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修禅寺物語(しゅぜんじものがたり)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-27 9:25:41 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 | ||||||||||
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(伊豆の
登場人物
夜叉王の娘 かつら 同 かえで かえでの婿 春彦 下田五郎 修禅寺の僧 行親の家来など
伊豆の国
(二重の上手につづける一間の家体は
かつら (やがて砧の手をやめる)
かえで とは言うものの、きのうまでは盆休みであったほどに、きょうからは精出して働こうではござんせぬか。
かつら 働きたくばお前ひとりで働くがよい。
かえで 貧の
かつら (あざ笑う)いや、昔とは変らぬ。ちっとも変らぬ。わたしは昔からこのようなことを好きではなかった。父さまが
かえで それはおまえが口癖に言うことじゃが、人には人それぞれの分があるもの。将軍家のお側近う召さるるなどと、夢のようなことをたのみにして、心ばかり高う打ちあがり、末はなんとなろうやら、わたしは案じられてなりませぬ。
かつら お前とわたしとは心が違う。妹のおまえは今年十八で、春彦という男を持った。それに引きかえて姉のわたしは、
(楓の婿春彦、二十余歳、奥より出づ。)
春彦 桂どの。職人風情とさも卑しい者のように言われたが、職人あまたあるなかにも、
かつら それは職が尊いのでない。聖徳太子や淡海公という、その人々が尊いのじゃ。かの人々も
春彦 生業にしては卑しいか。さりとは異なことを聞くものじゃの。この春彦が明日にもあれ、稀代の
かつら
春彦 殿上人や弓取りがそれほどに尊いか。職人がそれほどに卑しいか。
かつら はて、くどい。知れたことじゃに……。
(桂は顔をそむけて取り合わず。春彦、むっとして詰めよるを、楓はあわてて押し隔てる。)
かえで ああ、これ、一旦こうと言い出したら、あくまでも言い募るが
春彦 その気質を知ればこそ、日ごろ堪忍していれど、あまりと言えば
かつら おお、姉と言われずとも大事ござらぬ。職人風情を妹婿に持ったとて、姉の
春彦 まだ言うか。
(春彦はまたつめ寄るを、楓は心配して制す。この時、細工場の簾のうちにて、父の声。)
夜叉王 ええ、騒がしい。
(これを聴きて春彦は控える。楓は起って蒲簾をまけば、伊豆の夜叉王、五十余歳、
春彦 由なきことを言い募って、細工のおさまたげをも省みぬ不調法、なにとぞ
かえで これもわたしが姉様に、意見がましいことなど言うたが
夜叉王 おお、なんで叱ろう、叱りはせぬ。姉妹の
二人 あい。
(桂と楓は起って奥に入る。)
夜叉王 のう、春彦。妹とは違うて気がさの姉じゃ。同じ屋根の下に起き
春彦 そう承われば桂どのが、日ごろ職人をいやしみ嫌い、世にきこえたる殿上人か弓取りならでは、夫に持たぬと誇らるるも、
夜叉王 じゃによって、あれが何を言おうとも、滅多に腹は立てまいぞ。人を人とも思わず、
(暮の鐘きこゆ。奥より楓は燈台を持ちて出づ。)
春彦 おお、取り紛れて忘れていた。これから
かえで きょうはもう暮れました。いっそ
春彦 いや、いや、職人には大事の道具じゃ。一刻も早う取り寄せておこうぞ。
夜叉王 おお、職人はその心がけがのうてはならぬ。
春彦 夜とは申せど通いなれた路、
(春彦は出てゆく。楓は
僧 これ、これ、将軍家のおしのびじゃ。粗相があってはなりませぬぞ。
(楓ははッと
夜叉王 思いもよらぬお成りとて、なんの設けもござりませぬが、まずあれへお通りくださりませ。
(頼家は縁に腰をかける。)
夜叉王 して、御用の趣は。
頼家 問わずとも大方は察しておろう。わが
五郎
頼家 予は生まれついての性急じゃ。いつまで待てど暮せど埒あかず、あまりに
夜叉王 御立腹おそれ入りましてござりまする。もったいなくも征夷大将軍、源氏の
頼家 ええ、催促の都度におなじことを……。その申しわけは聞き飽いたぞ。
五郎 この上はただ延引とのみで相済むまい。いつのころまでにはかならず出来するか、あらかじめ期日をさだめてお
夜叉王 その期日は申し上げられませぬ。左に鑿をもち、右に槌を持てば、面はたやすく成るものと思し召すか。家をつくり、塔を組む、
僧 これ、これ、夜叉王どの。上様は御自身も仰せらるるごとく、至って御性急でおわします。三島の社の放し
夜叉王 じゃと言うて、出来ぬものはのう。
僧 なんの、こなたの腕で出来ぬことがあろう。面作師も多くあるなかで、伊豆の夜叉王といえば、京鎌倉までも聞えた者じゃに……。
夜叉王 さあ、それゆえに出来ぬと言うのじゃ。わしも伊豆の夜叉王と言えば、人にも少しは知られたもの。たといお
頼家 なに、無念じゃと……。さらばいかなる
夜叉王 恐れながら早急には……。
頼家 むむ、おのれ覚悟せい。
(癇癖募りし頼家は、五郎のささげたる太刀を引っ取って、あわや抜かんとす。奥より桂、走り出づ。)
かつら まあ、まあ、お待ちくださりませ。
頼家 ええ、
かつら まずお鎮まりくださりませ。面はただ今献上いたしまする。のう、父様。
(夜叉王は黙して答えず。)
五郎 なに、面はすでに出来しておるか。
頼家 ええ、おのれ。前後
かつら いえ、いえ、
かえで ほんにそうじゃ。ゆうべようやく出来したというあの面を、いっそ献上なされては……。
僧 それがよい、それがよい。こなたも凡夫じゃ。名も惜しかろうが、命も惜しかろう。出来した面があるならば、早う上様にさしあげて、お慈悲をねがうが上分別じゃぞ。
夜叉王 命が惜しいか、名が惜しいか。こなた衆の知ったことではない。黙っておいやれ。
僧 さりとて、これが見ていらりょうか。さあ、娘御。その面を持って来て、ともかくも御覧に入れたがよいぞ。早う、早う。
かえで あい、あい。
(かえでは細工場へ走り入りて、木彫の
かつら いつわりならぬ証拠、これ御覧くださりませ。
(頼家は仮面を取りて打ちながめ、思わず感嘆の声をあげる。)
頼家 おお、見事じゃ。よう打ったぞ。
五郎 上様おん顔に生写しじゃ。
頼家 むむ。(飽かず
僧 さればこそ言わぬことか。それほどの物が出来していながら、とこう渋っておられたは、夜叉王どのも気の知れぬ男じゃ。ははははは。
夜叉王 (形をあらためる)何分にもわが心にかなわぬ細工、人には見せじと存じましたが、こう相成っては致し方もござりませぬ。方々にはその面をなんと御覧なされまする。
頼家 さすがは夜叉王、あっぱれの者じゃ。頼家も満足したぞ。
夜叉王 あっぱれとの御賞美ははばかりながらおめがね違い、それは夜叉王が一生の不出来。よう
五郎 面が死んでおるとは……。
夜叉王 年ごろあまた打ったる面は、生けるがごとしと人も言い、われも許しておりましたが、不思議やこのたびの面に限って、幾たび打ち直しても生きたる色なく、たましいもなき死人の相……。それは世にある人の面ではござりませぬ。死人の面でござりまする。
五郎 そちはさように申しても、われらの眼にはやはり生きたる人の面……。死人の相とは相見えぬがのう。
夜叉王 いや、いや、どう見直しても
僧 あ、これ、これ、そのような不吉のことは申さぬものじゃ。
頼家 むむ。とにもかくにもこの面は頼家の意にかのうた。持ち帰るぞ。
夜叉王
頼家 おお、所望じゃ。それ。
(頼家は
頼家 いや、なおかさねて
夜叉王 ありがたい御意にござりまするが、これは本人の心まかせ、親の口から御返事は申し上げられませぬ。
(桂は臆せず、すすみ出づ。)
かつら 父様。どうぞわたしに御奉公を……。
頼家 うい奴じゃ。奉公をのぞむと申すか。
かつら はい。
頼家 さらばこれよりその面をささげて、頼家の供してまいれ。
かつら かしこまりました。
(頼家は起つ。五郎も起つ。桂もつづいて起つ。楓は姉の
かえで 姉さま。おまえは御奉公に……。
かつら おまえは先ほど、夢のような望みと笑うたが、夢のような望みが今かのうた。
(かつらは誇りがに見かえりて、庭に降り立つ。)
僧 やれ、やれ、これで愚僧もまず
(頼家は行きかかりて物につまずく。桂は走り寄りてその手を取る。)
頼家 おお、いつの間にか暗うなった。
(僧はすすみ出でて、桂に燈籠を渡す。桂は仮面の箱を僧にわたし、われは片手に燈籠を持ち、片手に頼家をひきて出づ。夜叉王はじっと思案の体なり。)
かえで 父さま、お見送りを……。
(夜叉王は初めて心づきたるごとく、娘とともに門口に送り出づ。)
五郎 そちへの
(頼家らは相前後して出でゆく。夜叉王は起ち上りて、しばらく黙然としていたりしが、やがてつかつかと縁にあがり、細工場より槌を持ち来たりて、壁にかけたるいろいろの仮面を取り下し、あわや打ち砕かんとす。楓はおどろきて取り
かえで ああ、これ、なんとなさる。おまえは物に狂われたか。
夜叉王 せっぱ詰まりて是非におよばず、
かえで さりとは短気でござりましょう。いかなる名人上手でも細工の出来不出来は時の運。一生のうちに一度でもあっぱれ名作が出来ようならば、それがすなわち名人ではござりませぬか。
夜叉王 むむ。
かえで 拙い細工を世に出したをそれほど無念と思し召さば、これからいよいよ精出して、世をも人をもおどろかすほどの立派な面を作り出し、恥を
(かえでは縋りて泣く。夜叉王は答えず、思案の眼を
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