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文七元結(ぶんしちもとゆい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-12 9:30:51  点击:  切换到繁體中文


        八

 翌朝(よくあさ)主人は番頭を呼んで何かコソ/\話を致しましたが、やがて番頭の平助は何(いず)れへか飛んで往(ゆ)き、暫く経って帰って来まして、またコソ/\話をしましたが、解ったと見えまして、
 主人「羽織を出してくんナ……文七や供だよ」
 文「ヘエ」
 と文七が包(つゝみ)を持って旦那の後(あと)へ随(つ)いて観音様へ参詣を致し、彼(あ)れから吾妻橋へ掛りました時に文七は「あゝ昨夜(ゆうべ)此処(こゝ)ン処(とこ)で飛び込もうとしたかと思うと悚然(ぞっ)とするね」と云いながら橋を渡って参りました。
 主人「本所達磨横町というのは何処(どこ)だえ、慥か此所(こゝ)らかと思うが、あの酒屋さんで聞いて見な左官の長兵衞さんというお方がございますかッて」
 文「ヘエ……少々物を承ります、エヽ御近所に左官の長兵衞さんて方がございますか」
 番頭「それはね、彼処(あすこ)の魚屋の裏へ這入ると、一番奥の家(うち)で、前に掃溜(はきだめ)と便所(ちょうずば)が並んでますから直(じき)に知れますよ」
 主人「大きに有難う存じます、それから五升の切手を頂戴致します、柄樽(えたる)を拝借致します、樽は此方(こちら)で持って参りますから」
 と代を払って魚屋の路地へ這入って参ります。此方は長兵衞の家(うち)は昨夜(ゆうべ)からの騒ぎでございます。
 兼「何(ど)うするんだよ、何処(どこ)へお金を遣ったんだよ」
 長「何処へって遣っちまったよ」
 兼「お金を預けた処(とこ)をお云いな」
 長「預けたんじゃアねえよ、遣っちまったんだてえに、解らねえ、昨夜(ゆうべ)から終夜(よっぴて)責めてやアがって些(ちっ)とも寝られやアしねえ、己だって遣りたくはねえが、人が死ぬってえんだ、人の命に換(け)えられるけえ」
 兼「ふん、人を助けるなんてえのは立派な大家(たいけ)の旦那様のする事だよ、娘が身を売ってお前の為に百両拵(こしら)えてくれたものを、ムザ/\他人(ひと)に遣っちまうてえ奴があるかえ本当に、何処(どっ)かへ金を預けて置いて、又賭博(ばくち)の資本(もとで)にしようと思って、本当に其の金はどうしたんだよ、何処へ遣ったんだよう」
 長「己だって遣り度(た)くはねえ、余(あんま)り見兼たから助けたんだ」
 兼「ふん、見兼て助ける風(ふう)かえ、足を掬(すく)って放り込むだろう」
 長「誰が放り込む奴があるものか」
 とグズ/\いつている処へ、
 主人「ハイ御免下さいまし」
 長「おゝ、無闇に開けちゃアいけねえよ……見っともねえ、そんな形(なり)をして、人が来たんだよ、己が挨拶をするまで其処(そこ)に隠れていねえ」
 兼「見っともないたッて誰が斯(こ)んな形に仕たんだよ」
 長「えゝ大きな声をするな、見っともねえから二枚折(にめえおり)の屏風(びょうぶ)の後(うしろ)へ引込んでな、え、もう開けても宜(よ)うがす」
 主人「御免下さいまし、長兵衞さんと仰しゃる棟梁さんのお宅(たく)は此方(こちら)で」
 長「えゝ何(な)に棟梁でも何んでもねえんで、ヘヽヽ縮屋(ちゞみや)さんかえ」
 主人「イエ私(わたくし)は白銀町三丁目近江屋卯兵衞(おうみやうへえ)と申しまして鼈甲渡世を致すもので、此者(これ)をお見覚えがございますか……何(ど)うかよく此の奉公人の顔を御覧なすって……文七此方(こちら)へ出て此のお方のお顔を見な」
 文「ヘエ/\、此のお方……アヽ、此のお方でございます、昨晩は誠に有難う存じます………旦那様此のお方が私(わたくし)を助けて下すったに違いないので」
 長「おゝ此の人だ、お前(めえ)だ、何うもまア宜(よ)かった、お前に金を遣ったに違(ちげ)えねえね……賭博(ばくち)の資本(もとで)に他(わき)へ預けたんじゃアねえ、チャンと証拠があるんだが、まア宜かったノ」
 文「ヘエ、何うも、是は何うも、昨夜(ゆうべ)は暗くって碌にお顔も見えませんでしたが、お蔭様で助かりまして有難う存じます」
 主人「其の折はまた此者(これ)が不調法な詰らん事を申し貴方に御苦労を掛けまして、何(なん)とも何(ど)うもお礼の申上げようがございません、まったくは此者が泥坊に奪られたのではございません、お屋敷へ忘れて参りましたので、此の者が宅へ帰らんうちに金子はお屋敷から届けて参りましたから、何うしたのかと案じて居りまする処へ此者が帰って参りまして、金子を出しましたから、不思議に思いまして、段々調べて見ますると、まったくは賊に奪られたと心得て、吾妻橋から身を投げようとする処へ、これ/\のお方が通ってお助けなすったという事ゆえ、取敢(とりあえ)ずお礼に出ましたが、何んとも何うも恐入りました、有難う存じます」

        九

 主人「私共(わたくしども)も随分大火災(おおやけ)でもございますと、五十両百両と施(ほどこし)を出した事もありますが、一軒前一分か二朱にしきゃア当りませんで、それは名聞(みょうもん)、貴方は見ず知らずの者へ、おいそれと百両の金子を下すって、お助けなさるという其のお志というものは、実に尊い神様のようなお方だッて、昨夜(さくや)もね番頭と貴方のお噂を致しましたなれども、お名前が知れず、誠に心配致しておりましたが、ようやくの事で解りましたから、御返金に参りましたが、慥(たし)か此れは角海老さんとかで御拝借の財布だそうで、封金のまゝ持って参りましたから、そっくりお手許(てもと)へお返し申します。」
 長「えゝ」
 と手に取上げて考え、
 長「金子が出たんですか」
 主「ヘエ、金子は奪られは致しません、此者(これ)より先(さ)きに宅(うち)へ届いて居りましたから二重でございます」
 長「ムヽ…じゃア此の人は奪られねえのかえ、冗談じゃアねえぜ、え、おう、己(おら)アお前(めえ)のお蔭で夜(よっ)ぴて嬶(かゝあ)に責められた……旦那ア間違(まちげえ)だって程があらア」
 主人「此者も全く奪られたと思ったので、誠に何(ど)うも何(な)んともお礼の申し上げようはございませんが、金子は其の儘お受取りを願います」
 長「だがね、これを私(わっち)が貰うのは極りが悪(わり)いや一旦此の人に遣っちまったんだから取返すのは極りが悪いから、此の人に遣っちまおう、私は貧乏人で金が性(しょう)に合わねえんだ、授からねえんだろうから、此の人が店でも出す時の足(たし)にして下さえ、一旦此の人に授かった金だから、何うか遣っておくんねえ」
 主人「イエ/\どう致しまして、奪られたら戴きます、御気象は解りましたから、併し全く二重に金を私が戴く訳で」
 長「だがね、何うも……だからよ、貰って置くから宜(い)いじゃアねえか……誠にどうも旦那ア、極りが悪(わる)いけれど、私(わっち)も貧乏世帯(じょてえ)を張ってやすから此の金はお貰(も)れえ申しやしょう」
 主人「それは誠に有難い事で、就(つ)きましては貴方のような御侠客のお方と御懇意に致していますれば、此方(こちら)の曲った心も直ろうかと存じますので、押附けた事を願って誠に恐入りますが、今日(こんにち)から親類になって下さるように、私(わたくし)は兄弟と云う者がない身の上でございますゆえ、今年からお供(そなえ)の取遣(とりや)りを致します、明日(みょうにち)あたり餅搗(もちつ)きを致しますから、直(すぐ)にお供をお届け申しますが、何(ど)うぞ幾久しく御交際を願います」
 長「冗談いっちゃアいけやせん、私(わっち)のような貧乏人が親類になろうもんなら、番ごと借りにばかり往って仕ようがねえ」
 主人「イエ/\何うか願います、それに又此の文七は親も兄弟もないもので、私(わたくし)どもへ奉公に参った翌年に親父がなくなりましたが、実に正道潔白(しょうとうけっぱく)な人間ですが、如何(いか)にも弱い方(ほう)で店でも出して遣りたいが、然(しか)るべき後見人が無ければ出して遣れんと思っておりましたが、貴方のようなお方が後見になって下されば私は直(すぐ)に暖簾(のれん)を分けて遣るつもりで、命の親という縁もございますから、親兄弟の無いものゆえ、此者(これ)を貴方の子にして遣って下さいまし、文七も願いな」
 文「何うか貴方、然(そ)うでもして下さいませんと、私(わたくし)は貴方に御恩返しの仕方がございません、不束(ふつつか)でございますが、私を貴方の子にして下されば、どんなにでも御恩返しに御孝行を尽します」
 長「ヘエ、どうも旦那ア妙ですナ、へんてこですな」
 主人「イエも何う致しまして、親子兄弟固めの献酬(さかずき)を致しましょう…先刻(さっき)の酒を、その柄樽を文七」
 文「ヘエお肴(さかな)が」
 主人「イエサもう来ているだろう」
 と云いながら腰障子を開けると、其の頃の事ゆえ、四ツ手駕籠で、刺青(ほりもの)だらけの舁夫(かごや)が三枚で飛ばして参り、路地口へ駕籠を下(おろ)し、あおりを揚げると中から出たのはお久で、昨日(きのう)に変る今日(きょう)の出立(いでた)ち、立派になって駕籠の中より出ながら、
 久「お父(とっ)さん帰って来たよ」
 長「ムーンお久……どうして来た」
 久「あの此処(こゝ)にいらっしゃる鼈甲屋の旦那様に請出(うけだ)されて帰って来たよ」
 兼「オヤお久、帰ったかえ」
 と云いながら起(た)つと、間が悪(わり)いからクルリと廻って屏風の裡(うち)へ隠れました。さて是から文七とお久を夫婦に致し、主人が暖簾を分けて、麹町(こうじまち)六丁目へ文七元結の店を開いたというお芽出度(めでた)いお話でございます。

(拠酒井昇造速記) 



底本:「圓朝全集 巻の一」近代文芸資料複刻叢書、世界文庫
   1963(昭和38)年6月10日発行
底本の親本:「圓朝全集巻の一」春陽堂
   1925(大正15)年9月3日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
ただし、話芸の速記を元にした底本の特徴を残すために、繰り返し記号はそのまま用いました。
また、総ルビの底本から、振り仮名の一部を省きました。
底本中ではばらばらに用いられている、「其の」と「其」、「此の」と「此」は、それぞれ「其の」と「此の」に統一しました。
また、底本中では改行されていませんが、会話文の前後で段落をあらため、会話文の終わりを示す句読点は、受けのかぎ括弧にかえました。
入力:小林 繁雄
校正:かとうかおり
ファイル作成:かとうかおり
2000年5月8日公開
2002年1月29日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。



【表記について】

/\:二倍の踊り字(濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」)

 

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