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十八時の音楽浴(じゅうはちじのおんがくよく)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/8/24 16:59:47 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语


      8

 爆発! と聞いて女史はブルブルと身ぶるいをした。博士をミルキ夫人の室で虐殺しようとしたときに、思いがけない爆発が起って、二人の手足が引裂かれてバラバラになったことを思い出したからである。「ではやむを得ません。只今わたしが安全装置を入れてから開けます」
 バラは観念したものと見え、今は悪びれる様子もなく、ドアの前に立って、三つの目盛盤を右や左にグルグルと廻しはじめた。青と赤と黄とのパイロットランプが次々に点滅した。そのうちにドアは、静かに内部に向って動きだした。一行は、だんだんと開いてゆく隙間をとおして、室内の模様をこわごわ覗きこんだ。
「この第九室は、博士が試作品を入れておかれる部屋なんです。室内の生物たちを、あまりからかわないで下さいまし」
 バラの先導で、一行は恐る恐る室内に足を踏み入れた。
 途端に、なによりも早く一行を愕かせたものがあった。思いがけなくも、その室内に一人の裸女が立っていて一行の顔をジロリと見渡したのである。
 その裸女は、年の頃は十七、八歳でもあろうか。牛乳を固めたような真白な艶のある美しい肢体をもっていた。ことに人目をひくのは、その愛くるしい顔だった。世界中探しても二人とはいないほどの美少女だった。どこやらミロのヴィナスに似ていたが、むしろそれよりも天使に近かったといった方がいいかもしれない。彼女は文字どおり一糸をもまとわない裸身を別にはじらうでもなく、一行の方を向いてにっこりと笑ってみせた。
「これは素晴らしい美人だ!」ミルキ閣下は好色な喜悦をあけっぱなしに叫んだ。「その女、名前はなんという」
「アネットという名がつけてございます」
 とバラが少女に代って返事をした。
「なに、アネットというのか。相当いい名前だが、もっと似合のやさしい名前を与えてやった方がいいと思うぞ」
「しかし閣下、誤解なすっちゃいけませんよ。アネットは人造人間です。身体をよく見てやって下さいまし」
「なんだって。身体を見ろというのかい」
 ミルキ閣下は目を皿のようにして、アネットの全身をジロジロと探りまわした。
「おお、そうか」
 閣下の目が下の方に下がってきたとき、彼は思わずにが笑いをした。そこに人間として未完成な部分を発見したが故だった。
「――ではちょっとご説明いたします。この部屋に飼ってあるものは、いずれも博士コハクの試作生物です。こっちの小豚のような四つ足は身体と内臓とが人造肉によって作られ、そしてシェパードの脳髄を移し植えたものでございます。それからこっちは、猿に人間の幼児の脳髄を植えたもの……」
 バラは金網の前に立って、いちいち説明をしていった。
 実に怪奇を極めた生物館だった。一つとして、まともなものはいなかった。人間の形をしたものもいた。乳から上だけの人間が黄色い液体の充たされた大きなガラス器の中に漬かっていた。彼は両手でガラスの管を口にくわえて、紫色の液体をチュウチュウ吸いつづけていた。その液体のもとを見ると、複雑な化学装置からできていたが、その先は器内の黄色い液体だった。つまり黄色い液が途中で紫色の液になり、それが半身人間の身体を通るとまた黄色い液に変るという循環運動をなしていた。バラはこれを、新しき栄養摂取の試験をやっているのだと説明した。
 このバラの説明の間にもミルキ閣下はとかくソワソワした態度で、人造人間アネットの方に注意を奪われがちだった。女大臣アサリ女史の眼にも、それがハッキリと映じたので彼女はだんだん蒼ざめ、はては身体をブルブルとふるわせた。
 ところがミルキ閣下は、そんなことにいっこう気がつく様子もなくついに列を離れて、アネットの立っているところへ引き返してきた。
「美しいアネットよ。お前はこの部屋で何をしているのかい」
 アネットは白痴の唖女のように、ただニコニコと笑っているばかりだった。
「ああ閣下」とバラが血相をかえてやってきた。「アネットは試作品ですから、特別の符号でないと通じないのでございますよ。ミルキ語は、彼女にわからないんですよ」
「なんだって、ミルキ語がわからんというのか。それは実に不便だネ」
 とは言ったが、いわゆる白痴美というのであろうか、アネットの美しさに閣下はますますひきつけられていった。
 そのとき女大臣はこらえかねたように歯をギリギリ噛みあわせると、アネットのそばに足早に近づいた。そして内ぶところに隠し持ったナイフをキラリと抜くや、それを逆手に持ってアネットの心臓の上をめがけてただひと突きとばかり腕をふるったが、このとき遅しかのとき早し、顔色をかえたバラが身を挺してアサリ女史の腕にシッカと飛びついて、わずかにことなきを得た。しかし女史は大暴れである。バラもまたひどく昂奮していた。
「女大臣、何をなさるのですの」
「お前の知ったことではない。わたしの権限で、この人造人間を殺すのだ」
「殺すのはちょっとお待ち下さいまし」
「なにを邪魔するんだい。生きた人間を殺すのはいけないかもしれないけれど、器械で出来た人造人間を殺すことがなぜ悪いんだい。こんな女のできそこないは、見ているのも胸くそが悪い。わたしは権限をもってアネットを殺してしまうのさ」
「いけませんいけません、アネットを殺しては。アネットは作り上げられてから、もう何週間もこの部屋で試作品の世話をして働いていたのです。わたしたちとも言葉をかわして、仲好しになっているのです。本当の人間と変りはないのです。それを殺すなんて、それは――それはあんまりです」
 バラはナイフを握る女大臣の手を捕えて、頑とはなさなかった。
「ちょッ。お前さんは女大臣に反抗するんだネ。ようし、もう許して置けないッ」
「でもアサリ大臣、もう一度考え直して頂けません――それにあの、博士が亡くなったのなら、残された人造人間を大事にして置かないと、他の人の手ではもう再び人造人間を作ることができないかもしれないのでございますよ。それはミルキ国にとって最大の損失ですわ」
「最大の損失だなんて、僭越な。ホホホ、察するところお前はこの人造人間を愛しているのだネ」
「……」
 女大臣がバラの髪をむずと掴み、腹立ちまぎれに引き倒そうとする様子にミルキ閣下は愕いてついに大喝した。
「待て、アサリ女史。ミルキの名をもって、この人造人間に傷害を加えることを許さぬぞ。人造人間は国のため貴重な研究品だ。わしはいままでに八百億ルクルの金を、この研究のために支払っているぞ、殺しちゃならぬ。ナイフを収めい」
「閣下」とアサリ女史はミルキの胸ぐらを取って、「ご命令には従います。しかし今誓って下さい。この出来損いの人造人間に閣下が人間に対するような言葉をおかけにならぬように」
「うむ。そいつはよくわかっている。わしに何らの他意のないことはお前もよく知っているじゃないか」
 そういうと、女大臣はにわかに眼を細くして、おもはゆげに顔を赭らめた。
 部屋の隅ではペンがひとりでにがりきっていた。
「なんだ、面白くもない。バラの奴は人造人間を愛してやがるし、女大臣はミルキ閣下と密通していたんだ。それじゃあ俺も遠慮することはなかった。俺と仲のいい靴工ポールの奴は身体を女性に直しやがったが、あれは俺と一緒になりたくてそうしたのにちがいない。よオし、これから行って本気で話をつけてこようや」

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