芝居事
雪のふる夜のつれづれに
※[#「姉」の正字、「女+
のつくり」、123-5]の小袖をそとかつぎ
‥‥‥でんちうぢやはりひじぢや
しまさんこんさんなかのりさん‥‥
おどりくたびれ袖萩の
肩に小袖をうちかけて
なみだながらの芝居事
「さむかろうとてきせまする」
このまあつもる雪わいの。
[#改丁]
花束
ありのすさびに
花をつみてつがねたれど
おくらむひともなければ
こころいとしづかなり。
されどなほすてもかねつつ
ゆふべの鐘をかぞへぬ。
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たそがれ
たそがれなりき。かなしさを
そでにおさへてたちよれば
カリンの花のほろほろと
髪にこぼれてにほひけり。
たそがれなりき。路をきく
まだうら若き旅人の
眉の黒子のなつかしく
後姿のなかれけり。
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かへらぬひと
花をたづねてゆきしまま
かへらぬひとのこひしさに
岡にのぼりて名をよべど
幾山河は白雲の
かなしや山彦かへりきぬ。
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よきもの
「よきものをあたへむ」ときみのいふゆゑ
ゆびきりかまきりいつはりならじと
きみのいふゆゑ
門のそとにてきみまちぬ。
井戸のほとりの丁子の花よ。
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見知らぬ島へ
ふるさとの山をいでしより
旅にいくとせ
ふりさけみれば涙わりなし。
ふるさとのははこひしきか。
いないな
ふるさとのいもとこひしきか
いないないな。
うしなひしむかしのわれのかなしさに
われはなくなり。
うき旅の路はつきて
あやめもわかぬ岬にたてり。
すべてうしなひしものは
もとめむもせんなし。
よしやよしや
みしらぬ島の
わがすがたこそは
あたらしきわがこころなれ。
いざや いざや
みしらぬ島へ。
[#改ページ]
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