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現代若き女性気質集(げんだいわかきじょせいきしつしゅう)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-26 7:43:25 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语

底本: 愛よ、愛
出版社: メタローグ
初版発行日: 1999(平成11)年5月8日
入力に使用: 1999(平成11)年5月8日第1刷
校正に使用: 1999(平成11)年5月8日第1刷

底本の親本: 岡本かの子全集
出版社: 冬樹社
初版発行日: 1976(昭和51)年

 

これは現代の若き女性気質の描写びょうしゃであり、諷刺ふうしであり、概観がいかんであり、逆説である。長所もあれば短所もある。読む人その心して取捨しゅしゃよろしきに従いたまえ。

○彼女はじっとしてられなくなった。何かこころがっている。自分をためして見度みたがっている。自分の市場価値を。
○「恋など馬鹿ばからしくて出来できなくなりましたわ」と言う。「けれども愛の気持ちだけは失い度くありません。」
○彼女に取ってスピーディで無いものは魅力みりょくが無い。それで退屈な時は、せめて街の自動車をながめる。
○「結婚? そうね。出来るだけ我儘わがままをさしてれる男か、それとも絶対的に服従させられる強い男とならばね。」
○チョコレートを食べられるひまさえある職業だったら職業というものは何という好もしいものでしょう。
つくろった靴下くつしたでも穿くときはしわの寄らないように。
○「お習字、生花いけばな、おこと、おどり――こういうものにかえってモダニティを感じ、習い度いと思うことはあるけれど、さて、いざとなって見るとね。」
○「何でもことわられて顔があかくなるようじゃ駄目だめよ。」
○女に向って機嫌きげんを取るような男も嫌いなら、見下げて権柄けんぺいづくな男も嫌い。
○自分でこしらえたものくらい気に入るものはない。洋服でも、お友達でも。
○「お金入れの口を開けてみて、お金が一文いちもんも無いときは何だか可笑おかしくって可笑くって、あはあは笑うのよ。たとえ困るのは知れ切っていても、若さのせいか知らん。」
○「わかれの挨拶あいさつのお辞儀じぎをしてしまってから、また立話をする。あんなことあたし達にはないわ。」
○「おなかがいて家へ帰る電車がなかなか来ないときだけ、ちょっとセンチになるわよ。」
○来年あたりのことまで見当がつくけれどの先は考えてもわからない。考えると頭が痛くなるからす。
○ついでに洗う洗濯物が無くて、お湯にどっぷり入るときくらいうれしいことはない。
○「どうしてこう心配事が出来ない性分しょうぶんだろう。もっとも心配事があるとぐレコードをかけて直ぐはぐらかしちまうくせがあるんだけれど。」
牡丹ぼたんや桜のように直ぐ散ってしまう花には同情が持てない。れてもしがみ付いている貝細工草かいざいくそう百日草ひゃくにちそうのような花にかえって涙がこぼれる。
○ラグビーを見ているときだけ男の魅力を感ずる。
○子供は少し不器量なのが好き。
○「自分ながら利口りこう過ぎるのが鼻につくから、少し馬鹿になる稽古けいこをしようと思うんだけど。」
○お金があると、ついお友達と円タクに乗ってしまって。
大概たいがいな事は我慢がまんが出来るけれど。鈍感どんかんなものだけはトテモたまらない。
○ジャズの麻痺まひ、映画の麻痺、それで大概の興味は平凡なものに思える。始終しじゅう習慣的に考えているのは「何か面白おもしろいものは無いか知らん。」
○「一生のうち一度だけ、巴里パリは死ぬほど行って見度みたいわ。」
○フレッシュのいちごクリーム、ブライトな日傘ひがさ、初夏は楽しい。
折角せっかくハイキングに行っても、帰って来て是非ぜひ銀座へ寄らねば何となく物足ものたり無い。
○偉くなろうなぞとはちっとも思わない。空虚な気がする。それより刹那せつな々々の充足感。
○そりゃ時々はくさることもあるわ。希望の飛行機が経済的事情にぶつかって、うまく飛行が運ばない時の気分のエアポケット。けれども理由を運動の不足になすり付けてしまって、せっせとスポーツすればなおる。
○わたくし達は、外でお友達と一緒いっしょの時は「ノシちゃえ」なぞと随分ずいぶん、男のような言葉も使ってわあわあ騒ぐ。けれども家へ帰って家庭の人となる時は、まるで別人になっておとなしい良家の娘になる。それでいて、どっちにもちっとも矛盾むじゅんを感じないのは、われながら不思議ふしぎだ。
○「一生に一度は真剣しんけんな気持ちにさせられるものにぶつかってみたいと思うことは、そりゃあたし達にだって、ちゃんとあるわ。」
○「流行なんてつまんないと思うんだけれど、やってみれば悪い気持もしないものね。」
○「第一、ほがらかにしなくっちゃそんじゃなくて。」
○「いざとなって決心すりゃ、裸のモデルにでも平気でなれますわ。そして食べて行きますわ。」
○「あたし達に向ってはっきりした考えを言えと言ったって、そりゃ無理ですわ。まだまだいろいろ経験してから考えを決めいと思ってるんですもの。」
○彼女の笑いは、全く自然に見えるほど洗練せんれんされている。けれども彼女は、腹の底から笑った味を知らない。




 



底本:「愛よ、愛」メタローグ
   1999(平成11)年5月8日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集」冬樹社
   1976(昭和51)年発行
※「こしらえた」の表記について、底本は、原文を尊重したとしています。
入力:門田裕志
校正:土屋隆
2004年3月30日作成
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