您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 豊島 与志雄 >> 正文

街の少年(まちのしょうねん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-13 14:15:44  点击:  切换到繁體中文


「はははは、君はぼんやりだな。これだよ」
 彼は上衣うわぎのポケットから絵はがきを四五枚とりだしました。みなトニイの店にあったものなんです。
「どうだい、気がつかなかったろう」
「なあんだ、さっきごまかしたんですね。よし、も一度やってごらんなさい。こんどはごまかされやしません」
 紳士は絵はがきを手でいじくりまわしました。トニイはその手もとをみつめていました。よろしいという合図で、とったかとらないか、とったならどこにかくしたか、それをあてるんです。ところが、紳士はとても巧妙で、トニイにはどうしても見当けんとうがつきませんでした。とったと思っていると、一枚もとっていません。まだとらないと思ってると、四五枚ポケットにしまいこんでいます。カードの奇術きじゅつと同じことでした。
「おどろいたなあ、あなたは奇術をやるんですか」
「なあに、ちょっとしたなぐさみさ。またこんど寄るよ。これは遊びちんだ。絵はがきなんかいらない」
 紳士は銀貨を一枚ほうりだして、行ってしまいました。
 それから時々、その紳士はトニイの店にたちよりました。いつも酒によってるようでした。そして絵はがきのごまかしっこをして、トニイと遊びました。トニイもだんだんうまくなりました。二人はもう仲よしになって、したしく握手あくしゅをしあうほどになりました。
 そして近頃、その奇術きじゅつの紳士が、さっぱり来なくなりました。マリイが店にでるようになってからは、一度も来たことがありませんでした。
 その紳士が、マリイの父親と同じ顔なんです。マリイの父親は二年も前に死んでるらしいんですが、どうもふしぎです。それから、マリイのところに誰からともなく届けられたたくさんのお金……。
 あの紳士があやしい、あれをつかまえてみよう……とトニイは考えました。
 ところで、その奇術の紳士は、どこに住んでるどういう人かわかりませんでした。トニイは困りました。店をだすのもやめて、町の中をあるきまわり、ことに港の方をあるきまわりました。あの紳士がよく海に出るらしいのを知っていたのです。
 二三日むだに探しあるいた後、トニイは晩おそく、港のではずれのさびしい海岸にでて、そこのてすりにもたれて考えこみました。
 港はあちこちに多くの船がとまっていて、その燈火あかりが海にちらちらうつっていました。その間を、いっそうのモーターボートが、すばらしい速力で走ってきました。まっすぐに、トニイがいるさびしい岸の方へやってきました。
 おかしな舟だ……とトニイは感じて、物かげにかくれました。
 やがて、ボートは岸につきました。その時、一台の自動車が海岸づたいに走ってきて、ボートがついているところにとまりました。ボートから岸へはしごがかけられて、一人の男がのぼってきました。
 あの人だ! とトニイはあぶなく叫ぶところでした。照灯しょうとうの光にてらされたその横顔、姿、まさしくあの奇術きじゅつの紳士でした。トニイは息をこらしました。
 自動車から運転手らしい男がおりてきて、奇術の紳士となにかささやきあい、二人ではしごからボートの中におりていきました。しばらくして、四五人の男が、大きな箱をかかえてのぼってきて、その箱を自動車にのせ、上から毛布をかぶせ、みんなまたボートの中におりていきました。
 トニイはそっと物かげからはいだし、自動車のなかにしのびこみ、箱のそばに毛布の中にかくれました。
 奇術の紳士と運転手らしい男とは、ボートからのぼってき、二人とも運転手台にのり、そして自動車は全速力で走りだしました。

      四

 自動車は町にはいり、大きな建物の中庭にはいり、鉄の戸の前にとまりました。
 奇術の紳士と運転手らしい男とは、自動車からおりて、鉄の戸の敷居しきいのところにかがんで、なにか秘密なあいずをしました。やがて、戸が開かれて、四五人の男が出てきました。
「どうだ」
上首尾じょうしゅびだ」
 低い声でそれだけささやきあい、そしてみんな、自動車のそばにやってきて、扉をあけ、箱の上の毛布をとりのけました。
 トニイは度胸どきょうをきめました。目がさめたばかりのようなふうをして、起きあがってのびをしました。
 男たちはどよめきました。一人はトニイにピストルをさしつけました。
 トニイは目をこすりながら、自動車から出てきて、あたりを見まわし、奇術きじゅつの紳士に目をとめ、うれしそうに走りよりました。
「なあんだ、絵はがき屋の小僧か。どうしてこんなところにいたんだ」
「ああおじさん、助けておくれよ。誰かへんなやつが、僕をつけねらってるんだよ。一生けんめい逃げだして、海岸のところに自動車があったから、その中にかくれているうちに、眠っちゃったんだけれど、ここまで追っかけてくるかも知れない。ねえおじさん、助けておくれよ。おじさんなら大丈夫だ。もうおじさんをはなさないよ。そいつが来たら追っぱらっておくれよ」
 そしてトニイは紳士の胸にしがみつきました。
 みんなあたりを見まわしました。
「どんな奴だい?」と紳士はたずねました。
「へんな奴だよ。めっかちで鼻がつぶれていて、口が耳までさけてるんだよ。せいの高さは二メートルか三メートルもあって、にぎりこぶしが犬の頭くらいあるんだよ」
「まるでものじゃないか」
「うん、化け者だよ。つのもあるかも知れないよ。そいつが、しじゅう僕をつけねらってるんだ。助けておくれよ」
 トニイはなおしっかと紳士の胸にしがみつきました。
 一同は困ったようでした。何かひそひそささやきあいました。紳士はいいました。
「じゃあ、今夜はおれのところに泊めてやろう。そして明日の朝おくっていってやるよ」
「ああそうしてね。おじさんのそばなら大丈夫だ」
 一同は自動車のなかの大きな箱をかかえて、鉄の戸から中へはいりました。階段があって、それをおりていくと、地下室の広間でした。
 大きなテーブルがならんでおり、ぜいたくな椅子いすがならんでいました。テーブルの上には、酒瓶さかびんやコップやトランプの札などがちらかっていて、壁には銃や剣などの武器がかかっていました。
 次の部屋にはいくつもベッドがならんでいました。まるで寄宿舎のようでした。トニイはすぐそこに寝かされました。
 広間の方では、さっきの男たちが、酒をのんだり、トランプをしたりして、おそくまで起きていました。
 トニイはわーっと大きな声で叫び立てました。奇術きじゅつの紳士がはいってきました。
「どうしたんだ」
「おじさん、ついててくれなくちゃいやだよ。あいつが来そうで、僕こわいんだ」
ものか」
「いつやってくるかも知れないんだよ」
「しょうのない臆病者おくびょうものだね」
 奇術きじゅつの紳士は出ていって、やがてまたやってきて、トニイのそばのベッドにねました。
「おじさんは、ほんとにこわいと思ったことがあるの」
「そりゃあるさ」
「どんな時がいちばんこわかったの」
「そうだなあ……二年前、おれの乗ってた船が暴風しけにあって、沈んでしまい、おれは海の上にほうり出されて、まっ暗な夜、板一枚にしがみついて流された時は、こわかった」
「それから、どうしたの」
「救いあげられたよ」
「誰に?」
「今いっしょにいる人たちさ。お前はおれたちを何だと思ってるんだい」
「さあ、何だろうなあ……盗賊とうぞくか、海賊かいぞくか、密輸入者みつゆにゅうしゃか、むほん人か……」
「はははは、あたったよ、実は海賊なんだよ。人にいったら、生かしてはおかないから、いいかい」
「大丈夫だよ。いいやしないよ。海賊っておもしろいだろうなあ」
「そのかわり、命がけだからね、あぶない仕事さ」
「じゃあ、やめたらいいじゃないの」
 紳士は何とも返事をしませんでした。なにか深く考えこんだらしく、トニイが話しかけても相手になってくれませんでした。

      五

 翌朝、トニイは早く目をさましました。そしてそばの紳士を起こしました。
「僕を家までおくってきてくれる約束だったでしょう」
「だって、昼まなら、一人で帰れるだろう」
「いやだよ。あいつが、ものが、また出てくるかも知れないんだもの」
「ばかだね、お前は」
 それでも、紳士はいっしょについてきてくれました。
 二人は歩いていきました。きれいに晴れた日で、朝日がうつくしく照っていました。紳士は煙草たばこをふかし、トニイは口笛をふいていました。
 トニイはとくいでした。うまくごまかしてしまったのです。紳士をつれて、マリイの家の方へやってきました。
 マリイが住んでるアパートの前まで来ると、紳士はびっくりしたように立ち止まりました。
「お前はここに住んでるのか」
「そうですよ。階段や廊下があぶないんだ、いつあいつが出てくるかわからない。僕の部屋までおくってきて下さいよ」
 せまい階段を三階までのぼって、奥の部屋まで行き、トニイはいきなりその扉を開いて、紳士をつれこみました。
 音をきいて、マリイが出てきました。
 紳士とマリイとは、顔を見合わして、そこに棒のように立ちすくみました。マリイはふいに、紳士の胸にとびついていきました。
「お父さん、お父さん……生きていらしたのね。お父さん……帰ってきて下すったのね。お父さん……」
 マリイは泣きながら、次の部屋にとびこんでいきました。
「お母さん、お父さんがいらしたわ、お父さんが……」
 母親はベットからとびおりてきました。父親の方も、その部屋にとびこんでいきました。そして三人で、涙を流しながら抱きあいました。
 父親は力つきたように、そこにひざまずいて、ベットに顔をふせました。
「許してくれ。せんだって、おれはマリイの姿を見かけたが、たずねてもこなかった。おれは海賊かいぞくの仲間にはいっているんだ。船が難破なんぱして、沈んでしまった時、海賊に救われてから、その仲間にはいってしまったんだ。こちらにやってきた時、ずいぶんお前たちの行方ゆくえをさがしたが、わからなかった。それに、海賊の約束として、家族の者にあってはいけないことになってるんだ。家族の者にあってると、秘密ひみつがもれたり、勇気がくじけたりするからだ。そんなわけで、マリイの姿を見かけても、声もかけなかった。許してくれ、おれが悪いんだ。おれの胸は煮えくり返るようだった。せめての思いに、金の包みを届けておいたが、受取ったろうね。それより外に、どうにもしようがなかった。一度海賊かいぞくの仲間にはいると、それからぬけ出すことは、一同を裏切ることになるもんだから……。ああ、おれはどうしたらいいか。どうしたらいいか……」
 彼はむせび泣いていました。母親も泣いていました。マリイも泣いていました。
 トニイは顔をそむけて、窓から外をながめていましたが、その時、わざと笑いながら朗らかにいいました。
「とうとう僕の計略にかかりましたね。もののことなんか、みんなうそですよ。泣いたりなんかしないで、しっかりするんですよ。どうせもう、家族の者にあって、海賊の約束をやぶったんだから、思いきって、ぬけ出したらいいじゃありませんか。汽車にでものって、遠くに逃げちゃうんですね。あとは僕が引き受けます。絵はがき屋のトニイだ。街のトニイだ、海賊なんかごまかすのはわけはありません」
 マリイの父親は、涙をふいて、立ち上がって、トニイの手をにぎりしめました。
 マリイもトニイの手をにぎりしめました。
 トニイはみんなと握手あくしゅしていいました。
「すぐに汽車で逃げてしまいなさいよ。あとは僕が引き受けます。……どれ、今日からまた、広場へに[#「広場へに」はママ]店でもだそう。さようなら」
 みんなからひきとめられるのをふりはらって、トニイは出ていきました。
 外に出ると、トニイはちょっとさびしくなりました。でも、口笛をふいて元気に立ち去りました。一人者の街の少年です。広場にやたい店を出しに出かけるのです。





底本:「豊島与志雄童話集」海鳥社
   1990(平成2)年11月27日第1刷発行
入力:kompass
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年4月29日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • [#…]は、入力者による注を表す記号です。

上一页  [1] [2]  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告