「それから先は
「成る程……しかし屍体以外には……」
「屍体以外には、ポケットの中に油紙に包んだ
「成る程……それで殺人の動機が成立した訳ですね」
「そうなんです。尤もお金の
「ハハア……詰め換えないままにですな」
「そうです。ほかの
「ヘー……その辺がどうも
「おかしいんです……源次郎氏は、今もお話した通りあの辺の案内ならトテモ詳しい筈ですからね。おまけに月夜の雪の中ですから、足場は明るいにきまっているし、余程の強敵に出会って
「いかにも……その考えは間違い無さそうですな」
「僕にもそう思えるのです。しかし何しろ、その屍体の上には、岩と
「そうですねえ。あとから雪が降らなかったら何かしら面白いことが発見出来たかも知れませんが……」
「そうです。尤も雪というものは
「……すると……つまりその捜索の結果は無効だったのですね」
「ええ……全然
こう云って唾を
「なるほど……それでは村の人が色んな噂を立てる筈ですね」
と黒木も憂鬱にうなずいた。けれどもそのうちに健策は、又も
「しかし誰が何と云っても、僕等二人の事は
「
と黒木は又も深い溜息をしながらうなずいた。そうして気を換えるように云った。
「……ところで……これはお尋ねする迄も無い事ですが、品夫さんは実のお父様が亡くなられた時の事をスッカリ聞いておいでになるでしょうね」
「それは無論です。うちの
「いかにも……しかしその復讐をされるというのは……どんな手段を取られるおつもりなのでしょう……」
「さあ……そこ迄は聞いていませんがね。アンマリ馬鹿馬鹿しい話ですから……それよりも、そんな事を云い出す品夫の気もちが、第一わからなくて困っているんです……ですから、こんな
「……成る程……」
と黒木は火鉢の灰を
「それから……これも余計な差し出口ですが、品夫さんの
「ハア。
「……イヤ……関係がある……という訳でもないのですが……」
黒木は何故か言葉尻を
「黒木さん。遠慮なさらなくともいいんですよ。……
こう云ううちに健策は全く昂奮が静まったらしくノンビリした顔色になった。同時にいくらか話に飽きが来たらしく、あおむいて小さな
「サア……それをお話していいか……わるいか……」
「ハハハハハ。お話出来なければ無理に伺わなくともいいんですがね。……元来これは僕等二人の間に、秘密にしておくべき問題なんですから……しかし、くどいようですが、たとい品夫がドンナ身の上の女であろうとも、二人を結びつけている死人の意志は、絶対に動かす事が出来ない訳ですからね。よしんば品夫のためにこの家が滅亡するような事があっても、それが故人の希望なんですから、その辺の御心配は御無用ですよ……ただ参考のために承っておくに過ぎないのですからね。ハハハハハ、こう云っちゃ失礼かも知れませんが……」
健策は相手を皮肉るでもなくこう云って笑うと、思い切って大きな
「……成る程……それでは……私の
黒木はやっと決心したらしく、窮屈そうにこう云いながら、火鉢の横に転がっている大きな湯呑を取り上げて
二人の間には又も新らしい談話気分が
「……どうか願います。品夫の一生の浮沈にかかわる事ですから……」
しかし黒木はどこまでも真面目な、無表情のうちにうなずいた。湯呑を片わきへ置きながら……。
「イヤ……重々御尤もです。それじゃ、お話できるだけ、してみましょうが、その前にもう一つお尋ねしたい事がありますので……」
健策もコップを畳の上に置きつつ、気軽にうなずいた。
「ハア。何なりと……」
「……イヤ。ほかでもありません。つまり品夫さんのお父様に関する今のお話ですがね……そのお父様が変死された事について、品夫さんは
「……観察というのは……」
「……そのお父さまの変死が、何故に他殺に相違ないか……というような事です」
「それは相当考えているでしょう。探偵小説好きですからね……しかしそんな事を面と向って尋ねた事は一度もありませんよ。もう過ぎ去ってしまった事ですし、そんな事を訊いて又泣き出されでもすると面倒ですから……」
「ハハア。成る程……それじゃ貴方は、貴方御自身だけで別の解釈を下しておられる訳ですナ」
「イヤ。解釈を下すという程でもありませんが、僕だけの常識で説明をつけておるので、手ッ取り早く云うと
「……では玄洋先生も初めから、実松氏の甥の
「まあそうなんです。しかし、これは要するに、今お話したような事実を土台にして、色々と推量をした結果、最後に生まれた結論に過ぎないので、元来が迷宮式の事件なのですから、あなたの方からモット有力な、根拠のある御意見が出たら、その方に頭を下げようと思っているのですが」
「イヤ。根拠と云われると困るのですが……
「ホウ……タッタ今……第六感……」
と健策は眼を丸くして
「そうです。私は永年、
「……成る程……素敵ですナ……」
「ええ。あまり素敵でもないかも知れませんが……しかし、それでも、そうした私一流の判断でこの事件を解釈して行きますと、只今の品夫さんの復讐論なぞは、全然無意義なものになってしまうのです。あなたの御註文通りにね……」
「エッ。全然無意味……僕の註文通りに……」
健策は
「ハハア。イヨイヨ素敵ですな。是非聴かして下さい……その第六感というのを……」
黒木は赤ん坊をあやすように、
「無論お話します。……しかしその前に、先ず今のような第六感を受けなかった前の、私の平凡な常識判断から申しますと、元来かような迷宮式の事件というものは、色々な考え方があるものなので、それを或る一方からばかり見ているために、判断が中心を
「賛成ですね。成る程……」
「ところで、こう申上げては失礼かも知れませんが、あなたの
「その通りです……それで……」
「それでそのお話を、あなたから間接に承わったところによって考えまわしてみますと、この事件の内容はあらかた三ツの出来事に分解する事が出来ると思うのです」
「成る程……そこまでは僕等の考えと一致しているようです」
「……そうですか。それでは説明する迄も無いかも知れませんが、第一は単純な実松源次郎氏の墜死そのものです」
「いかにも……」
「その次は源次郎氏の貯金の紛失事件で、今一つはその甥の行方不明事件と、この三つが固まり合ったのが一ツの事件として判断されているのでしょう」
「敬服です。いよいよ敬服です」
「……ところで、この三ツの事件を組み合わせて、一ツの事件として観察してみますと、かなり恐ろしい事件に見えますね。……つまりその悪人の何とかいう青年が、大恩ある品夫さんのお父さんを、山の上で惨殺して、財産を奪って逃げた事になるので、この事件は、そうした残忍非道な性格によって行われた、計画的な犯行という事になるでしょう」
「全くその通りです。実松源次郎氏を殺さずとも、その恩義を忘れただけでも当九郎は大罪人だ……と
「ところがです……ここで今一つお尋ねしますが貴方は……貴方のお
復讐(ふくしゅう)
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