一
幕末の比(ころ)であった。本郷の枳殻寺(からだちでら)の傍に新三郎と云う男が住んでいたが、その新三郎は旅商人(たびあきんど)でいつも上州あたりへ織物の買い出しに往って、それを東京近在の小さな呉服屋へ卸していた。それは某年(あるとし)の秋のこと、新三郎の家では例によって新三郎が旅に出かけて往ったので、女房のお滝は一人児の新一と仲働の老婆を対手に留守居をしていた。
もう蚊もいなくなって襟元の冷びえする寝心地の好い晩であった。お滝はその年十三になる新一を奥の室(へや)へ寝かして、己(じぶん)は主翁(ていしゅ)の室となっている表座敷で一人寝ていたが、寝心地が好いのでぐっすり睡っていたところで、不思議な感触がするので吃驚(びっくり)して飛び起きた。枕頭に点けた丁字の出来た有明の行灯の微暗(うすぐら)い光が、今まで己と並んで寝ていたと思われる壮(わか)い男の姿を照らしていた。お滝はびっくりするとともに激しい怒が湧いて来たので、いきなりその不届者を掴み起そうとした。
「お前さんは、何人(たれ)だね、起きておくれよ」
お滝の手が此方向きに寝ている男の肩に往ったところで、男は不意にひらりと起きて莞(にっ)と笑った後にむこうの方へ往った。
「何人だね、お前さんは」
お滝は口惜しいので後から追って往ったが男の姿はもう見えなかった。お滝は不思議に思って眼を彼方此方にやって見た。
「おかしいな」
障子も襖も開いた音がしないのにいなくなると云うはずはない。お滝は鬼魅(きみ)が悪くなって来た。
「姨(おば)さん、姨さん、……姨さん」
お滝は仲働の老婆に起きてもらおうと思った。お滝はそうして引返して行灯を持って来て、ちょっとあたりを見た後に其処の襖を開けた。其処は茶の間であった。お滝は其処に男の姿が見えはしないかと思って、行灯の灯口を向けながらまた老婆を呼んだ。
「姨さん、姨さん」
茶の間の次の庖厨(かって)の室から睡そうな声が聞えた。
「姨さん、気の毒だが、ちょと起きてくださいよ」
がたがたと音をさして茶の間と庖厨の境の障子を開けて小肥満(こぶとり)のした老婆が顔を出した。
「何か御用でございますか」
「へんなことがあったからね」
老婆はお滝の傍へ来た。
「どんなことでございます」
「どんなって、寝てて、なんだかへんだから、起きてみると、人が寝ているじゃないかね、突き出そうとすると、跳び起きて往っちゃったが、何処も開けたようでないのに、いなくなったよ」
「そりゃ、このあたりの野良でございますよ、旦那がお留守になったものだから……、巫山戯(ふざけ)た奴ですよ、何処かそのあたりに隠れておりますよ、酷い目に逢わしてやりましょう、癖になりますからね」
老婆が前(さき)に立って室(へや)の中を彼方此方と見てまわったが、それらしい者の影もなかった。そして、最後に戸締を調べてみたが、これまた宵のままですこしも変ったことはなかった。
「不思議だね、たしかに壮(わか)い男がいて、起きて逃げる拍子に笑ったのだが」
「おかしゅうございますね」
お滝はうす鬼魅が悪いので、老婆の寝床を己(じぶん)の室へ持って来さして寝かせたが、もうべつに不思議な事はなかった。
翌晩になってお滝は昨夜(ゆうべ)のことが気になるので、表座敷と背中合せになっている新一の寝ている奥の室へ老婆を寝かせた。
そのうちに平生(いつも)の癖で長くは睡っていられない老婆が眼を覚したところで、お媽(かみ)さんの室にものの気勢(けはい)がした。老婆はまた昨夜の奴が来たのではあるまいかと思って、頭をあげて宵から隙かしてあった襖の隙間から覗いた。縁側の方を枕にして寝ているお媽さんと並んで寝た男の頭が行灯の光に見えた。
「また来やあがった」
老婆は起きあがるなり、襖を開けて表座敷へ勢込んで入った。と、怪しい男は急に跳び起きて左の茶の間の方へ往った。
「この野郎、逃げようたって逃がすものか」
老婆はその方へ走って往った。その物音にお滝が眼を覚して起きあがった。
「や、また逃げやがった、お媽(かみ)さん、また逃げたのです、起きてくださいよ」
男の姿は掻き消すようになくなってしまった。其処へお滝が行灯を持って来た。
「お媽さん、知ってたのですか」
「知らなかったよ、なんだろうね、うす鬼魅が悪い」
「そうでございますよ、たしかに男でしたが」
其処へ新一が起きて来た。
「また来たのか、しまったなあ」
二
その翌晩は奥の室へも行灯を点けて、新一と老婆が境の襖を多く開けて警戒していた。新一は己(じぶん)の守刀の短刀を寝床の下へ敷いてあった。
お滝はもう睡ったのか咳(しわぶき)の声も聞えなくなった。新一と老婆は己達が睡ると、また彼(あ)の怪しい奴が来るとおもったので、なるだけ睡らないようにと、小声で話し合ってみたり、顔を見合せたりしていたが、そのうちに老婆の方は昼の疲れが出て来たのか睡ってしまった。新一は姨(おば)さんが睡っても、己は決して睡るまいと思って気を張っていたが、これも気を張ったなりに何時の間にか睡ってしまった。
「……起きてくださいよ……、坊ちゃん……、……坊ちゃん」
新一は肩のあたりを揺り動かされて眼を覚したが、その起している者が姨(おば)さんだと云うことを知ると、きっと怪しい奴が来ているなと思った。
「来たのかい」
「お媽(かみ)さんがいないのですよ、何処(どっ)かへ往ったのでしょうかね」
新一は跳び起きて表座敷の方へ往った。母親の寝床があるばかりでその姿は見えなかった。
「便所(はばかり)へでもいらっしたのだろうか」
後から来た老婆が云った。
「そうかも判らない、お前、往って見てお出でよ」
老婆は困った顔をした。
「見てお出でって、坊ちゃん、こんな時には、うっかり出られませんよ」
「だって、お母(っか)さんがいないじゃないか」
「便所へでも往ってるか判りませんよ、もすこし待って見ましょう」
新一はもどかしくなって来た。
「そんなことを云って、お母さんがどうかなったらどうする、お前が厭ならおいらが往ってくる」
新一は行灯を持って其処の障子を開けて縁側へ出た。老婆もしかたなしにその後から踉いて往った。縁側の右の突きあたりが便所になっていた。新一は其処へ往った。
「お母さん、……お母さん」
中からは何の返事もなかった。新一は室(へや)の中へ入って今度は茶の間との境になった襖を開けた。茶の間には半裸体になった母親のお滝が、仰向けになってだらしなく寝ていた。
「お母さんだ」
「あら、お媽さん」
二人は驚いて叫んだ。それでも二人は安心した。老婆はお媽さんの傍へ往って起そうとした。その拍子にお滝の眼が開いた。
「何人だい、此処へ来て邪魔するのは、彼方へお出でよ、ひとの寝間なんぞ覗きに来やがって」
老婆は驚いてやろうとした手を引込めた。
「お母さん、だめだよ、そんな処に寝ていちゃ、風邪を引くよ」
新一は叱るように云った。
「痴(ばか)、お黙り、余計なことを云うと承知しないよ」
老婆は困ってしまった。どう云って伴れて往ったものだろうかと思っていると、お滝は急に起きあがって、どかどかと表座敷へ入って往った。二人はあっけに執られていたが、その挙動が心配であるから後から踉いて往った。と、お滝は寝床の中へもぐり込むなり頭から夜着を被(かぶ)ってしまった。
「何人も此処へ来ちゃいけない、彼方(あっち)へ往っておくれ、煩(うるさ)い」
老婆と新一は困って其処に立っていたが、そのうちにお滝の寝呼吸(ねいき)が聞えだしたので、二人は奥の室へ帰って寝たが睡られなかった。わけて新一は怪しい母の挙動が心配になって来て朝まで睡れなかった。
朝になってみると、お滝は平生(いつも)のようにおとなしく起きて、新一といっしょに朝飯を喫(く)ったがベつに変ったこともなかった。ただ新一がへんに思ったのは、何か物を見詰めているような光のある眼の色をしていることであった。新一は昨夜の母の挙動を口に出して云うことができなかった。
飯が済むとお滝は表座敷へ入って往ったが、障子も襖もぴったり締めてしまって、外からはすこしも見えないようにして坐っていた。老婆と新一はいよいよ常事(ただごと)でないと思って心配しながら囁き合った。
「姨(おば)さん、お母(っか)さんはへんだね」
「そうでございますよ、どうもへんですよ、昨夜のことと云い、へんな男が襖を開けずに入って来たり、おかしいのですよ」
「何だろうね」
「どうも人間じゃないのですよ」
「なんだろう」
「そうねえ、しかし、たしかに人間じゃありませんよ、人間なら、襖を開けるなり、戸を開けるなりしますよ」
「お父(とっ)さんが早く帰ってくれると、好いなあ」
「そうでございますよ、旦那様さえ早く帰ってくださるなら、どうかなるのでしょうが」
「そうだ、お父さんが帰ってくれると、好いなあ」
三
その後で老婆はお滝の体の工合を聞こうと思って室(へや)の中へ入った。室の中ではお滝が肘枕をして仮睡(うたたね)をしていた。老婆は吃驚させないように小さな声で云った。
「もし、もし、お媽(かみ)さん」
お滝はきっと眼を開けて老婆の姿を見ると口を尖らした。
「煩いよ、何故此処へ来て邪魔をするのだね、彼方へお出でよ」
「まいりますがね、お媽さんの心地(きもち)は、何ともありませんか」
「煩いったら煩いよ、彼方へお出でよ」
老婆はしかたなしに引返して来た。茶の間には新一が老婆の帰って来るのを待っていた。
「お母(っか)さんはどうしているの」
「睡っていたのですが、やっぱりおかしいのですよ」
「おかしいって、どうなのだ」
「やっぱり昨夜のように、彼方へ往けって、私を怒ったのですよ」
「そうかい、ヘんだなあ」
昼飯になったところでお滝が室を出て来ないので老婆はまた呼びに往った。お滝は坐って何か考えているような容(ふう)をしていた。
「お媽さん、御飯はいかがでございます」
お滝は顔をあげて老婆の方をちょと見てからまた俯向いた。
「いらないよ」
老婆は困ってしまった。
「でも、すこしおあがりになっては」
「いらないと云ったらいらないよ」
「でも、御飯をおあがりにならないと、お体のために悪うございますよ、では、此処へ持って来ときますから、何時でも好い時にあがってくださいよ」
「煩い」
それでも老婆は打っちゃって置けないので、膳と飯鉢を持って来てお滝の傍へ置いて往った。
「此処へ置いてまいりますから、好い時におあがりになってください」
新一は老婆がそうする間も茶の間にいて母のことを心配していた。新一の処へは遊び仲間が時どき誘いに来たが、彼は母が心配であるから往かなかった。
そのうちに夕方となったがお滝は出て来なかった。老婆は夕飯のことを思いだして其処の室へ往ってみた。お滝は腹這いになって足をとんとんとやっていたが、膳の上を見ると飯を喫(く)ったと見えてお菜(かず)を荒してあった。
「御飯を持ってまいりましょうか」
お滝はやはり足をとんとんとやって返事をしなかった。老婆はその膳と飯鉢を持って台所のほうへ引返して、膳を洗い拵えたてのお菜をつけて、またお滝の傍へ持って往った。
「夕飯を持ってまいりましたから、おあがりなさい」
お滝は床の方を向いて肘枕をして寝ていた。
「いらないよ、彼方へお出で」
老婆が出て往って襖の締る音がすると、お滝は急に頭をあげて茶の間の方を見た後に、くるりと起きあがり、忙(せわ)しそうに膳を引き寄せて飯を喫いだした。そして、四五杯も飯を掻き込んだかと思うと、直ぐまた引っくりかえって寝た。新一はそれを奥の襖の間から覗いていた。
夜になって老婆と新一は奥の室(へや)へ寝床を並べてお滝を警戒していた。そして、十時比(ごろ)になって老婆が睡りかけたところで、表座敷でお滝が艶かしい忍び笑いをするような声をさした。新一はまた怪しい奴が来たと思ったので、いきなり跳び起きて襖を開けて跳び込んで往った。
有明の行灯の灯(ひ)に照らされた、怒った眼で此方を見ている母の顔があるばかりで、べつに怪しいものの姿はなかった。
「この痴(ばか)、何しに来たのだ、邪魔すると承知しないぞ」
「お母(っか)さんの笑い声が聞えたから、また彼奴(あいつ)が来たと思って起きたのです」
「彼奴とはなんだ、ばか、余計なことをすると承知しないぞ」
「でもお母さんが笑ったから」
「煩い」
新一はすごすごと己(じぶん)の寝床へ帰った。
「坊ちゃん、どうかしたのですか」
眼を覚した老婆が声をかけた。
「お母(っか)さんの笑い声がしたがら、往ってみたが、何にも見えなかったよ」
「そうですか、笑い声なんかするのは、おかしいのですね」
「おかしいよ、何が来るだろう」
「さあ」
朝になって老婆が起きてみると、お滝は皆の起きないうちに起きて顔を洗ったと見えて、表座敷へ鏡台や化粧道具を持ち込んで顔に白粉を塗っていた。
やがて朝飯が出来たがお滝が来ないので、老婆はまたお滝の室(へや)へ飯を持って往こうと思って容子を見に往った。きれいに化粧をしたお滝が、夜具の上に腹這(はらば)いになって寝ていた。
「お媽(かみ)さん、御飯が出来ました」
お滝は返事をしなかった。
「此処へ持ってまいりましょうか」
「煩いったら煩いよ、余計なことをお云いでないよ」
老婆は云っても駄目だと思ったので膳を持って来て置いて往った。
四
お滝は表座敷からどうしても出て来なかった。老婆や新一が思いだして覗いてみると敷きっぱなしにしてある夜具の中に包(くるま)っていたり、時とすると夜具の上に腹這いになって何か独言を云っていることもあった。老婆はしかたなしに午飯を持って往った。
その後で老婆は新一と庖厨(かって)で午飯を喫(く)った。新一は飯を喫いながら云った。
「姨(おば)さん何だろうね、お母(っか)さんの処へ来るのは」
「さあね、私にゃ判らないが、なにか魔物が来ますね」
「魔物って何だろう」
老婆はちょと四方(あたり)を見廻した後に小声になって云った。
「狐か狸か、そんな物が来てお媽さんに憑くのじゃないかと思いますがね、どうしても人間じゃないのですよ」
「そうかなあ、狐だろうか」
「早く旦那様が帰ってくださると好いのですが……」
「そうだなあ、お父(とっ)さんが帰ってくれると、狐でも狸でもよう来ないだろうに」
「そうですとも」
夕飯の時にも飯の後で老婆と新一が茶の間の行灯の傍で囁き合っていた。
「今晩は、坊ちゃんは、茶の間へ寝てください、私は奥へ寝ます、そして、どんなものが来るか、気を注(つ)けていようじゃありませんか」
「好いとも、おいらが茶の間で寝よう、そして、へんな奴が来たなら斬ってやる」
「そうですよ、かまうことはない、怪しい奴が来たなら、それこそ斬っておやりなさい」
「斬ってやるよ」
老婆と新一は宵に約束したように寝ることにして、老婆の寝床は奥の室へとり、新一の寝床は茶の間にとって二人は別れ別れに寝たが、その新一の枕頭には行灯を置いてあった。
新一は左の手に持った短刀を外へ見えないように夜着のなかへ隠して、仰向けに寝ながら枕頭の左右に注意していた。
そのうちに夜が刻々と更けて往った。母親も睡っているのか何の音もしなければ、老婆が平生(いつも)の癖の痰が咽喉にこびりつくような咳も聞えない。ただ庖厨の流槽(ながし)の方で鼠であろうことことと云う音が聞えるばかりであった。新一はその音を聞いていたが何時の間にかうとうととして来た。
その新一の耳へ母親の何か独言を云ったような声が聞えた。新一はまた魔物が来たのではあるまいかと思って眼を開けた。そして、すこしも動かずに用心深くまず右の枕頭を注意した。と、その新一の眼に物の影のようなものが映った。新一ははっと思ったが、たしかに見とどけるまでは体を動かしてはならないと思ったので、じっとしたなりに再び其処を見なおした。鼠色をした犬のような獣の後のほうが見えて、それが長い尻尾を畳の上に垂らしていた。新一は夜着の下で短刀を引き抜くなりそれに向って投げつけた。
唸りとも叫びとも判らない微な声がしたかと思うと、もう何も見えなくなって新一の投げた短刀が畳の上に光って見えた。新一は飛び起きてその短刀を拾って四辺(あたり)に注意した。それと同時に表座敷で吠えるように怒鳴る母親の声が聞えて来た。
「……邪魔をしやがって……、……どうするか、見ていやがれ」
新一は母親の声を聞きながら手にした短刀の刃尖(さき)に眼をやった。血とも脂とも判らない微(うす)赤いねっとりしたものが一めんに附着していた。新一はそれを見てたしかに魔物に当って魔物に傷がついたものだと思ったが、その思うしたから魔物を殺してしまわなかったのが残念になって来た。
母親の怒り狂う声と老婆のおどおどした声が聞えて来た。新一は老婆が眼を覚して母親をなだめに往ったものだと思いながら、室の中を彼方此方と歩いた。それは魔物がそのあたりに倒れていやしないかと思って見ているところであった。
母親の怒鳴る声はすぐ襖の隣へ来た。新一は母親に短刀を見せてはよくないと思ったので、急いで蒲団の上に落ちていた鞘を拾ってそれに納め、すばやく夜着の下へ隠してしまった。
同時に襖が開いて母親のお滝が掴みかかって来た。新一はその母親の手に襟元を掴まれた。
「この畜生……、……巫山戯(ふざけ)たことをしやがる……」
新一は母のするままに任していた。お滝は恨み骨髄に徹したと云うように暫く新一をこづきまわしていたが、そのうちに泣きだして悲しくて悲しくてたまらないと云うように泣いていたが、やがて新一を放して小女(こむすめ)のように顔に袖をやって泣き泣き往ってしまった。
新一と老婆は顔を見合した。新一は苦笑いしていた。
「どうしたのです、坊ちゃん」
老婆が云った。
「犬のような奴が、おいらの寝ている傍へ来たから、あの懐剣を投げつけてやると、唸ってから見えなくなったよ、血のようなものが附いてたのだ、お母(っか)さんは、その時からあばれ出しちゃったよ」
老婆はそれを聞くと考え深そうな眼つきをして頷いた。
「それじゃ、やっぱり狐だ、傷をしたから、もうおっかながって来ないかも判りませんよ」
「そうかなあ」
新一は老婆に短刀を抜いて見せなどして二人で暫く話しあっていたが、もう寝ることにして老婆一人でお滝の傍へ往って見た。お滝は夜着に顔を埋めて泣きじゃくりしていた。
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