五
王女は、門や部屋がすっかり開いたので、もう御婚礼をするかと思いますと、また無理なことを言い出しました。
「ではついででございますから命の水を一とびんと死の水を一とびんほしゅうございます。それを取りよせて下さりましたらもう御婚礼をいたします。これまでのことをみんな聞いていただきましたのですから、どうかこれもかなえていただきとうございます。」と言いました。
王さまはまたウイリイをお呼びになって、命の水と死の水を持って来い、それが出来なければすぐに命を取ってしまうとお言いになりました。ウイリイは廐へ行って、
「私は今度こそはもういよいよ殺されるのだ。だれにくびをしめられるのか知らないが、もうそんなことはどうでもかまわない。」
こう言って自分の馬にお別れをしました。馬は、
「それはあの三本目の羽根を拾ったたたりです。私があれほど止めてもお聞きにならないから、こんなことになったのです。しかしもう一度どうにかして上げますから、王さまに銀のびんを二つもらってお出でなさい。」と言いました。
ウイリイは銀のびんをもらって来て、馬のさしずどおりに、一つへ命の水という字を彫らせ、もう一つへは、死の水という字を彫らせました。
「それでは早く鞍をおおきなさい。」と馬が言いました。ウイリイは間もなく馬に乗って大急ぎで出ていきました。そのとき窓のところに立って見ていた王女は、
「そのたすけ手がついていれば、きっと見附かります。」とウイリイに言いました。ウイリイは山や谷をいくつも/\越して、しまいに、遠くの知らない国の、或大きな森へ来ました。
馬はその森の中の大きな木の下へウイリイを下しました。その木の上には烏が巣をつくっていました。馬はウイリイに、親烏が立って出るまで待っていて、その留守に木へ上って、巣にいる子烏を一ぴき殺して、命の水を入れるびんを、そっと巣の中に入れておくように教えました。
ウイリイはそのとおりにしてびんを入れて下りて来て、じっと見ていました。そのうちに親烏がかえって来ました。親烏は子烏が一ぴき死んでいるのを見ると、いきなりそこにあるびんをくわえて、大急ぎでどこかへ飛んでいきました。それから、間もなくかえって来て、びんの中の水を死んだ子烏の体へふりかけました。すると子烏はすぐに生きかえりました。
ウイリイは急いで巣へ上って、親烏を追いのけて、びんを取って来ました。その中には、まだ水が半分残っていました。馬はそのつぎにウイリイに、そう言って、蛇を一ぴきつかまえて来させました。蛇は頭をなでてやればかみつきはしないから、それを死の水のびんと一しょに、烏の巣の中へ入れておきなさいと言いました。ウイリイはびんと蛇を持って上っていきました。そうすると、親烏が、またそのびんをくわえて、大急ぎでどこかへ飛んでいきました。
親烏は間もなく帰って来て、びんの水を蛇へふりかけました。蛇はすぐに死んでしまいました。ウイリイは急いで、木へ上って、親烏を追いのけて、びんを取って来ました。今度のびんには、水がまだよっぽどたくさん残っていました。
ウイリイはその二つのびんをかかえて、馬を飛ばしてかえりました。
王女は、もう今度はどうしても御婚礼をしなければなりませんでした。しかしその前に、二つの水がほんとうにきき目があるかどうか、ためして見ていただきたいと言いました。けれども、だれ一人殺されて見ようというものがいないので、王さまは、またウイリイをお呼びになって、これはお前が持って来たのだから、きくかきかないか、お前がためして見るのがあたり前だとお言いになりました。王女はすぐに死の水のびんを取って、ウイリイの体へふりかけました。ウイリイは、たちまち死んでしまいました。王女は、つぎに命の水をその死骸へふりかけました。そうするとウイリイはすぐに生きかえって、今までのウイリイとはちがって、まぶしいほど美しい男になって起き上りました。王さまはそれをごらんになって、じぶんもそういうふうに若く美しくなりたいとお思いになり、
「では、わしも一度死んで生きかえりたい。」とお言いになりました。
王女は仰せを聞いて、さっそく、死の水を王さまにふりかけて、それから、命の水をかけて生きかえらせてお上げしました。王さまはよくばって、その上もっと美しくなりたいとお思いになり、もう一度死なしてくれとお言いになりました。
王女はまた死の水をふりかけました。ところが今度命の水をかけようと思いますと、もう水が一としずくもありませんでした。
「おやおや、これではもうどうすることも出来ません。」と王女は言いました。王さまは、とうとうそれなり、ほんとうの死骸になっておしまいになりました。
そうなると、だれかあとをつぐ人がいりました。王女は、
「それは、ウイリイさんよりほかにはだれもありません。私を鳥からもとの人間にして、あんな遠い遠いところからつれてかえったり、あんな大きなお城をここまで持って来たり、命の水や死の水を取って来たりするようなことが、ほかのだれに出来ましょう。こんなえらい人が王さまにおなりなるのに何のふしぎもありません。」と言いました。ほかの人たちは、王女が手に持っているびんの中に、まだ死の水が残っているので、それにおそれて、だれ一人王女にさからうものもありませんでした。ですから、ウイリイはとうとう王さまになりました。世界中で一ばん美しい王女は、よろこんでウイリイの王妃になりました。
その御婚礼の日に、ウイリイは、小さな灰色の馬のところへ行って、みんなお前のお蔭だと言ってよろこびました。馬は、
「それでは今度は私のおねがいを聞いて下さい。どうか剣をぬいて、私の首を切って、それをしっぽのそばにおいて、三べんお祈りをして下さい。」とたのみました。ウイリイはびっくりして、
「お前を殺すなぞということが、どうして私に出来よう。」と言いました。
「でもそれが私の仕合せになるのです。けっして悪いことにはなりません。どうか私のいうとおりにして下さい。」と、馬はくりかえしてたのみました。ウイリイは仕方なしに、剣をぬいて、馬の首を切り落しました。そしてその首をしっぽのそばにおいて、三べんお祈りをしますと、今まで馬の死骸だと思ったのが、ふいに気高い若い王子になりました。それは王女のお兄さまでした。王子は今まで魔法にかかって、永い間馬になっていたのでした。
二人は大よろこびをして、たがいに手を取って御殿へはいりました。王女のよろこびも、たとえようがないほどでした。
めでたい、御婚礼のお祝いは、にぎやかに二週間つづきました。ウイリイ王と、王妃とは、お兄さまの王子と三人で、いついつまでも楽しくくらしました。
●表記について
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