に猫(ねこ)がゐるならば
○ おやまあ なんてさわがしいんでせう
○ シッ お母(かあ)さんが来たぞ 大変(へん)だ もぐれ もぐれ [#改ページ]
空中飛行(くうちゆうひかう)
○ グー グー グー グー クー クー クー おや みんなよく寝(ね)てゐるやうだわね
○ お母(かあ)さんが行つてしまつた みんなこんどはほんたうに眠(ねむ)らうね クウ
○ テン太郎さん テン太郎さん テン太郎さん クー クー クー
○ テン太郎さん テン太郎さん 早く起(お)きてください 大変(へん)です 大変です オヤ 何んだらう グー グー クー
○ おや ストーブの煙突(えんとつ)の穴(あな)から何か入(はい)つてきたわ テン太郎さん テン太郎さん
○ まあ たくさん出てきたわ あなたは誰(だれ) 僕達(ぼくたち)は火星人(くわせいじん)です 早く テン太郎さんを起(おこ)して下さい
○ 火星人…… まあ大変(へん)だわ それではすぐ起すわ 洪水(こうずゐ)がやつて来さうです すぐ仕度(したく)をして逃(に)げださなければ大変です
○ テン太郎さん 早く起きて下さい 大変よ 大変よ あつ おどろいた どうしたの ムニャ ムニャ こちらの 耳の長いかたも起きて下さい
○ やあ 一体全体(たいぜんたい)これは何だい ずゐぶん小さな人間(げん)だなあ この人達(たち)は 火星の人たちです、さあ クン クンクン 気持ちが悪(わる)いな
○ ごらんなさい もう洪水がやつて来ました いつたい ここは どこなんだらう テン太郎さん 早く逃げませうよ ここが火星ですか おかしいなあ
○ あつ 窓(まど)の外(そと)はすばらしい街(まち)だ まあ なんてきれいな所なんでせう やあ驚(おどろ)いた りつぱだなあ さあ早く仕度をして下さい
○ 僕(ぼく)たちはどうして火星(くわせい)へやつて来たらう わたしも わからないわ 僕もだ さあ そんなことはどうでもいいのです 窓(まど)から早く
○ やあ高いなあ こんな所から飛(と)び降(お)りられないよ わたし とても駄(だ)目よ こわいわ
○ 僕たちを信(しん)用して下さい ほらかうして飛び降りるんです
○ あなた達(たち)は地球(きう)からの大切(せつ)なお客様(きやくさま)です 悪(わる)いことにはなりません ぢや わたし体(からだ)が軽(かる)いから先に飛び降てみるわ それでは僕だつて 僕も降りることにしやう
○ やあ 愉快(ゆくわい)愉快 体(からだ)がふわふわと飛んでるぞ 不思議(ふしぎ)だなあ どうです 地球とはまるでちがふでせう あらまあ 蝶(てふ)々のやうに飛べるわ ほほ これは面(おも)白い 面白い
○ ごらんなさい あそこを いま火星人(くわせいじん)は洪水(こうづゐ)を避難(ひなん)してゐます やあ 雲(くも)のやうに たくさん火星人がとんでゐる あらまあ 鳥(とり)のやうに建物(たてもの)の屋根(やね)の上にとまつてゐるわ
○ さあ 僕(ぼく)たちがあなた達(たち)を安全(あんぜん)な所へ案内(あんない)しませう 洪水(こうづゐ)はいつまでもつづきますか 火星(くわせい)の洪水はきまつてあるのです あれ あれ 水があんなにあふれて来たわ 運河(うんが)の岸(きし)が いまにもかくれさうに水がびたびたになつちまつてゐるぞ
○ うわあ! すごい建物(たてもの)だなあ なんて高い建物でせう これは地球(きう)ホテルといふ 火星一の高いビルデングです
○ このホテルは 地球からのお客様(きやくさま)を迎(むか)へるために、わざわざつくつたのです すると僕達が 最初(さいしよ)のお客なんですね 地球からの第(だい)一着(ちやく)だすごいぞ 面(おも)白いわね
○ さあ こゝが貴方(あなた)たちの部屋(へや)です まあ! きれいなベット きれいな敷物(しきもの) どこもこゝも縞模様(しまもやう)
○ とんだり はねたり おもしろい さあ 下の露台(ろだい)にでてみませう
○ やあ、火星人(くわせいじん)の行列(ぎやうれつ)だ みんな妙(めう)な格好(かつかう)をするわ 何か歌(うた)つてゐるよ あれは あなた達(たち)を歓迎(くわんげい)してアイサツをしてゐるのです [#改ページ]
火星(くわせい)の首都(みやこ)ミルチス?マヂョル市(し)
○ これから 市街(しがい)を御案内(ごあんない)いたしませう ここの街(まち)は なんといふのです 火星の首都(みやこ)です ミルチス?マヂョル市といふのです
○ ごらんなさい この素晴(すば)[#ルビの「すば」は底本では「すばら」]らしい火星の運河(うんが)を 大きいなあ なんて立派(りつぱ)なんでせう この運河はまつすぐだい
○ この運河(うんが)はなんに使ふんですか 火星(くわせい)では一年に数回(すうくわい)大洪水(こうずゐ)があるのです、そのときに畑(はたけ)に水をやるんですよ
○ あの畑にはなにが植(う)へてあるんです トマトですよ それから何にがあるの トマトよりありませんよ おどろいた あの畑がみんなトマト
○ さうですよ 地球(きう)ではパンとか米(こめ)とかが常食(じやうしよく)でせう、火星の人間(げん)は トマトだけよりたべないんです トマトだけしかたべないから 火星の人は大きくならないんだわ きつとさうだよ でも体(からだ)が小さくても 智慧(ちゑ)があるようだな
○ ふふふ 智慧は地球の人に負(ま)けませんよ、そら あの人たちをごらんなさい おや? 頭(あたま)の大きな人と 頭の小さな人とがやつてきたね
○ 火星人は 頭の大きい人はものを考(かんが)へてばかりゐるんです 頭の小さい人は? 小さい人は 働(はたら)いてばかりゐるんです 頭の大きい人の考へたことは 頭の小さい人がどんどん作りあげてしまふのです
○ やあ トマトの収獲(とりいれ)だ ほら いま面(おも)白いことが始(はじ)まりますよ あら トマトを運(はこ)び出したわ
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