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オシャベリ姫(オシャベリひめ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-8 14:15:44  点击:718  切换到繁體中文


「ピークイ、ピークイ。ピークイ、ピークイ。クイッチョ、クイッチョ。クイッチョ、クイッチョ。チョ、チョ。チョン、チョン。チョングリ、チョングリ。チイヤ、チイヤ。チャルイヨ、チャルイヨ。チャルイヨ、チャルイヨ」
 オシャベリ姫はあんまり八釜やかましいのでびっくりして、
「まあ。何てやかましいんでしょう。そんなにしゃべっちゃ、私の耳がつぶれてしまうよ。やめて頂戴、やめて頂戴」
 と云いましたが、雲雀たちはなかなかやめません。なおもよってたかってしゃべりつづけます。
 オシャベリ姫はあんまり雲雀たちにシャベりつけられて、これはたまらぬと両手で耳を押えて逃げだしますと、雲雀たちはなおもしゃべりつづけながら追っかけて来ます。
 その上にいつどこから出て来たか、雲雀の兵隊や巡査までが繰出して来て、
「キイキイ、ピイピイ」
 と叫びながら、広い野原を逃げまわるオシャベリ姫を追っかけまわしました。その恐ろしいこと……。
 オシャベリ姫はもう夢中になって泣きながら逃げまわっていましたが、やがて草の中にあった深い井戸の中へ真逆様まっさかさまに落ち込んで、そのままズンズンどこまでも落ちて行きました。
 姫は又ビックリして、
「アレ、助けて」
 と叫びましたが、あんまりの恐ろしさに眼をまわしてしまいました。
 けれども間もなく又気がついて見ますと、今度はいつ連れて来られたのか、立派な寝床の上に寝かされて、頭の下には柔かい枕が置いてあります。
 どうしたのかしらんと思って、そこいらを見まわしますと、又ビックリしました。
 枕元には人間の大きさ位の青蛙の看護婦が二人、黄金きん色の眼を光らして、白い咽喉のどをヒクヒクさせながら腰をかけています。
 青蛙の看護婦はオシャベリ姫が眼をさましたのをみると、すぐに立ち上って、
「キャッ、キャッ、キャッ、キャッ」
 と呼びました。
 すると向うの室で、
「クン……クン」
 という声がきこえまして、黒い立派な洋服を着て眼鏡をかけた大きないぼ蛙が、黒い皮の鞄を提げてノッサノッサと出て来ました。
 そのいぼ蛙は姫のそばへ来ると、鞄から虫眼鏡を出して、姫の顔を眼から鼻から口と一つ一つていねいにのぞきましたが、おしまいに黒い冷たい手で姫の手を掴もうとしました。姫は驚いて、
「アレ」
 と云って手を引っこめますと、疣蛙は眼をパチクリさせていましたが、やがて青蛙の看護婦に、
「クフン、クフン」
 と何か云いつけて出て行ってしまいました。
 そうすると、それと入れ違いに今度は赤い兵隊の服を着た赤蛙が先に立って、あとから最前の疣蛙が這入って来ると、立派な金モールの服を着た殿様蛙と、その奥さんらしいやさしい顔をした青蛙が這入って来ました。この殿様蛙夫婦が這入って来ると、室中にいた疣蛙も赤蛙も青蛙もみんな一時に床の上にひれ伏してしまいました。
 けれどもその中で疣蛙だけは頭を下げたばかりで、やがて殿様蛙の夫婦をつれて姫の前に来て、姫の眼や口や鼻を指さして、
「クンクンクンクン」
 と何か話しますと、殿様蛙夫婦は眼をクルクルまわしてうなずいております。
 姫は可笑しくなって来ました。
「妾は今蛙の国に来て、蛙の病院に入れられているのに違いない。疣蛙はここのお医者さんで、殿様蛙はきっとここの王様で妾を見に来たのに違いない。妾の顔と蛙の顔とは大変に違うから珍らしがっているのだろう」
 こう思っているうちに、殿様蛙は赤蛙の兵隊を連れてサッサと帰って行きました。
 そうすると大変です。
 蛙の国の王様がわざわざ病院までオシャベリ姫を見に来たということを国中の蛙はみんなきいたらしく、いろんな蛙がゾロゾロと蛙の病院の入り口から這入って来ては姫の顔をのぞき込みます。虫眼がねを出してのぞき込むものもあります。ノートブックを出して何か書き止めて行くものもあります。または写真機を出して撮影うつして行くものなぞいろいろありまして、中には何やらお話をしかけるものもあります。
「グレレ、グレレ、グレレ、グレレ
 ケオコ、ケオコ」
 雲雀の国でりていたのでさっきからだまって我慢をしていたオシャベリ姫は、もう我慢し切れなくなって吹き出しました。
「オホホホホ。ああ、可笑しい可笑しい。何ておかしい言葉でしょう」
 オシャベリ姫がこう云いますと、蛙たちはビックリしたらしく、みんな顔を見合わせましたが、やがて又前よりも一層烈しくオシャベリ姫にシャベリかけました。
「グル、グル、グル
 グルイレ、グルイレ、グルイレ」
「クロ、クロ、クロ、クロ
 プリイ、プリイ、プリイ
 プロロ、プロロ、プロロ」
 と云いながら、われもわれもとオシャベリ姫をのぞきこみます。
「オホホ、ハハハハ。あたしの顔が何でそんなに珍らしいの。眼玉ばかりキョロキョロさして」
「ツララロ、ツララロ、ツララロ、ツララロ、ツララロ、ツララロ」
「ハハハハハハハハ。ホホホホ。あたしいやよ、そんなにのぞいちゃ。アレ冷たい。気味のわるい。さわっちゃいけない。キタナラシイじゃないの」
「ダレイケ、ダレイケ、ダレイケ
 グレイケロロ、グレイケロロ、グレイケロロ」
「コロロ、グロロ、ガロロ、ウロロ、ゲロロ、ゲロロ、ゲロロ」
 といううちに、あとからあとからのぞき込んで来ます。しまいには上から上に重なり合って、姫の寝台の上まで飛び上って来て、われもわれもとしゃべります。
 オシャベリ姫は、これはたまらぬとはね起きて、入り口から逃げ出そうとしましたが、看護婦の青蛙が両方からかじり付いて放しません。
 そのうちに窓の方を見ますと、窓の外はもう一面に蛙が山のように押し寄せて、あっちへ押し合いこっちへヘシ合い、大変な騒ぎです。おまけにそのシャベルこと。
「グレーレ、グレーレ、グレーレ、グレーレ
 グレーチョコ、グレーチョコ
 グルーロ、グルーロ、グルーロ
 レロロ、レロロ、レロ、レロ、レロ」
「ツララ、ツララ、ツラララロ
 クロラ、クロラ、クロロロラ
 ゲレロ、ゲレロ、ゲレレレロ
 グラ、グラ、グラ、グラ、グラ
 ゲラ、ゲラ、ゲラ、ゲラ、ゲラ
 ガラ、ガラ、ガラ、ガラ、ガラ」
 姫は一生懸命大きな声をして、
「ちょっと待って頂戴。そんなに押すと寝台が壊れてしまうよ。そんなにしゃべると妾の耳が破れてしまうよ」
 と叫びましたが、蛙どもはなおも一生懸命にのぞき込んでしゃべります。
 姫はもう死に物狂いになって、蛙たちの頭をふみつけて表に飛び出しましたが、門のところまで来ると又驚きました。
 オシャベリ姫は蛙のオシャベリに驚いて、蛙の病院から飛び出して表へ逃げ出しましたが、表門を出てみると外は立派な蛙の町です。そうしてその町がどこまでもどこまでも蛙ばかりで、電車も自動車も蛙で埋まったまま動かなくなって並んでいます。
 そこへオシャベリ姫が飛び出したので、今までよりも一層大さわぎとなって、
「ガアガアガアガアガア
 ワーワーワーワーワー」
 とまるで大暴風おおあらしのように騒ぎ出します。
 姫は夢中になって蛙の頭を踏みつけながら、町の外へ逃げ出しました。
 野原でも林でも田圃でも何でも構わずにドンドンドンドン駆け出しますと、蛙たちはあとから押し合いへし合い追っかけます。
 姫は息が切れて足が疲れて死にそうになりましたが、それでも蛙たちは追っかけやめません。
 そのうちに日が暮れて、東の山からまん丸いお月様が出て来ました。
 そのお月様をみると、オシャベリ姫はホッと一息しました。
 日が暮れたらいくら蛙でも最早もう追っかけて来はしまいと思いましたが、それは大変な間違いでした。
 日が暮れてお月様が出ると、野原の方は一面に蛙ばかりがいるようにガアガアガアガアと鳴き声がして、もう足元に追っかけて来そうです。
 これは大変と、姫は又も山の方へ山の方へとあとをふり返りふり返り逃げて行きましたが、そのうちに、とある高い崖の上に来ますと、眼の下に絵のような美しい都が見えて来ました。
 その都はほんとに絵のように美しい都でした。
 どの家もどの家も白い壁に青い屋根で、その下から青や黄色の電燈がキラキラと光っています。
 その真中には大きな黒い鉄のお城がありまして、その中から紫のあかりがまぶしいほど光って見えました。
 その上にはお月様と星が光っていて、その美しいこと……そうしてその静かなこと……電車の音も自動車のひびきも人間や犬の声なぞも何もきこえません。生きたものが住んでいるのかどうかわからない位です。
 オシャベリ姫はしばらくの間ボンヤリその景色に見とれていましたが、
「ああ、こんな静かな所にいたらさぞいいだろう。昼間オシャベリをする雲雀や、夜中に鳴きまわる蛙がいないから、どんなにうるさくなくていいだろう」
 と思いながらフト足もとを見ますと、一本の蔦葛つたかずら垂下たれさがって、ずうっと崖の下の家の側まで行っております。
 オシャベリ姫は直ぐにその蔦葛を伝って下へ降り初めました。
「もうこの国へ来たら口を利くまい。この国にはあの雲雀や蛙の口のように、もっとやっぱりあたしよりもずっとひどいオシャベリがいて、あたしをシャベリ負かしていじめるに違いない。そうしてオシャベリさえしなければきっと親切にしてもらえるに違いない」
 とこう思いながら、オシャベリ姫は蔦葛にすがって崖を降りはじめました。
 初めのうちは崖がデコボコしているので、オシャベリ姫はちょうど段々を降りるようにして蔦葛にすがりながら降りてゆきましたが、だんだん下の方になりますと崖が急になって、しまいには全く宙にブラ下ってしまいました。姫はこわくなって引返そうとしましたが、もう引返す力が抜けてしまいまして、姫はあまりの恐ろしさに蔦葛にすがりながら泣き出しました。
 その声をききつけたものか、はるか崖の下の草原くさはらへ大勢の人が出て姫の姿を見上げていましたが、崖があんまり高いので、そんな人たちがまるで蟻のように見えました。
 これを見ると姫は一層恐ろしくなって、手と足でつるにかじり付いてブルブルふるえていますと、そのうちにはるか下の方から姫の掴まっていた蔦葛を伝って昇って来るものがあります。だんだん近づいて見ますと、それは黒い服にズボンを穿いて、白い靴に赤い覆面をした奇妙な人間でしたが、さも軽そうに姫を引っ抱えますと、胴のところへ何やら小さな包みの紐みたようなものをくくりつけますと、いきなり姫の身体からだを投げ落しました。
 オシャベリ姫は肝を潰して、思わず、
「アレッ」
 と叫びましたが、間もなくポカーアンと大きな音がしたと思うと、姫の頭の上で大きなパラシュートが開いて、折から吹く風につれて、向うに見えるお城の方へフワリフワリと飛んで行きました。
 姫は又ビックリしましたが、それでも命が助かったのでホッと安心をしました。
「まあ、今の人は何て不思議な人でしょう。初めからそう云ってくれれば、こんなにビックリしはしないのに。おしまいまでちっとも口を利かないなんて変な人だこと……」
 と独り言を云っているうちに、風船は鉄のお城の中の広いお庭のまん中へフワリと落ちました。
 姫はほんとうに安心をして、そこに敷いてある白い砂の上に降りましたが、風船はそのまま小さく畳んでポケットに仕舞しまっておきました。
 そのうちに姫のまわりには鉄のお城の鉄のよろいを着た兵隊さんが沢山に集まりましたが、不思議にも一人も口を利くものがありません。だまって姫を連れて、王様の前に連れて行かれました。
 王様とお妃様は、鉄のお城の中の大きな大きな鉄のへやの中の、高い高い鉄の台の上に鉄の椅子を据えて、真黒な着物を着て鉄の冠をかむってわっておりましたが、そのへや中のものは鉄の壁も鉄の床も、鉄の柱も鉄の天井も、それから一パイに並んでいる大将や兵隊たちの鉄の鎧も、すっかり鏡のように磨いてありまして、その中にサーチライトのような燈火あかりが紫色に輝いておりますので、そのマブシイ事……眼がくらんでしまいそうです。
 姫は何だかこわくなって、
「これから妾をどうするのですか」
 ときいてみたくてしかたがありませんでしたが、みんなだまっているところに又うっかり口を利くと、何だか大変なことになりそうなので、ジッと我慢をしていますと、鉄の兵隊の一人は姫に王様を指して、その前に行ってお辞儀をするように手真似で教えました。
 姫は黙ってその通りにしました。
 そうすると、王様とお妃様はジッと姫のようすを見ておりましたが、やっぱりだまってうなずいたまま二人揃って壇の上から降りて来まして、二人で両方から姫を手を引っぱりながら奥の方へあるき出しました。
 ところがその奥の方へ行く廊下の長いこと。右へ曲ったり左へ曲ったり、梯子段を登ったり降りたり、いつまでもいつまでも続いています。そうして連れて行く王様夫婦も、あとからいて来る大将たちも、やっぱりだまって一口も物を云いません。
 姫は又、
「妾をどうなさるのですか」
 ときいてみたくなりましたが、やっぱり我慢をしていますと、やがて一つの立派な室に這入りました。
 その室もピカピカ光って鉄ばかりで出来ておりまして、真ん中に鉄の大きなテーブルがあり、その上に大きいのや小さいのやいろんな鉄の壺と、それからコップや盃見たようなものが沢山に並んでいて、その真ん中あたりにある椅子に姫が腰をかけさせられますと、その右と左に王様夫婦が坐わりました。あとはお伴をして来た鉄の城の大将たちが、机の四方を取かこんでズラリと腰をかけます。そうしてみんな坐わってしまうと、入口から四人の黒ん坊の女が白い着物を着て出て来まして、真中にある一番大きな鉄の壺から、みんなの前の鉄の盃へ一パイになるように白い牛乳のようなものをいでまいりました。
 その白い汁の芳香においのいい事……。
 鉄の牢屋へ這入ってから、雲雀の国から蛙の国から、この口を利かない人間の国まで来る間、なんにもたべなかったおシャベリ姫は、もう今にもとびついて飲みたい位に思いました。
 けれどもほかのものがみんなジッとして手を出しませんから、姫も我慢をしていましたが、不思議にもみんなは知らん顔をしていて、ちっとも盃を手に取ろうとしません。只その中で王様が姫の前の盃を指して、「早くおあがりなさい」と云うような手真似をするだけです。
 姫は困ってしまいました。
「これをこのまんま飲んでもいいのですか」
 と云いたくてたまらないのでしたが、又思い出して、
「イヤイヤ、うっかり口を利いて非道い目に合うといけない。だまってみんなのする通りにしていよう」
 とひもじくてたまらないのを我慢しました。そうして、
「この人たちはみんなきっとおしに違いない。そんなら耳もきこえないのだから、何を云ってもわかるまい。一つオシャベリをしてみようかしらん。イヤイヤ、唖で耳がきこえないのなら何を云ってもつまらないから、やっぱり我慢をしていよう」
 と思いながら、両手を膝の上に置いてお行儀よく澄ましていました。
 その様子を見た王様がお妃様の方を向いて何か手真似をしますと、お妃様はうなずいてオシャベリ姫の肩をたたきました。そうしてたべ方を教えるように、姫の見ている前で杯を取り上げましたが、いきなりその盃を鼻に当て、白い牛乳のような汁を鼻の穴からスーッと飲んでしまいました。
 オシャベリ姫は呆れてしまいました。鼻の穴から飲むなんて、何という変なたべかたであろうと思いながら、お妃様の顔をよく見ますと、オシャベリ姫は思わず「アッ」と声を出しました。
 お妃様の顔の鼻と眼と眉と耳とは当り前にあるのですが、口の処には何もありません。鼻の下からあごまで一続きにノッペラボーになっているのです。そうして口の代りに赤い絵の具で唇の絵が格好よくえがいてあるのでした。
 オシャベリ姫は呆れてしまって、ほかの王様や大将たちの顔をキョロキョロと見まわしましたが、気が付いてみると、どの顔もどの顔も、今まで口と思っていたのはみんな絵の具でいたもので、只王様や大将たちの口は大きくいてあり、お妃様の口は小さくいてあるばかりです。
 これを見たオシャベリ姫は思わず吹き出しました。
「オホホホホホ。マア可笑おかしい。皆さんはどうしてそんなにお口がないのですか。どうしてそんなに片輪におなりになったのですか。鼻の穴には歯も舌も無いのに、どうして御飯や何かを召し上るのですか。それとも、こんな牛乳みたような汁ばかり飲んで生きておいでになるのですか。オホホホホホ。まあ、おもしろいこと。どうりでみなさんは、一人も口をお利きにならないのですね。お話も出来なければ歌もお歌いにならないのね。まあ、どんなにかつまらないでしょうねえ。オホホホホホ。ああ、可笑しい。ああ、おもしろい。変な国ですこと。アハハハ、ホホホホホ。ああ、あたしはもうお腹の皮が痛くなりそうよ。あんまり可笑しくて可笑しくて……」
 と腹を抱えて笑いながらシャベリ続けました。
 そうすると、よもや聞えまいと思っていた人々の耳に、オシャベリ姫の言葉がすっかり聞えたらしく、まず一番にお妃はさもさも恥かしそうに涙を流して室を出て行きました。
 あとに残った王様は鬼のような恐ろしい顔になって、腰にさしていた短刀を抜いて姫を捕えて殺そうとしました。
 姫は驚いて、
「アレ、御免なさい、御免なさい」
 と言いながら、鉄の机の下に這い込んで、あっちこっちと逃げまわりますと、大勢の大将は八方から手を延ばして捕まえようとします。それをすり抜けすり抜けしているうちに、やっとの思いですきを見つけて机の下から飛び出して、廊下をドンドン逃げ出しました。
 あとからは、大勢の大将や兵隊が王様を先に立てて追っかけて来ます。
 姫はもう一生懸命でした。
 身体からだが小さいのを幸いに窓を抜けたり床の下をくぐったりして、やっとの思いで庭に出ましたが、この時はもうお城中の大騒ぎで、声はきこえませんけれども、あっちにもこっちにも兵隊が手に手に短刀を持って姫を探しているのがよく見えます。
 オシャベリ姫は震え上りながら、なるたけ暗い方へ暗い方へと木や家の隙を伝って、やがて一つの森の中に入ると、ドンドン走り出しました。
 やがて、その森の向うの端のお月様のさしているところまで来ますと、そこには一つの高い高い鉄の塔がありまして、その下に小さな入り口がありました。
 姫は喜んで、すぐにその中に這入ろうとしましたが、その時にヒョイと気が付きますと、その入り口一パイに網を張って、一匹の大きな蜘蛛が餌の引っかかるのを待っています。
 姫はあまりの恐ろしさにあとしざりしました。
 けれどもその時に、又姫がうしろをふりむいて見ますと、鉄のお城の方ではあっちにもキラリ、こっちにもキラリと光るものが見えます。それはみんな短刀で、それがだんだんこちらの方へやって来るようです。
 姫は、どうしてもこの鉄の塔の中に逃げこまなければ、ほかにかくれるところが無くなってしまいました。
 姫は泣くには泣かれず、逃げるには逃げられません。前には蜘蛛が待っていますし、うしろからは短刀を持った人が追っかけて来るのです。姫はもう恐ろしくて悲しくて、ブルブルふるえながら立っておりました。
 そうすると、はるかに高い高い塔の上から美しい唱歌の声が聞こえて来ました。
「きれいなきれいなお月様
 くうろい雲にかくれても、
 泣くな、なげくな、悲しむな
 やがて出て来る時がある
 可愛い可愛いお姫様
 大きな蜘蛛にとられても
 泣くな、なげくな、こわがるな
 いつか助かる時がある」
 それをきいたオシャベリ姫はすぐに思い切って、鉄の塔の入り口一パイに張ってある蜘蛛の網を眼がけて飛びこみました。
 ところが、その蜘蛛の網はたいそう丈夫な網で、姫の力では破ることが出来ず、かえって姫の身体からだにヘバリ付いて逃げられなくなってしまいました。これは大変と藻掻もがけば藻掻もがくほど、蜘蛛の糸は身体からだにヘバリついて、手や足にからまって、しまいには動くことが出来なくなってしまいました。
 これを見た蜘蛛は大きな眼を光らし、大きな口をワクワクと動かしながら姫を眼がけて飛びかかって来ました。
 オシャベリ姫はあんまりの恐ろしさに気絶してしまいましたが、蜘蛛の方は姫を捕まえると、そのまま沢山の糸を出して姫をグルグル巻きにして、鉄の塔の隅っ子の方へ仕舞いまして、自分は又入り口のところへ来てグルグルまわっているうちに、網をもとの通りにすっかり張り直してしまいました。
 そこへ鉄の国の王様が先に立って、沢山の兵隊が手に手に短刀を光らせながらやってきましたが、蜘蛛の網が入口に奇麗に張ってあるのを見ますと、その中に誰も這入ったものがいないと思ったらしく、そのまま行ってしまいました。
 オシャベリ姫はそんなことは知りません。何だか夢のように、自分がだんだん高いところへ昇って行くように思っていましたが、やがて気が付いてみると、自分は一つの小さな鉄の室の中の鉄の床の上に寝かされています。そうしてかたわらに、だれか一人の男の人が心配そうな顔をして自分を見ています。
 空にはいつの間にか真っ黒な雲が出て、風が吹き出していましたが、折から雲のを出た月の光りでその人を見ますと、その人はまだ若い気高い人で、身体には美しい紫色の着物を着ていましたが、なおよくその顔を見ますと、その人の口は、この国の人間のように絵で書いたものでなく、本当の赤い唇なのでした。
「アレ」
 と叫んで姫は飛びおきました。
「あなたのお口は本当のお口……」
 こう叫びますと、その若い人は白い歯を出してニッコリ笑いました。
「ハイ、私はこの国のあわれな片輪者です」
「まあ……あなたが片輪者ですって」
 と姫は又ビックリして尋ねました。若い人は静かな声でこう答えました。
「そうです。この国は口なしの国と云いまして、この国中の人はみんな口が無いのです。鳥でもけものでも虫までもそうなので、声を出すものは一つもありません。雷と、雨と、霰と、風と、水の音――そんなものしかきこえないのです。それは昔この国中の人があんまりオシャベリだったからです」
「まあ……オシャベリなのにどうして口が無くなったのでしょう」
 と姫はあんまり不思議なお話なのに驚いて、眼をまん丸くして尋ねました。
 若い人はそのわけを話しはじめました。
「それはこういうわけです……昔、この国中の人は何でも見たことやきいたことを、ひとにお話しすることが好きでした。そうしてお話の上手なオシャベリの人ほどみんなから賞められましたので、だれもかれもおもしろいお話をしよう。みんなビックリするようなオシャベリをしよう、しようと思いました。そのためにだんだん嘘をまぜて話すようになりまして、とうとう嘘の上手なものがオシャベリの上手ということになりました。そうしてこの国中の人々は毎日毎日嘘のつきくらばかりして、本当のことは一つも云わないようになってしまったのです」
「まあ……それじゃみんな困ったでしょうね」
「エエ、ほんとにみんな困ってしまいました。誰の云うことも本当にされないからです。そのうちにこの国とよその国と戦争がはじまりましたが、いくら敵が攻めて来たと云っても誰も本当にしません。戦争の支度もしなかったものですから、この国の人は滅茶滅茶に敗けて、もうすこしで国中がすっかり敵に取られてしまうところでした」
「まあ、大変ですね。それからどうしました」
 と姫は心配そうに尋ねました。
「私の先祖は代々この国の王でしたが、その時の王はこれを見て、国中の人々に『これから口を利く奴は殺してしまうぞ。鳥でもけものでも虫でも、声を出すものは皆、殺してしまえ』と云いつけました」
「まあ恐いこと」
「けれどもそのために国中の人々は一人も嘘をつかなくなったばかりでなく、何の音もきこえぬほど静かになりましたので、敵の攻めて来る音や号令の声が何里も先からきこえるようになりました。その時にこちらの兵隊はみんな鉄の鎧を着て、短刀を持って、王が指さす方へ黙って進んで行きまして、黙って敵に斬りかかって行きましたので、今度はあべこべに敵が滅茶滅茶に負けて逃げて行ってしまいました」
「まあ……よかったこと」
 ときいていた姫はやっと安心をしました。
 若い人はなおもお話をつづけました。
「それからのち、この国中の人々は一人も口を利かなくなりました。しまいには只ぽかんと口を開いていても、役人が遠くから見つけて、物を云っていたのと間ちがえて殺したりしますので、国中の人は怖がって、ものを喰べるのにも、口を開かないように牛乳やソップなぞいう汁を鼻から吸うようになりました。そうして何千年か暮しているうちに、この国の人は口が役に立たなくなったので、だんだん小さくなって、とうとう今のようにまったくなくなってしまいました。けれども全くなくなると妙な顔に見えるので、この国の人は鼻の下の、昔口のあったところに赤い唇の絵を書いておくのです」
「それじゃ、あなたはどうして口がおありになるのですか」
 と姫は尋ねました。

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