このことをきいた兄さんのアア王は大層
「おのれ、サア王の憎い奴め。兄貴の云うことをきかないで戦争の用意をするなんて憎い奴だ。それならこっちから戦争をしかけて滅茶滅茶負かしてやれ」
と云うので、すぐに兵隊を呼び集めました。
アア王とサア王の
二人のお妃は只泣くよりほかはありませんでした。
この有様を月の世界から見たリイは、月姫にこう云いました。
「私はこの戦争を止めに行かなければなりません。そうして二人の兄さんが一生涯戦争をしないようにしなければなりません」
月姫はこれをきいて、
「ほんとに早く止めて上げて下さいまし。二人のお姉様がお可哀想です。けれども、どうしてこんな大戦争をお止めになるのですか」
と眼をまん丸にして尋ねました。
リイはニッコリ笑いながら、
「まあ見ていて御覧なさい」
と云ううちに又も遠眼鏡を眼に当てました。
リイは遠眼鏡を眼に当てながら、一番兄さんの
「アム」
と云いますと、すぐに兄さんのアア王のお城の
その
リイはそれを見つけると喜んですぐに、
「マム」
と云いますと、もうその
それから今度は次の兄さんのサア王のお城の方を向いて、宝物の刀はどこにあるだろうと遠眼鏡をのぞきながら、
「アム」
と云いますと、やっぱりそのお城の
「マム」
と云うと、そこへ飛んで行ってその刀の紐を腰に結びつけました。
リイはそれからアア王とサア王の国の
二人の兄さんはそんなことは知りません。両方とも有りたけの兵隊をみんな集めて
「あの宝の鉄砲を持って来い」
「あの宝の刀を持って来い」
と云いつけました。
両方の家来は
「お宝物の鉄砲が無くなっております」
「お宝物の刀が無くなっております」
と青くなって両方の王様に言いました。
両方の王様も青くなってしまいました。それは大変と、てんでに宝庫に駈け付けて調べて見ますと、番兵も
「お宝物はリイがいただいてまいりました。リイは国の
と書いた紙片が置いてありました。
両方の兄さんたちは
「さては弟のリイは泥棒の名人になったと見える。あの高い山を取り巻いて、リイを引っ捕えて宝物を取りもどせ」
と云うので、両方の国の兵隊が両方からその山をぐるりと取り巻いて、ズンズン攻めのぼって来ました。
ところがその山の絶頂まで攻めのぼって来るうちにすっかり日が暮れてしまいましたので、二人の兄さんは両方ともリイが逃げはしまいかと心配していましたが、間もなく東の方からまん丸いお月様がのぼって来ましたので、その月の光りでやっとわかった山道をズンズン登って山の絶頂に来ますと、そこにある高い岩の上に不思議にも昔のままの子供の姿のリイが刀と鉄砲を持って立っておりました。
兄さんのアア王と弟のサア王はこれを見ると、
「それ、あいつを弓で射ち殺せ」
「刀でたたき殺せ」
と云いましたので、両方の兵隊は一時に岩の下へ突貫して来ました。
リイは攻め寄せる兵隊を見てニコニコ笑いました。右手に刀、左手に鉄砲をさし上げて、
「みんな音なしくしろ。音なしくしないとこの鉄砲と刀とで一人も残らず殺してしまうぞ」
と云いました。
これを見ると、今までワイワイと
リイは二人の兄さんに向って岩の上からこう云いました。
「お二人のお兄さま、おききなさい。あなたがたはなぜそんなに喧嘩をなさるのですか」
二人のお兄さんはこれをきくと恥かしくなって、岩の下で顔を見合わせて真赤になりました。
リイは又こう云いました。
「お二人がえらくおなりになったのは、この鉄砲と刀のおかげです。けれども又こんなに喧嘩をなさるのも、この鉄砲と刀があるからです。お二人が仲よくさえなされば、この鉄砲も刀もいらぬ物ですから私がいただいてまいります」
と云ううちに、東の方に向って遠眼鏡でお月様をのぞきながら、
「アム」
「マム」
と一時に云いました。
そうすると、見るみるうちにリイの足は岩の上から離れて、刀と鉄砲を
月の世界では月姫がリイを待っておりまして、
「よくお帰りになりました」
とお迎えに出て来ましたが、見るとリイの眼はいつの間にか両方とも
「まあ。あなたの眼が両方とも
と云いました。リイもこれを聞くとやっと気がつきまして、
「ヤア。ホントに。これは不思議だ。これは大かた今まで自分ひとりで遊んでいたのに、今度はお兄さんたちの仲直りをさせたので、神様がごほうびに開いて下すったのでしょう」
「ほんとにそうでございましょう。おめでとう御座います。さあお祝いにみんなで遊びましょう」
と大喜びで遊びはじめました。
山の上の岩の根本に残った二人の兄さんは、リイが天に飛び上って、お月様の方に行ってしまったのでビックリして
「リイは神様になった。そうして月の世界からいつも私たちのすることを見ているに違いない。そうして私たちがわるいことをしたら、すぐにあの鉄砲で撃ったり、あの刀で斬ったりするに違いない。だからこれから仲よくしよう」
二人はそれから別々にお城へ帰りますと、ほんとうに仲よく暮らしました。
みなさんがわるいことをなすった時も、リイはあの月の世界から遠眼鏡で見ているかも知れません。
底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年5月22日第1刷発行
※この作品は初出時に署名「
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:柴田卓治
校正:もりみつじゅんじ
2000年4月4日公開
2003年10月24日修正
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