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自然界の縞模様(しぜんかいのしまもよう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-3 8:41:18  点击:  切换到繁體中文


 岩石に関してはまだ皺襞しゅうへき裂罅れっかの週期性が重要な問題になるが、これはまた岩石に限らず広く一般に固体の変形に関する多種多様な問題と連関して来るのである。
 弾性体の皺襞については従来「弾性的不安定」の問題として理論的にもかなりたびたび取り扱われたもので、工学上にもいろいろの応用のあるのはもちろんであるが、また一方では、平行山脈の生成の説明に適用されたり、また毛色の変わった例としては、生物の細胞組織が最初の空洞球状くうどうきゅうじょうの原形からだんだんとしわを生じて発達する過程にまでもこの考えを応用しようと試みた人があるくらいである。しかし単なる理論のテストでなく、現象を精察する意味での実地的方面の研究はかえって少ないようであるが、わが国で地球物理の問題に関係して藤原ふじわら博士や徳田とくだ博士の行なわれたいろいろの実験はこの意味においてきわめて興味の深い有益なものである。それからこれは少し変なものではあるがねこの毛並みにも時として週期性の縞状の疎密を呈することがある。あれもこの皺の問題といくぶん連関しているらしく思われるが詳しいことはわからない。これも一つの問題ではある。
 裂罅、あるいは「われめ」の生成は皺襞と対立さるべきものでやはり一種の不安定によって定まるものであろうが、このほうの研究はまだきわめて進捗しんちょくしていない。理論的に言えば、破壊の起こる直前までの過程についてはプラスティックな物体の力学からある程度まではこぎつけられるが、ほんとうに破壊が起こり始めたが最後、もう始めの微分方程式も境界条件も全部無効になるから、これらの理論はその後の事がらについては全く一言の権利もなくなってしまう。それで、たとえば理論から出した最大剪断応力せんだんおうりょく趨向すうこうを示す線系が、実物試片のリューダー線や、「目に見える割れ目」とだいたい一致していたとしても、それは言わば偶然であって、必ずしもそうならなければならないというだけの根拠はまだ具備していないのである。それはいいとしても、ここでもまた、並行した割れ目の週期性に関する説明となると、現在のところでは全く何事もわかっていないと言わなければならない。だれであったか先年ドイツの雑誌で単晶の針金のすべり面の数が針金の弾性的高周波振動できまるという説を出したことがあったようであったが、これもあまりふに落ちない説であった。自分もかつて、砂層の変形の繰り返しによって生ずる週期的すべり面の機巧から推して、単晶体の週期的すべり面の機巧を予想してみたこともあったが、これとても決して充分だと思われない、最近にガラス面に沿うて電気火花を通ずる時にその表面にできる微細な顕微鏡的な週期的の割れ目を平田ひらた理学士と共同研究した結果では、この場合にもやはり一種の弾性的不安定が関係しているであろうと思わせるような事実を認めた。
 しかし、実験的現象として見た割れ目の現象はなかなか在来の簡単な理論などでは追いつきそうもない複雑多様なものであって、これに関する完全な説明のできる前にはまだまだ非常にたくさんの実験観察ならびにそれからの帰納的要約が行なわれなければならない。そうして新しい「割れ目の方則」が発見されなければならないであろうと想像される。そういう次第であるから、わが国で、鈴木清太郎すずきせいたろう藤原咲平ふじわらさくへい田口※(「さんずい+卯」、第4水準2-78-35)三郎たぐちりゅうざぶろう平田森三ひらたもりぞう西村源六郎にしむらげんろくろう高山威雄たかやまたけお諸氏の「割れ目の研究」、またこれに連関した辻二郎つじじろう君の光弾性的研究や、黒田正夫くろだまさお君のリューダー線の研究、大越諄おおこしまこと君の刃物の研究等は、いずれも最も興味ありまた有益なものである。また一方山口珪次やまぐちけいじ君の単晶のすべり面の研究なども合わせて参照さるべきものと思われる。また未発表ではあるが池田芳郎いけだよしろう君の注意されたガラス管の内部的ひずみによる破壊の現象などもこの部類に属するもので、そこにもおもしろいわれ目の週期性が現われるのである。子供の遊戯と考えられている「リュプレヒト公子の涙」と称するものもまた同部類の現象で、まじめな研究に値するものであるが、だれも手をつけた人を聞かない。
 ガラスなどの円盤の中央をたたくと、それがある整数だけのほぼ同大の扇形に割れる。これについては前に鈴木清太郎すずきせいたろう君の研究がある。これもある点では金米糖こんぺいとうの問題と似た点もあり、またある点では「弾性的不安定」の問題とも関係しているように見える。
 実験室における割れ目の問題が地殻ちかくに適用されるとなると、そこには地質学や地震学の方面に多大な応用範囲が見いだされる。これに関してはかえって地質学者の多くが懐疑的であるように見えるが、物理学者の目から見れば、この適用は、もし適当な注意のもとに行なわれさえすれば、むしろ当然の試みとして奨励遂行さるべきものと思われる。
 地殻の皺曲しゅうきょくや割れ目やすべり面の週期性に因って第二次的に決定される地形の週期性のあること、それによってまたあらゆる天然ないし人間的な週期性が現われることも注意に値いする。
 河流の蛇行径路メアンダーについては従来いろいろの研究があり、かの有名なアルベルト・アインシュタインまでが一説を出していたようである。しかし場合によっては、これが単に河水の浸蝕作用しんしょくさようだけではなくて、もっと第一次的な地殻ちかく変形の週期性によって、たとえ全部決定されずとも、かなり影響された場合がありはしないかと考えられる。蛇行だこうの波長が河床かしょうの幅に対して長いような場合に特にこれが問題になるであろう。これは地形学者の再検討をわずらわしたい問題である。
 以上述べたものの多くは、言わば「並行縞へいこうじま」と呼ばれるべき形態のものであったが、このほかになお「放射縞」と言わるべきものがある。もっとも、上述の中でも、噴泉塔の縞や、鈴木すずき君の円板の割れ目などもむしろこの放射型に属するものであったが、このいわゆる放射縞の現象の中で、最も顕著で古くから知られているものの一つは、放電のリヒテンベルグ形像である。これの陰極像などは立派に週期的と呼ばるべきものである。この像の生成についてはずいぶんいろいろ説があり、わが国の吉田卯三郎よしだうさぶろう博士の説もその中の重要なものとして知られているが、しかしこの場合にもまた、いつものように、この週期性の決定要素についてはまだなんらの説明を聞かず、のみならずこの事を問題にする人すら少ないように見える。北海道大学の伊藤直いとうなおし君の研究にかかる低度真空中の放電による放射形縞についても同様の事が言われる。自分はかつて、例の液の熱対流による柱状渦ちゅうじょうかの一例として、放射形の縞模様を作ることができた。また床上に流した石油に点火するときその炎の前面が花形に進行する現象からもまた、放射形柱状渦の存在を推定したことがあった。それの類推的想像と、もう一つは完全流体の速度の場と静電気的な力の場との類似から、例の不謹慎な空想をたくましくして、もしも放電の場合においても電場の方向に垂直なある不安定があれば、それによって、こういう週期性が生じはせぬかと思ったことがあり、多くの人にその考えを話したことがある。これも一つのヒントにはなりうると思うからついでに付記する。
 リヒテンベルグの陽像はかなり不規則であるが、これもいくぶんの放射形週期性をもっている。これに類した他方面の現象としては清潔なガラス板の水平な面上に薄く清潔な水の層を作っておいて、そうして墨を含ませた筆の先をちょっとそのガラス面の一点に触れると水の薄層はたちまち四方に押しのけられて、墨汁ぼくじゅうが一見かわき上がったようなガラスの面を不規則な放射形をなして分岐しながら広がって行く。その広がり方の型式がリヒテンベルグ陽像に類似の点をもっている。この場合は明らかに墨のコロイド粒子群が内から外へ進行する際にその進行速度にはなはだしい異同ができ、その異同が助長されるのであろうが、この事実の形式的類推から放電陽像の場合にも、何物か粗粒的なものが内から外のほうへ広がるのではないかという想像を誘われる。また一方で前記の放射状対流渦たいりゅうかの立派に現われる場合は、いずれも求心的流動の場合であるから、放電陰像の場合もあるいは求心的な物質の流れがあるのではないかと想像させる。水流の場合には一般に流線の広がる時に擾乱じょうらんが起こるが流線が集約する時にはそれが整斉せいせいされる、あれと似たことがありはしないかとも考えられる。これらもすべて大胆すぎた想像であるが一つの暗示として付記する。
 リヒテンベルグの場合に放電板の裏側にできる第二次像の同心環が米田よねだ氏の現象に類するのは注意すべき事である。
 近来筒井俊正つついとしまさ君が研究している一種の特殊な拡進現象にもまたリヒテンベルグ陽像などといくぶん似た部類に属するものがある。それは二枚の平面板の間に粘性あるいは糊状のりじょうの液体を薄層としてはさんでおいて、急にその二枚の板を引き離すときにできるきれいな模様の中のあるものである。この模様の分岐のしかたにも一種の週期性がある。しかしこの場合においてもこの週期性の決定要素はなかなか簡単には説明されないものらしく思われる。
 池の表面の氷結した上に適度の降雪があった時に、その面に亀甲形きっこうがたの模様ができる、これには、一方では弾性的不安定の問題、また対流の問題なども含まれているようであるが、この亀甲きっこう模様の亀甲形の中心にできる小さな穴から四方に放射して、「ひとで」形の模様ができる。これの説明もまだ確実なことはわからないようであるが、自分の観察の結果から判断できる範囲内では、ともかくもこの中央の穴から流れ出しまた流れ帰る水の流路を示すものらしく思われる。そうだとすると、これも上記現象のあるものと同部類に属すると考えられる。これは雪の代わりに他の可溶塩類を使った実験ができる見込みである。
 唐紙からかみなどに水がついたあとにできる「しみ」が、どうかすると不規則な花形模様に広がることがある。また「もぐさ」を平たく板の上にはりつけておいて、その一点に点火すると、炎を上げない火が徐々に燃え広がる。その燃えて行く前面の形が不規則な花形である。これらの場合にはいずれも通有な一種の原理のようなものがあると思われる。
「理由欠乏の原理」あるいは「無知の原理」からすれば、これらの伝播でんぱの前面は完全なる円形をなすはずであるが、実際の現象を注意して見ていると、円形になるほうがむしろ不思議なようにも思われて来る。たとえばアルコホルの沿面燃焼などはほとんど完全な円形な前面をもって進行するが、こういう場合は自然的変異を打ち消すような好都合の機巧が別に存在参加しているという特別の場合であるとも考えられる。すなわち、前面が凸出とっしゅつする点の速度が減じ、凹入おうにゅうした点の速度が増し、かくして自動的に調節が行なわれ、その結果として始めて円形が保たれるものと思われる。これに反して偶然変異がそのままに保存され蓄積し増長する多くの場合には不規則な花形、「ひとで」形等になる。このほうが普通だとも考えられる。そうして、ある週期のものだけが特に助長されるような条件が加われば規則正しい放射像となるというふうに考えられる。こう考えると、不規則な放射形の場合でも、それはいろいろの週期のものがたくさんに合成された結果と見なすことができるし、その多くの「週期のスペクトラ」のエネルギー分布の統計的形式によって、いろいろな不規律放射像の不規則さの様式特性が定まると考えられる、言わば規則正しい像は単線スペクトルに当たり、不規則なのは一種の連続スペクトルあるいは帯状スペクトルに当たるのである。こう考えると、形が不規則だとか、reproducible でないからとか言って不規則な放射像を物理学の圏外に追いやる必要はないであろう。光の場合の不規則は人間の感官認識能力の低度なおかげで「見えない」から平気であるが、現在の場合は「見える」からかえって困るのである。盲者の幸福がここにもある。
 とにかくこういうふうに考えれば、完全週期的なしまと不規則な縞とをひとまとめに論ずる事がそれほど乱暴でないということだけは首肯されるであろう。
 以上のほかにも天然の縞模様の例はたくさんあるであろう。放電についても放電管内の陽極の縞や、陽極の光った斑点はんてんの週期的紋形なども最も興味あるものであり、よく知られてもおりながら、ここでもやはり週期決定因子の研究が奇妙にも等閑に付せられているのである。
 また、粘土などを水に混じた微粒のサスペンションが容器の中で水平な縞状しまじょうの層を作る不思議な現象がある。普通の理論からすれば、ダルトン方則で、単に普通の指数曲線的垂直分布を示すはずのが、事実はこれに反して画然たる数個の段階に分かれるのである。仮定の抜けている理論の無価値なことを示す適例である。この場合の機巧もまだ全くやみの中にある。ことによると、これは electrocapillary phenomena を考えに入れて始めて明らかにさるべき現象かと想像される。でなければコロイドに関する物理にはまだまだ未開の領土が多い事を指示するものであろう。
 このほかにもまだいろいろあるであろうがあまりに予定の紙数を超過するからまずこのへんで筆をおく事とする。このはなはだ杜撰ずざんな空想的色彩の濃厚な漫筆が読者の中の元気で自由で有為な若い自然研究者になんらかの新題目を示唆することができれば大幸である。ただ記述があまりに簡略に過ぎてわかりにくい点が多いことと思われるが、そういう点についてはどうか聡明そうめいなる読者の推読をわずらわしたい。

(昭和八年二月、科学)





底本:「寺田寅彦随筆集 第四巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店
   1948(昭和23)年5月15日第1刷発行
   1963(昭和38)年5月16日第20刷改版発行
   1997(平成9)年6月13日第65刷発行
※底本の誤記等を確認するにあたり、「寺田寅彦全集」(岩波書店)を参照しました。
※底本では、注釈番号は、本文の右脇にルビのように組まれている。
入力:(株)モモ
校正:かとうかおり
2000年10月3日公開
2003年10月30日修正
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