みんな田の草を取りに行っていたし、留守番の女子供も
人形は鼻の欠けた
「観音シャマを、かこイつウけエて――。会いに――来たンやンら。みンなンみンやンら。……振りイ――の――たンもンとンにイ――北ンしよぐウれエ。晴れン
歯の抜けた爺さんの義太夫はすこぶる怪しかったが、それでもかなり得意らしく、時々
「ヘ――イ。このたびは二の替りといたしまして朝顔日記大井川の段……テテテテテ
「妻ア――ウワア。なンみンだンにイ――。か――き――くンるえ――テヘヘヘヘ。ショレみたんよ……
振り袖の人形が何の
しかし爺さんは、どうしたものかナカナカ止めなかった。ヒッソリした家の中で汗を拭き拭きシャ
「
と小声で云うものもあった。
そのうちに誰かが知らせたものと見えて、この
見物は
「……ヤイ。キ……貴様は誰にことわって俺の
爺さんは白い眼を一パイに見開いた。口をアングリとあけて呆然となったが、やがて震える手で
これを見ていた若い主人は、表に立っている人々をふり返ってニヤリと笑った。人形を入れた信玄袋をソッと取り上げて、うしろ手に隠しながらわざと声を大きくして怒鳴った。
「サア云え。何でこんな事をした。云わないと人形を返さないぞ」
何かボソボソ云いかけていた見物人が又ヒッソリとなった。
麦稈帽を
「……ど……どうぞお助け……御勘弁を……」
「助けてやる。勘弁してやるから申し上げろ。何がためにこの家に這入ったか。何の必要があれば……最前からアヤツリを使ってコンナに大勢の人を寄せたのか。ここを公会堂とばし思ってしたことか」
爺さんは見えぬ眼で次の
「……サ……最前……私が……このお家に這入りまして……人形を使い初めますと……ア……あそこに居られたどこかの旦那様が……イ……一円……ク下さいまして……ヘイ……おれが飯を喰っている
「ナニ……飯を喰ったア……一円くれたア……」
若い主人はメンクラッたらしく眼を白黒さしていたが、忽ち青くなって信玄袋を投げ出すと、次の
「ヤラレタ……」
と云ううちに見る見る青くなってドッカリと尻餅を突いた。頭を抱えて縮み込んだ。表の見物人はまん丸にした眼を
「……マア……可哀相に……留守番役のおふくろが死んだもんじゃけん」
「キット流れ渡りの坑夫のワルサじゃろ……」
その
「お前さんは……お前さんは……この小抽出しに何を入れておんなさったのかえ……
若い主人はアグラを掻いて、頭を抱えたまま、返事をしなかった。やがて濡れた筒ッポウの袖口で涙を拭いた。
下唇を噛んだまま、ジッとこの様子をながめていた妻君の血相がみるみる変って来た。不意に主人の
「……えエッ。口惜しいッ。おおかた大浜(
しかしいくら小突かれても若い主人はアヤツリのようにうなだれて、首をグラグラさせるばかりであった。
二三人見かねて止めに這入って来たが、一番うしろの男は表の人だかりをふり返って、ペロリと赤い舌を出した。
「これがホンマのアヤツリ芝居じゃ」
みんなゲラゲラ笑い出した。
妻君が主人の胸倉を取ったままワーッと泣き出した。
一ぷく三杯
お安さんという
……たった一人で寝起きをしている村外れの茶屋の
お安婆さんの茶店は、鉄道の交叉点のガードの横から、海を見晴らしたところにあった。古ぼけた
主人公の婆さんは三十いくつかの年に
「その娘夫婦が東京に孫を見に来い見に来いと云いますけれども、まあなるたけ若い者の足手まといになるまいと思うて、この通りどうやらこうやらしております。自分の身のまわりの事ぐらいは足腰が立ちますので……娘夫婦もこの頃はワタシに負けて、その
と云いながら婆さんは、青白い頬をヒクツカせて、さも得意そうにニヤリとするのであった。
「……フフン。それでも独りで淋しかろ……」
と聞き役になったお客が云うと、婆さんは又、オキマリのようにこう答えた。
「ヘエあなた。二度ばかり泥棒が這入りましてなあ。貴様は金を溜めているに違いないと申しましたけれどもなあ。ワタシは働いたお金をみんな東京の娘の処に送っております。それでも、あると思うならワタシを殺すなりどうなりしてユックリと探しなさいと云いましたので、茶を飲んで帰りました」
しかしこの婆さんが千円の通い帳を二ツ持っているという噂を、本当にしないものは村中に一人も居なかった。それ位にこの婆さんの吝ン坊は有名で、殆んど喰うものも喰わずに溜めていると云ってもいい位であった。そんな評判がいろいろある
「フフン。その一服三杯というのは飯のことかね……」
と村の者の云うことをきいていた巡査は手帳から眼を離した。
「ヘエ。それはソノ……とても旦那方にお話し致しましても本当になさらないお話で……しかしあの婆さんが死にましたのは、確かにソノ一服三杯のおかげに違いないと皆申しておりますが……」
「フフン。まあ話してみろ。参考になるかもしれん」
「ヘエ。それじゃアまアお話ししてみますが、あの婆さんは毎月一度
「ウ――ム。しかしよく食傷して死なぬものだな」
「まったくで御座います旦那様。あの痩せこけた小さな
「ウ――ム。しかしよく考えてみるとそれは理窟に合わんじゃないか。そんなにして二日も三日も店を閉めたら、つまるところ損が行きはせんかな」
「ヘエ。それがです旦那様。最前お話し申上げましたその娘夫婦も、それを恥かしがって東京へ逃げたのだそうでございますが、お安さん婆さんに云わせますと……『自分で作ったものは腹一パイ喰べられぬ』というのだそうで……ちょうどあの婆さんが死にました日が、ここいらのお祭りで御座いましたが、法印さんの処で振舞いがありましたので、あの婆さんが又『一服三杯』をやらかしました。それが夜中になって口から出そうになったので勿体なさに、
「アハハハハハ。そんな馬鹿な……いくら
巡査は笑い笑い手帳と鉛筆を仕舞って帰った。
しかしお安さん婆さんの屍体解剖の結果はこの話とピッタリ一致したのであった。
山の麓に村一番の金持ちのお
お邸の裏手から、山へ這入るところに柿の樹と、桑の畑があったが、
やがて駐在所から、新しい自転車に乗った若い巡査がやって来て掘り出してみると、六ヶ月位の胎児で、死後一週間を経過していると推定されたので、いくらもないその部落の中の女が一人一人に取り調べられたが、怪しい者は一人も居なかった。結局残るところの嫌疑者は、この頃、都の高等女学校から帰省して御座る、お邸のお嬢さん只一人……しかもすこぶるつきのハイカラサンで、大旦那が遠方行きの留守中を幸いに、ゴロゴロ寝てばかり御座る様子がどうも怪しいということになった。
若い巡査は或る朝サアベルをガチャガチャいわせてそのお邸の門を潜った。
「ソラ御座った。イヨイヨお嬢さんが調べられさっしゃる」
と
玄関に巡査を出迎えて、来意をきいた娘の母親が、血の気の無くなった顔をして隠居部屋に来てみると、細帯一つで寝そべって雑誌を読んでいた娘は、
「何ですって……
玄関に近いので母親はハラハラした。眼顔で制しながら恐る恐る問うた。
「……ナ……何だえ。その蟻とか……蠅とかいうのは……アノ
「ホホホホホホそんなものじゃないわよ。何でもいいから巡査さんにそう云って頂戴……妾にはチャンとしたアリバイがありますから、心配しないでお帰んなさいッテ……」
母親はオロオロしながら玄関に引返した。
しかし巡査は娘の声をきいていたらしかった。少々興奮の
「そのアリバイとは何ですか」
母親はふるえ上った。よろめきたおれむばかりに娘のところへ駈け込むと、雑誌の続きを読みかけていた娘は眉根を寄せてふり返った。
「ウルサイわねえ。ホントニ。そんなに妾が疑わしいのなら、妾の処女膜を調べて御覧なさいッて……ソウおっしゃい……失礼な……」
母親はヘタヘタと坐り込んだ。巡査も真赤になって自転車に飛び乗りながら、逃げるように立ち去った。
それ以来この部落ではアリバイという言葉が全く別の意味で流行している。
赤い松原
海岸沿いの国有防風林の松原の中に、
三人は極めて仲がいいらしく、毎朝一緒に松原を出て、一里ばかり離れた都会に貰いに行く。そうして帰りには又どこかで落ち合って、何かしら機嫌よく語り合いながら帰って来るのであった。月のいい晩なぞは、よくその松原から浮き上るような面白い音がきこえるので、村の若い者が物好きに覗いてみると蒲鉾小舎の横の空地で、チョンガレ夫婦のペコペコ三味線と四つ竹(肉の厚い
そのうちに世間が不景気になるにつれて、坊主の方には格別の影響も無い様子であるが、チョンガレ夫婦の貰いが、非常に減った模様で、松原へ帰る途中でも、そんな事かららしく、夫婦で
ところがそのうちに三人の連れ立った姿が街道に見られなくなって、その代りに頭を青々と丸めて、
……コレは
ところが又その
「坊主も遊んでいられなくなったらしい」
と村の者は笑った。
そのうちに冬になった。
或る夜ケタタマシク村の半鐘が鳴り出したので、人々が起きてみると、その松原が大火焔を噴き出している。アレヨアレヨといううちに西北の烈風に煽られて、見る間に数十町歩を
いなか、の、じけん(いなか、の、じけん)
作家录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语
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