大きな手がかり
村長さんの処の米倉から、白米を四
あくる朝早く駐在の
博奕打ちは盗んだ米を町へ売りに行く途中、久し振りに
腰縄を打たれたまま車を引っぱってゆく男の、うしろ姿を見送った人々は、ため息して云った。
「わるい事は出来んなあ」
五十ばかりになって一人
後家さんは、めんくらった。
「按摩さんが火事火事」
と大声をあげて村中を走りまわったので、
大勢に取り捲かれて、巡査の前の地べたに坐った按摩は、
「まったくの出来心で御座います。声をかけてみたところが留守だとわかりましたので……」
「それからどうしたか」
と巡査は鉛筆を
「それで台所から忍び込みますと、ラムプを探り当てましたので、その石油を撒いて火をつけましたが、思いがけなく、うしろの方からも火が燃え出して熱くなりましたので、うろたえまして……雨戸は閉まっておりますし、出口の方角はわからず……」
きいていた連中がゲラゲラ笑い出したので、按摩は不平らしく白い眼を
「よしよし。わかっとるわかっとる。ところで、どういうわけで火を
「ヘエ。それはあの後家めが」
と按摩は又、そこいらを睨みまわしつつ、土の上で一膝進めた。
「あの後家めが、私に肩を
「イイエ、違います。まるでウラハラです……」
と群集のうしろから後家さんが叫び出した。
みんなドッと吹き出した。巡査も思わず吹き出した。しまいには按摩までが一緒に腹を抱えた。
その時にやっと後家さんは、云い損ないに気が付いたらしく、
夫婦の
「あの夫婦は虚空蔵さまの生れがわり……」
という子守娘の話を、新任の若い駐在巡査がきいて、
「それは何という意味か」
と問い
「生んだ子をみんな売りこかして、うまいものを喰うて酒を飲まっしゃるから、コクウゾウサマ……」
と答えた。巡査はその通り手帳につけた。それからその百姓の
「ハイ。みんな美しい着物を着せてくれる人の処へ行きたいと申しますので……」
と済まし返っている。
「フーム。それならば売った時の子供の年齢は……」
「ハイ。姉が十四の年で、妹が九つの年。それから男の子を見世物師に売ったのが五つの年で……。ヘエ。証文がどこぞに御座いましたが……間違いは御座いません。ついこの間のことで御座いますから。ヘエ……」
巡査はこの夫婦が馬鹿ではないかと疑い初めた。しかも、なおよく気をつけてみると、今一人の子供が女房の腹の中に居るようす……。
巡査は変な気持ちになって帳面を
「フーム。まだほかに子供は無いか」
と尋ねると、夫婦は忽ち真青になってひれ俯した。
「実は四人ほど
巡査は驚いて又帳面を引き出した。
「ウーム不都合じゃないか。何故そんな勿体ないことをする」
というと、青くなっていた亭主が、今度はニタニタ笑い出した。
「ヘヘヘヘヘヘ。それほどでも御座いません。酒さえ飲めばいくらでも出来ますので……」
巡査は気味がわるくなって逃げるようにこの
「この事を本署に報告しましたら古参の巡査から笑われましたヨ。何でも堕胎罪で二度ほど処刑されている評判の夫婦だそうです。二人とも揃って低能らしいので、誰も相手にしなくなっていたのだそうです」
と、その巡査の話。
汽車の実力試験
「この石を線路に置いたら、汽車が引っくり返るか返らないか」
「馬鹿な……それ位の石はハネ飛ばして行くにきまっとる」
「インニャ……引き割って行くじゃろうて……」
「論より証拠やってみい」
「よし来た」
間もなく来かかった列車は、
あくる朝三人が、村の床屋で落ち合ってこんな話をした。
「
「ナアニ。機関車は全部鉄造りじゃけにな。あんげな石ぐらい
「しかし、引き砕いてから停まったのは何故じゃろか。車の歯でも欠けたと思ったんかな」
「ナアニ。人を
こうした話を、頭を刈らせながらきいていた一人の男は、列車妨害の犯人捜索に来ていた刑事だったので、すぐに三人を本署へ引っぱって行った。
その中の一人は署長の前でふるえながらこう白状した。
「三人の中で石を置いたのは私で御座います。けれどもはね飛ばしてゆくとばかり思うておりましたので……罪は一番軽いので……」
と云い終らぬうちに巡査から
三人は同罪になった。
スットントン
漁師の一人娘で生れつきの
ある時、近くの村の青年の寄り合いに雇われたが、案内に来た青年は
ところがその馬力が、
「途中の松原で畜生が小便した時までは、たしかに女が坐っておった」
という馬方の言葉をたよりに、村中総出でそこいらの沿道を探しまわったが、それらしい影も無い。村長や、区長や、校長先生や巡査が青年会場に集まって、いろいろに首をひねったけれども、第一、居なくなった原因からしてわからなかった。
結局、娘の親たちへ知らせなければなるまい……というので、とりあえず青年会員が二人、娘のうちへ自転車を乗りつけると、晴れ着をホコリダラケにしたその娘が、おやじに引き据えられて、泣きながら
二人の青年は顔を見合わせたが、ともかくも飛び込んで押し止めて、
「これはどうした訳ですか」
と尋ねると、おやじは面目なさそうに頭を掻いた。
「ナアニ。こいつがこの頃
二人の青年はいよいよ訳がわからなくなった。そこで、なおよく事情をきいてみると、最前女を馬力に乗せて引いて行った青年が、途中でスットントン節をくり返しくり返し唄った。それは娘に初耳であったので、
青年の一人はこの話をきくと非常に感心したらしく、勢い込んで云った。
「実に立派な心がけです。しかし心配することはない。私たちと一緒に来なさい。これから夜通しがかりで青年会をやり直します。歌は途中で私が唄ってきかせます」
花嫁の舌喰い
一部落
その中で、夫婦と子供三人の一家が夕食の最中に、主人が
「タッタ今おれに不動様が乗り移った」
と云いつつ凄い顔をして坐り直した。お
この
そのまん中に、木綿の紋付き羽織を引っかけた不動様が坐って、恐ろしい顔で睨みまわしていたが、やがて、うしろの方に坐っている、紅化粧した
「もそっと前へ出ろ。出て来ぬと金縛りに合わせるぞ。ズッと私の前に来い。怖がる事はない。罪を浄めてやるのだ。サアよいか。お前は前の
こう云いつつその舌に顔をさし寄せて、ジッと睨んでいた不動様は、不意にパクリとその舌を頬張ると、ズルリズルリとシャブリ初めた。
女は衆人環視の中で舌をさし出したまま、眼を閉じてブルブルふるえていた。すると不動様は何と思ったか突然に、その舌を根元からプッツリと噛み切って、グルグルと
女は悶絶したまま息が絶えた。
あとで町から医者や役人が来て取調べた結果、不動様の脳髄がずっと前から梅毒に犯されていることがわかった。
この事実がわかると、その村の不動様信心がその後パッタリと止んだ。不動様を信仰すると梅毒になるというので……。
感違いの感違い
駐在巡査が夜ふけて線路の下の国道を通りかかると、
やがてその男が村の中の、とある物置へ逃げ込んだので、すぐに踏み込んで引きずり出してみると、それは村一番の正直者で、自分の家の物置に逃げ込んだものであることがわかった。
巡査はガッカリして汗を拭き拭き、
「馬鹿めが。何もしないのに何でおれの姿を見て逃げた」
と怒鳴りつけると、その男も汗を拭き拭き、
「ハイ。泥棒と間違えられては大変と思いましたので……どうぞ御勘弁を……」
スウィートポテトー
心中のし損ねが村の駐在所に連れ込まれた……というのでみんな見に行った。
十
やがて四十四五に見える駐在巡査が、ドテラがけで悠然と出て来た。一パイ飲んだらしく、赤い顔をピカピカ光らして、二人の前の椅子にドッカリと腰をかけると、酔眼朦朧とした
「つまりお前達二人はスウィートポテトーであったのじゃナ」
硝子戸の外の
すると、うつむいていた若い男が、濡れた
「……違います……スウィートハートです……」
「フフ――ウム」
と巡査は冷やかに笑いながらヒゲをひねった。
「フ――ム。ハートとポテトーとはどう違うかナ」
「ハートは心臓で、ポテトーは
と若い男はタタキつけるように云ったが、硝子戸の外でゲラゲラ笑い出した顔をチラリと見まわすと、又グッタリとうなだれた。
巡査はいよいよ上機嫌らしくヒゲを撫でまわした。
「フフフフフ。そうかな。しかしドッチにしても似たもんじゃないかナ」
若い男は
「ドッチもいらざるところで芽を吹いたり、くっつき合うて腐れ合うたりするではないか……アーン」
人が居なくなったかと思う静かさ……と思う間もなく、硝子戸の外でドッと笑いの爆発……。
若い男はハッと両手を顔にあてて、ブルブルと身をふるわした。初めから嘲弄されていたことがわかったので……同時に、横に居た桃割れも、ワッとばかり男の膝に泣き伏した。
硝子戸の外の笑い声が止め度もなく高まった。
巡査も腕を組んだまま天井をあおいだ。
「アアハアハアハア。馬鹿なやつどもじゃ。アアハアアアハア……」
いなか、の、じけん(いなか、の、じけん)
作家录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语
相关文章
笑う唖女(わらうおしおんな)
私の好きな読みもの(わたしのすきなよみもの)
若返り薬(わかがえりぐすり)
路傍の木乃伊(ろぼうのミイラ)
霊感!(れいかん!)
ルルとミミ(ルルとミミ)
涙香・ポー・それから(るいこう・ポー・それから)
猟奇歌(りょうきうた)
謡曲黒白談(ようきょくこくびゃくだん)
雪の塔(ゆきのとう)
幽霊と推進機(ゆうれいとスクリュウ)
山羊髯編輯長(やぎひげへんしゅうちょう)
眼を開く(めをひらく)
冥土行進曲(めいどこうしんきょく)
名娼満月(めいしょうまんげつ)
名君忠之(めいくんただゆき)
虫の生命(むしのいのち)
無系統虎列剌(むけいとうコレラ)
三つの眼鏡(みっつのめがね)
継子(ままこ)
正夢(まさゆめ)
微笑(ほほえみ)
豚吉とヒョロ子(ぶたきちとヒョロこ)
夫人探索(ふじんたんさく)
奇妙な遠眼鏡(ふしぎなとおめがね)