という
挨拶を持たせてやったのである。そこを立ち廊の戸を通って中宮の町へ出て行く若い中将の朝の姿が美しかった。東の対の南側の縁に立って、中央の寝殿を見ると、格子が二間ほどだけ上げられて、まだほのかな朝ぼらけに
御簾を巻き上げて女房たちが出ていた。高欄によりかかって庭を見ているのは若い女房ばかりであった。打ち解けた姿でこうしたふうに出ていたりすることはよろしくなくても、これは皆きれいにいろいろな上着に
裳までつけて、重なるようにしてすわりながらおおぜいで出ているので感じのよいことであった。中宮は童女を庭へおろして
虫籠に露を入れさせておいでになるのである。
紫色、
撫子色などの濃い色、淡い色の
袙に、
女郎花色の薄物の上着などの時節に合った物を着て、四、五人くらいずつ一かたまりになってあなたこなたの草むらへいろいろな籠を持って行き歩いていて、折れた撫子の哀れな枝なども取って来る。霧の中にそれらが見えるのである。お座敷の中を通って吹いて来る風は侍従香の
匂いを含んでいた。
貴女の世界の心憎さが豊かに覚えられるお
住居である。驚かすような気がして中将は出にくかったが、静かな音をたてて歩いて行くと、女房たちはきわだって驚いたふうも見せずに皆座敷の中へはいってしまった。宮の
御入内の時に
童形で
供奉して以来知り合いの女房が多くて中将には親しみのある場所でもあった。源氏の
挨拶を申し上げてから、宰相の君、
内侍などもいるのを知って中将はしばらく話していた。ここにはまたすべての所よりも
気高い空気があった。そうした清い気分の中で女房たちと語りながらも中将は
昨日以来の悩ましさを忘れることができなかった。
帰って来ると南御殿は格子が皆上げられてあって、夫人は
昨夜気にかけながら寝た草花が所在も知れぬように乱れてしまったのをながめている時であった。中将は階段の所へ行って、中宮のお返辞を報じた。