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復讐(ふくしゅう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-10 10:14:02  点击:  切换到繁體中文


「ヘエ……それは……お驚きになったでしょう……」
「イヤもう、お話しするのも馬鹿馬鹿しい位ですがね……ですから僕も、始めは何かしら云いにく理由わけがあるのを隠すために、そんな無茶を云うのじゃないか知らんとも思ってみたんですが、品夫の真剣な態度を見ると、どうもそうじゃないらしいんです……というのは、元来品夫は僕と違って文学屋で、女の癖に探偵小説だの、宗教関係の書物だのを無闇矢鱈むやみやたらに読みたがるのです。露西亜ロシア人が書いたとかいう黒い表紙の飜訳小説を取り寄せて、夜通しがかりで読んだりする位で……ですから、そんなものの影響を受けているのでしょう。ごく平凡なつまらない事までも、恐ろしく深刻に考え過ぎる癖があるのです。……それで、こんな事を空想したんじゃないかと気が付いたのですがね」
「ハハア……成る程……それはそうかも知れませんな。……しかしそれにしても妙ですナ。品夫さんのお父さんは二十年も前にお亡くなりになったので、顔もよく御存じ無い筈なのに、どうしてそのお父さんの讐仇かたきの顔を見分けられるのでしょう」
「それが又奇抜なんです。品夫はその実父ちちおやを殺した犯人が生きてさえおれば、一生に一度はキットこの村に帰って来るに違い無いと云うのです。何故かと云うとる犯罪者が、自分の犯した罪悪の遺跡を、それとなく見てまわったり、それに関する人の噂を聞いたりすると、トテモたまらない愉快を感ずるものだと云うのです。つまり自分の罪を人知れず自白してみたい一種の心理と、犯罪者特有の冒険慾とが一所になって来るので、トテモ正しい人間の想像も及ばないスバラシイ魅力を持っているものだそうで……つまり、その犯した罪が大きければ大きい程……そうして犯人自身が知識階級であればある程、その魅力も何層倍の深さに感ぜられるものだと云うのです。……だからわたしのお父様を殺した犯人は、ツイこの頃までも、そうした大きい魅力に引かされて、この村に帰ってみたくてたまらないでいたに違い無いが、ここにタッタ一人、その犯人の顔や特徴をよく知っておられる、うちの御養父おとう様が生き残っておられた。……それでウッカリこの村に足を入れる事が出来ずにいたのだが、その御養父おとう様がお亡くなりになった今日では、モウ怖い者は一人も居ないのだから、その犯人はスッカリ安心しているにちがい無い。そうして近いうちにこの村に遣って来るに違い無い……イヤ……事によると、もうそこいらに来ていて、妾の姿をジロジロ眺めているかも知れない……と云うので、まるで夢みたような事を主張するのです……しかも真剣に……」
 熱心に傾聴していた黒木は今一度、長いため息をした。やはり相手の顔をみつめたまま……。
「成る程……婦人の想像力ぐらい恐ろしいものはありませんからね……真実以上の真実ですから……」
「……まったくです……しかし、その時はちょうど僕も品夫も、新規に引き受けた病院の仕事だの、遺産の整理だの、法事だのというものがゴチャゴチャと重なり合っていて、トテモ結婚どころの沙汰じゃなかったもんですから、そんな事を深く穿鑿せんさくする暇も無いままにったらかしておいたものですが……そうそう……それから品夫はコンナ事も附け加えて話しましたよ。何でもそれから二三日目の夕食の時でしたが、顔を赤くしながら……わたしはこのあいだ御養父おとう様の二七日の晩に、妾の身の上とソックリのコルシカ人の娘の話を読んで心から感心してしまった。その娘は、父親を殺したに違い無いと思っている男から婚約を申し込まれると、大喜びで直ぐに承諾をして、他からの申込みを全部断ってしまった。そうして結婚式の晩にその男を絞め殺す……という筋であったが、その中には、そうした自分の罪の遺跡に引きつけられつつ、犯罪を二重に楽しんで行こうとする犯人の気持ちと、その犯人のそうした執念深い慾望をキレイにち切ってしまうかどうかしなければ、どうしても気が済まない、生一本きいっぽんの娘の心理とが、タマラナイ程深刻にえがきあらわしてあった……と云うのです。何でも品夫はその小説を読んでから、そんな気になったのじゃないかと思うんですが……」
「ハハア……」
 と黒木はイヨイヨ感動したらしく、片手で鼻の下を撫でおろした。
「……仏蘭西フランス伊太利イタリー物らしい小説ですな。……けれども万に一つその通りになったら、お嬢さんは、トテモ素晴らしい直感力を持っておられる訳ですね」
 健策も苦笑しながら、ツルリと顔を撫でまわした。
「どうも赤面の至りです。あんまり非常識な話なので……」
「……イヤ……しかし驚き入りましたナ。……実は私も品夫さんのお父さんに関する村の人の噂を二三聞いているにはいたのですが、大部分誇張だろうと思いましたし、もしかすると岡焼きれんの中傷かも知れないと思いましたから、今の今までチットも信じていなかったのですが……」
「イヤ……村の者の噂は大部分事実なのです。品夫はたしかに氏素性うじすじょうのハッキリしない者の娘で、しかも変死者の遺児わすれがたみに相違無いのです。つまり、その犯人が捕まらないために、何もかもが有耶無耶うやむやに葬られた形になっているので……」
「ハハア。……してみると所謂いわゆる迷宮事件ですな」
「そうなんです。品夫の父親が殺された事件は徹頭徹尾、迷宮でおしまいになっているのです。何しろ二十年も昔の事ですから、警察の仕事もいい加減なものだったでしょうし、おまけにこんな片田舎の高い山の上で行われた犯罪ですから、たしかな証拠なぞは一つも掴まれなかったらしいのです」
「成る程。しかし物的の証拠は無くとも、心的の証拠は何かあった訳ですね。犯人が仮想されていた位ですから……」
「それはそうです。その当時はたしかにそれに相違無いという犯人の目星がついていたのですが、今となっては、その犯人が捕まらないために、事件全体が五里霧中の未解決のままになっているのです。……ですから、そんなところから色々な噂も起って来るでしょうし、品夫もまたソンナ事を探偵小説的に考え過ぎた結果、んでもない空想を抱くようになったのじゃないかと想像しているんですがね……貴方あなたの御意見はどうだか知りませんが……」
「……そうですね……それはそうかも知れませんが……。しかし何しろ私も、そんな噂話があるという事を、看護婦を通じて聞いただけですから、シッカリした考えは申上げかねるのですが……」
「……成る程……それじゃその事件のあらましだけを、今からつまんでお話してみましょうか。その時に立ち会った養父ちちの話ですから、村の噂などよりもズット正確な訳ですが……聞いてくれますか貴方は……」
「……ヘエ。それは是非伺いたいものですが……しかし……御承知の通り私は、すこし興奮すると、すぐにねむれなくなる性質たちなので、それに時間も遅いようですし……」
「……イヤ。まだ十時位でしょう。眠れなかったら、あとで散薬か何か上げますから、それをんだらいいでしょう。もう本当は退院されてもいい位に恢復しておられるのですから、と晩ぐらい夜更かしをされても大丈夫ですよ……僕が請け合います……」
「アハハハハ……イヤ。散薬なら二三日前に頂戴ちょうだいしたのがまだ残っていますが……」
「そうして適当な判断を下してくれませんか……品夫が外国の探偵小説にカブレて、そんな事を云い出したものか、それともほかに何か理由わけがあっての事か……どうかというような事を……」
「ハハハハハ……ドウモそう性急に仰言おっしゃっちゃ困りますがね。……婦人の心理というものは要するに、男にはわからない物だそうですから……」
「まったくです。全然不可解なんです」
「アハハ……イヤ……私も無論、御同様だろうとは思いますが……それじゃ、とにかくその事件の成行なりゆきというものを伺った上で、一ツ考えさして頂きますかね」
「どうか願います……こうなんです。……品夫の父親というのは今から三十年ほど前に、親父ちちの玄洋が、この村の獣医として東京から連れて来た、実松さねまつ源次郎という男で、死んだ時が四十いくつとかいう事でした。生れは東北のC県で、T塚村という大村の、実松家という富豪の跡取あととり息子だったそうですが、どうした理由わけか、故郷に親類が一人も居なくなったので、田地田畑をスッカリ金に換えて上京したものだそうです。そうして獣医学校に籍を置いて勉強しているうちに、同じ下宿に居た関係から私の養父ちちの玄洋と懇意になったのだそうで……」
「ハハア。チョット……お話の途中ですが、その故郷の親類が一人も居なくなった理由わけというのは、今でもやはり、おわかりになっていないのですね」
「そうです。何故だかわからないままになっているのです……しかしタッタ一人その源次郎氏のおいというのが残っていたそうです。たしかに源次郎氏の姉の子供だと聞きましたが、それが、実松当九郎といって、この事件の犯人と眼指めざされている二十二三歳の青年なんです。もっとも今は四十以上の年輩になっている訳で、ちょうど貴方位の年恰好としかっこうだろうと思われるのですが」
「ハハア。どんな風采の男か、お聞きになりましたか」
「スラリとした色の白い……女のような美青年だったそうです。何でもズット以前から叔父の源次郎氏に学費をみついでもらって、東京で勉強していたけれども、不良少年の誘惑がうるさいからこっちへ逃げて来たという話で……そうしてこの病院の加勢をしながら開業免状を取るというので、村外れの叔父の家から毎日通っていたそうですが、頭のステキにいい、何につけても器用な男で、人柄もごく温柔おとなしい方だったので、養父ちちの玄洋が惚れ込んでしまって、うちの養子にしようかなどと、養母ははに相談した事も、ある位だったそうです」
「ハハア。玄洋先生は余程開けたお方だったのですな」
「そうですね。養父ちちはどっちかと云えば人を信じ易い性質たちだったのでしょう。品夫の実父の源次郎氏の事なども、獣医には惜しい立派な人物だと云って千切ちぎっていたようですが、よく聞いてみるとそれ程の人物でもなかったようで、こんな村の獣医相当の人間だったのでしょう。一見して変り者に見える、黙り屋の無愛想者だったそうで、友達なども養父ちちの玄洋以外に一人も無かったそうです。……趣味といってはただ銃猟だけだったそうですが、これは余程の名人だったらしく、十年ばかり居る間に、S岳界隈の山の案内は、所の猟師よりももっと詳しく知り尽していたという事で……気が向くと夜よなかでもサッサと支度して、鉄砲をかついで出て行くので、あくる朝になってうちの者が気が付く事が多い……そうして帰って来ると、いつもこの上なしの上機嫌で、その獲物をさかなに一パイりながら、メチャメチャに妻君を熱愛するのが又、近所合壁がっぺきの評判になっていたそうですがね。ハハハハハ。しかし、さもない時には、気が向かない限り、どこから迎えに来ても断って、酒ばかり飲んで寝ころんでいるといった調子で……金なども銀行や郵便局には預けずに、残らず現金にして、どこかにしまっておく……どこに隠しているかは妻君にも話さないという変り方だったそうです。……ただその妻君というのが、ソレしゃ上りらしい挨拶上手で、亭主の引きまわしがよかったために、やっと人気をつないでいたという事ですが……」
「なる程。そんな事で、とにかく琴瑟きんしつ相和あいわしていた訳ですな」
「そうです……ところが、その甥の当九郎という青年が実松家に入り込むようになると、その夫婦仲が、どうも面白くなくなったそうです。……これは品夫が生れる前から、長いこと雇われていたお磯という婆さんの話ですが、何故かわからないけれども源次郎氏の当九郎に対する愛情というものは以上だったそうで、当九郎に対するアタリが悪いと云っては、いつも品夫の母親を叱ったものだそうです」
「ハハア……一種の変態ですかな」
「そうだったかも知れません……とにかく今までに無い夫婦喧嘩が、そんな事で時々起るようになったそうですが、そのうちに丁度今から二十年ぜんの事……品夫の母親が、品夫を生み落したまま産褥熱さんじょくねつで死ぬと間もなく、甥の当九郎が又、何の理由も無しに、叔父の源次郎氏と私の養父ちちへ宛てて、亜米利加アメリカへ行くという置き手紙をしたまま、行方不明になってしまったものだそうです」
「ハハア。成る程……ところでその甥はホントウに亜米利加アメリカへ行ったのでしょうか」
「サア……それが疑問の中心なので、その筋では、これが当九郎の叔父殺しの前提だとにらんでいたそうですが」
「成る程……もっとも至極な疑問ですナ」
「……とにかく事件は、その甥が家出してから、三箇月ばかり経ったのちに……明治四十一年の三月の中旬でしたかに起ったものだそうで……源次郎氏は妻君に死に別れた上に、可愛がっていた甥にまで見棄てられて、赤ん坊の品夫と、お磯婆さんの三人切りになったので、多少自棄やけ気味もあったのでしょう。それからのち暫くの間、殺生は無論の事、本職の獣医の方もったらかしにして、毎日のようにK市の遊廓にびたったものだそうで、お磯婆さんや、養父ちちの玄洋が泣いていさめても、頑として聴き入れなかったという事です」
「……いかにも……。そんな性格の人は気の狭いものですからね。ほかに仕様がなかったのでしょう」
「ところがです……ところが、その三月の何日とかは、ちょうど今日のような大雪が降った揚句あげくだったそうですが、その夕方の事、真赤に酔っ払った源次郎氏が雪だらけの姿で、久し振りに自分の家に帰って来ると、茶漬を二三杯掻き込んだまま、お磯が敷いた寝床にもぐり込んでグーグーと眠ってしまったそうです」
「話も何もせずにですか」
「無論、寝るが寝るまで一言も口を利かなかったそうです。これはいつもの事だったそうで……ですからお磯婆さんも別に怪しまなかったばかりでなく、久し振りに枕を高くして品夫と添寝そいねをしたのだそうですが、あくる朝眼を醒ましてみると源次郎氏の姿が見えない。蒲団ふとん藻抜もぬけのからになっているし、台所の戸口が一パイに開け放されて月あかりがしているので、どこに行ったのか知らんと家の内外うちそとを見まわったが、出て行ったあとで又、雪が降ったらしく、足跡も何も見えなかった。それから押入れを開けてみると、自慢のレミントンの二連銃と一緒に、狩猟やまゆきの道具が消え失せている。台所を覗いてみると、冷飯ひやめしを弁当に詰めて行った形跡があるという訳で、初めて狩猟かりに行った事がわかったのだそうです」
「……ヘエ……どうしてそう突然に狩猟かりに出かけたのでしょう」
「それがです。それがやはり甥の当九郎がおびき出したのだ……という説もあったそうですが、しかし一方に源次郎氏はいつでも雪さえ見れば山に出かける習慣があったので、この時も珍らしい大雪を見かけてたまらなくなって出かけたんだろう……という意見の方が有力だったそうです。……一方には又、そうした習慣があるのを当九郎も知っていたので、そこを狙って仕事をしたんだろうという説もあったそうですが、何しろ本人がおしに近いくらい無口な性質たちだったので、何一つわからず仕舞じまいになった訳ですが」
「その前に手紙か何か来た形跡は無かったでしょうか……甥の当九郎から……」
「お磯の記憶によると無かったそうです。……あとで家探やさがしまでしてみたそうですが……」
「……成る程。それから……」

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