二ひきの馬が、まどのところでぐうるぐうるとひるねをしていました。
すると、すずしい風がでてきたので、一ぴきがくしゃめをしてめをさましました。
ところが、あとあしがいっぽんしびれていたので、よろよろとよろけてしまいました。
「おやおや。」
そのあしに力をいれようとしても、さっぱりはいりません。
そこでともだちの馬をゆりおこしました。
「たいへんだ、あとあしをいっぽん、だれかにぬすまれてしまった。」
「だって、ちゃんとついてるじゃないか。」
「いやこれはちがう。だれかのあしだ。」
「どうして。」
「ぼくの思うままに歩かないもの。ちょっとこのあしをけとばしてくれ。」
そこで、ともだちの馬は、ひづめでそのあしをぽォんとけとばしました。
「やっぱりこれはぼくのじゃない、いたくないもの。ぼくのあしならいたいはずだ。よし、はやく、ぬすまれたあしをみつけてこよう。」
そこで、その馬はよろよろと歩いてゆきました。
「やァ、椅子がある。椅子がぼくのあしをぬすんだのかもしれない。よし、けとばしてやろう、ぼくのあしならいたいはずだ。」
馬はかたあしで、椅子のあしをけとばしました。
椅子は、いたいとも、なんともいわないで、こわれてしまいました。
馬は、テーブルのあしや、ベッドのあしを、ぽんぽんけってまわりました。けれど、どれもいたいといわなくて、こわれてしまいました。
いくらさがしてもぬすまれたあしはありません。
「ひょっとしたら、あいつがとったのかもしれない。」
と馬は思いました。
そこで、馬はともだちの馬のところへかえってきました。そして、すきをみて、ともだちのあとあしをぽォんとけとばしました。
するとともだちは、
「いたいッ。」
とさけんでとびあがりました。
「そォらみろ、それがぼくのあしだ。きみだろう、ぬすんだのは。」
「このとんまめが。」
ともだちの馬は力いっぱいけかえしました。
しびれがもうなおっていたので、その馬も、
「いたいッ。」
と、とびあがりました。
そして、やっとのことで、じぶんのあしはぬすまれたのではなく、しびれていたのだとわかりました。
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