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錦染滝白糸(もみじぞめたきのしらいと)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-23 10:43:56 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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二人続いて入る、この一室 七左 (襖の
撫子、勝手に立つ。
撫子、 村越 (手を
撫子 はい、はい。(と軽く立ち、襖に入る。)
七左、程もあらせず、銚子を
村越 (
七左 (
村越 小父さん!
七左 慌てまい、はッはッはッ。奥方もさて
村越 (ともに笑う)かえってお心任せが可いでしょう。しかし、ちょうど
撫子 あの、赤の御飯を添えまして。
七左 過分でござる。お言葉に従いますわ。時に久しぶりで、ちょっと、おふくろ様に
村越 仏壇がまだ調いません、
七左 はあ、
村越 (涙ぐむ。)
七左 おふくろどの、
村越 (送り出す)是非
七左 おんでもない。晩にも出直す。や、今度は
村越座に帰る。
撫子 (
村越 お互の中にさえ何事もなければ、
この間に七左衛門花道の半ばへ
白糸 (行違い、ちょっと小腰)あ、もし、旦那。
七左 ほう、
白糸 少々伺いとう存じます。
七左 はいはい。ああ何なりとも聞くが
白糸 あの、新聞で、お名前を見て参ったのでございますが、この御近処に、村越さんとおっしゃる方のお
七左 おお、
白糸 ああ、嬉しい、あの、そして、欣弥さんは御機嫌でございますか。
七左
白糸
七左 はいはい。
白糸 それから、あの、ちょっと伺いとう存じますが、欣弥さんは、唯今、御家内はお
七左 二人じゃが、の。
白糸 お二人……お女中と……
七左 はッはッはッ、いずれそのお女中には違いない。はッはッはッ。
白糸 (ふと気にして)どんなお方。
七左 どんなにも、こんなにも、松本中での、あでやかな奥方じゃ。
白糸 お
七左 村越弥兵衛どの御子息欣弥殿。何が違う。
白糸 おや、それじゃ私の
七左 ええ……変なことを言う。
白糸 見て下さい、私とは――違いますか。
七左 いや、この方が、床の間に
白糸 え。
七左 まずおいで。(別れつつ)はあてな、
白糸 (二三度
これよりさき、撫子、膳、風呂敷など台所へ。欣弥は一室に
その (取次ぐ)はい。
白糸 (じろりと、その
その はい、どちらから。
白糸 不案内のものですから、お邸が間違いますと失礼です。この村越様は、旦那様のお名は何とおっしゃいますえ。
その はい、お名……
云いかけて
りく 私、知っててよ。(かわって出づ)いらっしゃいまし。
白糸 おや。(と軽く)
りく あの、お
白糸 はあ、そしてお
りく あのう、二十八九くらい。
白糸 くらいでは
りく あの、何の、あるのと、ないのと、なんです。
白糸 え
りく 何の、あるのと、ないの、とですの?
白糸 お
りく ほほほ、生やしていらっしゃるわ。
白糸 また、それでも、違うと
りく へい。
けげんな顔して引込むと、また窺いいたる、おその、と一所に笑い出して、二人ばたばたと行って襖際へ……声をきき知る表情にて、
村越。つつと出で、そこに、横を向いて立ったる白糸を一目見て、思わず手を取る。不意にハッと驚くを、そのまま 欣弥、不器用に 欣弥 一別以来、三年、一千有余日、欣弥、身体、
白糸 (耳にも
撫子 (身を
白糸 (横を向く。)
欣弥 暑いにつけ、寒いにつけ、雨にも、風にも、一刻もお忘れ申した事はない。しかし何より、お
白糸、横を向きつつ、一室の膳に目をつける。気をかえ
白糸 火ぐらいおこしておきなさいなね、芝居をしていないでさ。
欣弥 (顔を上げながら、万感胸に
撫子 (
白糸 私は……今日は見物さ。
欣弥 おい、お茶を上げないかい。何は、何は、何か、菓子は。
撫子 (立つ。)
白糸 そんなに、何も、お客あつかい。敬して何とかってしなくっても
勝手に
欣弥 飛んでもない、まあ、どうか、どうか、それに。
白糸 ああ、女中のお
欣弥 (笑う)何を云うのだ、帰ると云ってどこへ帰る。あの時、長野の月の橋で、――一生、もう、決して他人ではないと誓ったじゃないか。――
白糸 おや、姉さんとなりましたよ。誰かに
欣弥 (無言。)
白糸 失礼!(立つ。)
欣弥 大恩人じゃないか、どうすれば
白糸 恩人なんか、真ッ平です。私は女中になりたいの。
欣弥 そんな、そんな無理なことを。
撫子 太夫さん。(間)姉さん、貴女は何か思違いをなすってね。
白糸 ええ、お勝手を働こうと思違いをして来ました。(投げたように)お目見得に、落第か、失礼。
欣弥 ええ、とにかく、まあ、母に逢って下さい、お
白糸 (
思切りよくフイと
欣弥 (続いて)私は、
撫子 (ややひぞる。)
欣弥 早く、さあ早く。
撫子 (
白糸 お放し!
撫子 いいえ。
大正五(一九一六)年二月
底本:「泉鏡花集成7」ちくま文庫、筑摩書房 1995(平成7)年12月4日第1刷発行 底本の親本:「鏡花全集 第二十六巻」岩波書店 1942(昭和17)年10月15日第1刷発行 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。 入力:門田裕志 校正:忠夫今井 2003年8月31日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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