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寒山落木 巻一(かんざんらくぼく まきいち)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-26 9:13:03  点击:  切换到繁體中文


【待戀】
唐辛子かんで待つ夜の恨哉
いつしかにくひ習ひけり蕃椒
はらわたに通りて赤し蕃椒
兼好に歌をよません唐辛子
煙にも更にすゝけず唐からし
唐辛子赤き穗先をそろへけり
盆栽の數に入りけり蕃椒
西瓜さへ表は青し蕃椒
草子にも書きもらしけり蕃椒
蕃椒心ありける浮世かな
蕃椒やゝひんまがつて猶からし
束髮の人にくはせん唐辛子
萩薄月に重なる夕かな
月の中に一本高し女郎花
世の中を赤うばかすや唐辛子
唐辛子日に/\秋の恐ろしき
唐辛子殘る暑さをほのめかす
乞食の薄をつかむ寐覺哉
桐一葉笠にかぶるや石地藏
藤袴笠は何笠桔梗笠
蘇東坡の笠やつくらん竹の春
萩薄小町が笠は破れけり
はり/\と木の實ふる也檜木笠

【古白剃髮】
蓮の實を探つて見れば坊主哉
笠賣の笠ぬらしけり萩の露
笠一ツ動いて行くや木賊刈
笠いくつ蘆の穗つたひ廻りけり
笠塚の笠を根にしてはせを哉
笠賣とならんで出たり薄賣
歌もなし朱印さひしき西瓜哉
送火の灰の上なり桐一葉

【画賛】
からぐろの黒からず茄子の濃紫
鉢植の松にも蔦の紅葉かな
        月夜
里芋の娵入したる都かな
[#「月夜」は「都」の右側に注記するような形で]
蕣や鉢に植ゑても同じ事
くりぬいて中へはいらん種ふくべ
蕣の地をはひわたる明家哉
種ふくべ何の力にくびれけん
萩の花思ふ通りにたわみけり
乞食小屋の留守にちりこむ柳哉
乞食のめんつうを干す木槿哉
乞食のぬる野は花と成にけり
水結 さら/\と水こす荻の下葉哉 千那ノ句 秋風や荻のりこえて水の音[#「水結」は上部に出ている]
[#「千那ノ句 秋風や荻のりこえて水の音」は「さら/\と水こす荻の下葉哉」の下にポイントを下げて2行で]
 〃 濱荻や水氣はなれし畑の中[#「〃」は上部に出ている]
 〃 水門に荻をすひこむ流れ哉[#「〃」は上部に出ている]

【大磯へ行く途上】
堀割になれてうつむく薄哉
堀割に風のうつむく薄哉
[#「堀割になれて」と「堀割に風の」の句の上には、この二つの句を括る波括弧あり]
むさし野は稻よりのぼる朝日哉
夕日さす山段々の晩稻哉
何のかのうき名をすてゝ野菊哉
百姓の秋はうつくし葉鷄頭
朝※や傾城町のうら通り
かた/\は花そば白し曼珠沙花

【大磯千疊敷〔二句〕】
一谷は風撫であぐる薄哉
一山は風にかたよる薄哉

【同 雨にあふ〔二句〕】
雨さそふ千疊敷の薄かな
一谷は雲すみつかぬ薄かな
稻妻に朝※つぼむ夕かな
箱根山薄八里と申さはや
新棉の荷をこぼれ出る寒さ哉

【箱根〔二句〕】
槍立てゝ通る人なし花薄
石の上にはへぬ許りそ花薄
草鞋の緒きれてよりこむ薄哉
風一筋川一筋の薄かな
馬の尾をたばねてくゝる薄哉
末枯や覺束なくも女郎花
菅笠のそろふて動く薄哉
皮むけば青煙たつ蜜柑哉
紅葉する木立もなしに山深し

【美人に紅葉の一枝をねだられて】
薄紅葉紅にそめよと與へけり

【箱根茶店】
犬蓼の花くふ馬や茶の煙
唐秬のからでたく湯や山の宿
石原にやせて倒るゝ野菊かな
草刈の刈りそろへけり花薄
箱根路は一月早し初※

【愚庵】
紅葉ちる和尚の留守のいろり哉
常盤木にまじりて遲き紅葉哉
ぬす人のはいつた朝や桐一葉
ぬす人の住まうたといふ銀杏哉
狩りくらす靱の底の紅葉哉
味噌色に摺鉢山の紅葉哉
秋のうら秋のおもてや葛尾花
影むすぶ雌松雄松の松露哉
誰に賣らん金なき人に菊賣らん
御陵としらで咲けり萩の花
牛小屋の留守に鹿鳴く紅葉哉
白河の關を染めけり夕紅葉
竹藪に一つる重し烏瓜
我聲の風になりけり茸狩
松茸や京は牛煮る相手にも
相生の松茸笠をまじへけり
※頭や馬士が烟管の雁首で
醉ざめや十日の菊に烟草のむ
大小の朱鞘はいやし紅葉狩
二三枚取て重ねる紅葉哉
猿啼く夜團栗落つるしきり也
古寺や木魚うつ/\萩のちる
月の出て風に成たる芒かな
毒茸の下や誰が骨星が岡

【岩屋山】
縱横に蔦這ひたらぬ岩屋哉

【三津】
堀川の滿干のあとや蓼の花
秋の山瀧を殘して紅葉哉

【八股】
八方に風の道ある榎實哉
升のみの酒の雫や菊の花
稻の穗のうねりこんだり祝谷
團栗の水に落つるや終夜
をさな子の鬼灯盛るや竹の籠
月白く※赤き夜や猿の梦
傾城は屏風の萩に旅寐哉
七草に入らぬあはれや男郎花
大名の庭に痩せたり女郎花
世や捨てんわれも其名を菊の水
うき人にすねて見せけり女郎花
一枝の紅葉そへたり妹が文
明耿々朝日に並ぶ菊花※
朝※は命の中のいのちかな
井のそこに沈み入りけり桐一葉
椎の實や袂の底にいつからぞ
横雲のすき間こほるゝもみち哉
朝霧の杉にかたよるもみち哉
谷深く夕日一すぢのもみち哉
一村は夕日をあびる紅葉哉
をり/\に鹿のかほ出す紅葉哉
どの山の紅葉か殘る馬の鞍
牛の子を追ひ/\はいるもみち哉
鷄の鳴く奧もありむらもみち
馬の背の大根白し夕もみち
盆程の庭の蒔繪や菊もみち
下闇に紅葉一木のゆふ日哉
いろ/\の紅葉の中の銀杏哉
藪蔭に夕日の足らぬもみち哉
絶壁に夕日うらてるもみち哉
岩鼻に見あげ見おろす※哉
道二つ馬士と木こりのもみち哉
小原女の衣ふるへばもみぢ哉
背に烏帽子かけた仕丁や薄※
傘にをり/\見すく※哉
千山の紅葉一すぢの流れ哉
眞黒に釣鐘暮れるもみち哉
松明の山上り行くもみち哉
駕下りて紅葉へ二里と申す也
兩岸の紅葉に下す筏かな
紅葉やく烟は黒し土鑵子
火ともせはずんぶり暮るゝ紅葉哉
猿引の家はもみちとなりにけり
關守の徳利かくすもみち哉
夕もみち女もまじるうたひ哉
神殿の御格子おろす※哉
廊下から手燭をうつす※哉
煙たつ軒にふすぼるもみち哉
辨當を鹿にやつたるもみち哉
山寺に塩こぼし行く※かな
をさな子の手に重ねたるもみち哉
尺八の手に持ちそふるもみち哉
町ありく樵夫の髮にもみち哉
おろ/\とのんで風呼ぶ薄哉
井戸堀や砂かぶせたる蓼の花
朝顏の日うら勝にてあはれなり
吹きかへす風の薄のそゝけ哉
竹垣や菊と野菊の裏表
早し遲し二木の桐の一葉哉
わりなしや小松をのぼる蔦紅葉
蔦の葉をつたふて松の雫哉
松二木蔦一もとのもみぢ哉

【再遊松林舘】
色かへぬ松や主は知らぬ人
[#改頁]

明治廿五壬辰年
はじめの冬 天文

ほんのりと茶の花くもる霜夜哉
北風や芋屋の烟なびきあへず
呉竹の奧に音あるあられ哉
青竹をつたふ霰のすべり哉
一ツ葉の手柄見せけり雪の朝
雪の夜や簔の人行く遠明り
初雪や小鳥のつゝく石燈籠
初雪をふるへばみのゝ雫かな
一里きて酒屋でふるふみのゝゆき
初雪や奇麗に笹の五六枚
雪の中うたひに似たる翁哉
靜かさや雪にくれ行く淡路嶋
雪の日の隅田は青し都鳥
からかさを千鳥はしるや小夜時雨
さら/\と竹に音あり夜の雪
初雪や輕くふりまく茶の木原
雪折の竹に乞食のねざめ哉
白雪におされて月のぼやけ哉
うらなひの鬚にうちこむ霰哉
夜廻りの木に打ちこみし霰哉
三日月を時雨てゐるや沖の隅
吹付てはては凩の雨もなし

【乕圖】
万山の木のはの音や寒の月
凩や虚空をはしる氣車の音
     かけイ
[#「かけイ」は「はし」の左側に注記するような形で]
牛若の下駄の跡あり橋の霜

【達磨三味をひく 画賛】
凩に三味も枯木の一ツ哉
朝霜を洗ひ落せし冬菜哉
凩や追手も見えすはなれ馬
新聞で見るや故郷の初しくれ
時雨るや筧をつたふ山の雲

冬雜(天文除)

【高田の馬場にすむ古白のもとを訪ふて】
日あたりや馬場のあとなる水仙花

【一月廿二日夜半ふと眼を開けば※外月あかし扨は雨戸をや引き忘れけんと思ひて左の句を吟ず翌曉さめて考ふれば前夜の發句は半醒半梦の間に髣髴たり】
冬籠夜着の袖より※の月
炭二俵壁にもたせて冬こもり

【破蕉先生に笑はれて】
冬こもり小ぜにをかりて笑はるゝ
鰒汁や髑髏をかざる醫者の家
骨折て四五輪さきぬ冬のうめ
茶坐敷の五尺の庭を落葉哉
籔ごしやはだか參りの鈴冴る

【不忍池】
水鳥の中にうきけり天女堂
冬枯や蛸ぶら下る煮賣茶屋
ものくはでかうもやせたか鉢敲
達磨忌や戸棚探れは生海鼠哉
出つ入つ數定まらぬ小かもかな
犬張子くづれて出たり煤拂
鉢叩頭巾をとれははげたりな
面白うたゝかば泣かん鉢叩
宵やみに紛れて出たり鉢敲
森こえて枯野に來るや旅烏
煤拂のほこりの中やふじの山

【煙草道具 画賛】
吹きならふ煙の龍や冬こもり
手の皺を引きのばし見る火鉢哉
夜著かたくからだにそはぬ寒さ哉

廿五年 終りの冬 時節

いそがしく時計の動く師走哉

【高尾山〔二句〕】
凩をぬけ出て山の小春かな
不二を背に筑波見下す小春哉
小春日や又この背戸も爺と婆
冬川の涸れて蛇籠の寒さ哉
爲朝のお宿と書し寒さ哉
病人と靜かに語る師走哉

【松山會】
行年を故郷人と酌みかはす
初冬に何の句もなき一日かな
行年を鐵道馬車に追付ぬ
返事せぬつんぼのぢゞや神無月
屋の棟に鳩のならびし小春哉
御格子に切髮かくる寒さ哉
馬糞のいきり立たる寒さ哉
鳥居より内の馬糞や神無月
馬痩せて鹿に似る頃の寒さ哉
君が代は大つごもりの月夜哉
※鮭も熊も釣らるゝ師走哉
魚棚に熊笹青き師走哉
年の尾や又くりかへすさかさ川
ありたけの日受を村の冬至哉
乞食寄る極樂道や小六月
仰向けぬ入道畠の寒さ哉
玉川に短き冬の日脚哉
年のくれ乞食の梦の長閑也
きぬ/\にものいひ殘す寒哉
年のくれ命ばかりの名殘哉
ぬす人のぬす人とるや年の暮
白足袋のよごれ盡せし師走哉
いそがしい中に子を産む師走哉
羽子板のうらに春來る師走哉
年の暮月の暮日のくれにけり

廿五年 終りの冬 人事 器用

鉢叩雪のふる夜をうかれけり

【茶店にて】
穗薄になでへらされし火桶哉
月花にはげた頭や古頭巾
炭竈に雀のならぶぬくみかな
古暦雜用帳にまぎれけり
きぬ/″\に寒聲きけは哀れ也
金杉や二間ならんで冬こもり
猫老て鼠もとらず置火燵
君味噌くれ我豆やらん冬こもり
同じ名のあるじ手代や夷子講
此度は娵にぬはせじ角頭巾

【讀書燈】
古はくらしらんぷの煤拂
しぐれずに空行く風や神送
※鮭の腹ひや/\と風の立つ
節分や親子の年の近うなる
※もうたひ參らす神迎
達磨忌や混沌として時雨不二
湯の山や炭賣歸る宵月夜
節季候の札の辻にて分れけり
どの馬で神は歸らせたまふらん
寒聲や誰れ石投げる石手川
遠ざかり行く松風や神送り

【松山】
掛乞の大街道となりにけり
塩燒くや煤はくといふ日もなうて
老が齒や海雲すゝりて冬籠
冬籠日記に梦を書きつける

【廓】
にくらしき客に豆うつねらひ哉
此頃は聲もかれけり鉢たゝき
本陣にめして聞かばや鉢叩
つみあげて庄屋ひれふす年貢哉
道々にこぼるゝ年のみつぎ哉
ふるまはん深草殿に玉子酒
臘八のあとにかしましくりすます
嵐雪の其角におくる紙衣哉
柊をさす頼朝の心かな
顏見せやぬす人になる顏はたれ
常闇を破る神樂の大鼓哉
榾の火に石版摺のすゝけかな
すとうぶや上からつゝく煤拂
初暦めでたくこゝに古暦
手をちゞめ足をちゝめて冬籠
貧乏は掛乞も來ぬ火燵哉
世の中を紙衣一つの輕さかな
鼻息に飛んでは輕し寶舟
手と足に蒲團引きあふ宿屋哉

廿五年 終りの冬 天文 地理

【鐵眼師によす】
凩や自在に釜のきしる音

【寄贈馬骨】
凩や京にそがひの家かまへ

【訪愚庵】
淨林の釜にむかしを時雨けり
冬の日の二見に近く通りけり
凩や夜着きて町を通る人
とりまいて人の火をたく枯野哉
馬糞も共にやかるゝ枯野哉
新宿に荷馬ならぶや夕時雨 樗堂ノ句 荷をつけてしぐるゝ馬や軒の下
[#「樗堂ノ句 荷をつけてしぐるゝ馬や軒の下」は「新宿に荷馬ならぶや夕時雨」の下にポイントを下げて2行で]

【玉川】
鮎死て瀬の細りけり冬の川
冬川の涸れて蛇籠の寒さ哉 重出
吹雪くる夜を禪寺に納豆打ツ
稻かりて力無き冬の初日哉
雪の脚寶永山へかゝりけり
朝霜や藁家ばかりの村一つ
松杉や枯野の中の不動堂
色里や時雨きかぬも三年ごし
夜廻りの鐵棒はしる霰哉
十一騎面もふらぬ吹雪かな
誰かある初雪の深さ見て參れ

【乞食】
初雪の重さ加減やこもの上

【石手寺】
しくるゝや弘法死して一千年
白きもの又常盤なりふじの雪
赤煉瓦雪にならびし日比谷哉
親牛の子牛をねぶる霜夜哉
しぐるゝやともしにはねる屋根の漏
灯の青うすいて奧あり藪の雪
爪琴の下手を上手にしぐれけり
猪の 牙ふりたてる 吹雪哉
   岩ふみはづす
[#「牙ふりたてる岩ふみはづす」は、「猪の」と「吹雪哉」の間に挟まれるような形でポイントを下げて2行で]
むつかしき姿も見えず雪の松
くれ竹の雪ひつかつき伏しにけり
内川や外川かけて夕しぐれ
興居嶋へ魚舟いそぐ吹雪哉
瀧壺の渦にはねこむ霰哉
凩にはひつくばるや土龜山
引拔た手に霜殘る大根哉
角(カク)池の四隅に殘る氷かな
寒月に悲しすぎたり兩大師
子をかばふ鶴たちまどふ吹雪哉
浪ぎははさらに横ふくふゞき哉
初雪の瓦屋よりも藁屋哉
ふらばふれ雪に鈴鹿の關こえん
吹雪來んとして鐘冴ゆる嵐哉
關守の雪に火を燒く鈴鹿哉
かるさうに提げゆく鍋の霰哉
曙や都うもれて雪の底
熊笹の緑にのこる枯の哉

廿五年 終りの冬 生物

さゝ啼や小藪の隅にさす日影
馬糞のぬくもりにさく冬牡丹
※車道の一すぢ長し冬木立
さゝ啼や茂草の奧の松蓮寺
さむらいは腹さへきると河豚汁
煤拂のそばまで來たり鷦鷯
蝉のから碎けたあとや歸り花
冬の梅裏手の方を咲きにけり
   側イ
馬糞の中から出たり鷦鷯
[#「側イ」は「中」の右側に注記するような形で]
はげそめてやゝ寒げ也冬紅葉

【千嶋艦覆沒】
ものゝふの河豚にくはるゝ悲しさよ
麥蒔やたばねあげたる桑の枝
ちる紅葉ちらぬ紅葉はまだ青し
木の葉やく寺のうしろや普請小屋

【議會】
麥蒔た顏つきもせす二百人
石原に根強き冬の野菊哉
冬枯の草の家つゝく烏哉
薄とも蘆ともつかず枯れにけり
凩に尻をむけけり離れ鴛
小石にも魚にもならず海鼠哉
鮭さげて女のはしる師走哉
燒芋をくひ/\千鳥きく夜哉
千鳥啼く揚荷のあとの月夜哉
千鳥なく三保の松原風白し
海原に星のふる夜やむら千鳥
いそがしく鳴門を渡る千鳥哉
一村は皆船頭や磯千鳥
帆柱や二つにわれてむら千鳥 曉臺ノ句 風早し二つにわれてむら千鳥
[#「曉臺ノ句 風早し二つにわれてむら千鳥」は「帆柱や二つにわれてむら千鳥」の下にポイントを下げて2行で]
安房へ行き相模へ歸り小夜千鳥
磯濱や犬追ひ立てるむら千鳥
文覺をとりまいて鳴く千鳥哉
こさふくや沖は鯨の汐曇り
生殘る蛙あはれや枯蓮
凩にしつかりふさぐ蠣の蓋
旅籠屋や山見る窓の釣干菜
冬椿猪首に咲くぞ面白き
冬枯やいよ/\松の高うなる
冬枯に枯葉も見えぬ小笹哉
天地の氣かすかに通ふ寒の梅
おろ/\と一夜に痩せる暖鳥
ぬく/\と日向かゝえて※つむる 春季カ
明の月白ふの鷹のふみ崩す
冬枯のうしろに 高し  不二の山
        立つや
[#「高し立つや」は、「冬枯のうしろに」と「不二の山」の間に挟まれるような形でポイントを下げて2行で]
冬枯の野に學校のふらふ哉

【松枝町】
四五枚の木の葉掃き出す廓哉
東野の紅葉ちりこむ藁火哉

【松山堀ノ内】
梟や聞耳立つる三千騎
鰒釣や沖はあやしき雪模樣
鷺谷に一本淋し枯尾花

【松山】
寒梅や的場あたりは田舍めく
枯れてから何千年ぞ扶桑木
吹き入れし石燈籠の落葉哉
逃げる氣もつかでとらるゝ海鼠哉
ほろ/\と朝霜もゆる落葉哉
いさり火の消えて音ありむら千鳥

【少年不及大年】
年九十河豚を知らずと申けり
引きあげて一村くもる鯨哉

【祝】
とし/\に根も枯れはてず寒の菊
わろひれす鷹のすわりし嵐哉
繪のやうな紅葉ちる也霜の上
白鷺の泥にふみこむもみち哉
もみち葉のちる時悲し鹿の聲
谷窪に落ち重なれるもみち哉
居風呂に紅葉はねこむ筧哉
はきよせた箒に殘るもみち哉
二三枚もみち汲み出す釣瓶哉
一つかみづゝ爐にくべるもみち哉
舟流すあとに押しよるもみち哉
石壇や一つ/\に散もみち

【日光】
神橋は人も通らす散紅葉
藁屋根にくさりついたる※哉
豆腐屋の豆腐の水にもみち哉
衣洗ふ脛にひつゝくもみち哉
裏表きらり/\とちる紅葉
梟や杉見あぐれば十日月



底本:「子規全集 第一巻 俳句 一」講談社
   1975(昭和50)年12月18日第1刷発行
底本の親本:自筆本「寒山落木」国立国会図書館蔵
※【】の見出しは底本では、ポイントを下げてセンター合わせしてあります。
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。
入力:田中敬三
校正:小林繁雄
ファイル作成:野口英司
2001年2月9日公開
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。


●表記について

本文中の/\は二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)。
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」。

本文中の「々」は、「折々は田螺にぎりつ田草取」の句を除いて(二の字点、第3水準1-2-22)。

本文中の※は、底本では次のような漢字(JIS外字)が使われている。

不二こえたくたびれ※や隅田の雁
朝※のひるまでさいて秋の行
面※の聲朧也春の陣
灌佛や酒のみさうな※はなし
朝※のつるさき秋に屆きけり
我※を蚊にくはせたる思ひかな
ひる※に雨のあとなき砂路哉
晝※の物干竿を上りけり
晝※の眞ツ晝中を開きけり
夕※に行脚の僧をとゞめけり
泥水に夕※の花よごれけり
朝※や傾城町のうら通り
稻妻に朝※つぼむ夕かな
朝※は命の中のいのちかな

第3水準1-14-51
つきあたる※一いきに燕哉
秋のくれ見ゆる※見るふしの山

第4水準2-89-83
澁※や行來のしげき道の端
※の實やうれしさうにもなく烏
澁※のとり殘されてあはれ也
澁※もまじりてともに盆の中
月白く※赤き夜や猿の梦

第3水準1-85-57
ほの/″\に朝顏見るや※一重
稻妻のかほをはしるや※のくれ

第4水準2-82-81
葉も花になつてしまうか※珠沙花
そのあたり似た草もなし※珠沙花
野ぜんちをさゝへて咲くや※珠さけ
まいた餌に※もどる菊畠
初※も知るや義農の米の恩
一つ家を毎晩たゝく水※哉
新場処や紙つきやめばなく水※
※頭や馬士が烟管の雁首で
※もうたひ參らす神迎
ぬく/\と日向かゝえて※つむる 春季カ

第3水準1-93-66
※坤をこねて見たれは佛かな
姫百合に※飯こぼす垣根かな
大佛やかたつら※く朝の露
※鮭も熊も釣らるゝ師走哉
※鮭の腹ひや/\と風の立つ
※が織り妹が縫ふて更衣
時鳥上野をもとる※車の音
時鳥上野を戻る※車の音
※車道にそふて咲けりけしの花
※車道に堀り殘されて花野哉
御殿場に鹿の驚く夜※車哉
※車道の一すぢ長し冬木立

第4水準2-79-6
北※へさゝぬばかりそけふの月
夜半ふと眼を開けば※外月あかし
冬籠夜着の袖より※の月

第3水準1-89-54
※の蘆にとびつく襖かな

第3水準1-91-55
かりそめの鑵子のつるや蔦※
箱根路は一月早し初※
岩鼻に見あげ見おろす※哉
背に烏帽子かけた仕丁や薄※
傘にをり/\見すく※哉
神殿の御格子おろす※哉
廊下から手燭をうつす※哉
山寺に塩こぼし行く※かな
藁屋根にくさりついたる※哉

第3水準1-85-64
明耿々朝日に並ぶ菊花※

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