探偵競争
怪盗「岩」は、世界に一つしかないという地底機関車を動かして、何ごとか大きな悪事をくわだてているらしいのであるが、一体それは何だか、まだ様子がハッキリわからない。 大江山捜査課長はとうとう一大決心をかため、十人の警官から成る地中突撃隊を編成した。これを見ていたのが、「岩」の足型を抱えて放さない大辻珍探偵で、彼も勇ましくこれに加わって一行は十一人となった。早速、横浜正金銀行の金庫裏から地中にもぐりこんだ。 わが少年探偵三吉は、参加したいのを怺え、師の帆村探偵から教わったとおり、最初から一貫した探偵方針を捨てることなく、その後は地震計をもって、日本橋室町附近の地下室という地下室を、なんどか一生懸命で探しまわっている。
地中の怪
地中突撃隊はどうなったか? 大江山隊長を先頭に、大辻珍探偵をビリッコに、一行十一勇士は勇ましくも土竜のように(というと変だが)、明暗もわからぬ地中にもぐりこんだ。始めは腹這って、やっと通れるくらいの穴が、先へ行くにつれ大きく拡がってきた。おしまいには、楽に立ってあるけるようになって、持ちこんだ穴掘機械が邪魔なくらいだった。 「さあ、こんどは穴が北に向いたぞ」 と磁石をしっかり手に持った大江山警部が叫んだ。 「はあ、もうこれで横浜の北東を十キロも来ました」 と測量係の警官が報告をした。こうして一行は今どの辺の位置にいるのかを、地図の上に鉛筆のあとをつけながら、たゆまず前進をつづけた。――しかし一向に、「岩」にも出会わなければ、その子分手下にもぶつからない。 「ねえ大江山さん」と大辻が後から声をあげた。「岩の奴は、あの大金を持って、外国へずらかったんじゃありませんか。それとも私達に恐をなしたのか、さっぱりチュウとも鳴きませんぜ」 大辻老は、岩を鼠かなんかと間違えていた。一行の気がすこしゆるみかけた。丁度そのときだった。 どどーン、ぐわーン。いきなり恐しい物音が、後の方にした。ハッと思う間もなく、恐しい風が一同の横面をいやというほど殴った。「さあ引返せッ」と隊長が呶鳴った。すわ何事が起ったのだろう。
生埋の一行
「うわーッ、たいへんだッ」 「どうしたどうした」 「今通った道が崩れて、帰れなくなった」 「なに帰れない」大辻老の顔色は紙のようにあせた。「帰れないとたいへんだ。早く掘って穴をあけといて下さい」 しかし隊長は一向号令を下さない。さすがは捜査課長だ。這いつくばって崩れた土の臭を熱心に嗅いでいるのだ。 「おお、ダイナマイトの小型のを仕掛けた者がいる。油断をするなッ」 「大丈夫です。大丈夫です」と一同。 「ダッ、ダイナマイトですって」大辻老は気が変になった鶏のように、一人でバタバタ跳ねかえっている。 「崩れた箇所はあのままにしておいて、一同前進!」隊長は勇ましい号令を下した。 だッだッだッと、一行は小さく固まって、懐中電灯をたよりに、低い泥の天井の下をドンドン前進した。 「左、左、左へ曲れ」 「オヤ道が行きどまりだ。おかしいぞ」 「うん、これは一杯食ったかな――集れッ」 と隊長の号令だ。 「番号」 一チ、二イ、三ン……。 「オヤ一名足りないぞ。誰がいなくなったのだッ」 確かに一名足りない。どこへ消えたというのだろう。その足りない男については、誰もかもどこの誰だかハッキリ知らなかった。一同は心臓をギュッと握られたように、無気味さに慄えあがった。
上一页 [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] ... 下一页 >> 尾页
|