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黒白ストーリー(こくびゃくストーリー)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-9 9:05:41  点击:  切换到繁體中文


     ―― 12 ――

 帝劇のステージで智恵子は大喝采の中に持ち役をつとめ終った。
 徳市はフロックコートに絹帽シルクハットを冠って花束を持って楽屋に待っていた。
 智恵子は母時子の手にすがって這入って来た。徳市の花束を受けると涙ぐましい程喜んで母に見せた。
 徳市は智恵子母子おやこに立派な服装をした老紳士を紹介した。
  私の叔父です……
  足達万平まんぺいと申します……
  父同様のもので……
 万平は鷹揚な態度で名刺をさし出しながら、
  お近付きに……
  お茶を一ツ……
  お差し支えなければ……
 と二階の食堂の方を指した。
 智恵子母子は感激に満ちたお辞儀をした。

     ―― 13 ――

 四人の席は帝劇の食堂で注目の焦点となった。
 王冠堂の番頭久四郎は友達二人とはるか向うの席でビールを飲んでいたが、四人の姿を見ると驚いてフォックを取り落した。
 友達は怪しんで理由わけを尋ねた。
 久四郎は顔をじっと伏せて友達の顔を見まわした。苦笑しながら唇に手を当てた。
 智恵子四人は立ち上った。
 万平は徳市に眼くばせをした。智恵子母子おやこに向い叮嚀に一礼して別れを告げた。
 徳市は不満そうな顔をしてかしらを下げた。
 智恵子母子は二人を引き止めた。
  まあこのままでは……
  是非宅まで……
  何も御座いませんけど……
  お忙しいところ恐れ入りますけど……
 万平は徳市に眼くばせしながら一二度辞退した。
 徳市はワナワナきょろきょろした。
 万平はとうとう承知した。
 三人は喜んだ。万平を取り巻いて自動車に乗り込んだ。
 二三名の紳士が智恵子のあとを見送って眼を丸くし合った。
  凄い腕だな……
  驚いた……
  あの男嫌いが……

     ―― 14 ――

 万平と徳市は星野家で晩餐の御馳走になった。
 万平は帰りともながる徳市を引立てるようにしていとまを告げた。

     ―― 15 ――

 徳市は単身背広姿で星野家を訪れた。
 智恵子母子おやこは引き止めてなれなれしくもてなした。
 徳市は盛んに母子の機嫌を取った。すっかり母子と打ち解けてしまった。
 母親の時子は徳市を深く信用したらしく真面目な内輪うちわの話を初めた。
 徳市は勿体ぶって軽くうなずきながら聞いた。幾度かあくびを噛み殺した。
 時子は熱心に話を進めて最後に云った。
  今手許にある株券を……
  三万円で売りたいのですけど……
  あいにく今は安いので……
 徳市は三万と聞いて眼を丸くした。そうして妙にふさいでしまった。
 智恵子は気軽に笑いながら云った。
  あなたの叔父様に……
  買って頂けませんかしら……
  あなたなら尚更ですけど……
 徳市は絶望的に頭を左右に振った。一層鬱ぎ込んだ。
 智恵子は徳市の顔をのぞきながら心配そうに問うた。
  あなたの叔父様は……
  厳格な方……
 徳市はすっかり鬱ぎ込んでしまった。絶望的に云った。
  そうでもないんですけど……
  とにかく相談してみましょう……
 智恵子母子の眼は急に輝やいた。熱情を籠めて云った。
  ええ……
  是非どうぞ……
 徳市はうなだれて星野家を出た。
 その時来かかった王冠堂の番頭久四郎は徳市とすれ違うとふり向いた。たしかに徳市と認めると帽子を眉深まぶかくしてあとをつけた。

     ―― 16 ――

 徳市はボンヤリと山勘横町へ来た。憲作の事務所の扉を押した。階段を昇った。
 久四郎は入口の処であたりを見まわした。入口の扉に耳を寄せて徳市の足音を聴いた。そのまま近所の物蔭へ隠れた。
 徳市は屋根裏のへやへ来た。ストーブに石炭を投げ込んで火をつけてあたりながら考えた。
 憲作が帰って来た。徳市の眼の前に突立って見下した。
  どうしたんだ……
  女に振られたのか……
 徳市は力なくかしらを左右に振った。
 憲作は腰を下して徳市と膝をつき合わせた。
  何でも話してみろ……
  力になってやる……
 徳市はうるさそうに頭を振った。
 憲作はポケットから新しいさつの束を出して机の上に積んでトンとたたいた。徳市の顔をグッと見込んで笑った。
 徳市はチラリと札を見た。手を振って顔をそむけた。
 憲作は妙な顔をした。札を掴んで徳市の鼻の先に突きつけてしきりに効能を説き立てた。
 徳市はいよいよ浮かぬ顔で聞いた。おしまいに憲作が突き出した札を押しのけながら腹立たし気に云った。
  ダメダ……
  本物でなくちゃ……
  絶対に……
 憲作は札を持ったままジッと徳市の様子を見た。
 徳市の眼から涙が一すじ流れ出て頬を伝うた。
 憲作はポンと膝を打った。
  わかった……
  貴様は星野家を救おうと云うんだな……
  よし……話せ……
  工夫してやる……
 徳市は図星を刺されてギョッとした。大きな溜息を一つした。うなだれて考えた。やがて思い直して憲作の顔を見た。うなだれたままポツポツ話し出した。
 憲作は腕をこまぬいて聴いた。時々眼を丸くした。最後に高らかに笑った。
  ナアーンダ……
  それ位の事か……
 徳市は眼を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みはった。
 憲作は札の束を両手でしっかりと持って徳市に見せた。
  イイカ……
  この札でこの株を買うんだ……
  買ったその株をすぐに売って現金にかえる……
  それから星野家へ行って贋札とすりかえる……
  俺はその間の利益を取る……
  罪にはならない……
  どんなものだ……
 徳市は喜びの余り口をアングリした。憲作にすがり付いて拝んだ。
 憲作は悠然と笑った。徳市の耳に口を寄せて何事か囁やいた。
 徳市はいくつもうなずいた。
 憲作はへやの隅から酒とコップを取って徳市にすすめた。
 徳市は神妙に手を振った。
 憲作は笑って一杯干した。二杯目を注ごうとする時フト階下の方に耳を傾けた。コップと酒を隅に片付けて窓の破れから外をのぞいた。急いで引返して来て徳市の耳に何事か囁やきつつ札の束を仕舞しまった。
 徳市はワナワナふるえ出した。
 憲作は徳市の手を引いて立ち上った。
 数名の警官が乱入した。
 憲作はピストルを放った。
 警官が二名倒れた。
 憲作と徳市は屋根から逃れ去った。

     ―― 17 ――

 徳市と万平(憲作)は自動車で星野家を訪れた。
 智恵子母子おやこは喜んで出迎えた。
 徳市は応接間で智恵子と話した。
 万平と時子は智恵子の父の肖像を掲げた書斎で相談をした。
 時子はやがて手提てさげ金庫から株券の束を出して万平の前に置いた。
 万平は株券を調べた。満足の笑みを浮かめた。懐中から札の束を出して机の上に置いた。
  お望み通りの価格で……
  唯今頂戴致しましょう……
 時子は深く感謝してうなずいた。
 万平は株券と札の束を取り換えた。株券を手提鞄の底深く仕舞った。
 時子は手先をすこし震わしながら札の束を勘定し終って叮嚀にお辞儀をした。手提金庫に仕舞った。
 憲作は帽子と外套を取って立ち上った。
  私はすこし急ぎますから……
  これで失礼します……
  智恵子さんには……
  いずれまた……
 徳市がヒョッコリ応接間から出て来た。笑いながら時子に何か云おうとして万平の様子に眼を付けた。サッと顔色をかえた。
  アッ……
  どこに行くんです……
  僕を残して……
 万平はイヤな顔になったが間もなくニッコリした。
  ナニ……チョッと急ぐからね……
  お前はゆっくりしたがいい……
  あとから事情を話すから……
 徳市は時子と万平の顔を見比べた。
 時子は智恵子に事情を話した。
 智恵子は万平と徳市に感謝のかしらを下げた。徳市の手を取って固く握り締めた。
 徳市はブルブルと身をふるわした。
 万平は徳市に凄い眼付きをチラリと見せながら帽子を脱いで、一同に一礼すると悠々と入口の扉に手をかけた。
  では……
 徳市は呆然と見送っていたが忽ち恐ろしい顔になった。万平に飛び付いて鞄を引ったくった。書斎へかけ込んで手提金庫の中から札の束を掴み出し、鞄の中の株券と入れかえると無言のまま万平の前に突き出した。扉の外をゆびさした。
 万平は凄い顔をしながら鞄を受け取った。
  何をするのだ……
  気でも違ったか……
 徳市は恐ろしい形相になった。頭の毛を掻き※(「てへん+劣」、第3水準1-84-77)むしりながら床の上に坐り込んだ。
  もう何もかも白状します……
  こいつは叔父でも何でもありません……
  せ金使いです……
  僕を手先に使って……
  ああ許して下さい……
 万平は眼を伏せて冷やかに笑った。智恵子の顔を見ながら一礼した。
  どうも失礼ばかり……
  では取引は又そのうちに……
  今日はこれで……
 智恵子と母は恐れおののきつつ礼を返した。
 万平の憲作は悠然と外に出た。
 徳市は飛び上ってあとを閉めた。
 憲作は表に出るとあたりを見まわした。怪しい人影をそこここに認めた。急いでうちの中へ引返そうとした。扉は固く締まってかなかった。
 数名の警官が憲作を取り巻いた。
 憲作は短銃ピストルを揚げて睨みまわした。
 警官の一人が同様に拳銃を揚げた。
 徳市は扉を急に開いた。
 憲作はうしろによろめいた。短銃ピストルくうを撃った。警官の弾丸たまに撃たれて入口へ倒れ込んだ。
 徳市はうしろから憲作を抱き止めた。
 警官が駈け寄って徳市に礼を云った。大勢で憲作を担いで行った。
 徳市はあとを見送って両手で悲痛な表情を蔽うた。何事か決心をしたようにうなずくと両手を離して智恵子を悲し気な眼付きで見た。両手で智恵子の手を固く握って、涙をハラハラと流した。
  智恵子さん……
  僕を……
  諦めて下さい……
 徳市は両手をハッと放すと表に飛び出した。
 智恵子はあとから縋り付いた。
 徳市はふり放して警官のあとを追おうとした。
 智恵子はあとから出て来た時子と二人でやっと徳市を押えめた。
 三人は涙を流して手を握り合った。
 智恵子ははるかに運ばれて行く憲作の死骸をゆびさした。
  あなたの秘密は……
  あそこに消えて行きます……
  あなたはきよい方です……
 徳市は智恵子を抱き締めた。





底本:「夢野久作全集3」筑摩書房
   1992(平成4)年8月24日第1刷発行
初出:「黒白」
   1925(大正14)年5月号~9月号
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
※この作品は初出時に、署名「杉山萠圓」で発表されたことが、解題に記載されています。
2005年9月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • [#…]は、入力者による注を表す記号です。
  • 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。
  • 傍点や圏点、傍線の付いた文字は、強調表示にしました。

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