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三つの宝(みっつのたから)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-18 10:24:58 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
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王子無言のまま、
第二の農夫 御土産は?
王子 (剣の
第二の農夫 (尻ごみしながら)いえ、何とも云いはしません。(独り
主人 (なだめるように)まあ、あなたなどは
一同 そうなさい。そうなさい。悪い事は云いはしません。
王子 わたしは何でも、――何でも出来ると思ったのに、(突然涙を落す)お前たちにも
第一の農夫 そのマントルを着て御覧なさい。そうすれば消えるかも知れません。
王子
主人 困ったものだ、黒ん坊の王様に殺されなければ
王城の庭。
王子 やはりこのマントルは着たと思うと、たちまち姿が隠れると見える。わたしは城の門をはいってから、兵卒にも
王女は噴水の
王女 わたしは何と云う不仕合せなのだろう。もう一週間もたたない内に、あの
王子 何と云う美しい王女だろう。わたしはたとい命を捨てても、この王女を助けて見せる。
王女 (驚いたように王子を見ながら)誰です、あなたは?
王子 (独り
王女 声を出したのが悪い?
王子 顔? あなたにはわたしの顔が見えるのですか?
王女 見えますわ。まあ、何を
王子 このマントルも見えますか?
王女 ええ、ずいぶん古いマントルじゃありませんか?
王子 (
王女 (驚いたように)どうして?
王子 これは一度着さえすれば、姿が隠れるマントルなのです。
王女 それはあの黒ん坊の王のマントルでしょう。
王子 いえ、これもそうなのです。
王女 だって姿が隠れないじゃありませんか?
王子
王女 (笑い出す)それはそのはずですわ。そんな古いマントルを着ていらっしゃれば
王子 下男!(落胆したように坐ってしまう)やはりこの長靴と同じ事だ。
王女 その長靴もどうかしましたの?
王子 これも千里飛ぶ長靴なのです。
王女 黒ん坊の王の長靴のように?
王子 ええ、――ところがこの
王女 何か切って御覧になって?
王子 いえ、黒ん坊の王の首を
王女 あら、あなたは黒ん坊の王と、
王子 いえ、腕競べなどに来たのじゃありません。あなたを助けに来たのです。
王女 ほんとうに?
王子 ほんとうです。
王女 まあ、嬉しい!
突然黒ん坊の王が現れる。王子と王女とはびっくりする。
黒ん坊の王
王女 (冷淡に)ではもう一度アフリカへ行っていらっしゃい。
王 いや、
王子 下男?(腹立たしそうに立ち上る)わたしは王子です。王女を助けに来た王子です。わたしがここにいる限りは、指一本も王女にはささせません。
王 (わざと
王子 剣と長靴とマントルですか? なるほどわたしの長靴は一町も飛ぶ事は出来ません。しかし王女と一しょならば、この長靴をはいていても、千里や二千里は驚きません。またこのマントルを御覧なさい。わたしが下男と思われたため、王女の前へも来られたのは、やはりマントルのおかげです。これでも王子の姿だけは、隠す事が出来たじゃありませんか?
王 (
王女 (手を打ちながら)ああ、もう消えてしまいました。わたしはあの人が消えてしまうと、ほんとうに嬉しくてたまりませんわ。
王子 ああ云うマントルも便利ですね。ちょうどわたしたちのために出来ているようです。
王 (突然また現われる。
王女 (立ち上るが早いか、王子をかばう)鉄でも切れる剣ならば、わたしの胸も突けるでしょう。さあ、一突きに突いて御覧なさい。
王 (尻ごみをしながら)いや、あなたは
王女 (
王子 お待ちなさい。(王女を押し
王 年の若いのに感心な男だ。
王と王子と剣を打ち合せる。するとたちまち王の剣は、
王 どうだ?
王子 剣は切られたのに違いない。が、わたしはこの通り、あなたの前でも笑っている。
王 ではまだ勝負を続ける気か?
王子 あたり前だ。さあ、来い。
王 もう勝負などはしないでも
王子 (不思議そうに王を見る)なぜ?
王 なぜ? わたしはあなたを殺した所が、王女にはいよいよ
王子 いや、わたしにはわかっている。ただあなたにはそんな事も、わかっていなそうな気がしたから。
王 (考えに沈みながら)わたしには三つの宝があれば、王女も貰えると思っていた。が、それは間違いだったらしい。
王子 (王の肩に手をかけながら)わたしも三つの宝があれば、王女を助けられると思っていた。が、それも間違いだったらしい。
王 そうだ。我々は二人とも間違っていたのだ。(王子の手を取る)さあ、
王子 わたしの失礼も赦して下さい。今になって見ればわたしが勝ったか、あなたが勝ったかわからないようです。
王 いや、あなたはわたしに勝った。わたしはわたし自身に勝ったのです。(王女に)わたしはアフリカへ帰ります。どうか御安心なすって下さい。王子の剣は鉄を切る代りに、鉄よりももっと堅い、わたしの心を刺したのです。わたしはあなた方の
王子 きっと
王女 (黒ん坊の王の胸に、
王 (王女の
王子 そうです。(見物に向いながら)皆さん! 我々三人は目がさめました。悪魔のような黒ん坊の王や、三つの宝を持っている王子は、御伽噺にあるだけなのです。我々はもう目がさめた以上、御伽噺の中の国には、住んでいる (大正十一年十二月)
底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房 1987(昭和62)年2月24日第1刷発行 1995(平成7)年4月10日第6刷発行 底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房 1971(昭和46)年3月~11月刊行 入力:j.utiyama 校正:多羅尾伴内 2004年1月5日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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