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太虚司法伝(だいきょしほうでん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-26 14:50:49  点击:  切换到繁體中文


「とうとうかたきをつかまえた」
「そうだ、めでたいことじゃ」
「早速大王の前へ連れて往こう」
 大異の頸には鉄組くさりかかり、腰には皮※かわひも[#「糸+率」、264-7][#「てへん+全」、264-7]いた。大異はもうどうすることもできなかった。
「こっちへこい」
「歩け」
 大異の体へひどい力が加わった。大異は痛いのでしかたなしに歩いて往った。
 すぐ一つの庁堂があって、その正面には大王であろう、奇怪な姿の者が坐っていた。怪しい者たちはその前へ大異を連れて往った。
「吾が徒を凌辱する狂士を連れてまいりました」
 大王は頷いて大異を睨みつけた。
「その方は五体を具えて、知識がありながら、どうして鬼神の徳の盛んなことを知らないのじゃ、孔子は大聖人であるけれども、なお敬して之を遠ざくと言ったではないか、大易たいえきには鬼を一車に載すということを言い、小雅には鬼となしよく[#「虫+或」、266-1]となすという文句がある、また左伝には晋景しんけいの夢や伯有はくゆうのことを書いてある、これは皆物があるからじゃ、その方は何者なれば、独り鬼神がないというのじゃ、俺はその方から久しい間、侮辱を受けていたから、今日こそその復讐をする」
 大王はそう言ってから命令した。
「まず※(「木+垂」、第3水準1-85-77)むちをやれ」
 大異は冠も衣裳も剥がれて、裸にせられて鞭を加えられた。みるみる肉が破れて全身は血みどろになった。大王はそれを見て言った。
「鞭が厭なら、泥を調ってしたじをこしらえるか、それとも身のたけ三丈の鬼になるか、どっちでもその方のいい方にするがいい」
 大異は早く鞭を逃れたいと思ったが、泥を調って醤をこしらえることはできないので三丈の鬼になろうと思った。
「どうか鬼にしてくださいますように」
 大王は笑った。
「鬼になるか、よし、よし、では皆で三丈の鬼にしろ」
 大異の体はそのまま石床の上へ横倒しにせられた。怪しい者たちは、その大異の体へそれぞれ両手をかけてみだした。俯向けにしたり、横にしたり、そうしてせっせと搓んでいると、その体がずんずんと延びてきた。
 大異の体は皆の手に支えられて起された。それは竹竿を立てたような長い長い体になって、独りでは動くことも立っていることもできなかった。
「出来た出来た、長竿恠ちょうかんかい
 皆が手を叩いてはやしたてた。大異はどうすることもできなかった。大王は笑って言った。
「それが苦しければ代えてやってもいい、石を※(「者/火」、第3水準1-87-52)いて汁をこしらえるか、それとも一尺の体になるか」
 大異は自分独りで立っていられないよりも、一尺の体の方がいいと思った。
「どうか、一尺の体にしてくださいますように」
「よし、一尺の体になりたいのか、皆、その人間を一尺の体にしてやれ」
 大異の体はまた石床の上へ引擦り倒されて、縮めるように頭と足を捺されたり、まためんをこしらえるようにまれたりした。骨が折れて肉が破れるような痛みに包まれていた大異は、いつの間にか自分の体が小さな蟹のようになっているのに気がいた。
彭※怪ほうきかい[#「虫+其」、267-15]
「彭※[#「虫+其」、267-16]怪」
 皆が手を拍って笑った。大異は苦痛に耐えられないで体を悶掻もがき悶掻きその辺を這った。
 そこに年取った怪物がいた。怪物は掌を拍って笑って言った。
「お前さんは、平生へいぜい鬼怪を信じないのに、何故にこんな体になったのだ」
 老鬼はその後で皆に向って言った。
「この人間は無礼な奴だが、これくらい辱しめたなら充分だろう、赦してやろうじゃないか」
 老鬼はそこで両手を延べて大異をつかまえて起した。起すと同時に大異の体はもとの体になった。大異は蘇生したように思った。
「どうか私を還してください」
 皆が口々に言った。
「まだ返さないよ」
「ここまで連れてきた者を、ただは返さないよ」
「そうさ、人間に、我輩どもの有ることを知らす必要があるからな」
「皆で贈物があらあ」
 大異を故の体にしてくれた老鬼が言った。
「贈物とはどんな物だ、どんな物を贈るのだ」
 すると一つの怪物が言った。
「俺からは、撥雲はつうんの角を贈るのだ」
 その怪物は二本の角を持ってきて、それを大異の額に当てた。と、角はそのまま生えたようにくっついてしまった。
「俺からは、哨風しょうふうくちばしを贈ろう」
 他の怪物の一つは、鉄の嘴を持ってきて大異のくちびるに当てた。脣はまたそのまま鳥のくちばしのようになった。
「俺は朱華しゅかの髪を贈ろう」
 次の怪物は赤い水を桶に入れてきて、それを大異の髪にかけた。髪は火のように赤い色になって、それが頭の周囲にまくれあがった。
「俺は碧光のまなこを贈ってやろう」
 も一つの怪物は二つの青い珠を持ってきて、大異の両眼にめた。
「これで贈物はもう済んだらしいな、では、もうこの人間を帰してやろう、さあお前さん、帰るがいいよ、そこいらまで俺が送ってやろう」
 大異は老鬼に促がされて歩いた。老鬼はことことと後からいてきた。
 暗い坑の口が見えてきた。その坑の口へ往ったところで老鬼が言った。
「この坑はお前さんがきた坑だ、これを出ると、すぐお前さんの家だ、ずいぶん達者で暮すがいい、さっきお前さんはひどい目に逢ったが、もうあんなことは忘れてしまうがいいよ」
 大異はそこで老鬼と別れて坑を出た。坑のさきは上蔡の市中であった。大異はその市中を通って東門にある自分の家へ帰ったが、撥雲の角、哨風の嘴、朱華の髪、碧光の睛、どうしても人間でないので、市中の者があつまってきたが、近くへは寄らなかった。小児こどもなどはいて逃げた。
 そして、やっと家へ帰りいたが、細君や小児は恐れて逃げだした。いくら話してもほんとうにしない。大異は非常に憤懣して、それから人にも逢わず、食を絶って死んだが、死ぬる時家の者を呼んで言った。
「俺は鬼に辱しめられて死ぬるから、棺の中へたくさん紙と筆を入れて置け、俺は天にうったえるのだ、俺が死んで数日したら、きっと蔡州に不思議な事が起る、その時は俺の勝った時だから、酒をそそいで祝してくれ」
 家内の者は大異の言う通り紙筆を棺の中へ入れたところで、三日過ぎて、白昼不意に暴風雨が起って、それに雷鳴が加わり、屋根瓦を飛ばし、大木を抜いて、翌日の朝まで荒れて、朝になってやっとれた。霽れた時にみると、大異の堕ちた坑のあたりが中心に大きな湖が出来て、それには赤い血のような水が溢れていた。
 その時、大異の柩の中から声が聞えた。
「俺の訟えが勝って、鬼どもは夷滅いめつせられた、それとともに天では俺の正直を認めてくれて、俺を太虚殿だいきょでんの司法にしてくれた、俺は職任が重くなったから、再びこの世にはこないのだ」
 大異の家ではそこで大異を葬ったが、葬る時その柩の周囲に、大異の霊の髣髴ほうふつとしているのを感じた。





底本:「中国の怪談(一)」河出文庫、河出書房新社
   1987(昭和62)年5月6日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
   1970(昭和45)年11月30日発行
※「ずいぶん達者で暮すがいい」の「ずいぶん」は底本では「すいぶん」でしたが、親本を参照して直しました。
入力:Hiroshi_O
校正:門田裕志、小林繁雄
2003年8月3日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • [#…]は、入力者による注を表す記号です。
  • 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。
  • この作品には、JIS X 0213にない、以下の文字が用いられています。(数字は、底本中の出現「ページ-行」数。)これらの文字は本文内では「※[#…]」の形で示しました。

    「てへん+綴のつくり」    262-1
    「裁」の「衣」に代えて「肉」    263-2
    「けものへん+僚のつくり」    264-2
    「糸+率」    264-7
    「てへん+全」    264-7
    「虫+或」    266-1
    「虫+其」    267-15、267-16

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