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寸情風土記(すんじょうふどき)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-22 16:30:08 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语


 唐黍たうもろこしにほひなり
 あききのここそ面白おもしろけれ。松茸まつたけ初茸はつたけ木茸きたけ岩茸いはたけ占地しめぢいろ/\、千本占地せんぼんしめぢ小倉占地をぐらしめぢ一本占地いつぽんしめぢ榎茸えのきだけ針茸はりだけ舞茸まひだけどくありとても紅茸べにたけべにに、黄茸きだけに、しろむらさきに、坊主茸ばうずだけ饅頭茸まんぢうだけ烏茸からすだけ鳶茸とんびだけ灰茸はひだけなど、本草ほんざうにも食鑑しよくかんにも御免ごめんかうむりたるおそろしききのこにも、ひとひとをつけて、かごり、る。茸爺きのこぢゞい茸媼きのこばゞともづくべき茸狩きのこがりの古狸ふるだぬき町内ちやうない一人ひとりぐらゐづゝかならずあり。山入やまいり先達せんだつなり。
 芝茸しばたけとなへて、かさ薄樺うすかばに、裏白うらじろなる、ちひさなきのこの、やまちかたにあさきあたりにも群生ぐんせいして、子供こどもにも就中なかんづくこれが容易たやすものなるべし。どくなし。あぢもまたし。宇都宮うつのみやにてこのきのこくほどあり。たれしよくするものなかりしが、金澤かなざはひときて、れは結構けつこう豆府とうふつゆにしてつる/\と賞玩しやうぐわんしてより、同地どうちにてもさかんもちふるやうになりて、それまでかりしを金澤茸かなざはたけしようするよし實説じつせつなり。
 茹栗ゆでぐり燒栗やきぐり可懷なつかし。酸漿ほうづきることなれど、丹波栗たんばぐりけば、さととほく、やまはるかに、仙境せんきやう土産みやげごと幼心をさなごころおもひしが。
 松蟲まつむしや――すゞむし、と茣蓙ござきて、菅笠すげがさかむりたるをとこかごに、おほきとりはねにしてやまよりづ。
 こつさいりんしんかとてしばをかつぎて、あね[#非0213外字:「姉」の正字、第3水準1-85-57の木へんの代わりに女へん、501-11]さんかぶりにしたる村里むらざと女房にようばうむすめの、あさまちづるさまは、きやう花賣はなうり風情ふぜいなるべし。むつなゝきのこすゝききとめて、すさみにてるも風情ふぜいあり。
 渡鳥わたりどり小雀こがら山雀やまがら四十雀しじふから五十雀ごじふから目白めじろきくいたゞき、あとりおほみゝにす。椋鳥むくどりすくなし。つぐみもつとおほし。
 じぶ料理れうりあり。だししたぢに、慈姑くわゐ生麩なまぶ松露しようろなど取合とりあはせ、魚鳥ぎよてうをうどんのにまぶして煮込にこみ、山葵わさび吸口すひくちにしたるもの。近頃ちかごろ頻々ひんぴんとして金澤かなざは旅行りよかうする人々ひと/″\みなその調味てうみしやうす。
 かぶらすしとて、ぶり甘鹽あまじほを、かぶはさみ、かうぢけてしならしたる、いろどりに、小鰕こえびあからしたるもの。ればかりは、紅葉先生こうえふせんせい一方ひとかたならずめたまひき。たゞし、四時しじつねにあるにあらず、としくれあられけて、早春さうしゆん御馳走ごちそうなり。
 さて、つまみ、ちがへ、そろへ、たばねと、大根だいこのうろきのつゆ次第しだいしげきにつけて、朝寒あさざむ夕寒ゆふざむ、やゝさむ肌寒はだざむ夜寒よさむとなる。のたばねころともなれば、大根だいこともに霜白しもしろし、あぢからし、しかいさぎよし。
 北國ほくこくてんたかくしてうませたらずや。
 大根曳だいこひきは、家々いへ/\行事ぎやうじなり。れよりさき、のきにつりてしたる大根だいこ臺所だいどころきて澤庵たくあんすをふ。今日けふたれいへ大根曳だいこひきだよ、などとふなり。のきしたるは、時雨しぐれさつくらくかゝりしが、ころみぞれあられとこそなれ。つめたさこそ、東京とうきやうにてあたかもお葉洗はあらひころなり。よる風呂ふろふき、炬燵こたつこひしきまどゐに、なつおよいだ河童かつぱの、くらけて、豆府とうふ沙汰さたがはじまる。
 小著せうちようちに、

くも時雨しぐれ/\て、終日ひねもす終夜よもすがらつゞくこと二日ふつか三日みつか山陰やまかげちひさなあをつきかげ曉方あけがた、ぱら/\と初霰はつあられ。さてかはつたやうあがつて、ひるになると、さむさがみて、市中しちう五萬軒ごまんげん後馳おくればせのぶんも、やゝ冬構ふゆがまへなしつる。やがて、とことはのやみとなり、くもすみうへうるしかさね、つきほしつゝてて、時々とき/″\かぜつても、一片いつぺんうごくともえず。かくてん雪催ゆきもよひ調とゝのふと、矢玉やだまおとたゆるときなく、うしとらたつ刻々こく/\修羅礫しゆらつぶてうちかけて、霰々あられ/\また玉霰たまあられ

 としたるもの、つたなけれどもほとん實境じつきやうなり
 かすのはきつねけるのはたぬきむじなきつねたぬきよりむじなけるはなしおほし。
 三冬さんとうちつすれば、天狗てんぐおそろし。北海ほくかい荒磯あらいそ金石かないは大野おほのはま轟々ぐわう/\りとゞろくおと夜毎よごとふすまひゞく。ゆきふかくふと寂寞せきばくたるとき不思議ふしぎなるふえ太鼓たいこつゞみおとあり、山颪やまおろしにのつてトトンヒユーときこゆるかとすれば、たちまさつとほる。天狗てんぐのお囃子はやしふ。能樂のうがくつねさかんなるくになればなるべし。本所ほんじよ狸囃子たぬきばやしと、とほ縁者えんじやく。
 まめもち草餅くさもち砂糖餅さたうもち昆布こんぶ切込きりこみたるなど色々いろ/\もちき、一番いちばんあとのうすをトンととき千貫せんぐわん萬貫まんぐわん萬々貫まん/\ぐわん、とどつ喝采はやして、かくいちさかゆるなりけり。
 かやしぶわびし。子供こどものふだんには、大抵たいてい柑子かうじなり。蜜柑みかんたつとし。輪切わぎりにしてはちものの料理れうりにつけはせる。淺草海苔あさくさのりを一まいづゝる。
 上丸じやうまる上々丸じやう/\まるなどとなへて胡桃くるみいつもあり。一寸ちよつとつて、あめにてる、これはうまい。
 蓮根はす蓮根はすとははず、蓮根れんこんとばかりとなふ、あぢよし、やはらかにして東京とうきやう所謂いはゆる餅蓮根もちばすなり。郊外かうぐわい南北なんぼくおよみな蓮池はすいけにて、はなひらとき紅々こう/\白々はく/\
 木槿むくげ木槿はちすにてもあひわからず、木槿もくでなり。やまいも自然生じねんじやうを、けて別々べつ/\となふ。
 たこみないかとのみふ。あふぎ地紙形ぢがみがたに、兩方りやうはうたもとをふくらましたるかたち大々だい/\小々せう/\いろ/\あり。いづれもきんぎんあをこんにて、まるほしかざりたり。關東くわんとうたこはなきにあらず、づけて升凧ますいかへり。
 地形ちけい四角しかくなるところすなは桝形ますがたなり。
 をんな、どうかすると十六七の妙齡めうれいなるも、自分じぶんことタアふ。をとこは、ワシけだしついとほりか。たゞし友達ともだちすのに、ワシるか、とふ。はうはどつちもワシなり。
 おけら殿どのを、ほとけさんむし馬追蟲うまおひむしを、鳴聲なきごゑでスイチヨとぶ。鹽買蜻蛉しほがひとんぼ味噌買蜻蛉みそがひとんぼ考證かうしようおよばず、色合いろあひもつ子供衆こどもしう御存ごぞんじならん。おはぐろ蜻蛉とんぼを、ねえ[#非0213外字:「姉」の正字、第3水準1-85-57の木へんの代わりに女へん、504-14]さんとんぼ、草葉螟蟲くさばかげろふ燈心とうしんとんぼ、目高めだかカンタふ。
 ほたる淺野川あさのがは上流じやうりうを、小立野こだつののぼる、鶴間谷つるまだにところいまらず、すごいほどおほく、暗夜あんやにはほたるなかひと姿すがたるばかりなりき。
 清水しみづ清水しやうづ。――かつら清水しやうづ手拭てぬぐひひろた、とうたふ。山中やまなか湯女ゆな後朝きぬ/″\なまめかし。清水しやうづまできやくおくりたるもののよし。
 二百十日にひやくとをか落水おとしみづに、こひふななまづすくはんとて、何處どこ町内ちやうないも、若いしうは、田圃たんぼ々々/\總出そうでさわぐ。子供こどもたち、二百十日にひやくとをかへば、ふな、カンタをしやくふものとおぼえたほどなり。
 なぞまたひとつ。六角堂ろくかくだう小僧こぞう一人ひとり、おまゐりがあつてひらく、なに?……酸漿ほうづき
 味噌みそ小買こがひをするは、しちをおくほど恥辱ちじよくだと風俗ふうぞくなりしはずなり。豆府とうふつて半挺はんちやう小半挺こはんちやうとてる。菎蒻こんにやく豆府屋とうふやにつきものとたまふべし。おなじなか菎蒻こんにやくキツトあり。
 蕎麥そば、お汁粉しるこなど一寸ちよつとはひると、一ぜんではまず。二ぜんは當前あたりまへ。だまつてべてれば、あとから/\つきつけ習慣しふくわんあり。古風こふう淳朴じゆんぼくなり。たゞし二百が一せん勘定かんぢやうにはあらず、こゝろすべし。
 ふと思出おもひだしたれば、鄰國りんごく富山とやまにて、團扇うちはめづらしき呼聲よびごゑを、こゝにしるす。

團扇うちはやア、大團扇おほうちは
うちは、かつきツさん。
いつきツさん。團扇うちはやあ。

 ものりだね。
 ところで藝者げいしやは、娼妓をやまは?……をやま、尾山をやままをすは、金澤かなざは古稱こしようにして、在方ざいかた鄰國りんごく人達ひとたちいま城下じやうかづることを、尾山をやまにゆくとまをすことなり。なに、その尾山をやまぢやあない?……そんなことは、らない、らない。

大正九年七月




 



底本:「鏡花全集 巻二十八」岩波書店
   1942(昭和17)11月30日第1刷発行
   1988(昭和63)12月2日第3刷発行
※題名の下にあった年代の注を、最後に移しました。
入力:門田裕志
校正:米田進
2002年5月8日作成
2003年5月18日修正
青空文庫作成ファイル:
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●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • [#…]は、入力者による注を表す記号です。
  • 「くの字点」は「/\」で、「濁点付きくの字点」は「/″\」で表しました。
  • 傍点や圏点、傍線の付いた文字は、強調表示にしました。
  • この作品には、JIS X 0213にない、以下の文字が用いられています。(数字は、底本中の出現「ページ-行」数。)これらの文字は本文内では「※[#…]」の形で示しました。

    非0213外字:「姉」の正字、第3水準1-85-57の木へんの代わりに女へん    501-11、504-14

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