私はあらためて店の中を見まわしてみる
やっぱり誰もいない 空虚だ
いかにも静かだ ひっそりしている
それでいてつい今しがたまで客が何組かあったのだが
それが皆立ち去ったすぐ跡だと云うような気がされる
店の空気がひどく疲れを帯びているのが感ぜられる
誰もいないのに人気が漂っている それが鬼気のようにぞっと感ぜられる
何かしら惨劇のあった跡の静けさはこんなものじゃないかしらと思えてくる
もしかしたら今まで此処で客同志の間に殺人事件かなんかあって
その跡始未のために皆ここの店のものまで残らず出かけて行っていて
それでこんな
空虚なのかも知れん……
そう思って店のなかを見廻すと、一向それらしい形跡はない
椅子やテエブルもちゃんとした位置にある 鉢植も倒れていない
それでいてどう云うものかそれ
等の置き方に妙な不自然さがあるのだ
あちこちへ投げ飛ばされたり、倒されたりしたのをいかにも
急いで
元のままに直して取り繕ったような不自然さがあるのだ
――そんなことを空想しながら、私はぼんやり
頬杖をついて
今にも燃えきって無くなりそうな灰皿の吸殻を見つめている
それから発せられている

は私の空想を大いに
刺戟している
「おれは遅参者だ……一足遅れたばかりに、きっとおれを喜ばせたに相違ない、何かの惨事に立会い
損った不運者だ」
そこでもって私の夢のフィルムがぴんと切れてしまう……
それで私は読者諸君にも、ただこんな風に
「まだその
顰め
面をしている
今起ったばかりの惨事の古代的な静けさ」を
お目にかけるよりしかたがないのだ