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巡査辞職(じゅんさじしょく)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-9 9:16:56  点击:  切换到繁體中文


「何なりと難癖を附けずにゃいられんのが、あの婆さんの癖と見えるなあ。ハハハ」
 それからのち、そのオナリ婆さんが一知の畠仕事に附いてまわって、色々と指図をしているのを見て、
「ソレ見い。何のかのと云うても一知の働らき振りはあの婆さんの気に入っとるに違いないわい。そこで慾の上にも慾の出た婆さんが、出しゃばって来て、あの上にも一知を怠けさせまいと思うて要らぬ指図をしよるに違いない。あれじゃ若夫婦もたまらんわい」
 と云ったり、それから後、深良屋敷のラジオがピッタリと止んで、日が暮れると間もなく真暗になって寝静まるのを見た人々が、
「あれは一知がラジオの械器をこわしたのじゃないらしい。婆さんが費用をしんで止めさせたものに違いない。一知さんも可哀そうにのう。タッタ一つの楽しみを取上げられて」
 と同情した位の事であった。
 しかるにその一知夫婦の苦心の麦の収穫が、深良屋敷の算盤に乗った頃から、まだ一個月と経たぬ今朝けさになって、その牛九郎夫婦が殺されている……というのは、普通の場合の意外という以上の意外な意味がこもっているように思われるのであった。だから、これは非常に簡単明瞭な、偶発的な事件か、もしくは一筋縄で行かない深刻、微妙な事件に相違ない……といったような予感が、今朝けさ、最初に一知の美しい顔を見た瞬間から、ヒシヒシと草川巡査の疲れた神経に迫って来たのであった。ありふれた強盗、強姦、殺人事件にばかりぶつかって最初から犯人のアタリを附けてかかる流儀に慣れ切っている草川巡査は、この事件に限って、実際、暗黒の中を手探りで行くような気迷いを感じながら、駐在所を出たものであった。
 ところが、それから間もなく草川巡査が、山の中の近道へ廻り込んだ時に、深良一知青年が、背後うしろから叫んだ声を聞くと、そのトタンに草川巡査の心気が一転したのであった。勉強疲れで過敏になっている草川巡査の神経の末梢に、一知青年の叫び声は、あまりに手強く、異常に響いたのであった。それは無論、深良一知が偶然に発した叫び声で、別段に深い意味も何も無い驚きの声に相違ないのであったが。これが所謂、第六感というものであったろうか。何故という事なしに、
「犯人はドウヤラこの一知らしい」
 という直感が、草川巡査の脳髄のドン底にピインと来たのであった。それも、やはり何の理由も根拠も無い。ただそんな風に感じただけの感じであったが、それでもそうした無意識の叫びの中に、一知の心理の奥底に横たわっている普通とは違った或る種の狼狽と恐怖心が、偶然にも一パイに露出しているのを、病的に過敏になっている草川巡査の神経の末梢がピッタリと捕えたのであろう。一知を従えて山の中を分けて行くわずかに「コイツが犯人に相違ない」という確信が、草川巡査の脳髄の中へグングンと高潮して来るのを、どうする事も出来なくなった。それに連れて草川巡査の意識の中には、
 ――何という図々ずうずうしい奴だろう――
 ――絶体絶命の動かぬ証拠を押える迄は、俺は飽く迄も知らん顔をしてくれよう――
 といったような極度に意地の悪い考えと、
 ――コンナ柔和な、美しい、親孝行で評判の模範青年に疑いをかけたりするのは、俺のアタマがどうかなっているせいじゃないか知らん――
 ――万一、実際の証拠が揚がらないとすれば、コンナにも美しい、若い夫婦の幸福を出来る限り保護してやるのが、人間としての常識ではないか――
 といったような全然、相反あいはんする二つの考えが、草川巡査の神経の端々を組んず、ほぐれつ、転がりまわり初めたのであった。

 太陽はまだ地平線を出たばかりなのに、草川巡査と一知が分けて行く森の中にはせみの声が大浪を打っていた。その森を越えた二人は無言のまま、直ぐ鼻の先の小高い赤土山の上にコンモリと繁った深良屋敷の杉の樹と、梅と、枇杷びわと、だいだいと梨の木立に囲まれている白い土蔵の裏手に来た。草川巡査はあとからあとから湧き起って、焦げ付くように消えて行く蝉の声のタダ中に、昨夜ゆうべのままの暗黒を閉め切ってあるらしい奥座敷の雨戸をグルリとまわった時に、云い知れぬ物凄い静けさを感じたように思ったが、やがて半分いたままの勝手口まで来ると、その暗い台所の中で、何かしていた美しい嫁のマユミが、頭に冠っていた白い手拭を取って、ニコニコしながら顔を出した。
「あら……おでなされませ」
 と叮嚀ていねいにお辞儀をしたが、その笑顔を見ると、まだ両親が殺されている事を少しも知らないでいるらしい。極めて無邪気な、人形のような美しい微笑を浮かべていたので、こんな事に慣れ切っていた草川巡査が、何故ともなく慄然ぞっとさせられた。
「マユミさんはまだ何も知らんのかね」
 と草川巡査は眼を丸くしたまま小声でそう云って背後うしろを振返ってみた。汗を拭いていた一知青年が、急に暗い、おびえたような眼付をしてうなずいたのを見ると、草川巡査も何気なく点頭うなずいてマユミを振返った。
「マユミさん。今、神林先生が来はしなかったかね」
 マユミはいよいよ美しく微笑んだ。
「アイ。見えました」
「その時にマユミさんは起きておったかね」
「イイエ。良う寝ておりました。ホホ。神林先生が起して下さいました」
「ウム。何か云うて行きはしなかったかね」
「アイ。云うて行きなさいました。巡査さんを呼んで来るから、お茶を沸かいておけと云って走って出て行きなさいました。それで……アノ……ホホホ……」
「何か可笑おかしい事があるかね」
「……アノ……その入口に引っかかって転んで行きなさいました……ホホホホホホ……」
「うむ。ほかには何とも、神林先生は云うて行かなかったかね」
 マユミは美しい眼を、すこし上に向けて考えていたが、やがて大きく一つ点頭うなずいた。
「アイ。云うて行きなさいました。アノ奥座敷へはドンナ事があっても、行く事はならんと云うて行きなさいました」
「それでマユミさんは奥座敷へ行かなかったのかね」
「アイ。まだ二人とも寝ていんなさいます」
「ウム。アンタは昨夜ゆうべ、良う睡ったかね」
「アイ。一番先に寝てしまいました。ホホホ……」
「ハハハ。そうかそうか。よしよし……」
 台所に這入りかけていた草川巡査は、そういうマユミの無邪気な笑顔を見ているうちにフッと気が変った。何故ともなくスルリと身を引いて、タッタ一人で家の周囲をグルリと一廻ひとめぐり巡回してみたが、それはやはり職務のために緊張し易い警官特有の第六感の作用であったかも知れない。特に地面の上の足跡や、雨戸の合わせ工合、木立の間の下草の乱れなぞを、極めて注意深く見てまわったものであったが、何一つコレはと気付くようなところが無かった。
 しかしそのうちうちの外側を七分通りまわって、ちょうど台所の裏手に当っている背戸せどの井戸ばたまで来ると、草川巡査はピタリと足をめた。佩刀サアベルをシッカリと握ったまま、その井戸端の混凝土タタキの向側に置いてある一個の砥石といしに眼を付けた。
 それはマン丸く茂った山梔木くちなしの根方の、ちょっと人眼に附きにくい処に、極めて自然な位置に投出されている相当大きな天草砥石であった。一面に咲揃うた白い山梔木の花が、そこいら中に甘ったるい芳香を漂わしていたが、その灰色の砥石の周囲に、雨の力で跳ねかかっている地面から一続きの泥が、何か強い力で打たれたようにボロボロと剥落しているばかりでなく、その砥石の全体が、一分か五厘かわからないが一方にズレ寄っている形跡が、ハッキリと土の上に残っていた。
 ……これは何か重たい刃物か何かのを、抜けないように嵌込すげた証拠らしいぞ……そう思い思い草川巡査は、自分が犯人であるかのように青褪めた、緊張した表情で、そこいらを見まわした。台所で一知が茶漬を掻込かっこんでいるらしい物音に耳を澄ますと、直ぐにしゃがんで、片手で砥石を持上げてみた。砥石の下には頭をタタキ潰された蚯蚓みみずが一匹、半死半生に変色したまま静かに動いていた。草川巡査は、その蚯蚓を凝視しながら、砥石をソッと元の通りに置いた。
 そこへ飯を喰い終った一知が、帯を締め締め、草履ぞうり穿いて出て来たので、草川巡査は素知らぬ顔をして台所の入口へ引返して来た。
「殺した奴はどこから這入って来たんか」
「ここから這入って来たものと思います」
 一知は、入口の敷居を指した。学問があるだけに言葉附がハッキリしていた。気分もモウすっかり落付いているらしく、平生いつもの通りに潤んだ、悲し気なまばたいていた。
「この引戸が半分、開放あけはなしになっておりました」
 草川巡査は一知青年と二人で暗い台所に這入った。継ぎめだらけの引戸の締りを内側からあらためてみた。
「成る程、ここの帰りはこの掛金を一つ掛けただけだな」
「ハイ。その掛金の穴へ、あのへっついの長い鉄火箸ひばしを一本刺しておくだけです」
昨夜ゆんべも刺しておいたのか」
「ハイ。シッカリと刺しておいたつもりでしたが、今朝けさ見ますとその鉄火箸ひばしは、この敷居の蔭に落ちておりました」
 その板戸の継ぎ嵌めだらけの板片いたぎれを一つ一つに検めていた草川巡査は、
「よし。昨夜ゆうべの通りに今一度、内側から締めてみい」
「ハイ……」
 一知が内側から戸を閉めて、掛金を掛けて、火箸をゴクゴクと挿込む音がした。すると草川巡査は、その継嵌つぎはめの板片の中の一枚を外から何の苦もなくパックリと引離して、そこから片手を突込んで鉄火箸ひばしを引き抜いて、掛金をはずした。その板片と火箸を両手に持ったまま引戸を静かに押開いて、ノッソリと土間へ這入って来ると、その土間の真中に突立っている一知の真青な顔を無言のままニコニコと見上げ見下した。
 一知の額には生汗がジットリと浮出していた。西洋の女のように白い唇をわななかして、今にも気絶しそうに眼をパチパチさせた。それを見ると草川巡査の微笑が一層深くなった。
「馬鹿だな。……この板を打付けた釘の周囲まわりが、スッかり腐っているじゃないか。これがわからなかったのか……今まで」
 一知は寝巻の袖で汗を押拭い押拭いペコペコと頭を下げた。
「……すみません……すみません……」
 草川巡査は手に持った板片の釘痕くぎあとを合わせて、スッポリと元の板戸の穴へ嵌込はめこみながら、なおも微笑を深くした。
「馬鹿だよお前は……俺に謝罪あやまっても何もならんじゃないか。ええ。一軒のうち主人あるじとなったら……ことにコンナ一軒家の中で、年った両親や、沢山のお金の運命を受持っている若い人間は、モウすこし戸締りや何かに気を付けんとイカンじゃないか。お蔭でコンナ間違いが出来たじゃないか……ええ?……」
 と縮みになった一知は、一生懸命に気を取直そうとしているらしく、無言のまま何度も何度も襟元をつくろい直した。
「足跡も何も無かったんか。そこいらには……」
「……ハ……ハイ。ありま……せんでした。山の下から……この踏石を踏んで来たもの……かも知れません」
 一知は先に立って表に出た。国道から曲り込んで、深良屋敷へ上って来る赤土道に、一尺置ぐらいに敷並べてある四角い花崗岩みかげいし平石ひらいしを、わななく手で指した。草川巡査はうなずいた。腰をかがめて、その敷石の二つ三つを前後左右から透してみた。
「足跡も何も無い……ところでお前達は昨夜ゆうべドコに寝とったんか」
「この台所に寝ておりました」
「何も気付かなかったんか……それでも……」
 何を思い出したのか一知が、突然に真赤になって自分の影法師を凝視した。その赤い横頬と、青い襟筋が朝日に照されて、女のようになまめかしかった。
「マユミさんと一緒に寝とったんか」
 一知は首筋まで真赤になった。井戸端で水を汲んでいるマユミの背後うしろ姿をチラリと見た。
「いいえ。彼女あいつは毎晩、両親の吩付いいつけで直ぐ向うのなかに寝る事になっておりますので……」
「ホントウか。大事な事を聞きよるのだ」
「ホントウで御座います。一緒に寝た事は……今までに……一度も……」
 そう云ううちに一知は興奮したらしく早口になりかけたが、忽ちサッと青くなって口籠った。云うのじゃなかった……といった風に唇をギュッと噛んで、忙しく眼瞬まばたきをした。その顔を草川巡査は穴の明く程凝視したので、一知はイヨイヨ青くなって頸低うなだれた。
「フウム。妙な事を云うのう……マッタクか……それは……」
 一知はうらめしそうな、悲痛な顔を上げて草川巡査の顔を見たが、そのには一パイに涙が溜っていた。
「ハイ……しかし……それは……今度の事と……何の関係も無い事です」
「うむうむ。そうかそうか。それでラジオの音に紛れてマユミさんと一緒に寝よったんか。ハハハ」
 一知は頸低れたまま涙をポトポトと土間へ落した。かすかにうなずいた。
「アハハハ。イヤ。そんな事はドウでもえ。お前達がよる位置がわかればえのじゃが……ところで、それにしても怪訝おかしいのう。二人とも犯人の通り筋に寝ておったのに、二人とも気付かなかったんか」
 一知が深いタメ息をしいしい顔を上げた。
「ハイ。私が気付きませんければ……彼女あいつは死人と同然で……寝ると直ぐにグウグウ……」
 と云ううちに又、赤い顔になって頸低れた。
「フム。毎晩、何時頃に寝るのかお前達は……」
「両親達はラジオを聴いてから一時間ばかりで寝附きますから、私たちが寝付くのはドウしても十二時過になっておりました。もっともこの頃は九時か十時ぐらいに寝ているようです。ラジオを止めましたから……」
「何故ラジオを止めたのかね」
養母おっかさんが嫌いですから……」
 と云ううちに一知は又も無念そうに唇を噛んだ。
「ふうむ。惨酷ひどいお養母っかさんじゃのう。起きるのは何時頃かね」
「大抵今朝けさぐらいに起きます」
夜業よなべはせぬのか……わら細工なぞ……」
「致しません。時々小作米とか小遣の帳面を枕元の一しょくの電燈で調べる位のことで、直ぐに寝てしまいます」
老人としよりというものはナカナカ寝付かれぬものというが、やっぱりソンナに早く寝てしまうのか……」
「さあ。私はよく存じませぬが……疲れて寝てしまいますので……」
 その時に井戸端で二人の問答を聞いていたマユミが、草川巡査の顔を振返った。何が可笑しいのか突然にゲラゲラと笑ったので、草川巡査は又もゾッとさせられた。

 草川巡査は妙な顔をしたまま靴を脱いで、台所の板の間に上った。以前の母家おもやから持って来たものであろう。家に不似合な大きな戸棚の並んでいる間から、なかに通う三尺間じゃくまを仕切っている重たい杉の開戸ひらきどを、軍隊手袋ぐんてめた両手で念入りに検査した。それは真鍮製のかなり頑固な洋式の把手とってで、鍵穴の附いた分厚い真鍮板が裏表からガッチリと止めてある。それが、やはりこのうちに不似合なものの一つに見えた。
「この把手はお前が取付けたんか」
「いいえ。養母おっかさんが取付けたのだそうです。一軒家だから用心に用心をしておくのだと云って、養母おっかさんが自分で町から買うて来て、隣村の大工さんに附けてもろうたのだそうです」
「そうするとこのうちに引移った当時の事だな」
「よく知りませんがヨッポド前だそうです」
「フム。毎晩この鍵を掛けて寝るのか」
「ハイ。私が寝ると、養母おっかさんが掛けに来ます」
「そうすると鍵は養母おっかさんが持って、寝ている訳じゃのう」
「ハイ……そうらしう御座います」
「うむ。惨酷ひどい事をするのう」
 そう云って草川巡査は、うなだれている一知の顔を見たが、暗いので顔色はよくわからなかったけれども、モウ肩を震わして泣いているらしかった。寝巻浴衣の袖で眼を拭い拭い潤んだ声で云った。
「……あきらめて……おります……」
 草川巡査は、そのまま暫く考え込んでいたが、やがて軽いタメ息をしてうなずいた。
「ふうむ。成る程のう……しかしこれ位の鍵を一つ開ける位、窃盗常習犯にとっては何でもないじゃろう」
 そう云って、今一度タメ息をしいしい一知青年をかえりみた。
「……一緒に来てみい。奥座敷へ……」

 閉め切った古い雨戸の隙間と、夥しい節穴から流れ込む朝の光りに薄明るくなっている奥座敷に来てみると、成る程無残な状態ありさまであった。滅多にコンナ事に出会わない村医の神林先生が周章あわてて逃げ出して行ったのも、無理がなかった。
 古ぼけた蚊帳かやの中で、別々の夜具に寝ていた老夫婦は、殆んど同時に声も立て得ぬ間に絶息したものらしい。父親の牛九郎の方は仰臥あおむけしたまま、禿上った前額部の眉の上を横筋違よこすじかいに耳の近くまでザックリと割られて、にわとりの内臓みたような脳漿のうみそがハミ出している。また姑のオナリ婆さんは俯伏うつぶせになって、枕を抱えて寝ていたらしく、後頭部を縦に割付けられていたが、これは髪毛かみのけがあるので血が真黒に固まり付いている上に、二人の枕元の畳と蒲団の敷合わせが、血餅けっぺいでつながり合って、小さな堤防のように盛上っていた。いずれも極めて鋭利な重たい刃物で、アッと云う間もない唯一撃ひとうちに片付けられたものと見えた。蚊帳には牛九郎老人の枕元に血飛沫ちしぶきがかかっているだけで、ほかに何の異状も認められないところを見ると、二人の寝息をうかがった犯人は、大胆にも電燈をけるか何かして蚊帳の中に忍び入って、二人の中間にしゃがむか片膝を突くかしたまま、右と左に一気に兇行を遂げたものらしい。何にしても余程の残忍な、同時に大胆極まる遣口やりくちで、その時の光景を想像するさえ恐ろしい位であった。
 草川巡査は持って来た懐中電燈で、部屋の中を残る隈なく検査したが、何一つ手掛になりそうなものは発見出来なかった。ただ老夫婦の枕元に古い、大きな紺絣こんがすりの財布が一個落ちていたのを取上げてみると、中味は麻糸に繋いだ大小十二三の鍵と、数十枚の証文ばかりであった。草川巡査はその財布をソッと元の処へ置きながらゆびさした。

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