![]() ![]() |
||||||||||||||||
一利己主義者と友人との対話(いちりこしゅぎしゃとゆうじんとのたいわ)
|
||||||||||||||||
作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/8/21 15:54:48 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 | ||||||||||||||||
|
||||||||||||||||
B おい、おれは今度また引越しをしたぜ。
A そうか。君は来るたんび引越しの
B それは僕には引越し位の外に何もわざわざ披露するような事件が無いからだ。
A 葉書でも済むよ。
B しかし今度のは葉書では済まん。
A どうしたんだ。
B
A 殊勝な事を言う。それでは今度の下宿はうまい物を食わせるのか。
B 三度三度うまい物ばかり食わせる下宿が
A 安下宿ばかりころがり歩いた癖に。
B 皮肉るない。今度のは下宿じゃないんだよ。僕はもう下宿生活には飽き飽きしちゃった。
A よく自分に飽きないね。
B 自分にも飽きたさ。飽きたから今度の新生活を始めたんだ。
A 君のやりそうなこったね。
B そうかね。僕はまた君のやりそうなこったと思っていた。
A
B 何故ってそうじゃないか。第一こんな自由な生活はないね。
A 飯の事をそう言えや眠る場所だってそうじゃないか。毎晩毎晩同じ夜具を着て寝るってのも余り有難いことじゃないね。
B それはそうさ。しかしそれは仕方がない。
A 飯のたんびに外に出なくちゃならないというのと同じだ。
B 飯を食いに行くには荷物はない。身体だけで済むよ。食いたいなあと思った時、ひょいと立って帽子を
A ひと足ひと足新しい眠りに近づいて行く気持はどうだね。ああ眠くなったと思った時、てくてく寝床を探しに出かけるんだ。
B それあ可いさ。君もなかなか話せる。
A 可いだろう。毎晩毎晩そうして新しい寝床で新しい夢を結ぶんだ。(間)本も机も棄てっちまうさ。何もいらない。本を読んだってどうもならんじゃないか。
B ますます話せる。しかしそれあ話だけだ。初めのうちはそれで可いかも知れないが、しまいにはきっとおっくうになる。やっぱり何処かに落付いてしまうよ。
A 飯を食いに出かけるのだってそうだよ。見給え、二日
B ふむ。おれは細君を持つまでは今の通りやるよ。きっとやってみせるよ。
A 細君を持つまでか。可哀想に。(間)しかし
B そうだろう。おれはどうも初め思いたった時、君のやりそうなこったと思った。
A 今でもやりたいと思ってる。たった一月でも可い。
B どうだ、おれん処へ来て一緒にやらないか。可いぜ。そして飽きたら
A しかし
B 何故。おれと一緒が厭なら一人でやっても可いじゃないか。
A 一緒でも一緒でなくても同じことだ。君は今それを始めたばかりで大いに満足してるね。僕もそうに違いない。やっぱり初めのうちは日に五
B 何だい。もうその時の
A まあさ。「とうとう飽きたね」と君に言うね。それは君に言うのだから可い。おれは
B
A 厭な男さ。おれもそう思ってる。
B 君は
A そうだったかね。
B 君はきっと早く死ぬ。もう少し気を広く持たなくちゃ可かんよ。一体君は余りアンビシャスだから可かん。何だって真の満足ってものは世の中に有りやしない。従って何だって飽きる時が来るに
A 笑わせるない。
B 笑ってもいないじゃないか。
A
B 笑うさ。可笑しくなくったって
A 何故。
B
A 歌か。
B
A どうだか。
B 歌も可いね。こないだ友人とこへ行ったら、やっぱり歌を作るとか読むとかいう姉さんがいてね。君の事を話してやったら、「あの歌人はあなたのお友達なんですか」って
A 「歌人」は可かったね。
B 首をすくめることはないじゃないか。おれも実は最初変だと思ったよ。Aは歌人だ! 何んだか変だものな。しかし歌を作ってる以上はやっぱり歌人にゃ違いないよ。おれもこれから一つ君を歌人扱いにしてやろうと思ってるんだ。
A
B
A どうだか。
B どうだかって、たしかに言ったよ。文芸上の作物は
A 許してくれ。おれは何よりもその特待生が
B それは三等の切符を持っていた
A
B 人間は皆赤切符! やっぱり話せるな。おれが飯屋へ飛び込んで
A 何だい、うまい物うまい物って言うから何を食うのかと思ったら、一膳飯屋へ行くのか。
B
A 朝には何を食う。
B 近所にミルクホールが有るから
A 流行るかね。おれの読んだのは
B そうさ。おれの読んだのもそれだ。
A あれは尾上という人の歌そのものが行きづまって来たという事実に立派な
B 何を言う。そんなら君があの議論を唱えた時は、君の歌が行きづまった時だったのか。
A そうさ。歌ばかりじゃない、何もかも行きづまった時だった。
B しかしあれには色色
A 理窟は何にでも着くさ。ただ世の中のことは一つだって理窟によって推移していないだけだ。たとえば、近頃の歌は何首
B 君はそうすっと歌は永久に滅びないと云うのか。
A おれは永久という言葉は嫌いだ。
B 永久でなくても可い。とにかくまだまだ歌は
A 長生はする。昔から人生五十というが、それでも八十位まで生きる人は沢山ある。それと同じ程度の長生はする。しかし死ぬ。
B 何日になったら八十になるだろう。
A 日本の国語が統一される時さ。
B もう大分統一されかかっているぜ。小説はみんな時代語になった。小学校の教科書と詩も半分はなって来た。新聞にだって三分の一は時代語で書いてある。先を越してローマ字を使う人さえある。
A それだけ混乱していたら沢山じゃないか。
B うむ。そうすっとまだまだか。
A まだまだ。日本は今三分の一まで来たところだよ。何もかも三分の一だ。
B 気長い事を言うなあ。君は元来
A あまり性急だったお
B 悟ったね。
A 絶望したのだ。
B しかしとにかく今の我々の言葉が五とか七とかいう調子を失ってるのは事実じゃないか。
A 「いかにさびしき夜なるぞや」「なんてさびしい晩だろう」どっちも七五調じゃないか。
B それは
A 昔の人は五七調や七五調でばかり物を言っていたと思うのか。莫迦。
B これでも賢いぜ。
A とはいうものの、五と七がだんだん乱れて来てるのは事実だね。五が六に延び、七が八に延びている。そんならそれで歌にも字あまりを使えば済むことだ。自分が今まで勝手に古い言葉を使って来ていて、今になって不便だもないじゃないか。なるべく現代の言葉に近い言葉を使って、それで三十一字に
B それもそうだね。
A のみならず、五も七も更に二とか三とか四とかにまだまだ分解することが出来る。歌の調子はまだまだ複雑になり得る余地がある。昔は
B そうすると歌の前途はなかなか多望なことになるなあ。
A 人は歌の形は小さくて不便だというが、おれは小さいから
B 待てよ。ああそうか。一分は六十秒なりの論法だね。
A そうさ。一生に二度とは帰って来ないいのちの一秒だ。おれはその一秒がいとしい。ただ逃がしてやりたくない。それを現すには、形が小さくて、
B いのちを愛するってのは可いね。君は君のいのちを愛して歌を作り、おれはおれのいのちを愛してうまい物を食ってあるく。似たね。
A (間)おれはしかし、本当のところはおれに歌なんか作らせたくない。
B どういう意味だ。君はやっぱり歌人だよ。歌人だって可いじゃないか。しっかりやるさ。
A おれはおれに歌を作らせるよりも、もっと深くおれを愛している。
B 解らんな。
A 解らんかな。(間)しかしこれは言葉でいうと極くつまらんことになる。
B 歌のような小さいものに全生命を託することが出来ないというのか。
A おれは初めから歌に全生命を託そうと思ったことなんかない。(間)何にだって全生命を託することが出来るもんか。(間)おれはおれを愛してはいるが、そのおれ自身だってあまり信用してはいない。
B (やや突然に)おい、飯食いに行かんか。(間、独語するように)おれも腹のへった時はそんな気持のすることがあるなあ。
底本:「石川啄木集(下)」新潮文庫、新潮社 1950(昭和25)年7月15日発行 1970(昭和45)年6月15日25刷改版 1991(平成3)年3月5日48刷 底本の親本:「啄木全集」筑摩書房 1967(昭和42)年~1968(昭和43)年 入力:番 裕子 校正:鈴木厚司 2004年8月11日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
|
||||||||||||||||
![]() ![]() |