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月夜(つきよ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-22 10:32:19  点击:  切换到繁體中文


「お帰り。道はさびしかつたらうね。」
「月夜ですもの提灯ちやうちんは持たないでもいいし。」
 久吉が暗い台所から持ち出して来た盆からはゑたお幸に涙をこぼさせる程の力のある甘いにほひが立つて居ました。お幸は弟の好意を其儘そのまま受けて物も云はずその焼芋を食べてしまひました。久吉はお茶の用意もしてくれました。
わたしが作つたものだもの、そんなに甘味おいしければ毎晩でもお食べよ。」
 母親はじつと娘を見ながらかう云ひました。
母様かあさんがお作りになつたからおいしいのよ。」
「なんの、おまへ自身で作つて御覧、もつとおいしいよ。」
 お幸はこの時ふと母の労力を無駄使むだづかひをさせたと云ふやうな済まない気のすることを覚えました。
わたしが持つて行く。」
 皮の載つた盆を下げようとする久吉をかう留めてお幸は自身で台所へ行きました。
「母さん、暗くて見えませんけれど、何かして置く用が此処にありませんか。」
 お幸はやや大きい声でかう云ひました。
「姉さんは元気が出たね。」
と久吉が云ひました。
「何も用はないよ。」
「母さん、母さん、僕は云つてしまひますよ。姉さんはね、中村さんで晩の御飯を食べさせてもらはないのだつて、ほかの女中が意地わるをするのだつて、中村さんの音作がすつかり僕に云つてくれましたよ。母さん、もう姉さんを中村さんへ手伝ひにるのをよしなさいよ。」
 弟の母に語るのをお幸はじつと台所で聞いて居ました。
「お幸や、さうなのかえ。」
「ええ。」
 お幸は目に涙をめての下へ出て来ました。お近は袖口をくけかけて居た仕事をずつと向うへ押しやりました。
何故なぜ黙つて居ました。自身の身体からだのことを自身で思はないでどうするお幸。」
「はい。わたしは外の仕事の見つかるまでと思つて辛抱して居ましたけれど。」
「外の仕事つて。」
わたし今晩帰りみちで大津の郵便局の郵便脚夫の見習に十五以上の男を募集すると云ふ貼紙はりがみを見ましたから、母さん、私は男の姿になつて髪なんかも切つて雇はれに行かうかしらと云ふやうなことも考へて来たのです。」
とお幸は思ひ切つて云ひました。
「おまへにそんな働きが出来ますか。」
わたしはよく歩きますし、丈夫ですし。」
「それだけの理由わけで郵便屋さんにならうと言ふの。」
「いゝえ。わたしは世の中の手助けになる仕事ですからして見たいのです。」
「今の仕事は。」
「女中と云ふものが主人の家に大勢居ることは一層お金持を怠惰者なまけものにするだけのもので、世の中のめにはならないとわたしは気が附きました。さうぢやないでせうか。」
「それはさうかも知れない。」
わたしは自分の出来ることの中で一番いい仕事をしなければならないと思ひます。」
「十五になると大分理屈がわかるね。」
 お近はかう云つて久吉の方を見ました。
「姉さんはえらいや。僕なんかは学校を出たら百姓になるのが一番いいことだと思つて居た。」
と久吉は云ひました。
「お幸は百姓をどう思ふの。」
「まだそれは考へません。」
「それを考へないことがあるものですか。母様かあさんが若し間違つたことをして居たらおまへは注意をしてくれなければならないぢやないの。母様かあさんのして居ることは百姓ですよ。わたしは世の中へ迷惑をかけないで暮して行くと云ふことが世の中のめだと思つて居るよ。自身で食べる物を作つて私は自分やおまへ達の着物を織つて居ます。自分の出来ないものは仕事の賃金に代へて貰つて来ると云ふこの暮しやうが私にはづ一番間違ひのない暮しやうだと思つて居るよ。」
 お近のこの話をお幸は両手をひざの上で組合せてうやうやしく聞いて居ましたが。顔を上げて、
「母さん、田や畑はもう少し余計に貸して貰へるのですか。」と言ひました。
「小作人が少くて困つて居るのですもの、貸してれますとも。」
「髪を切つてお芝居のやうなことをするよりもわたしのすることは、母様かあさん、あつたのですよ。」
「何のことですか。」
「野仕事です。百姓です。」
「さうかね。おまへが郵便局へ行きたいと云ふから、わたしは男になつたりなどしないで、局長につて女のままで、採用つかつて貰ふことを一生懸命ですればいいと思つて居たよ。私には百姓がいいと云つただけで、おまへを百姓にしようと思つて居るのぢやないよ。」とお近は言ひました。
「姉さん百姓におなりよ。三人で百姓をすると決めませうよ。」と久吉は云ふのでした。
わたしは何でも出来ますが百姓でも出来ます。」
「それではなつて見るがいいよ。ねえお幸、今日角造かくざうさんに聞くと三本松の家を山仁やまにさんはまた堺の商人へ売るさうだよ。わたしはそれがいいと思つて居るよ。おまへ達は知らないがそれはそれは無駄に広い家なんだからね。あれを真実ほんたうに人間仲間の役に立てようと思ふなら大勢の使ふものにしなければならないのだからね。堺へ持つて行つて幾つかの家に分けて拵へたらいいだらうよ。しかし建物に立派な宝物になる価値ねぶみのあるものは別だけれど。」とお近は云ひました。
「さうなつたらあの丘へ自由にあがれますね。いいなあ。」と久吉は云ひました。三人は幸福であることを感じて居ました。





底本:「日本児童文学大系 第六巻」ほるぷ出版
   1978(昭和53)年11月30日初刷発行
   1979(昭和54)年4月1日2刷発行
底本の親本:「少女の友」実業之日本社
   1918(大正7)年10月
初出:「少女の友」実業之日本社
   1918(大正7)年10月
入力:田中敬三
校正:鈴木厚司
2006年9月12日作成
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