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廿年後之戦争(にじゅうねんごのせんそう)
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作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/8/16 14:40:40 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 | ||||||||
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一 霹靂一声 今午後の事也昨朝当港に碇泊せる仏国東洋艦隊に属せる一水兵は我太平洋艦隊なる香取の一水兵と珈琲店に於て争論を引き起し其場に居合せたる日仏両国の水兵は各々其味方をなし果は双方打擲に及び剰へ其処に掲げられし御神影は微塵にうち毀たれ簷頭に樹立せられし日本国旗は散々に寸断されぬ
仏国の水兵は遂に街路に押出され後には端艇迄追ひやられたり 聞くところによれば仏兵は小銃を発射せし由にて仏国方には二三名の死者さへ出せし趣なりされど当地の人心の激昂せると警官の非常なる沈黙を守れると四辺に厳重なる非常線の張られたるとによりて毫も信ずべき確報に接せず 我香取艦長は直に仏国の旗艦ジヤンヌ号を訪へり 其の目的は事の説明を求めん為なるべく或は説明を与ふる為なりとも云ふ 其再び上陸したる後も一の公報を発せざれば精確なる事情は更に知れず 事の形勢は重大と云ふ程には非るも何時重大に変ずるや知る可からず 仏国東洋艦隊司令官は今やサイゴンと電信の往復頻繁なり(四月十九日瓜哇ホノルヽ港発電) 此の驚くべき飛電に次で更に更に驚くべき事件は吾人の最信頼せる時事日報に依て伝へられたり 曰く ホノルヽ発 昨朝五時を過る頃戦闘艦三隻装甲巡洋艦十一隻及其他若干の水雷艇並に水雷駆逐艇よりなる仏国東洋艦隊は急に当港を抜錨せり之と同時に我太平洋艦隊も又港外に進めり 是等の運動の目的は更に知れざるを以て驚くべき流言百出し当地は今混乱を極めをれり
ホノルヽ騒擾の報伝ると共に東京又騒擾の巷となれり 号外電信は乱雲の如く東西南北に飛び市民は都下各所の新聞社前に群集して数分毎に張出さるべき掲示を見んとひしめきあへり 一日過ぎ二日過ぎぬ 新聞紙上の声は益 ○仏国装甲巡洋艦モンカルム号上海に入り台湾附近を測量しつゝあり(上海電報)
○仏国地中海艦隊亜丁附近にあり(同上)
○仏国陸兵三万サイゴンに輸送さる(同上)
○サイゴン。アンピン。間の海底電線は全く切断せられたり(サイゴン特派員発)
此三四日来飛電の驚くべきもの続々として来れり其重大なるものを上れば 水曜日午後オステンド発 仏国駐箚日本公使は急に当地に着したり 彼は昨夜睡眠中二時間内に巴里を引払ふべき訓令に接し守兵に擁せられてベルギーの国境をこへそれより特派の汽船にて英国に向て発したり
風説によれば仏国東洋艦隊は昨日争闘中日本水兵の為に殺傷せられし被害に対し十分の要償を得る迄は日本太平洋艦隊の出発を防圧すべき訓令を受けて日本艦隊の解纜と共に港外に出でたりと云ふ 危機正に迫れり 日本公使の引払は明に平和の破れしを証するもの也 キールン発 今朝旅客船太平号は例の如くサイゴン向けて出発せしに仏領海岸を去る四浬の所にて仏艦スチツクス号に捕へられ船長につぐるに日仏間平和の破れたるを以てす依て不得止太平号は当地に引還せり其他二三の汽船も同じ取扱をうけたり アントワープ発 仏国政府は昨日ホノルヽなる東洋艦隊司令に訓令を与へたり この訓令は昨日の争闘に関し必日本艦隊の出港を防圧せよと云ふにあり仏国にては既に非常の戦争熱を生ぜりと云ふ ブラツセル発 仏国北海艦隊は緊急出港の命をうけて其根拠地を出発せり 目的地点は知るを得ず 同上発 仏国にては同国製造の新造巡洋艦五隻及八隻の潜航水雷艇を今月下旬迄に進水せしむべき由猶其他建造中の巡洋艦六隻あり ボルドー発 仏国大西洋艦隊入港せり 潜航艇五隻附随 アントワープ発 ベルギーは仕義によりて兵を出し仏国との国境を守るべし ブラツセル発 一大変報は東より来れり 曰く日仏艦隊ホノルヽ港外に於て衝突を始めたり其詳報は接する由なし 開戦の宣告は疑なく東京に向て発せられたる也 そは午後なるものゝ如し仏京に於ける人心の激昂は非常也 一九二六年四月二十三日宣戦の大詔下り(日本は)自由行動をとる旨を各国に発表せり 太平洋艦隊本国政府の命をうけて正に帰航せんとす仏国東洋艦隊亦本国政府の訓令をうけて其出港を防圧しこゝに於て日仏両国の海戦は開かれたる也 情報屡至れども確報未不至 東京の市民ひとしく疑念を以て之を待ちしが程なく疑念は変じて悲痛となりしこそ口惜しけれ 日本太平洋艦隊司令官報告
悲むべき哉 開戦劈頭の一戦見事我大敗に 仏艦瓜哇を占領す 仏艦隊海戦に勝利を得たるより横暴日に甚しく 遂に瓜哇を占領して大惨殺をホノルヽ市民に与へたり
日仏戦史 近代の大文豪其名海内に轟ける芥川龍之介(エヘン)氏は早稲田の別邸に引こもり大日仏戦史著作中なり 挿画は一切棚橋弟丸画伯に一任すると
憎むべき仏探 憎むべき仏探杉浦与四郎昨日捕縛咄人非人
空前の大発明 是非 御批評を乞
実四頁迄は真面目にかいたのだがちと訳があつて以下なぐり筆にして書きをくる
君の従順なる
Mr. S. Noguchi R. Akutagawa
一九〇六年四月三十日発行
発行人 野口真造
編輯人 芥川龍之介
印刷人 大島敏夫
発行所 流星社
(非売品)
大売さばき 大彦屋書店
(中学生時代)
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房 1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行 入力:j.utiyama 校正:かとうかおり 1999年1月17日公開 2004年3月13日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
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