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河馬(かば)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-17 11:24:26  点击:  切换到繁體中文


   麒麟(きりん)の歌

黒と黄の縞のネクタイ鮮やけき洒落者みやびをとこと見しは僻目ひがめ
春の夜のシャンゼリゼェをマダム連れムッシュ・ヂラフがそゞろ歩むも
社交界の噂なるらむ麒麟氏が妻をかへりみ何かいふらしき
山高ダービイも持たせまほしき男ぶり麒麟しづ/\と歩みたりけり
泥濘ぬかるみけて道行く禮裝の紳士とやいはむ麒麟の歩み
隙もなき伊達男ダンデイぶりやワイシャツの汚れもさぞや気にかかりなむ

   ハイエナ(鬣狗)

死にし子の死亡屆を書かせける代書屋に似たりハイエナの顏は

   カンガルウ

力無きばつたごとも春のに跳び跳びてをりカンガルー二つ
柵内さくうちすな乾きゐて春風しゆんぷうにカンガルー跳躍とびのさぶしも

   熊

立上りゐやする熊が月の輪の白きをでて芋を與へし
熊立てば咽喉の月の輪白たへの蝶ネクタイとわが見つるかも

   象の歌

年老いし灰色の象の前に立ちてものうきまゝに寂しくなりぬ
象の足に太き鎖見つ春の日に心重きはわれのみならず
心はれぬさまに煎餅を拾ひゐる象はジャングルを忘れかねつや
     ×    ×
子供一人菓子も投げねば長き鼻をダラリブラリと象徘徊たもとほる
花曇る四月の晝を象の鼻ブラリ/\と搖れてゐたりけり
徘徊たもとほる象の細目ほそめさか諦觀あきらめの色ものうげに見ゆ
この象は老いてあるらし腹よごれ鼻も節立ふしだち牙は切られたり
象の顎に白く見ゆる毛こはげにて口にはよだれたゝへたるらし

   鰐魚わにの歌

さきつ年アフリカゆ來し鰐怒りを食はずして死ににけりとぞ
ゆゑもなく處移されて知らぬ人の與ふる食を拒みけむかも
飢ゑにし鰐の怒りを我思ふわれのいかりに似ずとはいはじ

   蝙蝠(こうもり)

小笠原の大蝙蝠は終日ひねもすを簑蟲のごとぶら下りたり
晝をさかさ蝙蝠よく見ればずるげなる目をあいてゐにけり
手の骨の細く不気味けうとき蝙蝠はひねこび顏に何をたくらむ

   穴熊

うつし世をはかなむかあはれ穴熊はをりの奧にべそをかきゐる
穴熊の鼻の黒きに中學の文法の師を思ひいでつも
穴熊の鼻の黒きが気になりぬ家に歸りていまだ忘れず

   雉

春の陽を豊かに浴びてさつ鳥雉子きぎしもはら砂浴びてゐる
家つ鳥かけの匂を思ひけり野つ鳥きじの小舍の前にして

   (ふくろう)

何處いづこにかが古頭巾忘れ來し物足らぬなれの頭の
大きなるおどけまなこの中に見えぬとへば哀れなりけり

   猪

藁屑と泥にまみれてぼやきつゝゐのしゝの口うごめきあさる

   カメレオン

日に八度やたび色を変ふとふ熱帶の機會主義者オッポチュニスト(青き魔術師)カメレオンぞこれ
蠅來ればさと繰出くりいだすカメレオンの舌の肉色瞬間に見つ
長く圓き肉色の舌ひらめくやカメレオンの口はたと閉ぢけり
カメレオンが木に(すが)りゐる細き尾のくる/\と卷く卷きのおもしろ
カメレオンの胴の薄さや肋骨もみどりなす腹に浮きいでて見ゆ

   (う)の歌

豆州稻取海岸にて
山直ちに海に崩れ入る岩の上に飛沫浴びつゝ鵜は立ちてゐる
我が投げし石はとどかず崖下の氷雨ひさめしぶかふ荒磯の鵜に
たちまちに海黒み來ぬいはの上の鵜の聲風に吹消されつゝ
雨まじり吹く風強み岩の鵜はつばさ收めてこらへてをるも

   鸚鵡(おうむ)の歌

まどろみゐてふと眼をあけし赤羅あから鸚鵡我を見いでて意外気おもはずげなり
緋衣ひごろも大嘴おほはし鸚鵡我を見てまたものうげに眼をとぢにけり
娼婦たはれめ衣裳きぬを纒へる哲学者鸚鵡眼をとぢもの思ひをる
いにしへの達磨大師に似たりけり緋衣曳きてものを思へば
眼をとぢて日にぬくもれる緋鸚鵡の頬の毛けていた/\しげなり
緋に燃ゆる胸毛にくちを挿入れて鸚鵡うつ/\眠りてゐるも
麻の實をついばむ鸚鵡かたへなる我を無視してひたみに
はしと嘴く動きつゝま黒の鸚鵡の舌はまるまりて見ゆ
麻の實の殼を猛烈にはじき飛ばす赤羅裳あからも鸚鵡ひたむきなるを
年老いし大赤鸚鵡はねさきの瑠璃色なるが伊達者めきたり

   小蝦(こえび)の歌

――土肥海岸所見――
潮ひきし岩のくぼみの水溜り許多ここだ小蝦の影ひそみゐる
飴色にに透きとほる小蝦らの何か驚きにはかに乱る
幾多ここだくの小蝦隱れし砂煙やがて靜まり水澄みにけり
砂煙の砂の一粒一粒が音なく沈み蝦隱れけり

   黒鯛の歌

――土肥釣堀にて――
巖陰いはかげはさ青に透り黒鯛の尾鰭白々とあやしくかへ
洞窟に光は入らず黒き水の湧くが如くに黒鯛るる

   仔山羊の歌

あた川の浜に一匹の仔山羊あり
海に向ひてしきりに啼く
その聲あはれなりければ
荒濱に仔山羊が一つ啼きてをりあはれ仔山羊は何をりする
大島も黒雲がくり隱れけり仔山羊は何を見らむとすらむ
曇り日の海に向ひて立ち啼ける仔山羊は未だ角みじかかり
潮風にみじかき髯を吹かせゐる仔山羊の眼ぬち哀しと思ふ





底本:「中島敦全集2」筑摩書房
   2001(平成13)年12月20日初版第1刷発行
※()付きのルビは編集部の付したもので、編集部の方針により現代仮名遣いになっています。
※「機會主義者オッポチュニスト(青き魔術師)」の「(青き魔術師)」は底本では「機會主義者」の左側に注記されています。
入力:桑田康正
校正:小林繁雄
2005年1月20日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • 「くの字点」は「/\」で、「濁点付きくの字点」は「/″\」で表しました。
  • 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。
  • 傍点や圏点、傍線の付いた文字は、強調表示にしました。

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