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恋衣(こいごろも)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-22 10:11:27  点击:  切换到繁體中文

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  詩人薄田泣菫の君に捧げまつる



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   絵画目次[#省略]



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   詩目次[#底本では各項は、「君死に給ふこと勿れ」に合わせて均等割付]

白百合

みをつくし

曙染

君死に給ふこと勿れ

恋ふるとて

いかが語らむ

皷いだけば

しら玉の

冥府のくら戸は



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白百合

山川登美子

髪ながき少女とうまれしろ百合にぬかは伏せつつ君をこそ思へ

聖壇せいだんにこのうらわかきにへを見よしばしはしよくひやくにもまさむ

そは夢かあらずまぼろし目をとぢて色うつくしき靄にまかれぬ

日を経なばいかにかならむこの思たまひし草もいま蕾なり

射あつべし射あてじとても矢はつがへきんの桂にぬかまける君

恋せじと書かせたまふか琴にしてともにと植ゑし桐のおち葉に

こがね雲ただに二人をこめて捲けなかのへだてを神もゆるさじ

手もふれぬ琴柱ことぢたふれてうらめしき音をたてわたる秋の夕かぜ

何といふところか知らず思ひ入れば君に逢ふ道うつくしきかな

このもだえ行きて夕のあら海のうしほに語りやがて帰らじ

この塚のぬしを語るな名を問ふなただすみれぐさひとむら植ゑませ

べにの花朝々つむにかずつきず待つと百日もゝかをなぐさめ居らむ

ひとすぢを千金せんきんに買ふわうもあれ七尺みどり秋のおち髪

わがいきを芙蓉の風にたとへますな十三絃をひといき

またの世は魔神まがみの右手の鞭うばひ美くしき恋みながら打たむ

袖たてて掩ひたまふな罪ぞ君つひのさだめを早うけて行かむ

うつつなく消えても行かむわかき子のもだえのはての歌ききたまへ

わすれじなわすれたまはじさはいへど常のさびしき道ゆかむ身か

われゆゑに泣かせまつりぬゆるしませよわき少女にいま秋のかぜ

わが胸のみだれやすきに針もあてずましろききぬをかづきて泣きぬ

狂へりや世ぞうらめしきのろはしき髪ときさばき風にむかはむ

裾きえてずゐのまなかに立つと見ぬあめの香をもつ百合花ゆりばなのうへ

うるはしき神の旅路といらへまつりともづな解かむ波のまにまに

をみなへしをとこへし唯うらぶれて恨みあへるを京の秋に見し (明治三十三年の秋)

にほひもれて人のもどきのわづらはし袖におほひていだく白百合

さらば君氷にさける花のむろ恋なき恋をうるはしと云へ

その涙のごひやらむとのたまひしとばかりまでは語り得れども

その浜のゆふ松かぜをしのび泣く扇もつ子に秋問ひますな

狂ふ子に狂へる馬の綱あたへ狂へる人に鞭とらしめむ

薄月に君が名を呼ぶ清水かげ小百合ゆすれてしら露ちりぬ

とことはに覚むなと蝶のささやきし花野の夢のなつかしきかな

聴きたまへ神にゆづらぬやは胸にくしきひびきの我を語れる

手づくりのいちごよ君にふくませむわがさすべにの色に似たれば

里の夜を姉にも云はでねむの花君みむ道に歌むすびきぬ

紅梅にあわ雪とくる朝のかどわが前髪のぬれにけるかな

なにとなく琴のしらべもかきみだれ人はづかしく成れる頃かな

心なく摘みし草の名やさしみて誰におくると友のゑまひぬ

われ病みぬふたりが恋ふる君ゆゑに姉をねたむと身をはかなむと

髪あげてさむと云ひし白ばらものこらずちりぬ病める枕に

野に出でてさゆりの露を吸ひてみぬかれし血のけの胸にわくやと

世はしたにいかにも強ひようるはしき日知らで土鼠もぐら土を掘るごと

ぬる蝶のなさけやさしみ瓜畑のあだなる花もひとめぐりしぬ

雲きれて星はながれぬおもふこと神にいのれる夕ぐれの空

かがやかにしよくよびたまふの牡丹ねたむ一人ひとりのうらわかきかな

かずかずの玉の小琴をたまはりぬいざうちよりて神をたたへむ (新詩社をむすび給へる初に)

指の環を土になげうちほゝゑみし涙の面のうつくしきかな

うるはしき[#「うるはしき」は底本では「うるはきし」]マリヤを母とよびならひわかき尼ずみ寺に年へぬ

誰がために摘めりともなし百合の花聖書にのせて祷りてやまむ

くちなはの口や狐のまなざしや地のうへ二尺君はちやうの子

よわき子はあめさす指も毒に病むさかえを祝へ地なる醜草しこぐさ

いもうとの憂髪うきがみかざる百合を見よ風にやつれし露にやつれし (晶子の君に)

垣づたひ萩のしたゆくいささ水にはぢらふ頬をばひたしぬるかな

うけられぬ人の御文みふみをなげぬれば沈まず浮かず藻にからまりぬ

くちぶえに小羊こひつじよびて鞭ふりて牧場まきばに成りし歌のふしとる

木屋街はかげ祇園は花のかげ小雨に暮るゝ京やはらかき

世のかぜはうす肌さむしあはれ君み袖のかげをとはにかしませ

利鎌とがまもて刈らるともよし君が背の小草のかずにせめてにほはむ

いろふかくゑまひこぼるるこの花よたまひし人によく似たるかな

わが舞へる扇の風に殿とのの火をもゝの牡丹のゆらぎぬと見る

いかならむ遠きむくいかにくしみか生れてさちに折らむ指なき (以下十首人に別れ生きながらへてよめる)

地にひとり泉は涸れて花ちりてすさぶ園生に何まもる吾

虹もまた消えゆくものかわがためにこの地この空恋は残るに

君は空にさらば磯回いそわの潮とならむ月にて往ぬ道もあるべき

待つにあらず待たぬにあらぬ夕かげに人の御車みくるまただなつかしむ

今の我に世なく神なくほとけなし運命さだめするどき斧ふるひ来よ

燃えて/\かすれて消えて闇に入るその夕栄ゆふばえに似たらずや君

帰り来む御魂と聞かば凍る夜の千夜ちよも御墓の石いだかまし

おもひ出づな恨に死なむ鞭のきず秘めよと袖の少女をとめに長き

夕庭のいづこに立ちてたづぬべき葡萄つむ手に歌ありし君 (以上)

みてづからひと葉つみませこのすみれ君おもひでのなさけこもれり

花さかばふたりかざしにさして見むこのすみれぐさ色はうつらじ

あたらしくひらきましたる詩の道に君が名たゝへ死なむとぞ思ふ

わが手もて摘みてかざせるひと花も君に問はれておも染めにけり

いづこ踏みいかに帰らむちる花は山をうづみぬ我をめぐりぬ

誰がためにつくる花環とほほゑみて花の名をさへ問ひたまふかな

手づくりの葡萄の酒を君に強ひ都の歌を乞ひまつるかな

迎へ待つ君は来まさずわが駒に百合の花のせ綱ひく夕野

ほほゑみて火焔ほのほも踏まむ矢も受けむ安きねむりの二人ふたりいざ見よ

それとなく紅き花みな友にゆづりそむきて泣きて忘れ草つむ (晶子の君と住の江に遊びて)

羽子はごよ毬よみな母君にかくされて肩上かたあげあとの針目はりめさびしき

くれなゐに金糸の襟の舞の子を三月みつき画にすと京にある君

紅筆べにふでにわづらひたまふ歌よりも雪の兎に目をたまへ君

見じ聞かじさてはたのまじあこがれじ秋ふく風に秋たつ虹に

きぬでまりましろきなりに春のきてかがる色糸いろいとみなもつれたり

たてかけし琴の緒ひくくひびきたり御袖のはしも触れじと思ふに

てずさびにつなぎし路のいと柳誰れその上をまたむすびたる

ちる花に小雨ふる日の風ぬるしこの夕暮よ琴柱ことぢはづさむ

春さむし紅き蕾の枝づたひ病むうぐひすの戸にきより啼く

ひとみまだはえに酔はすな春の雲と袖もておほふ雛のうぐひす

夕顔に片頬あたへしおごりびと妬たしと星も今ちかう降れ

飢ゑていま血なきに筆もちからなし人よ魔と書く文字ををしへね

みいくさのふねの帆づなにいかりづなに召せや千すぢの魔もからむ髪

ふる鏡霜に裂けたるこだまなし夜烏よがらすむせび黄泉よみにや帰る

かたつぶりひさしに出でし雨ふつ日瓦にさきぬなでしこの花

たもち得ぬ才はたとへばうまざけのれしかめにも似たるこの人

ましら羽の鳥にふくます花ひとつ武蔵のあなた十里におちよ (上総なる林のぶ子の君を懐ひまつりて)

髪なでて鏡ゆかしむ夜もありぬ夢にや摘まむしろ百合の花

わが袖も春のひかりの帰らじや牡丹らせてつづみに添へば

雲に見る秋のうれひを葉に染めて泣くにしのぶに陰よき芭蕉

扇なす彩羽あやはの孔雀鳥の王おごりの塵を吹く春のかぜ

大原女おはらめのものうるこゑや京の町ねむりさそひて花に雨ふる

おばしまの牡丹の花にぬかたれて春の真昼をうつつなき人

さちはいまもやにうかびぬ夢はまたしづかにりて君と会ひにけり

薔薇ばらもゆるなかにしら玉ひびきしてゆらぐと覚ゆわが歌の胸

せめてただ女神めがみかむりしろ百合の花のひとつとひかりそへむまで

地にわが影そらに愁の雲のかげ鳩よいづこへ秋の日往ぬる

虹の輪のそらにながきをたぐりませ捲かれて往なむこの二人ふたりなり

戸によりてうらみ泣く夜のやつれ髪この子が秋を詩に問ふや誰

歌あらば海ゆく雨に添へたまへ山に夕虹なびくを待たむ (上総の浜辺に夏を過ぐせるまさ子の君に)

夕潮に玉藻たまもよるの秋ほそしさばかりをだに命なる歌

髪ながうなびけて雲はそぞろなり入日と風と恋をいどめる

鞭拍子むちびやうしやうやく慣れて南国なんごく牧場まきばの春の草に歌よき

百合牡丹にへの花姫なほ足らずばひじりの恋よ野うばらも

しら鳩も今むつまじく肩にきぬ君西びとの歌つづけませ

さりともとおさへて胸はしづめたれ夜を疑ひの涙さびしき

思あれば秋は袖うつひと葉にも涙こぼれて夕風なり

いつはりの濁るなみだのかかりなばこの袖たちてまた君を見じ

秋かぜに御粧殿みけはひどの小簾をすゆれぬ芙蓉ぞ白き透き影にして

ゆふばえやくれなゐにほいむら山にあめの火が書く君得しわが名

ぬのぎれに瓦つつみてさいはかる秤器はかりの緒にはのぼされにけり (以下拾弐首さることのありける時)

おとなしく母の膝よりならひ得し心ながらの歌といらへむ

鋳られてはひとつ形のひと色の埴輪はにわのさまにかまど出でむか

ひとりにはあまりさびしき秋の夜と筆がさそひしまぼろしよ君

地にあらず歌にただ見るまぼろしの美くしければ恋とこそ呼べ

書よみて智慧売る子とは生れざりへびのうすぎぬ価ある世よ

いきづけば花とかをらむ思あり人のいのちの燃ゆる胸より

相ふれては花もうなづく浪も鳴る枯木からき青木あをきも山を焼きぬる

おもひでを又はなやぎてかざらばや指さす人に歌ひ興ぜむ

歌よみて罪せられきと光ある今の世を見よ後の千とせに

師と友とわれとし読みてうなづかば足るべきしう智者ちしや達に言へ

あなかしこなみだのおくにひそませしいのちはつよき声にいらへぬ



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みをつくし

増田まさ子


しら梅のきぬにかをると見しまでよ君とは云はじ春の夜の夢

恋やさだめ歌やさだめとわづらひぬおぼろごこちの春の夜の人

むつれつつ菫のいひぬ蝶のいひぬ風はねがはじ雨にさちあらむ

飛ぶ鳥かわがあこがれの或るものかひかり野にすと思ふに消えぬ

歌ひとつ君なぐさめむちからなし鬢の毛とりて風にことづてむ

母恋ふる心わすれてあこがれぬやさしおん手のひと花ゆゑに

みやこびとしうのしをりとつみつれどふさひふさふやかへでのわか葉

なさけいまだよわきはげしきさだめ分かず酔へりとのみのこの子と知りぬ

かゝる夜の歌に消ぬべき秋人あきびととおもふにうすもふさふかな

世にそむき人にそむきて今宵また相見て泣きぬまぼろしの神

われにまた山の鐘鳴るゆふべなりしづくや多き涙や多き

似つかしと思ひしまでよ菖蒲あやめきり池のみぎはを南せし人

あすこむと告げたる姉をかどの戸にまちて二日ふつかの日も暮れにけり

髪ときて秋の清水にひたらまし燃ゆる思の身にしきるかな

うらみわびこの世に痩せし少女子のひくきしらべをあはれませ君

みふみ得しその夕より黒髪のみだれおぼえて涙ぐましき

痩せ指に小鬢こびんのぬけ毛からめつつさてこの秋にふさふ歌なき

人の名も仏の御名も忘れはて籠に色よき野花のばなつみぬる

しら梅の朝のしづくに墨すりて君にと書かば姉にくまむか

二十とせは亡き母しのぶ夢にのみ光ほのかにさすと覚えし

わりなくも琴にのぼせて恋得つと御歌みうたのぬしに告げば如何ならむ

つらき世のなさけいのらぬわれなれど夕となれば思あまりぬ

須磨琴すまごとのわかきわが師はめしひなり御胸みむね病むとて指の細りし

ねいき細きこのわがのどに征矢そやひきて夢路かへさぬ神もいまさば

川くまのふたもといちひかげみれば猶も君見ゆわれ遠ざかる

わりなくも君が御歌に秋痩せてよわき胡蝶のもうらやみぬ

はかり得ぬ親のこころをかへりみずゆるせと君にものいひてける

わがおもの母にるよと人いへばなげし鏡のすてられぬかな

ちる花のしたにかさねてまかせたり君が扇とわが小皷こつづみ[#ルビの「こつづみ」は底本では「こづつみ」]

紅梅の真垣のあるじ胸をいたみ泣くを隣りに小琴とききぬ

みなさけのあまれる歌をかきいだきわが世の夢は語らじな君

君によき水際みぎはや春の鳥も啼く細き柳は傘にかかりぬ

その御手にほそきかひなをゆるしませくづるる浪のはてしなくとも

京の春に桃われゆへるしばらくをよき水ながせまろき山々

夢に見し白き胡蝶の忘れ羽かあらず小百合さゆりのそのひと花か

泣きますな師をなぐさめむすべ知ると小百合つむ君うるはしきかな (以上二首は登美子の君に)

つらきかな袖に書きてもまゐらせむ逢はで別るゝ歌のみだれよ

なにとなきとなり垣根の草の名も知らばやゆかし春雨の宿

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