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遊星植民説(ゆうせいしょくみんせつ)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-26 6:41:10 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语

底本: 海野十三全集 第1巻 遺言状放送
出版社: 三一書房
初版発行日: 1990(平成2)年10月15日
入力に使用: 1990(平成2)年10月15日第1版第1刷

 

「編集長、ではもう外にうかがってゆくことは御座いませんネ」
「まアそんなところだね。とにかく相手は学界でも特に有名なかわものなんだから、君の美貌びぼうと、例のサービスとを武器として、なんとか記事にしてきて貰いたい。その成績によっては、君の常々つねづね欲しいと云っておったロードスターをってやらんものでもない」
「アラ、きっと御約束しましたワ。ロードスターを買って下されば、あの人との結婚式を半年も早めることができるんですの、まア嬉しい」
「嬉しがるのは後にして、一刻も早くぶつかって来給え。はイ、えんタク代が五十銭!」
     *   *   *
「ゴーゴンゾラ博士の研究室は何階ですの」
「第三十八階!」
「そこまで、やって頂戴ちょうだい
「はい、上へ参ります。御用の階数を早く仰有おっしゃって下さいまし、二階御用の方はございませんか。化粧品靴鞄ネクタイ御座います。三階木綿類もめんるい御座います。お降りございませんか。次は四階絹織物きぬおりもの銘仙めいせん羽二重はぶたえ御座います。五階食堂ございます。ええ、六階、七階、あとは終点まで急行で御座います。途中おりの方は御乗換おのりかえをねがいます。ありませんか。では三十八階でございます。どなたもこれまでで御座います。お忘れもののないように、毎度ありがとう御座い」
「まア、ここは屋上。博士の研究室なんてありゃしないわ。あら、あすこにネーム・プレートが下っている。まるで、エッフェル塔の天辺てっぺんこうのとりが巣をかけたようね。では、下界げかいで待っているあの人のために、第二にはロードスターのために、第三は原稿料のために、第四は編集長のために、勇気を出して、この鉄梯子てつばしごつかまって登りましょう。誰も、梯子の下に、タカリやしないでしょうね。エッサ、エッサ、エッサラエッサ」
 カンカンと、ノックの音。
「ゴーゴンゾラ博士!」
「……」
「ゴーゴンゾラ博士ったらサ! ご返辞へんじなさらないと、ペンチで高圧電源線こうあつでんげんせん切断ってしまいますよ、アリャ、リャ、リャ、リャ……」
「これ、乱暴なことをするのは、何処どこ何奴どいつじゃ」
「博士ね、ここに紹介状を持って参りましたワ」
「おお、なんと貴女あなたは、美女であることよ! 紹介状なんか見なくともよろしい。さあ、早く入った、入った」
「オヤオヤ、あたしのイットが、それほど偉大なる攻撃力があるとは、今の今まで知らなかった。では、御免ごめん遊ばせ。まア博士せんせいの研究室の此の異様いようなる感覚は、どうでしょう! まるでユークリッドの立体幾何室を培養ばいようし、それにクロム鍍金めっきを被せたようですワ。博士せんせい、宇宙はユークリッドでけると御考えですか」
「近ければ解け、遠ければ解けぬサ」
博士せんせい御近業ごきんぎょうは、一体どのくらい遠くまでを、問題になさっています」
「近業とは?」
「判っているじゃありませんの。うだけ野暮やぼの『遊星植民説ゆうせいしょくみんせつ』!」
「ははア、そんなことで来なすったか。だが遊星植民には、くべからざる必要条件が一つあるのを御存じかな」
「存じませんワ、博士。それは、どんなことですの」
「いや、段々とわかって来ることじゃろう」
「それでは、そのことは後廻あとまわしとして、博士。遊星植民説の生れた理由は?」
「とかく浮世うきよは狭いもの――ソレじゃ」
「満洲国があっても、狭いと仰有おっしゃるの」
「人間の数がえて、この地球の上にはりきらないのも一つじゃ。だが、それだけではない。人間の漂泊性ひょうはくせいじゃ。人間の猟奇趣味りょうきしゅみじゃ。満員電車をめて二三台あとのいた車にりたいと思う心じゃ。わかるかな。それが人間を、地球以外の遊星へ植民を計画させる」
「まア。必要よりも慾望で、遊星植民が行われると、おっしゃるのネ」
「そうじゃ。能力さえあるなら、人間はどんな慾望でもげたい。すべての達せられる程度の慾望が達せられると、この上は能力をまず開拓して、それによって次なる新しい慾望をねらう。慾望の無くなることは無い。科学はオール・マイティーにして、同時にオール・マイティーではない。もっと明瞭めいりょうに云うと、科学はレラティヴリーにオール・マイティーであるが、アブソリュートリーにオール・マイティーではない。初等数学で現わすと、『オールマイティーじゃ』と云って誤りでない」
「どうも、あたしには哲学が判りませんのよ」
「高等数学だから判らんのじゃよ」
「そんなことより、遊星植民の実際はどうするんです?」
「いろんな方法があって、一々べきれないが、素人しろうとに判りよい方法を三つ四つ、数えてみよう。まずお月様を征服することじゃ」
「まア!」
「ロケットという砲弾みたいな形の、箆棒べらぼうに速い航空機に、テレヴィジョン送影装置そうえいそうちを積んで月の周囲を盛んに飛行させ、月の表面の様子を地球の上のテレヴィジョン受影機にうつして、地理を研究する。これは月以外の、どの遊星へ植民するときも同じ手じゃ」
「偵察飛行みたいだワ」
「そうして、上陸地点を決定し、又上陸後はどのような方法で、地球の人間が衣食住をすべきかを計画する。計画が出来たら、地球の上から、人間がロケットに乗って飛び出し、ねて探して置いた地点に上陸する」
「随分日数がかかるでしょうネ」
「まア一週間で行けるようになる」
「それからどうなりますの」

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