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新しい船出(あたらしいふなで)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-2 10:44:26  点击:  切换到繁體中文


 男のひとにしろ、そういう社会的な障害にぶつかった場合、やはりとかく不満や居心地わるさの対照に女をおいて、女らしさという呪文を思い浮べ、女には女らしくして欲しいような気になり、その要求で解決がつけば自分と妻とが今日の文明と称するもののうちに深淵をひらいている非文明の力に金縛りになっているより大きい事実にはあまり目を向けないという結果になっている。
 こういう面での押し合いは実に一朝一夕に、また一面的に解決されないものだから、近代社会は、その間に、たくさんの犠牲を生み出している。女らしさというものの曖昧で執拗な桎梏に圧えられながら生活の必要から職業についていて、女らしさが慎ましさを外側から強いるため恋愛もまともに経験せず、真正の意味での女らしさに花咲く機会を失って一生を過す人々、または、女らしき貞節というものの誤った考えかたで、わが人生もひとの人生も歪めて暮す心持になっている不幸な人々、そういう犠牲の姿は、多くの場合後から来る若い女のひとたちに漠然とした恐怖をおこさせる。そのことも肯けると思う。何故あのひとたちの生活はあすこに陥ったのだろうかという一節を辿りつめてそこに女を殺している女らしさを見出し、それへの自分の新しい態度をきめて行こうとするよりは、多くの場合ずっと手前のところで止ってしまうと思う。ああはなりたくないと思う、そこまでの智慧にたよって、自分をどう導いてゆくかといえば、自分の娘の代になっても社会事情としては何の変化も起り得ないありきたりの女らしさに、やや自嘲を含んだ眼元の表情で身をおちつけるのである。
 この点での現代の若い女のひとの自嘲的な賢さというものを、それらの人たちは何と見ているだろう。もっともわるい意味での女らしさの一つであって、外面のどんな近代様式にかかわらず、そのような生きるポーズは昔の時代の女が生きた低さより自覚を伴っているだけに本質はさらに低いものであるということを率直に認め、それを悲しむ真の女の心をもっているであろうか。われから作っている女らしさの故に女の本心を失っている女たちという逆説も今日の現実では一つの事実に触れ得るのである。
 まともに相剋に立ち入っては一生を賭しても解決はむずかしいのだからと、今日の文化がもっている凹みの一つである女らしさの観念をこちらから把んで、そこで女らしさの取引きを行って処世的にのしてゆくという態度も今日の女の生きる打算のなかには目立っている。それを現実的な女の聰明さというように見る女自身の誤りの上に、その実際はなり立っている。矛盾の多い社会の現象の間では、軽蔑に価する態度が、功利的な価値を現してゆくことも幾多ある。そんなこといったって、あの人はあれで名声も金もえているという場合もあるが、現代の若い女のひとは、人生の評価をそこで終りにしてしまわないだけには人間として成長もして来ているのではないだろうか。私たちの生きている時代は外廓的には随分進んでいるから、女のおくれている面で食っている女というものもどっさり出て来ている。真に女の生活のひろがりのため、高まりのため、世の中に一つの美をももたらそうという念願からでなく、例えば女らしさを喰いものにしてゆく女が、肉体を売る商売ではなく精神を売る商売としてある。
 社会のある特殊な時代が今日のような形をとって来ると、女の職業的な進出や、生産へ労働力として参加する数や質のひろがりに逆比例して、女らしい躾みだとか慎しさとか従順さとかが、一括した女らしさという表現でいっそう女につよく求められて来ている。日夜手にふれている機械は近代の科学性の尖端に立っているものだけれども、それについて働いている若い女のひとに求められている女らしさの内容のこまかいことは、働いている女のひととして決して便利でものぞましいものでもないという場合は到るところにあると思う。そういうことについて苦痛を感じる若い女の心が、真率にその苦痛を社会的にも訴えてゆく、そこにも自然な女らしさが認められなければならないのだと思う。女自身が、女同士としてそのことを当然とし自然としてゆく気持が必要だといえると思う。こういう場合についても、私たちは女の進む道をさえぎるのは常に男だとばかりは決していえない、という現実を、被いなく知らなければならないと思うのである。

 女の本来の心の発動というものも、歴史の中での女のありようと切りはなしてはいえないし、抽象的にいえないものだと思う。人間としての男の精神と感情との発現が実にさまざまの姿をとってゆくように、女の心の姿も実にさまざまであって、それでいいのではないだろうか。真に憤るだけの心の力をもった女は美しいと思う。真に悲しむべきことを悲しめる女のひとは立派と思う。本当にうれしいことを腹からうれしいと表現する女のひとは、この世の宝ではないだろうか。そして、あらゆるそれらのあらわれは女らしいのだと思う。
 ある種の男のひとは、女が単純率直に心情を吐露するところがよとしているが、自分の心の真の流れを見ている女は、そういう言葉に懐疑的な微笑を洩すだろうと思う。現代の女は、決してあらゆる時と処とでそんなに単純素朴に真情を吐露し得る事情におかれてはいない、そのことは女自身が知っている。ある何人かの悧巧な女が、その男のひとの受け切れる範囲での真率さで、わかる範囲の心持を吐露したとしても、それは全部でない。女の真情は現代に生きて、綺麗ごとですんではいないのだから。
 生活の環がひろがり高まるにつれて女の心も男同様綺麗ごとにすんではいないのだし、それが現実であると同時に、更にそれらの波瀾の中から人間らしい心情に到ろうとしている生活の道こそ真実であることを、自分にもはっきり知ることが、女の心の成長のために避けがたい必要ではなかろうか。
 これからのいよいよ錯雑紛糾する歴史の波の間に生き、そこで成長してゆくために、女は、従来いい意味での女らしさ、悪い意味での女らしさと二様にだけいわれて来ていたものから、更に質を発展させた第三種めの、女としての人間らしさというものを生み出して、そこで自身のびてゆき、周囲をも伸してゆく心構えがいると思う。これまでいい意味での女らしさの範疇からもあふれていた、現実へのつよいむことない探求心、そのことから必然されて来る科学的な綜合的な事物の見かたと判断、生活に一定の方向を求めてゆく感情の思意ある一貫性などが、強靭な生活の腱とならなければ、とても今日と明日との変転に処して人間らしい成長を保ってゆけまいと思う。世俗な勝気や負けん気の女のひとは相当あるのだけれども、勝気とか負けん気とかいうものは、いつも相手があってそれとの張り合いの上でのことで、その女らしいもろさで裏づけされたつよさは、女のひとのよさよりもわるさを助長しているのがこれまでのありようであった。
 女の人間らしい慈愛のひろさにしろ、それを感情から情熱に高め、持続して、生活のうちに実現してゆくには巨大な意力が求められる。実現の方法、その可能の発見のためには、沈着な現実の観察と洞察とがいるが、それはやっぱり目の先三寸の態度では不可能なのである。
 例えばこの頃の私たちの生活は、木炭のことについても、さまざまの新しい経験をしつつある。昔流にいえば、まだ一家の主婦でない若い女のひとはそんなことには娘時代の呑気のんきさでうっかり過したかもしれないが、今日は、主婦でない女のひとも、やはりこのことには社会の現象として注意をひかれているのが実際であろう。古い女らしさに従えば、うまくやりくりして家じゅうに寒い目をさせず、しかも巧になるたけやすい炭をどっさり見つけて来る手柄に止っていたであろう。将来の女らしさは、そういう狭い個人的な即物的解決の機敏さだけでは、決して追っつかない。子供たちに炭のないわけを公平に納得させてやれるだけの社会についての知識と、そういう寒さをも何かと凌ぎよくしてやるだけのひろい科学的な工夫のできる心、歴史の時期としてユーモアと希望と洞察とでその事態を判断し得る心、そういうものが、女らしさの日常の要素として加って来る。そして、日常の諸現象について、妙に精神化の流行することについても冷静に見てゆく女のぱっちりと澄んだ眼が求められているのではないだろうか。それらのどれもが、近づいて見れば、いわゆる女らしさから何と大きい幅で踏み出して来ていることであろう。
 刻々と揉む歴史の濤頭は荒くて、ふるい女らしさの小舟はすでに難破していると思う。私たちは、近代の科学で設計され、動的で、快活で、真情に富んだ雄々しい明日の船出を準備しなければならないのだと思う。

〔一九四〇年二月〕





底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年7月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第九巻」河出書房
   1952(昭和27)年8月発行
初出:「婦人画報」
   1940(昭和15)年2月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
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