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弟子(でし)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-17 11:32:34  点击:351  切换到繁體中文


     三

 ある日子路が街を歩いて行くと、かつての友人の二三に出会った。無頼とは云えぬまでも放縦ほうじゅうにしてこだわる所の無い游侠の徒である。子路は立止ってしばらく話した。そのうちに彼の一人が子路の服装ふくそうをじろじろ見廻みまわし、やあ、これが儒服というやつか? 随分ずいぶんみすぼらしいなりだな、と言った。長剣がこいしくはないかい、とも言った。子路が相手にしないでいると、今度は聞捨ききずてのならぬことを言出した。どうだい。あの孔丘という先生はなかなかのわせものだって云うじゃないか。しかつめらしい顔をして心にもない事を誠しやかに説いていると、えらくあましるが吸えるものと見えるなあ。別に悪意がある訳ではなく、心安立こころやすだてからのいつもの毒舌だったが、子路は顔色を変えた。いきなりその男の胸倉むなぐらつかみ、右手のこぶしをしたたか横面よこつらに飛ばした。二つ三つ続け様にくらわしてから手を離すと、相手は意気地なくたおれた。呆気あっけに取られている他の連中に向っても子路は挑戦的ちょうせんてきな眼を向けたが、子路の剛勇ごうゆうを知る彼等は向って来ようともしない。なぐられた男を左右からたすけ起し、捨台詞すてぜりふ一つ残さずにこそこそと立去った。

 いつかこの事が孔子の耳に入ったものと見える。子路が呼ばれて師の前に出て行った時、直接にはれないながら、次のようなことを聞かされねばならなかった。いにしえの君子は忠をもって質となし仁をもって衛となした。不善ある時はすなわち忠をもってこれを化し、侵暴しんぼうある時はすなわち仁をもってこれを固うした。腕力わんりょくの必要を見ぬゆえんである。とかく小人は不遜ふそんをもって勇と見做みなし勝ちだが、君子の勇とは義を立つることのいいである云々。神妙に子路は聞いていた。

 数日後、子路がまた街を歩いていると、往来の木蔭こかげ閑人達かんじんたちさかんに弁じている声が耳に入った。それがどうやら孔子の噂のようである。――むかし、昔、と何でもいにしえかつぎ出して今をおとす。誰も昔を見たことがないのだから何とでも言える訳さ。しかし昔の道を杓子定規しゃくしじょうぎにそのままんで、それでうまく世が治まるくらいなら、誰も苦労はしないよ。おれ達にとっては、死んだ周公よりも生ける陽虎様ようこさまの方が偉いということになるのさ。
 下剋上げこくじょうの世であった。政治の実権が魯侯ろこうからその大夫たる季孫氏きそんしの手に移り、それが今やさらに季孫氏の臣たる陽虎という野心家の手に移ろうとしている。しゃべっている当人はあるいは陽虎の身内の者かも知れない。
 ――ところで、その陽虎様がこの間から孔丘を用いようと何度もむかえを出されたのに、何と、孔丘の方からそれをけているというじゃないか。口では大層な事を言っていても、実際の生きた政治にはまるで自信が無いのだろうよ。あの手合てあいはね。
 子路は背後うしろから人々を分けて、つかつかと弁者の前に進み出た。人々は彼が孔門の徒であることをすぐに認めた。今まで得々と弁じ立てていた当の老人は、顔色を失い、意味も無く子路の前に頭を下げてから人垣ひとがきの背後に身をかくした。まなじりを決した子路の形相ぎょうそうが余りにすさまじかったのであろう。

 その後しばらく、同じような事が処々で起った。かたいからせ炯々けいけいと眼を光らせた子路の姿が遠くから見え出すと、人々は孔子をそしる口をつぐむようになった。
 子路はこの事で度々師に叱られるが、自分でもどうしようもない。彼は彼なりに心の中では言分いいぶんが無いでもない。いわゆる君子なるものが俺と同じ強さの忿怒ふんぬを感じてなおかつそれを抑え得るのだったら、そりゃ偉い。しかし、実際は、俺ほど強く怒りを感じやしないんだ。少くとも、抑え得る程度に弱くしか感じていないのだ。きっと…………。

 一年ほどってから孔子が苦笑と共にたんじた。ゆうが門に入ってから自分は悪言を耳にしなくなったと。

     四

 ある時、子路が一室でしつしていた。
 孔子はそれを別室で聞いていたが、しばらくしてかたわらなる冉有ぜんゆうに向って言った。あの瑟の音を聞くがよい。※(「厂+萬」、第3水準1-14-84)ぼうれいの気がおのずからみなぎっているではないか。君子の音は温柔おんじゅうにしてちゅうにおり、生育の気を養うものでなければならぬ。昔しゅん五絃琴ごげんきんだんじて南風の詩を作った。南風のくんずるやもって我が民のいかりを解くべし。南風の時なるやもって我が民の財をおおいにすべしと。今ゆうの音を聞くに、誠に殺伐激越さつばつげきえつ、南音にあらずして北声に類するものだ。弾者の荒怠暴恣こうたいぼうしの心状をこれほど明らかに映し出したものはない。――
 後、冉有が子路の所へ行って夫子ふうしの言葉を告げた。
 子路は元々自分に楽才のとぼしいことを知っている。そして自らそれを耳と手のせいに帰していた。しかし、それが実はもっと深い精神の持ち方から来ているのだと聞かされた時、彼は愕然がくぜんとしておそれた。大切なのは手の習練ではない。もっと深く考えねばならぬ。彼は一室にこもり、静思してくらわず、もって骨立こつりつするに至った。数日の後、ようやく思い得たと信じて、再び瑟を執った。そうして、極めておそる恐る弾じた。その音をれ聞いた孔子は、今度は別に何も言わなかった。とがめるような顔色も見えない。子貢しこうが子路の所へ行ってそのむねを告げた。師の咎が無かったと聞いて子路はうれしげに笑った。
 人の良い兄弟子の嬉しそうな笑顔えがおを見て、若い子貢も微笑を禁じ得ない。聡明そうめいな子貢はちゃんと知っている。子路のかなでる音が依然いぜんとして殺伐な北声に満ちていることを。そうして、夫子がそれを咎めたまわぬのは、せ細るまで苦しんで考え込んだ子路の一本気をあわれまれたために過ぎないことを。

     五

 弟子の中で、子路ほど孔子に叱られる者は無い。子路ほど遠慮えんりょなく師に反問する者もない。「う。古の道をててゆうの意を行わん。可ならんか。」などと、叱られるに決っていることを聞いてみたり、孔子に面と向ってずけずけと「これあるかな。子のなるや!」などと言ってのける人間は他に誰もいない。それでいて、また、子路ほど全身的に孔子にり掛かっている者もないのである。どしどし問返すのは、心から納得なっとく出来ないものを表面うわべだけうべなうことの出来ぬ性分だからだ。また、他の弟子達のように、わらわれまい叱られまいと気をつかわないからである。
 子路が他の所ではあくまで人の下風に立つを潔しとしない独立不羈ふきの男であり、一諾千金いちだくせんきんの快男児であるだけに、碌々ろくろくたる凡弟子然ぼんていしぜんとして孔子の前にはんべっている姿は、人々に確かに奇異きいな感じをあたえた。事実、彼には、孔子の前にいる時だけは複雑な思索しさくや重要な判断は一切いっさい師に任せてしまって自分は安心しきっているような滑稽こっけいな傾向も無いではない。母親の前では自分に出来る事までも、してもらっている幼児と同じような工合である。退いて考えてみて、自ら苦笑することがある位だ。

 だが、これほどの師にもなお触れることを許さぬ胸中の奥所がある。ここばかりはゆずれないというぎりぎり結著の所が。
 すなわち、子路にとって、この世に一つの大事なものがある。そのものの前には死生も論ずるに足りず、いわんや、区々たる利害のごとき、問題にはならない。侠といえばやや軽すぎる。信といい義というと、どうも道学者流で自由な躍動やくどうの気に欠けるうらみがある。そんな名前はどうでもいい。子路にとって、それは快感の一種のようなものである。とにかく、それの感じられるものが善きことであり、それのともなわないものがしきことだ。極めてはっきりしていて、いまだかつてこれに疑を感じたことがない。孔子の云う仁とはかなり開きがあるのだが、子路は師の教の中から、この単純な倫理観を補強するようなものばかりを選んでり入れる。巧言令色足恭コウゲンレイショクスウキョウウラミカクシテノ人ヲ友トスルハ、丘コレヅ とか、生ヲ求メテモッテ仁ヲ害スルナク身ヲ殺シテ以テ仁ヲ成スアリ とか、狂者ハ進ンデ取リ狷者ケンジャサザル所アリ とかいうのが、それだ。孔子も初めはこのつのめようとしないではなかったが、後にはあきらめてめてしまった。とにかく、これはこれで一ぴきの見事な牛には違いないのだから。むちを必要とする弟子もあれば、手綱たづなを必要とする弟子もある。容易な手綱では抑えられそうもない子路の性格的欠点が、実は同時にかえって大いに用うるに足るものであることを知り、子路には大体の方向の指示さえ与えればよいのだと考えていた。敬ニシテ礼ニ中ラザルヲ野トイヒ、勇ニシテ礼ニ中ラザルヲ逆トイフ とか、信ヲ好ンデ学ヲ好マザレバソノヘイゾク、直ヲ好ンデ学ヲ好マザレバソノ蔽ヤカウ などというのも、結局は、個人としての子路に対してよりも、いわば塾頭格じゅくとうかくとしての子路に向っての叱言こごとである場合が多かった。子路という特殊な個人に在ってはかえって魅力みりょくとなり得るものが、他の門生一般いっぱんについてはおおむね害となることが多いからである。

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