您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 田中 貢太郎 >> 正文

蟇の血(がまのち)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-25 8:57:43  点击:  切换到繁體中文


      ※(ローマ数字「VI」、1-13-26)

「あなたは、ほんとにだだっ子ね、そんなにだだをこねられちゃ、私が困るじゃありませんか、こっちへいらっしゃいよ」
 年増は讓の双手りょうてを握ってひっぱった。讓はどうでもして逃げて帰りたかった。
「僕を帰してください、僕は大変な用事があるのです、いることはできないから、帰してください」
 讓は女の手をり払おうとしたが離れなかった。
「そんな無理なことを云うものじゃありませんよ、あなたの御用って、下宿に女の方が待ってるだけのことでしょう」
「そんなことじゃないのです」
「そうですよ、私にはちゃんと判ってるのですよ、その女よりか、いくら家の奥さんが好いか判らないじゃありませんか、ほんとうにあなたは、慾を知らない方ね、こっちへいらっしゃいよ、いくら逃げようとしたって、今度は放しませんよ、いらっしゃいよ」
 女はぐんぐんとその手を引ぱりだした。讓の体は崩れるようになって引ぱられて往った。
「放してください」
「だめよ、男らしくないことを云うものじゃありませんよ」
 讓はへやの中へ引ぱり込まれた。そこは青いとばりを張ったはじめの室であった。
「奥様がどんなに待っていらっしゃるか判りませんよ、こちらへいらっしゃいよ」
 年増は隻手かたてを放してそれで帷をくようにして、無理やりに讓の体をその中へ引込んだ。
 そこには真中に寝台があってその寝台のへり※(「女+朱」、第3水準1-15-80)きれいな主婦が腰をかけて、じっと眼をえて入って来る讓の顔を見ていた。その室の三方には屏風びょうぶとも衝立ついたてとも判らないものを立てまわして、それに色彩の濃い奇怪な絵をえがいてあった。
「ほんとにだだっ子で、やっとつかまえてまいりました」
 年増は讓を主婦の傍へ引ぱって往って、主婦のむこう側の寝台の縁へ腰をかけさせようとした。
「放してください、僕はだめです、僕は用事があるのです、僕はいやです」
 讓は年増の女をり放して逃げようとしたがはなれなかった。
「だめですよ、もうなんと云っても放しませんよ、そんなばかなことをせずに、じっとしていらっしゃいよ、ほんとうにあなたは、ばか、ねえ」
 主婦の眼は讓の顔から離れなかった。
「おとなしく、だだをこねずに、奥さんのお対手あいてをなさいよ」
 年増はおさえつけるようにして讓を寝台の縁へかけさした。讓はしかたなしに腰をかけながら、ただ逃げ出そうとしても逃げられないから、油断をさしておいてすきを見て逃げようと思ったが、頭が混乱していて落ちついていられなかった。
「そんなに急がなくたって、ゆっくりなされたら好いじゃありませんか」
 主婦は年増のはなした讓の手に軽くじぶんの手をかけて、心持ち讓を引き寄せるようにした。
「失礼します」
 讓はその手をり払うとともにちあがって、年増の傍をり抜けて逃げ走った。
「このばか、なにをする」
 年増の声がするとともに讓はうしろからつかまえられてしまった。それでも彼はどうかして逃げようと思ってもがいたが、揮り放すことはできなかった。
「奥様、どういたしましょう、このばか者はしようがありませんよ」
 年増が云うと主婦の返事が聞えた。
「ここへ伴れて来て縛っておしまい、野狐のぎつねがついてるから、その男はとてもだめだ」
 妹とわかじょちゅうが入って来たが、婢の手には少年を縛ってあったような青い長い紐があった。
「縛るのですか」
 婢が云った。
「奥様のおへやへ縛るのですよ」
 年増はそう云い云いひどい力で讓をうしろへ引ぱった。讓はよたよたと後へ引きずられた。
「そのばか者をぐるぐる縛って、寝台の上へ乗っけてお置き、一つ見せるものがあるから、見せておいて、私がいびってやる」
 主婦は室の中に立っていた。同時に青い紐はぐるぐると讓の体に捲きついた。
「私が寝台の上に乗っけよう、そのかわり、奥様のあとで、私がいびるのですよ」
 年増はふうふうふうと云うように笑いながら、讓の体を軽がると抱きあげて寝台の上へ持って往った。讓はもがいて体をったがそのかいがなかった。
「あの野狐のぎつねれてお出で、野狐からさきいびってやる」
 主婦はそう云いながら寝台のへりへまた腰をかけた。讓の眼前めさきは暗くなってなにも見ることができなかった。讓は仰向あおむけに寝かされていたのであった。
 女達のなにか云って笑う声が耳元に響いていた。讓は奇怪な圧迫をこうむっているじぶんの体を意識した。そして、一時間たったのか二時間たったのか、怪しい時間がたったところで、顔を一方にねじ向けられた。
「このばか者、よく見るのだよ、お前さんの好きな野狐を見せてやる」
 それは主婦の声であった。讓の眼はぱっちりいた。年増がわかい女の首筋をつかんで立っていた。それは下宿屋においてあったの女であった。讓ははね起きようとしたが動けなかった。讓は激しく体を動かした。
「その野狐をひねって見せておやりよ、その野狐がだいち悪い」
 主婦が云うと年増は女の首に両手をかけて強く締めつけた。と、女の姿はみるみる赤茶けた色のけだものとなった。
色女いろおんなが死ぬるのだよ、悲しくはないかね」
 讓の眼前がんぜんには永久の闇が来た。女達の笑う声がまた一しきり聞えた。
 讓の口元から頬にかけて鬼魅きみ悪いあたたかな舌がべろべろとやって来た。

 三島讓と云う高等文官の受験生が、数日海岸の方へ旅行すると云って下宿を出たっきりいなくなったので、その友人達が詮議せんぎをしていると、早稲田の某空家の中に原因の判らない死方しにかたをして死んでいたと云う記事が、ある日の新聞に短く載っていた。





底本:「日本怪談大全 第一巻 女怪の館」国書刊行会
   1995(平成7)年7月10日初版第1刷発行
入力:深町丈たろう
校正:小林繁雄
2002年12月3日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。

上一页  [1] [2] [3] [4] [5]  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告