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悔(くい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-26 16:56:00  点击:  切换到繁體中文

 ある地方ちはう郡立病院ぐんりつびやうゐんに、長年ながねん看護婦長かんごふちやうをつとめてもとめは、今日けふにち時間じかんからはなたれると、きふこゝろからだたるんでしまつたやうな氣持きもちで、れて廊下らうかしづかにあるいてゐた。
『おや、つてるのかしら。』
 彼女かのぢよはじめてがついたやうにまどそとつぶやく。え/″\として硝子がらすのそとに、いつからかいとのやうにこまかなあめおともなくつてゐる、上草履うはざうりしづかにびしいひゞきが、白衣びやくえすそからおこつて、なが廊下らうかさきへ/\とうてく。
 彼女かのぢよ小使部屋こづかひべやまへとほりかゝつたときおほきな炭火すみびめうあかえる薄暗うすくらなかから、子供こどもをおぶつた内儀かみさんがあわてゝこゑをかけた。
村井むらゐさん、いまがたぢやうさんがかさつておいんしたよ。』
 彼女かのぢよはそこでかるれいつてかさ受取うけとつた。住居すまゐはつひ構内こうない長屋ながやの一つであるけれど、『せい/″\かしておやくつてみせます』とつてるやうなむすめこゝろをいぢらしくおもひながら、彼女かのぢよはぱちりと雨傘あまがさをひらく。すんほどにのびた院内ゐんない若草わかぐさが、下駄げたやはらかくれて、つちしめりがしつとりとうるほひをつてゐる。かすかなかぜきつけられて、あめいとはさわ/\とかさち、にぎつたうるほす。
 別段べつだんさうするやうにひつけたわけではなかつたけれど、自然しぜん自然しぜんはゝ境遇きやうぐう會得ゑとくしてむすめ君子きみこは、十三になつた今年頃ことしごろから、一人前にんまへ仕事しごとにたづさはるのをたのしむものゝやうに、ひとりでこと/\と臺所だいどころおとをたてゝゐたりするやうになつた。今日けふなにやらあわてゝいたおとをたてながら、いそ/\とはゝむかへに入口いりくちまでた。
『おかへんなさい、あんねかあさん、にいさんから手紙てがみてゝよ。』
『さうかい。』
 彼女かのぢよ若々わか/\しくむねをどきつかせながら、いそいでつくゑうへ手紙てがみつてふうつた。彼女かのぢよかほはみる/\よろこびにかゞやいた。ゆがみかげんにむすんだ口許くちもと微笑ほゝゑみうかんでゐる。
きみちやんや、かあさんがするからもういゝかげんにしておき、にいさんがはいれたさうだよ、よかつたねえ。』と、あとは自分自身じぶんじしんにいふやうに調子てうしおとして、ぺたりとそのまゝつくゑまへすわつてしまつた。いまいままでりつめてゐた一寸ちよつとゆるんで、彼女かのぢよは一安心あんしんのためにがつかりしてしまつたのである。なにかしらむねほこらしさにいつぱいで、丁度ちやうどひとから稱讃しようさん言葉ことばちうけてゐでもするやうにわく/\する。彼女かのぢよなほもそのよろこびと安心あんしんあらたにしようとするやうにふたゝ手紙てがみをとりあげる。
 彼女かのぢよ長男ちやうなんつとむゆめのやうに成人せいじんした。小學時代せうがくじだいから學業がくげふ品行ひんかうとも優等いうとう成績せいせきで、今年ことし中學ちうがくへると、すぐに地方ちはう專問學校せんもんがくかう入學試驗にふがくしけんけるためにつたのである。今更いまさらおもつてみれば、つとむはもう十九である。九つと三つの子供こどものこされてからの十年間ねんかんは、いま自分じぶん自分じぶんなみだぐまれるほどな苦勞くらう歴史れきしかたつてゐる。子供達こどもたちの、わけてもつとむ成長せいちやう進歩しんぽは、彼女かのぢよ生活せいかつきた日誌につしであつた。さうしていまやその日誌につしは、あたらしいページをもつてはじまらうとしてゐるのである。彼女かのぢよよろこびも心配しんぱいも、たゞそのためにのみしてれた努力どりよくページをあらためてつてみてひそかにほこりなきをないのであつた。
 彼女かのぢよはレースいと編物あみものなかいろめたをつと寫眞しやしんながめた。あたかもそのくちびるが、感謝かんしやいたはりの言葉ことばによつてひらかれるのをまもるやうに、彼女かのぢよこゝろをごつてゐた。そのみゝもとでは、『をんな一つで』とか、『よくまああれだけにしあげたものだ』とかいふやうな、かすかな聲々こゑ/″\きこえるやうでもあつた。彼女かのぢよふたやうに、またつかれたやうに、しばらくは自分じぶん空想くうさうなかにさまよはしてゐた。
 しめやかなおとあめはなほつゞいてゐる。すこしばかりえとするさむさは、部屋へやなか薄闇うすやみけあつて、そろ/\と彼女かのぢようつゝ心持こゝろもちにみちびいてく。ぱつと部屋へやがあかるくなる。君子きみこのびをしてむすばれた電氣でんきつなをほどいてゐた。とそのときはゝあたかもそのひかりにはじかれたやうにぱつとあがつた。
 いま彼女かのぢよかほをごりと得意とくいかげえて、ある不快ふくわいおものために苦々にが/\しくひだりほゝ痙攣けいれんおこしてゐる。彼女かのぢよつてく。さうして甲斐かひ/″\しく夕飯ゆふめし支度したく調とゝのへてゐるむすめをみると、彼女かのぢよ祕密ひみつくゐにまづむねをつかれる。
 やう/\あきらかなかたちとなつて彼女かのぢよきざした不安ふあんは、いやでもおうでもふたゝ彼女かのぢよ傷所きずしよ――それは羞耻しうち侮辱ぶじよくや、いかりやのろひや、あらゆるいとはしいつよ感情かんじやうたないではられぬ――をあらためさせなければまなかつた[#「まなかつた」は底本では「まなつつた」]彼女かのじよはその苦痛くつうたへられさうもない。けれどもくろかげかざしてたゞよつて不安ふあんは、それにもして彼女かのぢよくるしめるであらう。
 まち小學校せうがつかう校長かうちやうをしてゐた彼女かのぢよをつとは、一年間ねんかんはいんで、そして二人ふたり子供こどもわかつま手許てもとのこしたまゝ[#「のこしたまゝ」は底本では「のこしたまゝ」]んでいつた。のこつたものは彼女かのぢよおも責任せきと、ごくわづかなたくはへとだけであつた。彼女かのぢよはすぐに自分自身じぶんじしんのために、また子供達こどもたちためめにはたらかなければならなかつた。彼女かのぢよもなく親戚しんせき子供こどもあづけて土地とち病院びやうゐんつとめるとなつた。彼女かのぢよ脇目わきめらなかつた。二ねんねんゆめぎ、未亡人びぼうじん操行さうかうくわんして誰一人たれひとり陰口かげぐちものもなかつた。まづしくはあつたけれど彼女かのぢよ家柄いへがらもよかつたので、多少たせう尊敬そんけい心持こゝろもちもくはへて人々ひと/″\彼女かのぢよ信用しんようした。そのあひだ彼女かのぢよ産婆さんば免状めんじやうつた。
 彼女かのぢよ病院びやうゐん生活せいくわつつてから三年目ねんめあきに、ある地方ちはうから一人ひとりわか醫者いしやて、その病院びやうゐん醫員いゐんになつた。かれ所謂いはゆる人好ひとずきのするをとこで、こと院内ゐんない看護婦達かんごふたちをすぐになづけてしまうことが出來できた。かれは、みづかまもることにおごそかなもとめ孤壘こるゐあねたいするおとうとのやうなしたしさをみせてちかづいてつた。かれ彼女かのぢよよりも二つばかり年下とししたなのであつた。いつのにかぱつと二人ふたり關係くわんけいうはさにのぼつた。うはさがきか、あるひ事實じじつきか――それはとにかくがさしたのだと彼女かのぢよはあとでぢつゝかたつた――もなく彼女かのぢよ二人ふたり子供こどもともに、院内ゐんないの一わか醫者いしやしゝてゐることは公然こうぜんになつた。院長ゐんちやうなにがしなかだちをしたのだといふうはさも[#「うはさも」は底本では「うはささも」]あつた。人々ひと/″\はたゞ彼女かのぢよよわをんなであるといふことのために、おほみゝおほうて彼女かのぢよゆるした。けれどもそれは「あのひとさへも――?」といふ絶望ぜつぼう意味いみしてゐた。

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