ヒイラ、フウラ、ミイラよ
ミイラのおべべが赤と青
そうしておかおが真黒け
四つよく似たムクロージ
五ついつまでねんねして
六つむかしの夢を見て
何千万何億年
やっとこさあと眼がさめて
九つことしはおめでとう
とんだりはねたり躍ったり
とうとう一貫借りました。
花子さんは夢中になってお友達と羽子をついているうちに、羽子板のうらの美しい姉さんの顔の頬ぺたが、いつの間にか羽子のムクロジに当って、ポコンと凹んでいるのを見つけました。
花子さんはわっと泣き出して、おうちへ駈け込んで、お母さんの膝へ泣き伏しました。
「お母さん、堪忍して頂戴。羽子板の姉さんのお顔がこんなになりました」
お母さんは背中を撫で、
「そうですか、構いません。これから大切になさい。もう日が暮れますから、御飯をたべておやすみなさい」
と云われました。
花子さんは羽子板の美しい姉さんの顔が可愛そうでなりませんでした。どうかしてもとの通りにならないかと思い、ひょいと顔を上げて枕元に置いた羽子板を見ると、ビックリしました。美しい姉さんは、いつの間にか羽子板を抜け出して枕元に座って、頬ペタの大きく凹んだ処を押えてシクシク泣いています。
花子さんは思わず飛起きて、飛び付きました。
「あら、姉様、堪忍して頂戴。妾が悪いのですから」
と泣き声を出してあやまりましたが、姉さんは中々眼をあけません。奇麗な袖で顔を押えて、シクシク泣いているばかりです。花子さんはどうしようかと思いました。
ところへどこからか、
「それは花子さんが悪いのではない。私が悪いのです」
と云うしわがれた声が聞えました。驚いて姉さんと花子さんとが顔を挙げてそちらを見ますと、それは恐ろしい、真黒い、骸骨のような木乃伊でした。
木乃伊は赤と青の美しい着物を引きずって、恐ろしさにふるえている姉さんと花子さんの傍へしずしずと近寄りながら、白い歯を出してニッコリ笑いました。
「御心配なさいますな。私が姉さんの頬の凹んだ処はきっと直して上げます」
と云ううちに二人を抱き上げて、赤と青の着物をパッと広げると、そのまま大空はるかに舞い上りました。
二人は夢のようになって抱かれて行きますと、木乃伊の青と赤の着物は雲の中をひるがえりひるがえり、お太陽様も星も月もはるか足の下にして飛んで行きます。やがて下の方に三角の塔や椰子の樹や大きな川や繁華な都が見えて来ました。木乃伊はそれを指して、
「あれが私の故郷のエジプトの都です。三角の塔はピラミッドで、川はナイル河という河です」
と云う中に、都の中で一番大きな建て物の窓から中へ降りて行きました。その時気が付きますと、木乃伊はいつの間にか当り前の人間の、しかも立派な王様の姿にかわっておりました。
王様はニッコリ笑って申しました。
「私はこのエジプトの王ラメスというものです。昨日、花子さんが私の生まれ代りの羽子のムクロジにあたたかい息を何べんもはきかけて下さいましたので、二千年も昔に生き返る事が出来たのです。その御礼に今日は国中の者を集めて御馳走をします」
やがて三人は眼もまばゆい大広間に来ると、王様を真中に、姉さんは右に、花子さんは左に腰をかけました。
先ずこの国第一のお医者が来て姉さんの鼻をフッと吹きますと、姉さんの頬ペタは忽ちもとの通りにふくらみました。それから、二人ではとても食べ切れぬ程の珍らしい御馳走をいただきました。それから、この国中の踊りの名人の舞踏を見せてもらいました。
とうとうおしまいには王様も堪らなくなったとみえて、
「久し振りだからおれも一つ踊ろう」
と飛び出して踊り出しました。
その時王様はこう云って唄いました。
ヒイラ、フウラ、ミイラよ
ミイラの王様お眼ざめだ
赤い青いおべべ着て
黒いあたまをふり立てて
はねたり飛んだりまわったり
五ついつまでいつまでも
むかしのまんまのひとおどり
なんでもかんでも無我夢中
やめずにとめずに九とう
とうとう日が暮れ夜が明けて
いつまで経っても松の内
花子さんも羽子板の姉さんも夢中になって見ておりますと、王様の踊りはだんだんはげしくなって、次第次第に高く飛び上って、とうとう大広間の天井を突破って、虚空はるかに飛び上って、どこへ行ったか見えなくなってしまいました。
ハッと思って気がつきますと、夜が明けて、花子さんは矢張り寝床の中にいて、羽子と羽子板をしっかりと抱いているのでした。
羽子板の姉さんの頬はいつの間にか、またもとの通りにふっくらとなっておりました。
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