三
ウイリイは厩へかえって、自分の、灰色の小さい馬に、王さまがこんな無理なことをお言いになるが、どうしたらいいだろうと相談しました。
「それはあなたが一ばんはじめに拾った羽根のたたりです。私があれほど止めたのに、お聞きにならないから。」と馬が言いました。
「第一、その王女はまだ生きておいでになるのだろうか。」
「御心配には及びません。私がちゃんとよくして上げましょう。」と馬が言いました。
「王女は全く世界中で一ばん美しい人にそういありません。今でもちゃんと生きてお出でになります。けれども世界の一ばんはての遠いところにおいでになるのです。そこまでいくには第一に大きな船がいります。それも、すっかりマホガニイの木でこしらえて、銅の釘で打ちつけて、銅の板でくるんだ、丈夫な船でないと、とても向うまでいく間持ちません。」と馬は言いました。
ウイリイは王さまのところへ行って、そういう船をこしらえていただくようにおたのみしました。
王さまは、さっそく役人たちに言いつけて、こしらえて下さいました。それにはずいぶん沢山の日数がかかりました。
ウイリイは馬のところへ行って、船が出来たと知らせました。そうすると馬は、
「それでは王さまにお願いして、肉とパンとうじ虫を百樽ずつ用意しておもらいなさい。そのほかにその樽を二つずつはこぶ車が百だい、その車を引っぱる革綱も二百本いります。それから水夫を二百人集めておもらいなさい。」と言いました。
ウイリイはそれをすっかりととのえてもらって、船へつみこみました。二百人の水夫も乗りこみました。馬は、
「もうこれでいいから、しまいに大麦を一俵私に下さい。そしてこの手綱をゆるめておいて、すぐに船へお乗りなさい。」と言いました。
ウイリイは馬のいうとおりにして、船へ乗りました。そして今にも岸をはなれようとしていますと、馬は、ふいに白いむく犬になって、いきなり船へ飛び乗り、ウイリイの足もとへしゃがみました。ウイリイはこれから長い間、海や岡をいくのにちょうどいい友だちが出来たと思って喜びました。
船は追手の風で浪の上をすらすらと走って、間もなく大きな大海の真中へ出ました。
そうすると、さっきのむく犬が、用意してある百樽のうじ虫をみんな魚におやりなさいと言いました。ウイリイはすぐに樽をあけて、うじ虫をすっかり海へ投げこみました。犬は、その空樽を鯨におやりなさいと言いました。ウイリイはそれも片はしからなげてやりました。
魚たちは、思わぬ御馳走をもらったので、大よろこびで、みんなで寄って来て、おいしい/\と言って食べました。鯨もすっかり出て来て、樽を一つずつひろって、それをまりにして、大よろこびで遊びました。
船は、それから、どん/\どん/\どこまでも走って、しまいに世界のはての陸地へつきました。
ウイリイは船から上ると、百だいの車へ、百樽の肉とパンとをつませて、二百本の革綱をつけてそれを二百人の水夫に、二人ずつで引かせて進んでいきました。
すると、向うの方で、大ぜいの狼と大ぜいの熊とが食べものに飢えて大げんかをしていました。みんなが牙をむき爪を立ててかみ合いかき合いしているので、ウイリイたちはそこをとおることができませんでした。
ウイリイはそれを見て車から百樽の肉を下して投げてやりました。みんなは喜んですぐにけんかをやめてとおしてくれました。
それからまたどんどんいきますと、今度はおおぜいの大男が、これも食べものに飢えて、たった一とかたまりのパンを奪い合って、恐ろしい大げんかをしていました。ウイリイは気をきかせて、すぐに百樽のパンをやりました。大男たちは大そうよろこんで、ぺこぺこおじぎをしました。
「私たちはちょうど百年の間けんかをしていたのです。おかげでやっと食べものが口にはいります。このお礼にはどんなことでもいたしますから、御用がおありでしたら仰って下さい。」と言いました。
ウイリイはそこから水夫たちをみんな船へ帰して、今度は犬と二人きりで進んで、いきました。
そうすると、ずっと向うの方に、きれいなお城がきらきらと日に光っていました。犬は、
「このへんでしばらく待っていらっしゃい。あのお城のぐるりには毒蛇と竜が一ぱいいて、そばへ来るものをみんな殺してしまいます。しかし、その毒蛇も竜も、日中一ばん暑いときに三時間だけ寝ますから、そのときをねらって、こっそりとおりぬければ大丈夫です。」と言いました。ウイリイはそのとおりにして、犬と一しょに、無事に城の中へはいりました。
城の門も、中の方々の戸も、すっかり明け放してありました。
四
ウイリイは犬を外に待たせておいて、大きな部屋をいくつも通りぬけて、一ばん奥の部屋にはいりますと、そこに、金色をした鳥が一ぴき、すやすやと眠っていました。その鳥の羽根は、ウイリイが先にひろった羽根と同じ羽根でした。ウイリイは、犬から教わっていたので、そっとその鳥のそばへ行って、しっぽについている、一ばん長い羽根を引きぬきました。
鳥はびっくりして目をあけたと思うと、ふいに一人の美しい王女になりました。それが羽根の画の王女でした。
「あなたは私の熊と狼のそばをよくとおりぬけて来ましたね。」と王女が言いました。
「肉をどっさりやりましたら、とおしてくれました。」とウイリイは答えました。
「それでは私の大男のいるところはどうしてとおりぬけたのです。」と王女は聞きました。
「パンをどっさりやりました。」
「毒蛇と竜の前は?」
「みんなが寝ているときにとおりました。」
「あなたは一たい何のためにここへ来たのです。」
「じつは私の王さまが、ぜひあなたを王妃にしたいと仰いますので、はるばるお迎いにまいりましたのです。どうか私と一しょにいらっして下さいまし。」とウイリイは言いました。王女は、
「それでは明日一しょに立ちましょう。しかし、とにかく、あちらへいって御飯をたべましょう。」と言いました。ウイリイは、王女の後について立派な大きな広間へとおりました。そこには、ちゃんといろんな御ちそうのお皿がならんでいました。
ウイリイは犬からよく言われて来たので、一ばんはじめの一皿だけたべて、あとのお皿へはちっとも手をつけませんでした。
御飯がすむと、王女は方々の部屋々々を見せてくれました。何を見てもみんな目がさめるような美しいものばかりでした。けれども、ふしぎなことには、これだけの大きなお城の中に、さっきまで鳥になっていたこの王女のほかには、だれひとり人がいませんでした。
王女は、しまいに立派な寝室へつれて行って、
「ここにある寝台のどれへなりとおやすみなさい。」と言いました。ウイリイはそれをことわって、門のそばへいって犬と一しょに寝ました。
あくる朝、ウイリイは王女のところへ行って、
「どうぞ一しょにお立ち下さいまし。」とたのみました。王女は、
「いくにはいくけれど、それより先に、ちょっとこの絹糸のかせの中から、私を見つけ出してごらんなさい。」
こういって、じきそばのテイブルの上に、色んな色の絹糸のかせがつんであるのを指したかと思うと、いきなり姿を消してしまいました。
ウイリイはちゃんと犬から教わっているので、ほかのかせより心持色の黒いのをより出し、ポケットからナイフを出して、そのかせを二つにたち切ろうとしました。そうすると、王女はあわてて姿をあらわして、
「それを切られると私の命がなくなります。よして下さい。」とたのみました。
王女は、それから、ウイリイをもう一度昨日の広間へつれて行って、一しょに御馳走を食べました。ウイリイは犬から言われているとおりを守って、今度は一ばんしまいのお皿だけしか食べませんでした。
王女は、しまいにまた昨日のように、寝室の寝台のどれかへおやすみなさいとすすめましたが、ウイリイは、やはりそれをことわって、犬と一しょに門のそばへ寝ました。
そのあくる朝、ウイリイは、
「今日はどうか一しょに立って下さいまし。」と王女に言いました。王女は、
「では、その前にこのわらの中から私をさがし出してごらんなさい。」と言って、一たばのわらの中へ体をかくしてしまいました。ウイリイはその中からほかのよりも少し軽いわらしびをより出してまたナイフで切るまねをしました。王女はびっくりして姿を現わして、
「そのわらを切られると私の命がなくなるのですから。」と言ってあやまり、
「それでは、もういきましょう。」と言いました。
王女は部屋々々の戸へ一つ一つ鍵をかけて廻りました。それから一ばんしまいに、入口の門へも錠前を下しました。そして、それだけの鍵をみんな持って、ウイリイと一しょにお城を立ちました。
二人は長い長い道を歩いて、やっと海ばたへ着きました。船はすぐに帆を上げて、もと来た大海へ引きかえしました。王女はその途中で、お城から持って来た鍵のたばを、人に知れないように、海の中へなげすてました。犬はそれを見て、こっそりとウイリイに話しました。
ウイリイはすぐに魚にたのんで、鍵をさがしてもらいました。魚たちは、いきがけにうじ虫をたくさんごちそうしてもらったものですから、そのお礼に、みんなで一しょうけんめいに海の底をさがしました。
けれどもひろいひろい海ですから、なかなか見つかりませんでした。魚たちは血眼になって走りまわりました。そして、やっとしまいにのこぎり魚が鍵のたばを口にくわえて出て来ました。鍵は海の底の岩と岩との間へ落ちこんでいたのでした。のこぎり魚はそこへ無理やりに首を突っこんで引き出したものですから、すっかりあごをいためてしまいました。ですからその魚のあごは、今だに長短かになっています。
ウイリイはその鍵を受取って、王女に知られないようにかくしておきました。
船は長い間かかってようようもとの港へ着きました。
王さまは王女をごらんになって、大へんにおよろこびになりました。王女は年も美しさも、そっくりもとのままでした。
王さまはすぐに王女と御婚礼をしようとなさいました。ところが王女は、自分のお城を王さまの御殿のそばへ持って来てもらわなければいやだと言い張りました。王さまはウイリイをお呼びになって、
「お前はなぜ、ついでにお城を持ってかえらなかったのか。これから行ってすぐに持って来い。それでないとお前の命を取ってしまうぞ。」
こう言ってお怒りになりました。ウイリイは困ってしまって、うまやへ帰って自分の小さな馬に言いました。
「あの大きなお城がどうしてここまで持って来られよう。私はもういっそ殺してもらった方がましだと思う。それに、あんな年取った王さまが、あの若い美しい王女をお嫁にしようとなさるのだから、王女がおいたわしくてたまらない。殺されてしまえばそういうことも見ないですむから、ちょうど幸だ。」
こう言って、しょんぼりしていました。馬はそれを聞いて、
「これはあなたがあの二番目の羽根を拾ったばちです。しかし今度も私がよくして上げましょう。これからすぐに王さまのところへ行って、この前のような船と、同じ人数の水夫と、それからうじ虫と肉とパンと車と革綱を、先のとおりに用意しておもらいなさい。」と言いました。
ウイリイはその仕度がすっかり出来ますと、すぐに犬と一しょに船へ乗って出ていきました。やはり前と同じように、魚たちはうじ虫をもらい、鯨は空樽をもらいました。それから狼と熊は肉を、大男たちは、パンをもらいました。ウイリイはその大男をつれて王女のお城へいきました。お城は日の光を受けてきらきら光っていました。
大男は、みんなでそのお城をかついで、ぞうさもなく海ばたまで持って来ました。そうすると、そこへ鯨がみんなで出て来て、それを背中へのせて、向うの港まではこんでいって、王さまの御殿のそばへおし上げました。王さまは、もうこれで御婚礼が出来ると思ってお喜びになりました。そうすると王女は、
「せっかくお城がまいりましたが、部屋の戸がみんなしまっていますから何の役にも立ちません。その鍵は私がこちらへまいります途中でなくしてしまいました。あの部屋が開かないうちは御婚礼をするわけにはまいりません。」
こう言ってことわりました。王さまは、
「それはぞうさもないことだ。すぐに鍵をこしらえさせよう。」と言って、急いで上手な鍛冶屋をおよびになりました。けれどもその鍛冶屋には、第一、お城の門の錠前にはまる鍵がどうしても作れませんでした。しまいには国中の鍛冶屋という鍛冶屋がみんな出て来ましたが、だれ一人その鍵をこしらえるものがありませんでした。
王さまは仕方がないので、また、ウイリイをお呼びになって、
「あの門と部屋々々の戸を開けてくれ。すぐに開けないとお前の命はないぞ。」とお言いになりました。
ウイリイは自分がちゃんとその鍵を持っているのですから、今度はちっとも困りませんでした。
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