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従妹への手紙(いとこへのてがみ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-2 11:15:48  点击:  切换到繁體中文


「集会はいつもここでやるんです」
 通りぬけた先が男の子たちの寝室です。こっちも仲々キチンと片づいています。が、面倒くさそうに突っこまれた枕が毛布の下から半分はみ出ている寝台もある。子供たちはそれを見ていろんな冗談を云い、笑う。
 ソヴェト同盟では、ほんとの男女共学です。学校の教室で机をならべて男の子と女の子とが一緒に勉強するばかりではない。寄宿舎だって部屋が違うだけで、一つ建物です。大学だって、そうです。だから、どんな男の子、女の子かということはよくお互にわかる。学校でだけスマしていたって、だらしない子なら、お互によくその欠点もわかる。男の子も女の子も一緒だから淋しくないし、お互によくなろうとするし、さすがソヴェト同盟です。
 二階から、今度はズッと降りて半地下室へ出かけた。ここには炊事場、フロ場、洗濯場、裁縫場などがあります。
 炊事当番の少年少女が、太って大きい炊事がかりの小母さんの手伝いをしてアルミの鉢を洗っている。小母さんは、漏れ手で元気に働いている子供たちを示しながら、
「どうです? ソヴェトのピオニェールは! 理屈を頭で知っているばかりじゃないでしょう。よくみんなのために働く手を持ってるでしょう」
 実際そうだ。が、ひとつ、ぜひ澄子さんに云ってよろこばしてやりたいことがある。
 澄ちゃんは「兄さんたら、僕男だからいいんだよって、何にもしないで、遊びに出ちまうのよ」ってよく不平を云いますね。あれがね、ソヴェトの世の中になると、ないのよ。男の子だからって、ブルジョア国のように威張ることなんか決してない。みんながしなければならない仕事はみんなで、男の子も女の子もやる。
 洗濯、縫物なんて女の子だけの仕事みたいに思われているが、ソヴェト同盟のピオニェールはそれを男の子もします。
 そのやりかたがまた面白い。
 同じ十三でも男の子の十三は力があるから、この「五月一日の子供の家」では、男の子が洗濯物のアイロンかけをやることになっている。
 つまらない繕いものは年上の女の子が当番でやる。私たちが裁縫室へ入った時は、五六人の女の子が、シャツのボタンをしらべ、落ちたのをつけていました。
 さあ、また、玄関わきの客間へ戻って来た。ここには、壁新聞やピアノや、この前ハンガリーの共産青年同盟員が訪ねて来たときみんなでとったという写真や、シュロの植木鉢などが飾ってある。
 あっちこっちの隅で、本をよんだり、学校の宿題をやったりしている一隅で、わたしたちは長い間、ピオニェールたちと話しました。
 みんなずいぶん日本にもピオニェールがあるかどうかということを知りたがってきいた。
 学校はどんなか?
「子供の家」がやっぱりあるか?
 この「五月一日の子供の家」をどう思うか。
 小さい子供は「日本にも飛行機がある?」ときいて、大きい子に笑われたりした。またもっともっと、政治的な大人らしい質問をしたものも沢山あります。
 日本にも「子供の家」がある? ときかれて、実に私は感慨無量だった。
 ブルジョアの子は、学校の行きかえりにさえ自動車にのり、好きな犬までそばへつけてヌクヌクと育っているのに、プロレタリアや農民の子はどうです。親があったって、親は搾られ、ろくな飯さえ食えずにいる。
 まして、孤児院とでもなったらそこにいる子どもは、子供達のかせぎで孤児院経営者の一家を食わしている有様です。
 孤児院ですがと、押し売りに来る子供の声と恰好は、ブルジョア家族制度の悪のかたまりです。
 日本人は、親子の情にあついのが世界の誇りだとブルジョアは云いますが、それは金のある親と子の間でだけ通用する。いくら可哀想と思い血の涙をこぼしても、金を出さなければ医者のよべないブルジョア社会で、一文なしならどうしましょう。医者にかけられずに子を死なせた親を情なしと云ったら口はさけます。
 ブルジョア社会では、親が金の余裕をもってその子が幸福になるように考えてやらない限り、誰も責任は負ってくれない。親の貧乏なのはその子の不仕合わせ。両親を失ったのは不運ときめて、冷ややかなものです。
 ソヴェトの世の中、働くものの世界がくれば、どの子だって生まれたからにはソヴェトの子、働くものの社会の子、です。
 仕合わせになるよう、いい働きてとなるよう、国家(働くものの社会的連帯)の力で育てあげる。その証拠には、この「五月一日の子供の家」にしろ、暮している子供達を御覧なさい。実に快活で、朗らかで、生粋のピオニェールたちです。
 わたし達は子供たちが出して何か書いてくれという手帳に次のように書きました。
「みなさん!
 わたし達はみなさんに会って本当にうれしいと思います。ソヴェト同盟の新しい社会の値うちがみなさんの生活のうちに生きているのを見るのは、何とうれしいことでしょう! いい働きてになって下さい、一日も早く、世界の子供たちが、ソヴェト同盟の子供たちのように生活できるようにしましょう。
 働くものの国ソヴェト同盟万歳!」

〔一九三二年一月〕





底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年9月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本「宮本百合子全集 第六巻」河出書房
   1952(昭和27)年12月発行
初出:「女人芸術」
   1932(昭和7)年1月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2002年10月28日作成
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