あるところに一人のオクサマがありました。
その奥様は次のような場合に、キット御主人に喰ってかかられました。胸倉を取って
……御主人のお帰りが
……御主人の
……会社に電話をかけて、出張が嘘だとわかった時……
……料理屋の勘定書が
……女の手紙か、又は、女の手らしい男名前の手紙が来た時……
……近所の行きつけの床屋で髪を苅られなかった時……
……会社の近くのタクシーで帰られなかった時……
……どこかに女の
……御主人の着物に、新しい、違った畳み目が付いていたとき……
……御主人が忘れ物を発見しながら、
……お帰りになると、すぐに御主人がグーグーとお寝みになった時……
……違った香水のにおいがする時……
……鼻紙やハンカチがお出かけの時のと違っていた場合……
……履物にキレイな砂がついていた場合……エトセトラ……エトセトラ……
ところが或る時のこと、オクサマがお友達の若い未亡人を訪問されました
「それは
オクサマは
「人を馬鹿にしている。そんなら主人に思い知らせてやる。相手をなくして困らせてやる。そうして今までのカタキを取ってやる」
と
前の御主人が、その忠告をされた未亡人と正式に結婚をされましたのは、それから間もなくの事でした。それを御覧になった前の奥様はフンガイされまいことか、土けむりを蹴立てて怒鳴り込まれましたが、もはやアト、ノ、マツリでした。シッカリ者の未亡人に何の苦もなく撃退されてしまいました。
前の御主人と未亡人とはズット前から方々で出会っておられた……そうしてその証跡をかくすために御主人は待合に泊ったように見せかけておられた……しかも、それは未亡人の入れ智恵であった……という事が判明したのも、やはり、それから間もなくの事でした。
◇
あるところに一人のマダムが
そのマダムは、その御主人と共々に、社交界でも飛び切りにリファインされた、押しも押されもせぬカプルと評価づけられておりましたが、それだけにその御主人が隠れ遊びをされる方法とても、実にリファインされたものでした。無二の親友と称する人々でも、そんな事実を知らなかった位で、如何なる名探偵でも、その証拠を指摘するのは困難であろうと思われるくらいでした。
ところが、そのマダムばかりは、いつも、たやすくその事実を看破しておられました。
マダムは新聞や雑誌をよく読んで、時代に対するアラユル理解力を
……遊廓や待合や、又は御神燈なぞいうものは、もはや明治大正時代の遺物となりかけている……
……バーや、カフェーや、パーラー、レストランなんぞは勿論のこと、クラブ、ホール、ホテル、なんども申すまでもない事、そのほかの思いもかけぬまじめな商売の名の
……同時に個人としては、外交員、勧誘員、施術師、写真師、画家、筆耕、家政婦、派出婦、看護婦、なんぞの怪しげな名刺や印刷物、もしくは本物のタイプライターや
……スピード的エロ業振りのアラユル尖端を、一九三〇式に磨き立てている……
……だから現代の頭のいい……たとえばマダムの御主人のような男性は、百のアリバイでも同時に作る事が出来る……
……たとえば会社へ、主人の出張先を問い合わせても「よくわかりません」という快濶な給仕の返事しか聞かれない……
……よしんば、うちの自動車の運転手にきいても何にもならない。主人の行先を洩らさない事が運転手のたしなみの第一ぐらいの事はトックの昔から心得ているにきまっている……
……つまり現代のエロ機関の精鋭さは、現代の男女性全体の頭のヨサを超越して行きつつある……日に日にシカゴ化し……
という事をマダムはハッキリと感じておられました。
奥様探偵術(おくさまたんていじゅつ)
作家录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语
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