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病む子の祭(やむこのまつり)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-23 8:44:31  点击:  切换到繁體中文

 
三男  いつのこと?
母   ずっとむかしのことさ。
三男  ふうん。おかしいなあ。かあさんは、はじめからおとなじゃなかったの?
母   そんなことありませんよ。どこのおかあさんでも、はじめは赤ん坊で、それから子どもになって、それから娘さんになって、それからお嫁にいって、それから子どもをうんで、そして、おかあさんになるのさ。
三男  (じぶんの腕を見て)ぼく、おとなになれるかしら。ぼく、おとなにならないよ。そんな気がするんだもの。
母   なれますよ。いまに、大きくじょうぶになりますよ。
(長女だまってはいってきて戸口で立っている)
母   おや、あやちゃん、いかなかったの?
(長女うなずく)
母   なにか忘れたの?
(長女、首を横にふる)
母   どうしたのさ。びっくりしたみたいに目を見はって。
長女  あたし、鐘撞堂かねつきどうの下んところから、帰ってきたの。
母   こっちへ、おいで。戸口のとこになんか立っていないで。まあ、どうしたのさ、息なんかきらして。どうして鐘撞堂のところから帰ってきたの?
長女  あたし、なんだか知らないわ。なんだか知らないけど走ってきたの。鐘撞堂のところまでいったら、一ぺんで帰りたくなったの。
母   へんな子だね。じゃあ、もうお祭にいかないの。
(女の子うなずく)
母   せっかくあそこまでいって、帰ってくることなんかないじゃないの。あそこからもうじき、お宮さんじゃありませんか。あとでいけばよかったって、知りませんよ。
長女  いいのよ、おかあさん。
母   それじゃあ、そんなとこに立ってないで、こっちへいらっしゃい。(病気の子どもに)よし坊はもうお薬を飲まなきゃいけませんね、まだあったかしら。おや、もうからですね。それじゃあ、かあさんがお薬をとってきますから、よし坊ちゃんはねえさんと遊んでるね。
(長女あがってきて、よし坊のまくらもとにすわる。母、用意をする)
三男  かあさん、近道していくといいよ。
母   近道って? おまえお医者さんのお家へいく近道知ってるの?
三男  井戸車のある家と、めくらのじいさんのお家の間をとおっていくとね、すぎ垣根かきねにあながあいてるからね、そこをくぐると、お医者さんちの裏だよ。垣根をくぐったときにね、頭に気をつけないと、物置からさがってるといにぶつかるよ。
母   あきれた子だね。そんなとこをくぐって遊んだのかい。おかあさんは、そんなところはとおれませんよ。
三男  あそこからいくと、とても早いや。
長女  あそこはもうとおれないのよ。井戸車のお家とめくらのじいさんちの間に、からたちの垣根を結んじまったから。よし坊ちゃんはもう長い間見ないから、知らないんだわ。
母   ではいってきますよ。
三男  かあさん、お医者さん家のかどんとこで、去年の綿砂糖わたざとうのおじいさんが売ってたら、買ってきてね。
母   綿砂糖って?
三男  綿みたいになった砂糖だよ。
母   そんなものを、おまえはたべちゃいけないんですよ。かあさんが、卵を買ってきておいしくてあげるからね。
(病気の子、このあたりから力が衰える)
三男  卵なんて、しょっちゅうたべてるんだもの、いやだい。
母   じゃ、お医者さまにきいてみて、たべていいっておっしゃったら、買ってきましょうね。
(母親裏口から去る)
(花火の音)
三男  いまの花火、きっと旗が出たよ。
長女  見てきましょうか。
(長女縁側えんがわに出て空をあおぐ)
長女  あら、ほんとうに旗が出たわ。雲の下を、北の方へ流れていくわ。……ああいま、学校のうしろの山の上ころよ。あら、山のてっぺんで、だれかが旗の方に手をふっててよ、……もう見えなくなっちゃった。
三男  山の上にだれがいるの?
長女  だれだかわからないわ。
三男  先生じゃないの。
長女  見えやしないわ、そんなことまで。
三男  だめだなあ、おねえさんの目なんか。
(女の子、枕もとにすわる)
三男  旗は、どこまでとんでくかなあ。
長女  やた村に、きっと落ちるわ。
三男  やた村で落ちないで、もっとどんどんとんでったらどこへいくんだろう。
長女  知らないわ、そんなこと。
三男  どっかの黒い海にいくよ。
長女  そうかしら。
三男  だめだなあ、おねえさんなんか。なんにも知らないや。
長女  知ってるわ、あたしだって。
三男  知らないや。
(沈黙。すぐ近くでひばりが鳴きはじめる)
三男  くにちゃんとこでもらったひなを持っておいでよ。
長女  どうするの? よし坊ちゃんがねてる間に、もうをやっといたわよ。
三男  もってこいよ。
長女  もってきてどうするのさ。にいさんたちに見つかると、とりあげられちまうわよ。
三男  にいちゃんたち、祭にいってら、ばか。
(女の子、裏口から出ていって、すぐボールばこを持ってはいってくる)
三男  はこから出して、ぼくの手にのせてくれよ。
長女  だめよ、そんなことしちゃ。まだ弱いんだから、手にとったら死んでしまうわよ。
三男  いいんだったら。
長女  いやよ。あたしがくにちゃんとこのおじさんにいただいてきたのよ。このひなは。
三男  だって、ぼくとふたりでだいじにしろっていったって、ねえさん、ぼくにいったじゃないか。
長女  …………
三男  ぼく、手にのせて見たいんだよ。
長女  あれ、うそよ。
三男  なんだい、うそなことあるもんか。くにちゃんとこのおじさん、ぼくとなかよしなんだもの。
長女  いいえ。うそよ。あたし、よし坊ちゃんを喜ばしてやろうと思って、うそいったのよ。ほんとうは、あたしだけにくれたんだわ。
三男  なんだい、ねえさんのうそつき。そんなら、そんなもの、殺しちゃうぞ。
長女  いやだわ、いやだわ。
三男  よこせ、よこせってば。
長女  よし坊ちゃん、いやよ、そんな顔しちゃ。
三男  よこせってば。ねえさんばか。あや子ばか。よこせってば。
(女の子、策つきて箱からひなをとり出して病気の子に渡す)
長女  ね、お願いだから、殺さないでね……あっ、いけないわ、そんなににぎっちゃあ……こわいもんだから、足がぶるぶるふるえてるわ……もうはなして……よし坊ちゃん……もうはなしてよ、よし坊ちゃん……。
三男  ぼくの手にふるえが伝わってくるよ。軽いなあ。
長女  かあいそうだわ。足をもがいてるわ。そんなに持ってると、びっくらして死んじまうことよ。
(病気の子そっと雛をもったまま、長く見ている)
(女の子安心する)
長女  毛、やわらかいでしょ。
病気の子、だまって雛をかえす。
女の子箱にしまって、裏口から出ていく。
はやしの音が近づいてくる。
微風びふうの中から桜の花びらが病気の子のわきに落ちる。病気の子は動かない。
女の子入ってくる。

長女  おはやしがこっちへやってくるかね。
三男  塩屋さんとこまでくるきりだい。あそこからまた帰ってしまうんだ。
長女  あの太鼓たいこね、おキンちゃんとこのにいさんがたたいてるのよ。今年ことしはじめてだって。
(はやしの音む)
長女  あら、もう塩屋さんとこのまえまできたわ。あそこのしいの木の下で休むのよ。
三男  …………
長女  (心細くなって)かあさんもう帰ってらっしゃらないかしら。よし坊ちゃん、ねむくない? すこし風が出てきたわね。障子しょうじしめましょうか?
三男  しめなくてもいいや。
(このあたりから病気の子の声、とみに衰える)
長女  でも、あたしなんだか寒いわ。裏のやぶがさわいでるわ。
(はやしの音、再びはじまる。そしてだんだん遠ざかっていく)
長女  あら、もう帰っていくのね。
(間)
長女  よし坊ちゃん。
(間)
長女  よし坊ちゃん。
三男  まだきこえるね、ねえちゃん。
長女  ええ、まだきこえるわ。もうじき、土塀どべいの家のかどをまがると、きこえなくなるわ。ほら、もうきこえなくなったでしょう。
三男  まだきこえるよ。
長女  でももうが鳴くほどだけよ。
(間)
長女  もうなんにもきこえなくなってよ。こんどは、村のあっちのはしへいくのだわね。
三男  まだきこえるよ。
長女  あんたの耳の中に笛の音が残ってるんだわ。
三男  まだきこえるよ。
(間)
長女  なにをそんなにあたしの顔見てるの。いやよ、よし坊ちゃん。
三男  もうせん、ねえちゃんと花のかくしっこしたろう。
長女  いつのこと?
三男  ぼくが病気になるまえにしたよ。貝がらでふせて土の下にかくしたじゃないか。
長女  あ、そうね。あんときよし坊ちゃんがかくしてきたの、あたしいくらさがしても見つけなかったわね。そして、よし坊ちゃんが、あの日の夕方から病気になったから、あれきりになったんだわ。どこへかくしといたの?
三男  裏のきんかんの木の下だよ。
長女  あら、よし坊ちゃんずるいわ。かけひの向こうはやぶだから、いけないってきめてあったじゃないの。ずるいわ、よし坊ちゃんたら。
三男  まだあるかなあ。
長女  あんなとこだれもほらなくてよ。あたし見てこようか。
(女の子裏口から出ていく。やがて貝のからを持って帰ってくる)
長女  あったわ。かけひで洗ってきてよ。
三男  花はあった?
長女  しなびてたわ。
三男  しなびてた?
長女  しなびるわよ、冬を越したんですもの。
三男  ぼくのかばんのお弁当入れるところにね、もうひとつ貝があるから持ってきて。
(女の子さがして持ってくる)
三男  それ合わせてごらんよ。うまく合う?
長女  うまく合うわ。ほら、ちょうどてのひらを合わせたみたい。
(それを病気の子に渡す)
三男  まだ鳴るかなあ。
(口にふくんで弱々しくふく。鳴らない)
長女  土の中にあった間に、どこかきっと欠けたのよ。
三男  鳴るよ。……じっときいてると、いっぱいになるよ。……風の音や笛の音がするよ。……たくさんの音がするよ。どこか遠くの方へ消えていくよ。
長女  うそよ。なにもきこえやしないわ。
(病気の子、貝をくわえたまま耳をすましている。間)
三男  ねえちゃん、……ぼくなんだか軽くなった。あ、ぼくもとんでくよ。風の音や笛の音の中をいっしょに……おかあちゃん……ああ、ぼくもとんでくの……。
長女  なにいってるの、よし坊ちゃん。あんた、どこ見てんの。
三男  花びらや笛の音といっしょに流れてくの。
(女の子とつぜん恐怖きょうふにとらわれて立ちあがる)
三男  かあちゃん……。
長女  (さけぶ)よし坊ちゃん! かあさん! あたし、かあさんよんでくるわ。よし坊ちゃん、待ってんのよ!
(女の子裏口からかけ去る)
三男  (弱く)かあちゃん……よし坊とね、鳥もいっしょにとんでくの。
(間)
(やぶのさわぐ音)
三男  (さらに弱く)かあちゃん……ぼく遠いの……。
いっそう、やぶのさわぐ音。
風の中から桜の花びらが落ちる。
病気の子の上に、かたわらに。

―幕―





底本:「牛をつないだ椿の木」角川文庫、角川書店
   1968(昭和43)年2月20日初版発行
   1974(昭和49)年1月30日12版発行
入力:もりみつじゅんじ
校正:渥美浩子
1999年7月4日公開
2006年1月28日修正
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