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海底都市(かいていとし)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/8/24 11:04:19 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语



   険悪化けんあくか


 魚人オンドリの声に、僕は彼の指す方をながめた。
 ああ、僕はその光景を一目見たとき、そっちへ目を向けたことを後悔こうかいした。それは悲惨ひさんきわまる光景だった。洞窟の中に、大きながけくずれが起こり、その土砂の下から数百数千の魚人が血だらけになってたすけをもとめているのであった。そして天井から、にゅうと顔を出しているのは、まぎれもなく海底都市のボーリングの末端まったんをなす鋼鉄棒こうてつぼうだった。
「とつぜんあのとおり、大震動と共に、あのような金属棒がわれらの居住区を突きさしたのだ」
 オンドリは叩きつけるような口調でいった。
「そこで天井はくずれる。たちまちわれらの同胞はあのとおり生き埋めになる。皮膚は破れ、肉はさけ、死する者数知れず、その救出すくいだしにわれらは総力をあげているが、このとおりまだ救い出しきらないのだ。どうです、君たちヤマ族が見ても気持ちのいい光景じゃないでしょう」
「ごもっともである。海底都市の拡張かくちょう工事がこんな惨禍さんかを君たちに与えようとは全然知らなかった。早速さっそく僕は、このことを報告して、直ちに善後策を講ずるであろう」
「とにかく無法にも程がある。何等の案内も警告もなしに、上からどかどかと鉄の棒をさしこんで、こんな目にあわすんだからね。かりに君たちの居住区が、こんな風に荒されたと考えてみたまえ。君たちはそのときどんなに怒りだすことか」
「ごもっとも。げにごもっともである。早速警告をわれらの仲間へ発信しよう」
 僕はそういって、カビ博士への通信器を取上げた。しかしそれは機能を発揮しなかった。
 と、そのとき大雷おおかみなりの落ちたような音響がした。それと共に、僕が踏まえている大地が地震のように揺れた。
「おッ、又来たぞ。憎むべきヤマ族!」
 オンドリののろいにみちた声と共に、右手の正面の壁がどっと下へ動きだして、滝のように落下していった。するとそのあとに、直径二百メートルほどの大穴があいた。その底はどのへんになっているのか、土煙のために見えなかった。
 トロ族の叫び。僕のまわりから、また土煙のたちのぼる地底からも、あわれな叫喚きょうかんがあがって来た。
「また陥没かんぼつだ。ひどいことをしやがる」
 オンドリの声は、前よりもずっと興奮こうふんしている。
 僕は目をおおいたかった。僕は出来るならすぐさまその場を逃げ出したかった。だが、そうすることは不可能だった。僕はどの道を行けば、カビ博士の待っているところへ行けるのかを知らない。――オンドリが、僕の手をつかんだ。
「あの声を聞け。トロ族ののろいの声を聞け」
 そういって彼は、僕の耳にゴムまりを半分に切ったようなものを、ぺたんとはりつけた。するとそれまでは、ただわあわあ、ぎゃアぎゃアとばかり聞こえていたトロ族たちの叫喚が、とたんに言葉になって僕に聞こえた。
「ヤマ族の悪魔め! また、やりやがった」
「もうかんべんならん。海底都市へ進撃して、ヤマ族をみな殺しだ」
「そこに立っているヤマ族の一人を、まず血祭ちまつりにぶち殺せ」
「そうだ、そうだ。やっつけろ」
 僕は背中が寒くなった。
 暴民ぼうみんどもだ。彼らのいっていることから考えて、彼らを暴民と呼んでさしつかえないだろう、たとえ彼らが憤激ふんげきすべき理由を持っているにしろ……。
「君は、僕に何を求めるのかね」
 僕はたまりかねて、そばにいて僕の手首をしっかり握っているオンドリにいった。
「あのとおり同胞は激昂げきこうしているんだ。尋常じんじょうのことではおさまらないだろう。同胞たちは君の姿を見て、一層刺戟しげきされたのだ。同胞たちは、日頃の忍耐を破って、ヤマ族の海底都市襲撃を叫んでいる。あれ、あの通り……」
 オンドリにいわれなくても、僕にも彼らの好戦的な叫びは、さっきから耳に入っている。困ったことになったものだ。
「海底都市の人たちは、自分たちの進めている海底工事が、このように君たちトロ族に惨害を与えていることを知らないのだ。知ってりゃ即座そくざにやめるにちがいない。だから君たちは海底都市を襲撃する前に、先ず事情を海底都市へ申し入れるべきだ。及ばずながら僕はその使者の一人となってもいいと思う」
「遅い。もう遅い。われわれの同胞はあの通りの大激昂だいげきこうだ。君は……君は気の毒だが、われわれの門出かどでの血祭だ。ひッひッひッひッ」
 オンドリは歯をむきだして、僕の腕の骨も折れよとつかんで振った。
 これまで穏健おんけんの人と見えていたオンドリまでが、もはや気が変になってしまったようになったのだ。万事休ばんじきゅうすである。
 僕の心は千々ちぢに乱れた。愛する人たちの住んでいる海底都市を、トロ族の暴行より如何にして護ったらいいだろうか。また大激昂だいげきこうのトロ族を何とか一度でしずまらせる方法はないものであろうかと。
 ……と、僕は一策を思いついた。


   タイム・マシーン


 最後の竿頭かんとうに立って思いついた僕の一策というのは、どんなことであったろうか。
 それはすこぶる大胆だいたんな、そして乱暴な方法であった。だがそれが今残されたる只一つの道であるのだ。トロ族の群衆は、今僕の身体をきにしようと思っている。それに続いて大挙たいきょ、海底都市に侵入しようとしている。そしてトロ族の惨虐性ざんぎゃくせい復讐心ふくしゅうしんとが、言語に絶する暴行を演ずるであろうことは明白だ。この際だ。どんなに[#「どんなに」は底本では「どんに」]険しい道であろうと、それが道であれば、僕は突き進まないでいられないのだ。
「はははは、僕を血祭にするというのか」
 僕はオンドリの方へ笑いかえした。
「そうだ。それによって、われわれは、先ず同胞の流した血の最初の一滴をとりかえすのだ。あとは海底都市へなだれこんで、何十倍何百倍の血にして取り戻す……」
「はははは。たわごともいい加減かげんにしたまえ。君たちはわれわれ人類ヤマ族を劣等生物視れっとうせいぶつししているが今に後悔するだろう。われわれ人類は、君たちみたいに野蛮ではない。また文化においてもずっとすぐれている」
「うそだ。ヤマ族は貧弱な文化力を持った劣等未開の奴ばらだ」
「それが認識不足というものだ。今に分る。そのときおどろかないように……」
「ヘヘン、わらわせる。なにが認識不足だ」
「殺してしまえ。八つ裂にしろ」
「早く、っちまえ。顔を見ているのも、むなくそが悪い」
「迷っている死霊しれいのために、そのヤマ族野郎の頭を叩きつぶせ」
 トロ族群衆の興奮と激昂げきこうとはその頂点に達した。ついに彼らはときの声をあげて、僕の方へ殺到した。手に手に異様な凶器きょうきを持ち、目玉をむき出し歯をむき出して、怒れる野獣群のように僕を目がけてとびついた。
 何條なんじょうもってたまるべき、僕はたちどころに惨殺ざんさつされてしまった――。
 ちりちりちりちりン。
 警鈴けいれいが鳴っている。
 僕は目を見開く。まぶしい金属壁きんぞくへきの反射である。
(ほう、ここは見覚えのあるタイム・マシーンの中だ!)
 と、気がつく折しも、この金属壁の一部がぽかりと四角にあいて――そこが扉だったのだ――外からこっちを覗きこんだ者がある。
「あッ、君は……」
 覗きこんだ男こそ、辻ヶ谷少年だった。僕をこのタイム・マシーンの中に入れてくれた、同級生の辻ヶ谷君だった。
「おう、君。もういいだろう。出たまえ」
「いやだ。今が大切なんだ。もう一度二十年後の世界へ僕を戻してくれ。君も知っているじゃないか、僕は今トロ族に殺されて……」
「何をいってるんだ。うわごとはそのくらいにして、こっちへ出て来たまえ。足がどうかしたんなら手を貸してやろうか」
「だめ、だめ。絶対にりない。ねえ君、頼むよ。今非常に大切なところなんだ。僕がたとえ何十回ここへ戻って来ても、僕がもしいいというまでは、君は僕を二十年後の世界へ何回でも送りつけるんだ。そうしないとわが人類は一大危機にさらされることになるんだ。いいかね、何回でも僕を、二十年後の世界へ追いかえすのだ」
 僕は泣かんばかりにして辻ヶ谷君に頼んだ。
 なにしろ僕はトロ族の暴民のため殺されたにちがいない。死ぬと共に、僕はこの世の中へ戻って来て、タイム・マシーンの中に自分の身体を発見したのである。僕が予想したとおりだった。
 しからば僕は、かねて計画したところに従って頑張るばかりだ。これから何べんでもトロ族の暴民の前に姿を現わして、彼等をおどろかせ、そして彼らをどこまでも説得するんだ。
「よォし、そんなに君がいうんなら、また二十年後の世界へ送ってやるが、そのかわりどんな事が起っても、僕は知らないよ」
 辻ヶ谷君は、そういって扉に手をかけた。
「ありがとう、ぜひ頼む。――いいね、僕がもうよろしいというまでは、僕が何べんここへ戻って来ても、二十年後の世界へ追いかえすのだよ」
「よし分かった。君の希望するとおりにはからってあげる」
 そういうと辻ヶ谷君は、扉をぱたんと閉めた。
 それから例のとおりタイム・マシーンは働きはじめた。あたりがぼんやりとなる。そしてしばらくすると、別の音響が聞こえて来た。
「ひッひッひッひッ。見やがれ。とうとう八つ裂にしてやった」
血祭ちまつり第一号だ。ヤマ族め、思い知ったか。くやしかったらもう一度生きてみろ」
 僕は今だと思った。僕はむくむくと起きあがった。そして大音声だいおんじょうをはりあげた。
「あわててはいけない。僕は死んでいないのだ。オンドリ、僕が見えるか」
 僕はそばにいたオンドリの肩を叩いた。そのときのオンドリのおどろいた顔!


   不死身ふじみ


「僕はまだ死んで居らんぞ。よく見たまえ」
 僕はオンドリの腕をとらえて、つよくゆすぶった。
「おやッ。まだ死ななかったか」
 オンドリは、僕がまだ生きて居るのを、ようやく認識したようだ。
「この野郎はまだ生きている。これではまだ血祭ちまつりにならないぞ」
 オンドリは前に集まっているトロ族たちを煽動せんどうした。さっきまでは彼は平和愛好者のような顔をしていたのに、今はもうがらりと変って煽動者をつとめている。なんといういやしい根性こんじょうの持主だろう。
「殺してしまえ。そのヤマ族の代表者を、ずたずたにひきさいてしまえ」
「復讐だ。そしてヤマ族の国へ攻めこんで行く前の血祭に、そのヤマ人を張り殺すがいい」
「そうだ、そうだ。やってしまえ」
 興奮しきったトロ族の暴漢は、僕をめがけて押しよせた。
 その野獣的な彼らの形相ぎょうそうに、また太古たいこのままの好戦的な性格まるだしの有様ありさまに、僕はいささかひるみはしたけれど、ここで決心を曲げては万事ばんじ水の泡と思い、こっちも負けずに大声を張りあげた。
「トロ族の人々よ。君たちは悪魔に呪われていることに気がつかないのか。目ざめよ。君たちはもっと冷静にならなければならない。平和的に事を解決する道をえらばなければならない。暴力のみで、自分の意志を押し通そうというのは、神の憎みたまう最も邪道じゃどうである。目を開け、トロ族の諸君。君たちは神の道に反して、僕を暴力によって殺害しようとしている。しかし見ていたまえ。そういう暴力行使は何の役にもたたないから、君たちはついに僕を殺害し得ないということを悟るだろう。そのとき君たちは、神のみ心を――」
「やっちまえ。きゃつをこの上、勝手気ままにしゃべらせておくことがあるものか」
「そうだ、そうだ。早く八つ裂にしてやるんだ」
 わあッと、彼らは殺到さっとうした。
 棒、石塊せきかい、刀、おの、その他いろいろな兇器が僕の頭上に降って来た。――僕は昏倒こんとうした。
 気がついてみると、辻ヶ谷君がタイム・マシーンの扉を細目に開いて、こっちをのぞきこんでいる。
「おう、辻ヶ谷君。早く僕を二十年後の世界へ送りかえしてくれたまえ。今、とても重大な出来事があの世界で起こっているんだから……」
「ほんとに、いいのか。何べんでも、あっちへ送りかえしてやればいいのか」
「そうなんだ。僕がもういいというまでは、いくどでも二十年後の世界へ僕を追い返してくれ給え」
「よし。やってあげるよ。器械がこわれない間は、やってやるよ」
 扉が、ぱたんとしまった。
 気がついてみると、僕はオンドリの足許あしもとに倒れていた。
 むくむくと起き上がった。
「おい、トロ族諸君。君たちは大ぜいでもって、まだ僕を殺し得ないではないか。いったい、どうしたんだ。よく反省してみたまえ」
「おンや。この野郎。また生き返って来たぞ。執念しゅうねんぶかい野郎だ」
「へんだなあ。たしかにぶち殺して、手足も首も、ばらばらにしてしまったはずだが……」
「わたしは、なんだか気味が悪くなって来たわ」
「あの人がいっているとおり、神さまはあの人の方についているようね」
 そんな声が僕の耳にちらちらと、はいった。どうやら相手の中に、軟化なんかのしるしが見え始めた。が、安心するのは、まだ早かった。
「こいつは悪魔だ。もっと徹底的に叩きつぶさにゃ駄目だ」
「執念ぶかいやつ。やっつけろ」
「やっつけろ」
 オンドリは気が変になったようになって、僕におどりかかった。暴漢たちが、それに続いて僕へのしかかる。
 僕は息がつまってしまった。
 が、僕は四度五度と、死にかわり生きかわり、彼らの目の前に姿をあらわした。そしてそのたびにまずまっ先にオンドリを見つけて彼の肩を叩くことにした。
 オンドリは、始めの慓悍ひょうかんさをだんだんと失ってきて、次第にむずかしい顔付をするようになった。九回目には、彼は大きな恐怖の色をうかべて、死んだようになってしまった。僕は、そのそばへ行って介抱かいほうをしてやった。そして、こういった。
「もう分ったでしょう。君たちのやり方が間違っているということを。……それが分ったら、僕の忠告に従って、君たちは平和的に事を解決するために、代表者を数名えらんで海底都市へ派遣したまえ。及ばずながら、僕が仲介をしてあげるから」

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