X号の行方は
宇宙航空船は電光のように大空を横切って、まっすぐに上へあがって行く。博士の目の前のテレビジョン装置には、研究所や三角岳の建物が豆粒(まめつぶ)のように小さくうつったが、それもたちまち見えなくなって、関東平野がまるで地図のように、浮かびあがって来たのだった。 「先生、ものすごいスピードですね」 「ああ、あれが富士山ですか」 少年たちは、今までの命がけの冒険も忘れて、大陽気に、まるで遠足にでも行ったようにはしゃぎ立てていた。 ところが航空船は、だんだん速力を落とし、しまいにはぴったりととまってしまった。 「先生、どうしたんですか」 「とまっては、ついらくしやしませんか」 少年たちはとたんに顔色をかえたが、博士は一向に平気だった。 「大丈夫だよ。速力ならいくらでも出せるが、いまは重力による落下速度とつりあったスピードを出しているから、あがりもしないし、落ちもしないんだよ。これから少し研究所の方へひっかえして、爆撃にうつるとしようか」 高度計の針はその時、二万五千メートルを示していた。しかし内部は完全に暖房されているから寒くもないし、酸素が十分に供給されているから、呼吸もちっとも困難ではないし、高速で飛行する時、機体に生ずる大気とのまさつ熱も、完全に冷却(れいきゃく)されていた。 一万、九千、八千、六千、四千、三千、二千五百、二千。 高度計の針はぐんぐんとくだりはじめ、ふたたびテレビジョンのスクリーンの上には、三角岳と研究所の建物がうつりはじめた。 「先生、千五百メートルですよ」 「よし、では原子爆弾を投下しよう」 博士は、右手のハンドルを廻した。 一秒……二秒……三秒…… 息づまるような時間がすぎたと思うと、研究所の建物は大爆発をおこし、むくむくとした爆煙(ばくえん)が、三角岳をおおいかくした。 「ばんざい、これで先生、ばんざいですね」 六千メートルまで高度をあげて、この航空船はふたたび停止していたが、その瞬間、がーんというような動揺が、この高空まで伝わって来たのだった。 「ふしぎだ。こんなはずはないが……」 博士はしきりにつぶやいていた。 「先生、どうしたんです」 戸山少年は、なんだか心配になって来たのだった。 「思ったより、爆発の規模(きぼ)が小さいんだ。すくなくとも原子爆弾は二十個以上は完成されてあったのだし、原料ウラニウムも、一トンはおいてあったはずだから、それが次から次へと爆発すれば、三角岳がぜんぶ吹っとぶくらいの大爆発を起こしていいはずなのに、あのぐらいの爆煙ですむはずはない。それに爆発は、たしかに一度だけだった……」 そういえば、たしかにそのとおりである。何かふしぎな不安が、少年たちの心にも、しだいに浮かびあがって来た。 その時である。どこからともなく、あの恐ろしいX号の声が、みんなの耳にひびいて来たではないか。 「谷博士、谷博士――」 博士の手は、ぶるぶると震(ふる)えていた。 「おまえはだれだ。何者だ――」 「きさまが殺したとばかり思っていたX号だよ。おれの力が分かったか。おれは無限の生命力を持っている。原子爆弾の爆発ぐらいでは、おれのからだはびくともしないぞ」 「それではまだ、おまえは死んでいないのか」 「あたりまえだ。これからきさまにこの復讐(ふくしゅう)をしないうちは、死んだりなどしてたまるものか。おれが全精力をかたむけて作りあげた研究所をこわされ、おれの計画のじゃまをされたうえは、きさまたちは、生かして地上へは帰さないからかくごしろ」 X号は火のように、怒(いか)りくるっていたのである。博士もさすがにあわてていた。 「これはいけない。さっそくどこかへ着陸して、X号の行方をつきとめることにしよう」 博士にもX号の行方は分からなかったのだ。X号の声は、ラジオのマイクロホンから聞こえて来たのだし、あのような原子爆弾の大爆発の中でも、ゆうゆうと生きのびておられるようなX号のことである。どんなことをやりだすか知れない、と人々は考えたのである。 だが高度をさげて、地上へ近づこうとする博士の努力も、いまはまったく効果がなかった。 高度計の針は、ふたたびぐんぐんと廻りはじめた。 七千、八千、九千、一万、一万五千…… 「これはいったいどうしたことだ」 博士も機械を操縦する手をやめて、しばらく呆然(ぼうぜん)としてしまったのだった。 「それ見たことか。うわあはっは、わっはっは……」 X号の高笑いが、あてもなくこの成層圏(せいそうけん)を飛びつづける、宇宙航空船の中の人々の耳をおしつぶすようにひびきわたったのであった。
迷えるロケット
宇宙航空船は、いま、まるで迷ってしまったように、大空を矢のように走りつづけている。 高度はすでに、二万メートルをこえた。このままでは、地球の引力圏(いんりょくけん)を脱(だっ)して、月の世界へ飛んで行かないとも保証はできない。 操縦装置は、いまや全然博士の手におえず、この航空船の行手を知っているものは、ただ超人間X号だけだった。 「だめだ。もうぼくにはどうすることもできない。諸君もいよいよかくごをきめてくれたまえ――」 博士があきらめたように、目をとじた時である。操縦室の扉をひらいて、山形警部がとびこんで来た。 「先生、先生、たいへんです。たいへんなことが起りましたよ」 「これ以上、たいへんなことが起こるもんか」 博士の答えはぶっきらぼうだったが、警部はつかつかと博士のそばに歩みよると、その耳に口をよせて、恐ろしいことばをささやいた。 「先生、X号がこの飛行機の中にしのびこんでいますよ」 「えッ、なんだって、それはほんとうかい。どうしてそんなことが分かった――」 博士は警部の腕をとらえて、はげしくゆすぶった。 「いま、冷蔵室へ、私のからだを運びこんで出て来たとき、廊下の端(はし)を曲った男があったんです。それがなんと――先生にそっくり、あのX号にちがいないんですよ」 「そしてその男はどこへ行った」 「気がつかないように、あとを追いかけましたが、どこにも見えません。X号の恐ろしさはよく私も知っていますから、一人であぶないことをするよりは、こう思って、先生に報告をしに帰って来たんです」 「そうか。よくやってくれた。それならばまだいくらか望みはあるぞ……」 博士はしきりに考えこんでいたのだった。 「分かった。きっとそれにちがいない。X号は原子爆弾とウラニウムの原料を持って、この飛行機に乗りこんだんだ。それだから、原子爆弾を投下しても、あの程度の爆発しか起こらなかったんだ」 博士はひざを叩(たた)いて叫んだ。 「でも、いつのまにそんな離れわざをやったんでしょう」 戸山少年が、ふしぎそうにたずねた。 「あの放送をしてから、この航空船が飛びだすまでには、五六分の時間があったろう。そのあいだに、きっとX号はこの冒険をやってのけたのだよ」 「それではいったいどうすればよいのです」 「X号を倒して、機械の調子を直し、また地上へ帰りつくのだ。きっとどこかでX号が機械の調子を狂わせているのにちがいないのだから、X号を倒しさえすれば、またこの航空船は、思うとおりに動くようになるよ」 だがそのX号を倒すには、いったいどうすればよいのだろう。あの電臓は火にも水にも電撃(でんげき)にも、どのような刺戟(しげき)にも、たえるはず――それを破壊するには、原子力によるほかはないと、博士もはっきりいっていたではないか。この中で原子爆弾が使えないのは、きまりきったことだ。とすれば、どうしてこの超人間に対抗するのか―― 博士はその時とつぜん口をひらいていいだした。 「その壁のボタンを一つ一つおして見てくれないか」 左手の壁には、小さなスクリーンがあって、その下には五六十個のボタンがついていたのである。戸山少年がためしに、その一つ、17という番号のボタンをおしてみると、スクリーンの上には、設備のよく行きとどいた、手術室の光景がうつしだされた。 「先生、これはなんですか」 「テレビジョンだよ。この航空船の各部屋には、テレビジョンの送信装置がしかけてあって、どの部屋でいまどんなことが起こっているか、すぐこの操縦室に分かるようになっているんだ。それでX号の場所を探してごらん」 少年たちは次から次へとボタンをおした。そして23というボタンをおしたときである。何か複雑な機械の前に坐りこんで、一生けんめいに、ダイアルを廻しているX号の姿が、スクリーンの上にありありとうつしだされたのであった。 「先生、先生、いましたよ。X号の姿がみえました。23という番号のついた部屋です」 戸山少年は、必死になって叫んでいた。 「ああそうか。やっぱりあそこにおったのか――」 博士はほっとため息をついた。 「いったいなんの部屋なんです」 「第二操縦室だよ。万一、この操縦室がだめになったとき、その部屋から操縦ができるように設計しておいたのだが、二カ所で思い思いに機械を動かしては、このロケットも、変になるのもあたりまえだよ」 「それはどうすればよいでしょう」 「ぼくはここで機械を守っているから、君たちは火焔放射器でX号を攻撃してくれたまえ」 「でもX号は、火焔放射器には抵抗できるのでしょう」 「いや、電臓は殺すことはできないが、皮膚にやけどをさせることはできるのだから、X号もある程度は、力を失うことになる。そのあいだに、向こうの操縦装置を破壊して、このロケットを、思うように動かし、負傷させたX号を、この航空船の中にはいっている小型ロケット機に乗せて発射し、それを原子ロケット砲で粉砕(ふんさい)するんだ」 なるほど、それはじつにどうどうたる計画だった。だがX号ともあろうものが、おめおめとその計画にひっかかってくるであろうか。
<< 上一页 [21] [22] [23] 下一页 尾页
|